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第五章 始まり


「ようやく、僕もレベル50ですか…」


 シロがふぅと息を吐き出しながら呟く。

 彼の側には六本足で上半身はゴリラのような魔物が倒れている。先ほど彼が倒した魔物で、クレイデーモンと呼ばれる中級悪魔だ。この魔物は攻撃力と敏捷性が高く、空を蹴るという特殊なスキルを用いて立体的な動きで翻弄してくるかなり厄介な魔物だった。クレイデーモンの討伐が聖騎士のスキルを得るために必要だったのだ。

 奴隷商たちを討伐した洞窟を抜けてから、すでに三年近くが経っている。あれから俺達は身分証を近くの街で入手し、ついでに二人の職業も確定させた。選択肢を選ぶだけだった英雄街道とは違い、身分証を発行してもらった役所で専用のアイテムを購入する必要があった。

 さらに予想外だったのが、選択できない職業があるということである。どうやら個人の適正によって就くことができない職業があるようだ。これはゲームではなく、現実となったことによる弊害だろう。

 旅をして色々な国を巡り、他にも違いをいくつか見つけた。


 まずはこの世界の時代だ。ここは英雄街道のような世界だが、英雄街道のその先といえる。どうやら500年以上前に勇者パーティーが現れ、魔王を倒しているようだ。今の世界に知っている国や街はいくつかあったが、殆どは知らない名前へと変わっていた。


 勇者パーティーについても賢者やパラディンは同じだが、四人目の情報が殆どないのだ。勇者達のように活躍したという情報は一切なく、歴史書にも四人目がいたとしか書かれていない。

 そこも英雄街道とは違う点である。少なくともゲームでは、勇者パーティーのサポート役として露払いをしてそこそこの活躍をしていたはずだ。最後の魔王戦では魔王城に残った一体の四天王を倒している。そのおかげで勇者達三人は、あまり消耗せずに魔王と戦えたのだから。

 この世界の冒険者達は、基本的に四人パーティーを組んで行動をする。例外のパーティーも存在するが、基本が四人なのは勇者パーティーを基準としているからだと言われていた。


 二つ目は先ほども言った職業選択だ。適正には個人差があり、さらに魔術や神聖術といった特殊なスキルを使う魔導士と神官は適性がないとその職業に就くことができないのである。

 これによって、この世界では魔導士と神官の二つの職業はとても数が少ない。共に千人に一人の確立と言われており、神官はすぐに教会へ、魔導士は国や上級貴族に召し抱えられる。

 冒険者にも魔導士は偶にいるらしいが、神官は見かけないという。その影響もあり、この世界の冒険者達は盾職を使わない。戦士も鎧は軽鎧で、防御力を捨てて敏捷性を活かすような装備をしている。特にスキルが防御よりである騎士は、兵士くらいしか就きたがらない職業のようだ。


 三つ目はこの世界のレベルだ。はっきり言ってかなり低い。勿論実力を持っていてもレベルが公表されていない者等もいるだろうが、上級職というだけで国の英雄扱いされるのだ。

 魔王が勇者に討たれて魔物が人里に現れることが減った、というのが原因のようだ。現れたとしても精々ゴブリン等の下級の魔物で、中級や上級の魔物は態々狩りに行かないと出会うことすらないらしい。これらの魔物はとても強力で、実際に命の危険があるこの世界の者達は手を出そうとしないのだ。それらに自分から手を出す特異な者、国等に仕えており有事の際に出向かなければならない兵士は高レベルだったりする。

 一応国に仕える者で最高レベルが32の剣鬼で、オルレア帝国の軍隊長である。剣鬼は剣士の上級職である。スキルを得るために世界を回る必要があるため、国の兵士で上級職に就いている者はとても少ないとか…。皆冒険者時代に国から引き抜かれているらしい。


 四つ目は亜人との関係。亜人とは人間族と魔族以外の種族で、獣人族やエルフ族、ドワーフ族等他にもいくつかの種族が存在する。ゲームでは魔人族(吸血鬼族や竜人族等)といった種族もいたが、こどうやらこの世界では魔族として認識されているようだ。

 さらに今の人間族と亜人はとても仲が悪い。魔王を討伐して世界が平和になった後も、しばらくはその日々が続いていた。だが勇者が死んだあと、人間族は亜人に対して攻撃を始めたのだ。

