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第五十七話 臨時パーティー2


「あんな簡単に…」


 魔物を討伐した俺とアリステラの後ろで、そう呟く少年。臨時のパーティーとして、一緒に行動をしている者だ。

 少年達の名前は、ギルドを出る前に聞いておいた。少年がウガウ、後ろの二人がジャーダとハイダーだったか…。

 驚いたことに三人は幼馴染。それも歳が二つしか離れていないという。そしてさらに驚愕する点が、パーティーのリーダーはウガウであり、彼が最年長だということである。

 明らかに後ろの二人の方が年上に見えるのだが、二人は同じ年齢。ウガウだけが二歳年上なのだという。ウガウが二十五歳で残りが二十三歳という一番の驚く点があったのだ。


「おい、俺達いらなかったんじゃないか?」

「確かに…」


 後ろの二人がそのような話を始める。

 それを聞き、しまった…と俺は思った。レベル上げでアリステラとの二人の連携に慣れていたので、つい二人だけで魔物を狩ってしまったのだ。

 今回倒したのは、マッドアリゲーターとグリーンアリゲーターである。マッドウルフとは別の魔物だが、マッドアリゲーターは同じくEランク上位の魔物である。グリーンアリゲーターはEランク下位の魔物だったので、アリステラに任せてしまった。

 彼女の腕も課外訓練でオーガを相手にしていたころと比べ、かなり上達している。Eランクの下位程度ならば、小さな群れならば一人で討伐できる程だった。

 そんな俺達を見て、彼等のやる気が削がれてしまったようだ。俺は彼等の実力を見たかったので、できれば彼等に戦ってほしいのだが…。

 ついいつもの癖で、サクッと倒してしまった。彼等は俺達の力を見てしまったので、今更彼等に戦ってほしいとお願いするのも変だ。

 俺一人でも、十分に殲滅できるのだから…。

 それに、今回はパーティーを組んでいるのだ。五人いるのに、二人だけで連携を取っているのはあまり良くないだろう。

 確かに急遽集まったパーティーであり、連携を取るのが難しい。本来ならば、それぞれで戦うものだ。だが上位の冒険者は、臨時で組んだパーティーでも連携が取れるものである。上位の魔物は、連携して戦わないと苦戦するからだ。

