第五十六話 臨時パーティー
無事に訓練校を卒業した俺は、卒業したという事実を冒険者ギルドへと登録してもらった。これで、身分証を見せるだけで依頼を受けることができる。
他の者達は冒険者として登録していなかったようで、卒業の記録を登録してもらったと共に冒険者にも登録していた。
「お待たせしました。貴方は確か…無事に卒業できたようですね!」
受付嬢が俺の提示した身分証を見た後、俺の顔を見て少し驚いた表情を浮かべる。そしてその表情は、嬉しそうなものへと変化した。
よく見ると、以前俺がここへ来た際に訓練校の存在を教えてくれた女性だった。
俺が最短の三か月で卒業したことに驚いたのだろうか?
だが、訓練校はEランクの実力があれば十分卒業できるレベルだ。彼女は以前俺の身分証を見て、俺がEランク冒険者だと知っているはず。驚くことはないはずだが…。
「流石現役の冒険者ですね! まさか首席で卒業しているとは!!」
なるほど。どうやら登録の際に、そこまでの情報が一緒に登録してあるようだ。流石に首席だったとは思っていなかったのだろう。
「あれが今回の首席だとよ」
「へぇ。まだ若いじゃないか」
「もしかして、今回の訓練校の卒業生は大したことないのか?」
受付嬢の言葉を聞いた周囲の冒険者達が、思い思いの言葉を呟く。ここにいるのは全員訓練校を卒業した者達なので、やはり現在の状況が気になるようだ。
「この依頼を受けたいんだが…」
俺は皆の視線と言葉を無視して、受付嬢へと依頼が書かれた紙を渡す。
「はい。…こ、これは!」
何気なく受け取った彼女が、内容を見て再び驚きの表情を浮かべた。しかも、今回はかなり大げさだ。
「マッドウルフの討伐なんて、いくらなんでも危険すぎます! これは確かにEランクの依頼ですが、Eランクの上位ですよ!」
「俺はEランクだから、問題はないはずだが…」
Eランク冒険者だから、依頼の中でも難しそうなものを選んだのだ。何も問題はないはず。
上位と言ってもDランクの依頼ではないので、受ける資格はあるはずなのだ。
「何を言ってるんですか! セインさんはお一人ですよね。パーティーを組んだ前提で、依頼のランクを決めてるんですよ! 一人で同ランクの…それも上位の依頼を受けるなんて、死にに行くようなものですよ!」
どうやら俺が一人なのが原因らしい。確かに普段なら仲間がいると言えたが、今回クロ達には先にオルレア帝国へと向かってもらっている。
そして過去の勇者ですら、パーティーを組んで魔王討伐へと向かったのだ。低ランクの依頼ならば兎も角、同ランクの上位となれば受ける者はいないのだろう。
マッドウルフは沼地に住む狼の魔物だ。普段は住処から出てくることは殆どないが、餌を追いかけて等様々な理由で街の近くへと来る場合がある。
依頼がEランク上位な上に、報酬も低くあまり美味しい依頼ではないので、受けてくれる人が少ないらしい。
俺に注意をした受付嬢だが、受けてくれるのは助かると悩み始めてしまった。
俺は別に、この街に貢献したい訳ではない。ただ他の冒険者の実力を測るために、依頼を受けて様子をみたいだけなのだ。
本当はダンジョンの最前線で活躍するBランクやCランク冒険者の様子を見たかったのだが、取り敢えずは依頼を受けることから始める。
ダンジョンでは確実に稼げるとは言えない。なので、初めは依頼を受けてある程度の金は稼ぐ必要があるのだ。
俺的には金は問題ない。今すぐダンジョンに潜ってもいいのだが、まずは依頼を受けながら情報を集めることから始める。
今の俺は、誰が上位の冒険者なのかも知らないからな。ダンジョンの中はそれなりに広いので、闇雲に探しても見つけるのは困難なのだ。
「君達、困っているようだな。一時的に俺達のパーティーに入らないか?」
そう声を掛けて来たのは、一人の少年だった。その後ろには、さらに二人の男性がいる。そしてその二人は、少年に向かって仕方がないといった視線を向けていた。
