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第五十一話 課外訓練

 

 いよいよ課外訓練の日がやって来た。

 パーティーは四人一組であり、俺のパーティーはいつも集まって来る二人にアリステラを加えた四人だった。

 二人の名前はジャンドとミルア。職業はジャンドが剣士で、ミルアが戦士だった。

 ミルアは剣よりも槍の方が扱いやすいようで、好んで使っている。俺のパーティーは近距離武器が多いため、彼女の槍は有難い。

 俺も大剣を使うことができれば中距離でも戦えるのだが、流石に拳で中距離戦は難しい。武闘家と思われている俺の、悲しい性だった。一応スキルを使えば中距離攻撃も可能だが…。

 まさか貸し出された武器以外持ち込み禁止となるとは、思わなかったのだ。いつでも大剣をアイテムボックスから取り出すことができるが、それではルール違反である。今回はあくまでも実戦経験を積むためのものであり、全力を出して敵を葬るようなものではない。

 それにアリステラは魔物との戦闘には慣れている。訓練で戦う魔物程度だと、問題なく戦えるだろう。そして残りの二人も、一か月前にすでに課外訓練を経験している。なので、今更心配する必要はないだろう。


「お前達は大丈夫なのか? 強いと言っても、所詮は素人。初めての魔物との戦闘で、足を引っ張られるんじゃないのか?」

「今回は俺達の圧勝だな。俺達はこの課外訓練を何度も経験している。だが、そっちは足手纏いを二人も抱えているんだからな」


 いつも絡んでくる二人が、今日もやはり絡んできた。いつもいつも同じように絡んできて、飽きないのだろうか?

 彼等のパーティーの残り二人は、混ざろうとはしない。だが俺に良い感情を持っていないメンバーを集めたのか、それともパーティーメンバーと諍いを起こしたくないのか。彼等を止めるような真似はしなかった。


「おいおい、今日はどうした? いつもみたいに言い返さないのか?」

「図星を突かれて、言い返せないんじゃないのか?」


 彼等からそんな言葉と共に、笑い声が上がる。

 それでもいつもはすぐに言い返す二人が言い返さないのは、俺が事前に言った言葉が原因だろう。

 俺は事前に、三人に危険な場面以外では手を出さないと言っておいたのだ。俺が抜けて強いのは皆が知っている。だから、三人は俺を当てにしていたようだ。

 しかし、それでは訓練にならない。なので、手を出さないことにした。

 パーティーメンバーは、俺がそう言うとすぐに納得してくれた。だが、結果的に魔物を三人で倒すことになる。

 なので、勝てないと思ってしまったのだろう。

 因みに、この課外訓練は点数化される。そしてそのポイントが、実技試験に加点される仕組みだった。

 課外訓練は決まったルートを進み、目的地に到着するというものだ。そしてその際に、魔物を三体以上倒しておく必要がある。魔物の種類に決まりはない。ゴブリン三体でも可能だが、魔物の強さによって点数が異なるのだ。

 課外訓練でポイントを得るために重要視される点はいくつかある。

 一つは勿論倒した魔物の強さ。ゴブリンばかりを倒されても訓練にならないので、これは当然の措置である。


 二つ目は倒した魔物の数。倒す魔物は三体以上。つまり最低三体を倒すということだ。なので何体倒しても問題はない。そして、倒した数だけ加点されることになる。

 これは訓練なので、命を賭けてまで大物と戦うべきではない。そのため、数でポイントを稼ぐことができるようになっているのだ。


 三つ目はダメージの有無と量。こちらも、訓練校の生徒に無理をさせないためのものだ。あまり無理な戦闘を繰り返してポイントを稼ごうとすれば、当然ダメージを負うことになる。

 ダメージを受けることでもらえるポイントが少なくなるとなれば、無理をする生徒も減るということだ。冒険者ならば、自分がどの程度の強さの魔物なら安全に倒せるのか、把握しておく必要がある。つまりこれは、そこを評価するということなのだろう。


