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第五十二話 課外訓練2

 

 オーガは危険度Dランクの魔物。と言ってもDランクの中でも下位なのだが、まだ訓練生である二人にとっては十分脅威なのだろう。

何処かで拾ったのであろう大剣を持っているが、オーガが持っていると片手剣に見えてしまう。

 オーガの威容にジャンドとミルアが身を強張らせている中、アリステラが短剣を抜き放つ。


「ガァァァッッ」


 オーガがそれを見て彼女へ突進。その勢いのまま、大剣を振り下ろす。


「きゃぁぁっっ」

「アリステラ!?」


 その光景を見たジャンドとミルアが悲鳴のような声を上げるが、彼女はしっかりとオーガの攻撃を避けている。


「はっ!」

「ガアァッ」


 そのまま短剣を一閃したアリステラに、オーガが怒った声を上げる。

 オーガの肉体は筋肉質な上に、皮膚もかなり硬い。彼女の攻撃は、奴の体に浅い切り傷を残す程度のダメージしか与えられていなかった。


「ガァッ」


 狂ったように暴れ続けるオーガの攻撃を冷静に回避し、アリステラはその後も攻撃を続けていく。

 彼女の武器は短剣。これは初めて魔物を狩りに出た際に、俺が選んで渡した物だ。彼女は武器の扱いに慣れていなかったため、扱い易い短剣を選んだのだ。

 それ以降扱い易いことが気に入ったのか、今でも使い続けている。

 短剣はリーチが短い代わりに扱い易く、素早く一撃を加えることが可能な武器だ。それ故に今までレベル上げでは、魔物に一撃を入れるという行為を行う彼女の役にかなり立っていた。倒しきる必要がないのだから、攻撃力等は気にすることがなかったのだ。

 オーガという魔物を相手にするにあたり、それが裏目に出てしまっている。硬いオーガの体には確かに傷ができており、ダメージは入っている。しかし、そのダメージは微々たるものだ。

 それにリーチの差があり過ぎる。オーガの攻撃を回避し、その隙を狙って一撃を加える。そこまではいいのだが、そこから先に踏み込むことができないのだ。

 今の彼女では、オーガの一撃は致命傷とまではいかなくても、かなりのダメージとなる。なので、一撃たりとももらう訳にはいかない。短剣の間合いに居続けることができないでいるのだ。

 唯一良かった点は、短剣の戦い方に慣れている点だろう。

 力を最大限発揮できる大剣という武器を相手に、短剣でまともに切り結ぶのは愚策だ。彼女はそれが分かっているので、攻撃は全て回避している。

 これはレベル上げの際にも同様だったので、オーガ相手でも彼女にとっては変わらない。二か月の積み重ねが、不利な相手との戦いを可能としていた。


「グァァッ!!」


 どれだけ攻撃を加えたのか。傷自体は浅くても、何度も切られていたオーガは全身から血を流している。そしてよく見ると、動きも遅くなりつつあった。


「ダメージが蓄積して動きが鈍っている。二人とも、攻撃開始だ」

「えっ…」

「はいっ!」


 突然攻撃しろと言われて俺の方へ振り返るジャンドに対して、ミルアが槍を構えてオーガの下へと向かう。


「グガァァッ」


 彼女は走ったまま勢いを落とさず、オーガの体へ槍を突き入れる。レベル的にミルアよりもアリステラの方が腕力は勝るだろうが、武器の違いで彼女の一撃はアリステラの短剣よりもダメージを与えていた。