「実は俺達は四人でパーティーを組んでたんだが、一人が怪我を負って療養中で困ってたんだ」
そう少年が説明する。
どうやらパーティーメンバーが一人欠けているため、臨時でメンバーを増やしたいらしい。そこへ俺が依頼を渋られているのを見て、声を掛けて来たのだろう。
「俺達はこれでもEランク冒険者だ。足手纏いにはならない」
「お姉さんも、俺達が一緒なら問題ないですよね」
「はい。貴方達が一緒であれば、問題はありません」
後ろの二人が、少年を援護するように言葉を付け加える。受付嬢がそれを聞いて、苦笑を浮かべながら答えた。
少年は少し危なっかしい雰囲気だが、そこを後ろの二人がサポートしているのだろう。そして受付嬢の様子を見る限り、Eランクとしての実力は確かなようだ。
他のパーティーと組めるというのは、俺にとっても嬉しいことである。それに少しばかり足手纏いがいたとしても、そう問題はないだろう。
「俺はそれでいい」
俺がそう応えると、少年が嬉しそうに頷く。そして今度は、俺の少し斜め後ろを見た。
「君はどうするんだ?」
その言葉を聞いて彼の見ている方へ振り向く。
「えっと…私は…」
そこにはなんと、アリステラがいた。
俺が受付嬢と話しているのを見て、気になって近くに来ていたのだろう。
そう言えば、先ほど彼は君達と言っていた。後は迷っていた受付嬢に対して言ったのだと思っていたが、どうやらアリステラに言っていたようだ。
「アリステラは他にパーティーを組んでいないのか?」
彼女の周りには誰もおらず一人だったので、純粋に質問をしてみる。
「えっと…はい…」
そう答えた彼女は、悲しそうな目をしていた。どうやら彼女は、パーティーメンバーを探すことに苦戦しているようだ。
まだ卒業してから二日しか経っていないが、一人で受けられる依頼は自分よりも低レベルのものになる。そして訓練校を卒業したら寮には戻れないため、宿を取る必要があるのだ。これから金が掛かるので、あまりお金がない彼女は早急にパーティーを組む必要があるのだろう。
「なんだ。君達はパーティーを組んでいる訳ではなかったのか。ずっと近くにいたから、勘違いしてしまったよ」
やはり彼は勘違いしていたようだ。受付嬢は俺が一人で身分証を提示したので、彼女が同じパーティーだとは思っていなかった。だが、傍から見るとそう見えるのも無理はない。
「君も入るかい? どうせ今回は臨時のパーティーなんだ」
「そうだね。一人での活動は難しいだろう?」
後ろの二人はアリステラを誘うつもりのようだ。今回の依頼はEランク…それも上位の依頼なので、人数は多いにこしたことはないのだろう。
それに実際、彼女の力は十分役に立つ。課外訓練ではオーガとも渡り合ったのだ。マッドウルフとも問題なく戦える。
「いいのですか?」
彼女は三人にではなく、俺一人に聞いていた。
俺がこの程度の魔物は一人でも問題がないと、彼女は知っている。それにジャンド達のパーティーへの誘いを断っているのも、彼女は知っているのだ。
それもあって、遠慮しているのだろう。
完全に卒業を期に別々の道を行くと思っていたので、お別れの空気を出していた。そんな彼女と二日後にパーティーを組むとなれば、俺としても少し気恥ずかしい。
しかしこれは、彼女の実力を他の者に示すことができるいい機会だ。
これで彼女のパーティーメンバー探しが楽になるだろう。そう思うと、俺の勝手な気持ちで断り辛い。日本では社会人として、何年も会社に勤めていたのだ。その辺りの気持ちを割り切ることは問題なくできる。
「俺は問題ないぞ」
こうして俺達は、五人でパーティーを組むこととなったのだった。
そしてそれと同時に、一つの疑問が浮かんでくる。
アリステラがいるのならば、俺はまた素手で魔物と戦わなければいけないのだろうか? と。




