第五十三話 課外訓練3
適度に休憩を挿みながら、危険地帯を抜けた俺達。
危険地帯と言われているが、危険度Dランクのオーガとレッドスネーク以外は、どの魔物もEランクの魔物ばかりだった。
当然完全にルートを逸れて、さらに奥へと踏み入れば危険度Cランク以上の魔物もいるのだろうが。そして、危険地帯と呼ばれてあまり人が踏み入らないため、数が多かった。
俺が都度魔物の数を調整していたが、アリステラ達だけで入っていれば囲まれてすぐに死んでいただろう。
オーガ一体を相手にするだけで手一杯なのだ。数体で来られた場合や、倒すのに時間が掛かって魔物が集まってきた場合など、俺が手を出さなければ危険な場面が多々あった。
彼女達はまだ冒険者訓練校に通う生徒で、冒険者として活動した経験はない。つまり、まだEランクにすらなっていないということだ。そんな彼女達がDランクの魔物を狩ることができた。相手は一体のみの場合だが、この先の冒険者生活において良い経験になっただろう。
流石に彼女達も、自分達にDランク冒険者になれる力があるとは思っていない。もし思っていたら、俺が注意する。
Dランク冒険者が受ける依頼は、危険度Dランクの魔物の討伐もある。しかし、決して一体の討伐ではない。このように一体に集中して戦うことができる状況など、滅多にないことなのだ。
それでも何とか三人でEランクの魔物を討伐できていることから、Eランク冒険者の実力はあるはずだ。実際、パーティーは四人の場合が多い。絶対に四人という訳ではないが、三人で何とかできていたら四人になればより楽になるはずである。
「まさか、危険地帯を抜けることができるとはな」
「そうね。私も、いきなりオーガが出て来た時は死んだかと思ったわ」
来た道を見つめ、二人が感慨深そうな表情を浮かべた。
「流石に二日では辿り着けなかったけどな…」
「あれだけ何度も休憩を摂っていればね。セインさんが思っていたより、私達が軟弱だったということよ」
俺の予定だと二日で目的地に辿り着くつもりだったのだが、休憩回数が多くて辿り着くことができなかったのだ。
二人は自分達が弱かったからと言っているが、大きな怪我も負わずに危険地帯を抜けて来たのだ。十分である。ただ想像していたよりも、魔物の数が多かったというだけだ。
まだ決して安全な場所ではないが、それでもかなり皆の表情が明るくなっている。やはり危険地帯を脱したというところが大きいようだ。この辺りは魔物数も強さも、危険地帯と比べるとかなり劣る。油断をしていい訳ではないが、少しは気を緩めることができるのだろう。
「それじゃあ、先に二人は休んでくれ」
「はい。それでは、先に失礼します」
「頑張ってください」
夜の警戒は二人ずつの交代制となっている。これは危険地帯の中で休む際にも、同じようにしていたことだ。
森や山等では、夜は魔物の動きが活発になる。獣系の魔物等の視覚以外が優れた魔物が多いからだ。
ただそういった魔物は、火を絶やさなければ滅多に襲ってくることはない。
「まさか本当に、俺達が危険地帯を抜けられるとはな…。勿論、セインの援護があってこそだが」
まだ言っているのか…。と言っても、冒険者を目指す者にとってはDランクの壁は大きいのだろう。冒険者が集まるような大きな街ならば兎も角、小さな町や村等ではDランクが最高ランクだったり、Dランクすらいなかったりする。
それだけDランク以上の人数が少なく、皆憧れを抱いているのだ。
「今でもEランクの実力はあるんだ。このまま順調に力を付ければ、Dランクにだってなれるだろう」
「そうかな?」
俺の言葉を聞いて、嬉しそうな表情を浮かべるジャンド。彼は少し臆病すぎるのだ。
この世界の冒険者は、ちょっとしたことですぐに死んでしまう。例えば魔物と戦って、あるいは盗賊等の手によって。
どれだけ警戒していようと、格上の魔物からは逃れられない状況だってある。安全だと思っていた場所に、突然強力な魔物が現れることだってある。