 最後に四つ目。目的地への到着の早さだ。少しは融通が利くとは言っても、ルートは訓練校側で決められている。そのため、確実にそのルートにポイントの高い魔物がいるかは分からない。その場合、到着時間でポイントを稼げるようになっているのだ。

 それに時間が関係なければ、弱い魔物をいつまでも狩ってポイントを稼ぐ者が現れる。それを阻止するためのものだった。

 簡単に言えば魔物の数でポイントを稼ぐか、目的地により早く到着してポイントを稼ぐかということである。

 全てを取ることはできないようになっているため、この四つをどのように配分して優先順位を付けるか。それによって、もらえるポイントは大きく変わってくる。

 全てはパーティーリーダーの采配次第という訳だ。これはパーティーのリーダーとしての力を、試されていると言っても過言ではないだろう。

 メンバーによって、得手不得手は変わってくる。それらを上手く活かして、パーティーメンバーの力を引き出してやる必要があるのだ。

 何もしないという訳にはいかないので、今回は俺がパーティーリーダーとなっている。


「それでは、開始!」


 教師の開始の合図で、それぞれのパーティーが進んでいく。どのルートも最終的な目的地は同じだが、距離は違う。そのため、距離の長さと掛かった時間でポイントは判断される。

 俺達が進むルートは、他のルートに比べて最長のものだ。時間が掛かる程危険な魔物に遭遇する可能性が増すが、俺がいるならば問題ないと判断されたのだろう。

 課外訓練は最短のルートでも、一日半は掛かる道のりだ。実際は無茶ができないため、二日は掛かるだろう。

 そして俺達のルートであれば、三日は掛かる。それを今回は、二日で目的地に向かうつもりでいた。勿論無茶な進行をするつもりはない。

 ただ魔物が少し強くそして数が多い、本来ならば遠回りする場所を進むだけである。


「本当にここを進むのか?」

「もうすでに二体の魔物を倒せています。今更、危険を冒してまで進まなくても…」


 課外活動が始まってから数時間。魔物が多い場所の近くへとやって来ていた。その間に倒した魔物は二体。最低三体を倒す必要があるが、このまま進めば問題なく達成できる。

 いつもは俺のことに関しては否定の言葉を述べないジャンドとミルアだが、今回ばかりは不安そうな表情を浮かべていた。


「進むなら、せめてセインも戦ってくれよ」

「セインさんが一緒ならば、どのような魔物が相手だろうと問題ないと思います」


 流石にここから先を三人だけで戦うのは不安らしい。仕方がないことだ。これが普通の考えなのだから…。


「俺は危険な状況を除いて、一切手は出さないぞ」

「マジか…」

「そんなぁ…」


 ジャンドが呆然とした表情を浮かべ、いつもは自身に満ちた表情をしているミルアも、絶望に染まった様子だった。

 そしてそんな中、あまり表情を変えないアリステラ。いつもは一番コロコロと表情を変えるのだが、今回は落ち着いているようだ。


「アリステラ、なんでそんなに平気そうな表情なんだ?」

「そうです。あなたは、何故そのように落ち着いているのですか?」

「え…? だって、いつもとは違って二人がいるから。それに…」


 彼女は途中で言葉を止める。それにの後に続く言葉は、この辺り程度の魔物は見慣れている、なのだろう。

 彼女は一撃を当ててるだけで俺が止めを刺すとはいえ、いつもはさらに強い魔物と一人で向き合っているのだ。

 今回は一撃を当てるだけではなく、しっかりと倒すまで戦う必要がある。だが、すでに二体の魔物を倒しているので、不安は払拭されているのだろう。

 それに何より、頼もしい味方の存在。今まで一人で魔物と向かい合ってきた彼女にとって、それだけで安心できる要素となるのだろう。

 彼女の戦闘技術も知識も、上級生では平均程度だ。だから、自分がどれだけ強くなっているのかを知らないのだろう。


「ガァァァッッ!!!」

「なっ!? オーガ!!」

「まだ危険地帯に踏み入って間もないのに!?」


 危険地帯に踏み入って数分。そんな俺達の前に現れたのは、一体のオーガだった。

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