 オーガはアリステラよりも彼女の方が脅威と感じたのか、その一撃で狙いを彼女に変える。

 いくら大剣よりも槍の方がリーチが長いと言っても、相手は巨体。その差は殆ど無く、ミルアは回避に専念する。

 彼女の動きは悪くはないが、それほど良い訳でもない。レベル相応といったところだ。元気なオーガが相手だったならば、回避ではなく防御を余儀なくされただろう。


「グギャァァッッ」


 先ほどよりも大きな悲鳴。オーガがミルアに狙いを定めたことにより、動き易くなったアリステラが膝裏等の比較的柔らかい部分を狙い始めたのだ。

 深い傷にはならないが、先ほどよりもダメージが通る。さらに同じ箇所を攻撃することにより。体へのダメージが大きくなる。

 たまらないといった様子で、アリステラへと狙いを変えるオーガ。

 そこへ今度は、ミルアの槍がオーガを襲う。

 どうしようもなくなった奴は遂に暴れるような攻撃を止め、防御に専念し始める。だが、もう遅い。動きが鈍っている状態で、二人の攻撃を完全に防ぐことはできない。

 オーガに蓄積されたダメージは、時間が経つにつれて確実に増えていく。


「はぁぁあああ!!!」


 そこへさらに一撃。

 二人の戦いを見てようやく勇気が湧いたジャンドが、オーガの背後から渾身の一撃を叩き込んだのだ。


「グァ…」


 弱々しい声を上げ、顔面から地面に倒れ伏すオーガ。

 そしてそのまま、動きを止めた。


「勝った…。勝ったぞ! 俺達はオーガに勝ったんだ!」


 そう喜ぶジャンドの側で、微妙な表情を浮かべるミルア。


「俺達って、貴方は最後に背後から一撃入れただけじゃない…。頑張っていた私達二人と、一緒にしないでくれる」

「何でだよ!」


 頑張ってダメージを与えていたところに、背後からの一撃で止めを刺したジャンド。確かに全力で振るった一撃は大きなダメージとなったのだろうが、それまで積み重ねたダメージのおかげで一撃だったのだ。

 ミルアの言いたいことは分かる。彼女はジャンドとは違い、俺の言葉を聞いて即座に動いた。かなり弱ってから、しかも背後から攻撃したジャンドよりも、よっぽど彼女の方が強いだろう。


「勝てたのですから、皆で喜びましょう」

「駄目よアリステラ。あんなのでオーガを倒したなんて言われたら、たまったものじゃないもの。それに、一番頑張ったのは貴方でしょ」

「俺だって勇気を振り絞ったのに…」


 そう言って落ち込むジャンド。だが、これはタイミングの問題だろう。あと少し彼の行動が遅ければ、二人でオーガは倒せていたのだから。

 実際に彼は、二人が体力を削ったオーガを横から掠め取ったようなもの。

 この世界でそうやって助け合うのは普通だろうが、ゲームとして英雄街道をやっていた俺からすればそう思えてしまう。


「まだここは危険地帯だということを忘れるなよ」


 三人が…というよりも二人が揉めてアリステラが側でオロオロしている中、新たな魔物がやって来る。


「魔物か!?」

「もう来たの!! 少しは休みたいのに!」

「オークですね」


 次に現れたのは、二体のオーク。戦闘音が響いていたからか、それとも血の臭いに集まって来たのか。オーガを倒すのに時間が掛かったので、近くにいた魔物が来てしまったようだ。

 オーク一体であればアリステラ一人でも余裕だ。オーガと違って、オークには彼女の攻撃でも普通にダメージが通る。

 もう一体は、二人に任せればいいだろう。オーガと戦った後だからか、それともすでに課外訓練で魔物との戦闘は経験済みだからか。二人とも文句を言いつつも、先ほどのように取り乱してはいない。


「オークは任せるぞ」

「はい」

「「???」」


 俺が茂みの奥に入って行くのを見て、ジャンドとミルアが疑問を浮かべている。どうやらアリステラは分かっているようだ。

 何度もレベル上げに来て魔物を探し歩いている内に、少しは気配を探れるようになったのだろう。

 俺が向かう先には、オーガが三体いる。先ほどのオーガの仲間か、それともオーク同様ただ集まって来たのか。

 どちらにしろ、今の三人にはオーガ三体は荷が重すぎる。一体くらい残しておいて、三人に倒させるということも考えたが、流石に連戦の後にオーガのおかわりは可哀想だと考え直す。

 まだ課外訓練が始まって一日目。危険地帯に入ってすぐの地点だ。

 見た感じジャンドとミルアはオーガレベルの相手と戦うのは初めてだったのだろう。まだまだ先は長いので、何も急ぐことはない。ゆっくりと経験させていけばいいだけだ。


「取り敢えず、サクッと倒しときますか」


 オーク程度ならば、それほど倒すのに時間は掛からないだろう。三人の下へすぐに戻るために、俺はオーガがいる場所へと急いだ。

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