 俺はその辺り、経験が少ない。

 クロ達とならば簡単に連携が取れるが、それ以外の者達とは連携を取るのに時間が掛かってしまう。

 さて…どうしたものか。


「君達の力は見させてもらった。次は俺達の番だな!」


 俺がそのようなことを考えていると、ウガウがやる気に満ちた表情でそう言った。二人とは違い、彼は俺達の戦いを見て闘志に火が付いたようである。


「確かに、パーティーを組んでいる意味がないものな!」

「流石にあれほど鮮やかに殲滅することはできないだろうが、俺達もやれるって証明してやろうぜ!!」


 彼の言葉を聞いた二人は、仕方がないといった表情を浮かべた後、やる気に満ちた発言をする。

 俺が悩む必要もなく、ウガウがどうにかしてくれたようだ。

 そして次の戦闘はEランク上位がいれば、俺達も戦う。いなければ、全て彼等に任せると決まった。


「はぁはぁ…」

「まぁざっとこんなものだぜ」

「三人だとキツイな」


 結果的に言うと、彼等は全てがいまいちだった。

 三人に任せたのだが、絶妙に微妙な連携しか取れないでいたのだ。ずっと四人でやってきたので、三人で連携して戦うのは経験が少ないのだろう。

 一人抜けただけだが、連携を取って戦うという面において、一人分以上の戦力が低下している。

 Eランク下位の魔物と一戦しただけででこれなのだから、Eランクの討伐依頼は相当苦労するだろう。彼等が俺達と臨時パーティーを組みたがった意味が良く分かる。


「今日はここらで休む場所を探そうか」


 ジャーダがそう言って、安全そうな場所を探し始める。まだ陽が落ちるまではかなりあるのだが、安全を期してのことだろう。今の彼等に連戦は難しそうだ。

 俺達も場所探しを手伝い、良い場所を見つける。


「そう言えば随分バッグが小さいようだが、君達は野営の用意はあるのか?」

「あ…」

「しまった…」


 俺とした事が、ついやってしまった。野営の準備は勿論ある。あるにはあるのだが、アイテムボックスの中だった。

 アリステラとのレベル上げは日帰り、そして課外訓練では用意された野営道具があったので、すっかり忘れていた。

 そして水はバッグの中にあるが、食料等もアイテムボックスの中だった。

 アリステラは今回初めて依頼を受ける。そして彼女も、レベル上げの際は自身の武器を一つ持っていくだけ。野営道具の準備など、しているはずもなかった。


「仕方がない、狩りに行ってくるか」


 寝具は最悪、なくてもどうにかなる。だが、食料は別だ。

 一日二日食べなくても死ぬことはないが、戦闘に影響が出る可能性は十分にある。


「少し行って来る」

「君なら大丈夫だと思うけど、一人だから気を付けてな」


 すでに一人で狩りに出かけても、大丈夫だと思われているようだ。ウガウはそう言って、こちらへサムズアップしてきた。


「待って、私も行く」

「いや、今回は俺一人で行く」


 俺と同じく食料を持っていないアリステラが一緒に来ようとしたが、今回は断っておく。

 俺一人の方が動き易いし、近くで魔物が見つからなければ、アイテムボックスから肉を取り出すこともできる。一人の方が何かと都合がいいのだ。


「アリステラの分も獲って来るから」

「……ありがとう」


 微妙に納得し切れていない様子だが、それでも見送ってくれた。


「それじゃあ、美味しい肉を見つけますか」


 俺は四人が見えない場所まで来たところで、沼地を一気に駆ける。

 ここまで来る途中、鰐の魔物がかなりいた。鰐の肉は食べることができる。流石にマッドアリゲーターは体内の泥の処理が面倒なので、グリーンアリゲーターを見つけたいところだ。


「中々見つからないな…」


 そう思っていたが、現実はそう甘くはなかった。

 先ほどまで沢山いた魔物だが、何故か今は全くと言っていいほど見つからないのだ。

 そしてそのまま探し続けること三分。

 三分と言えばそれほど長い時間ではないが、かなりの速度で走り続けているのだ。アリステラ達とかなり距離が離れてしまった。


「あれは?」


 ようやく何かを見つけた。大きな沼の側に狼の大群だ。

 マッドウルフ。Eランク上位の魔物であり、今回の討伐対象。

 数が増えてくるからという理由で、討伐依頼が出されている。だが、人気のない依頼。ずっと放置されていたのだろう。

 見えるだけで三十頭。沼の中に潜んでいるものも含めれば、四~五十頭はいるのではないだろか?

 かなりの数がいる。Dランク冒険者パーティーでも、これだけの数を相手にするのは難しいだろう。

 魔物を全く見かけなかった理由が分かった。これだけ繁殖しているのだ。マッドウルフに周囲の魔物は狩り尽くされたに違いない。

 まさか魔物を探している内に、目的地であるマッドウルフの生息地にまで来ていたとは…。

 流石にこの数を一人で、それも素手で倒すのはかなり面倒だ。半数以上は大剣で斬って、この場に捨てて行こう。大きな狼だ。二頭もいれば、十分足りるだろう。死体は別の魔物が処分してくれるはず。


「アイテムボックス」

「「「ガルルルゥゥ」」」


 久しぶりに愛用の大剣を取り出す。俺の臭いを嗅ぎつけたのか、マッドウルフ達は立ち上がって唸り始める。


「さっさと終わらせて、肉を持ち帰るか」


 マッドウルフが飛び掛かってくる中、俺は大剣を振り廻して切り刻んでいった。





「遅かったな」


 俺が帰って来たと同時に、ウガウから声を掛けられる。


「すまん」


 俺は取り敢えず謝っておく。


「そいつは…」

「マジか」

「本当に俺達が来た意味は…」


 彼等は俺が持っている物を見て、呆然としている。謝った理由は、遅くなったからというだけではない。

 討伐対象であるマッドウルフを倒してしまったからだ。それに死体は捨ててきたとはいえ、討伐証明の部位は持ち帰っている。討伐数も十分過ぎるほど足りているので、依頼は完了だ。

 それに、今更別のマッドウルフを探すのは面倒だ。大群を纏めて殲滅してしまったので、もうこの近くにはいない。新たな群れを見つける必要がある。


「アリステラ、調理を手伝ってくれ」

「はい!」


 今度は俺に頼られたことが嬉しいのだろう。彼女は腕まくりまでして、やる気に満ちた眼差しをマッドウルフの死体へと向けていた。


「焼肉だ!」

「干し肉じゃないぞ!!」

「お前達も食べるのかよ!!」


 依頼に関して何も文句は言ってこなかったが、調理をしている俺達に三人が群がってきた。そして、焼いた側から摘まんでいく。

 マッドウルフの肉は殆ど捨てた。内臓に近い部位や表面に近い部位は、泥臭くて食べられた物ではなかったからだ。

 満足のいくまで食べることはできたが、二頭持ち帰って良かったと心から思えたのだった。

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