命懸けの冒険者の仕事において、臆病なのは命を守るために必要なことだ。しかし、時には少しくらいの無茶をしようと、強気にいかなければならない時もあるのだ。
今回もその一つ。俺がいたので命を落とすようなことはないが、Dランクという格上の魔物と彼等は戦った。そしてその経験が、彼等をより強くしたのである。
先月の課外訓練では、彼等は安全なルートを安全に進んだのだろう。殆どの生徒は、実際にそうしている。まだ冒険者ではないため、訓練校側も無茶をさせないのだ。
なので、決められたルートもあまり強い魔物はいない。今回の俺達のように近道をせず進んでいれば、弱い魔物としか出会わなかっただろう。
三人は…特にジャンドとミルアは、見違えるほど成長した。危険地帯を通り抜けただけで、戦闘中の動きも格段に良くなったし、探索している際の警戒も上手くなった。これら全ては冒険者にとって、とても重要なことだ。
どれだけ魔物との戦闘を経験しようと、格下ばかり相手にしていては大きく成長できない。
「二人は良いよな。セインが見張っててくれるんだから」
「どういう意味だ?」
俺達は交代で見張っている。俺達が寝ている際には、アリステラ達が見張っていてくれるのだ。二人と人数も一緒だし、条件は同じはずだが…。
「今日は大丈夫だろうけど、流石に危険地帯の中では寝れなかったんだよ。二人が見張っててくれているとはいえ、魔物が強かったし。襲って来た時、二人じゃ止められないだろ?」
なるほど、そういうことか。確かに二人の力では魔物の群れが襲ってきたら止められない。それが不安で、あまり眠れなかったのだろう。
二人の索敵能力は、この二日でかなり上達した。魔物の気配を察知してから俺を起こしてくれれば、俺が対処できたのだ。なので、俺は魔物のことは一切気にせずに眠っていた。
アリステラ達は俺が見張っているから大丈夫だと思い、安心して眠っていると考えているようだ。実際にどうかは分からないが、魔物にすぐに気付いて起こしてくれるだろうと思っていれば、それほど不安になることはないはずである。
こうして俺達は夜を明かした。ジャンドは本当に眠れていなかったようで、交代した後すぐに死んだように眠りに就いていた。
魔物が襲って来た時、果たして彼はすぐに起きることができるのだろうか?
俺からしてみれば、そちらの方が不安だった。
「お前達かなり早いな!?」
翌朝から歩いていると、目的地には昼前には到着した。夜に進んでいたら朝には到着できただろうが、ここまで怪我をせずに来たのだ。今更無理をして、怪我を負ってしまっては意味がない。
「まさか、ルートを無視して来たのではあるまいな?」
俺達は三日は掛かるはずの、一番長いルートだったのだ。それを二日と数時間で辿り着いた。教師は俺達の不正を疑い始めた。
「なっ!? これは、まさか…」
だが、それも俺達が討伐した魔物の討伐部位を見るまでだった。
Eランクの魔物だけではなく、Dランクの魔物の討伐部位。それに、山ができるほどの量がある。これを見せられれば、どこを通ったのかは一目瞭然だ。
「危険地帯を通って来たというのか…。確かにセインの実力ならば、Dランクの魔物でも問題はないか」
一人納得している教師。彼はDランク冒険者であり、俺と一度手合わせしている。その時も全力は見せていないが、彼以上の強さは示しているのだ。
そして納得をしている教師を見て、不満そうな表情を浮かべる二人。
ここにある魔物の討伐部位は、半分以上は俺が狩った魔物だ。だが、三人で協力して狩った魔物もかなりいる。
それを評価されていないのが、悔しいのだろう。実技試験に加算されるポイントは、パーティー共通だ。誰が倒したとかではないのは、パーティーとなると全員で助け合うからだ。
魔物を倒した者が偉い訳ではない。支援に回る者や、索敵が得意な者だっている。全員を評価するために、パーティーメンバー全員に平等にポイントが加算される。
なので、誰が狩ったと思われても変わらないのだが…。
そんな不満気な二人を見て、アリステラも苦笑を浮かべていたのだった。