 亜人一つ一つの種族はそれほど多くの人数はいない。一人一人の能力は亜人の方が上だが、圧倒的な人数差を前に敗戦を重ねていった。

 だが、人間族は亜人に喧嘩を売り過ぎたのだ。多数の種族が存在する亜人は互いに連携を取り始め、ある程度人数差を埋めることによって反撃を開始した。

 今では亜人も人間も表立っては互いに攻撃しないが、差別は未だに大きく残っている。人間の国で見かける亜人は殆どが奴隷であり、奴隷商に行っても人間と亜人の奴隷の扱いの差は見るに耐えかねるものがある。まあ、これは亜人の国の人間族奴隷も同じような扱いを受けているだろうから、何方が悪いといえないのだが…。


 まだ小さな違いがいくつかあるのだが、これだけの違いがあると英雄街道とは別の何かのように思える。


「ご主人様、次は私のレベル上げでございますか?」


 俺にそう問いかけてきたのは、鮮やかな青い長髪を後ろで束ね、綺麗な姿勢を保っている女性であった。

 俺はこの三年間で新たなメンバーを二人増やしたのである。二人とも奴隷だったが、その内の一人が目の前にいる女性でリリアという。

 歳は18で俺より三つ上、身長は170センチくらいあり、大人びた顔付からも大人の女性といった感じが溢れ出ている。胸は大きくお腹周りは引き締まっており、余計に胸の大きさが目立つ。年齢以前に、一目で大人の女性だと分かる容姿をしていた。

 俺が彼女を買ったのは二年前、彼女が16歳の時だが、一人は大人が欲しいと考えて選んだのだ。その時から随分大人びており、まさか16歳だとは思わなかったのだが…。

 情報収集のために街に入るようになってから、大人の重要性が身に染みた。子供だけで旅をしていると、色々と周囲に勘繰られて面倒な目に遭ったのだ。

 彼女は奴隷ではあるが、同時に俺達の保護者役も務めている。服装も奴隷のようなものではなく、真っ白な生地に黒で整えた侍女のような服装をしていた。

 澄んだ青の瞳がこちらを覗き込んでいる。質問の返事を待っているのだ。


「リリアのレベル上げはいいや。面倒だし」

「そんな!?」


 俺の言葉にショックを受けたようで、口を大きく開けて呆然とした表情のまま固まっている。彼女は戦士の上級職である戦闘王という職業で、レベルもすでに44まで上がっている。戦闘王は装備によって、近距離や中距離、盾役までこなせる職業だ。

 はっきり言って、クロとシロの二人をレベル50にするだけで俺は疲れたのだ。レベル44もあれば十分だろうと思う。

 クロとシロも三年でかなり変わっていた。特にシロは少女のような容姿であったのが、たった三年身長が伸び、俺をすでに抜かしていた。今はリリアより少し高いくらいで、175前後はあるだろう。長かった白髪も短く切り、体も筋肉が程よくついて美丈夫といった感じだ。

 顔もあれだけ女の子っぽかったのに、今ではかなりイケメンになっており少し腹が立つ。職業は騎士の上級職である聖騎士となっており、レベルも今50となった。パーティーの盾役である。

 クロもさらに美少女に磨きが掛かっており、少しずつだが顔も大人のような雰囲気を纏い始めていた。変わっていないのは身長が低いことと、胸が小さいことだろうか…。彼女は確かに三年で身長は伸びたが、それでも相変わらず小さかった。本人もそれを気にしているようで、見た目大人の女性なリリアを買った時には数日不機嫌だった程である。

 俺も三年でかなり成長した。と言っても、自分の姿を初めて見たのは洞窟を出て少ししてからだったが…。今の俺は身長170くらいあり、リリアといい勝負をしている。セインの姿を記憶で覚えていたのだが、自分の姿を初めて見た時には驚いた。

 セインは燃えるような赤い髪に同じく赤い瞳が特徴だったのだが、今の俺は黒い髪に赤い髪の束が一本流れているといった状態だった。瞳は変わらず赤いままだ。羽柴 紅が黒髪だったので、混じってしまったのだろう。

 今この場にいるのは俺を含めて四人だ。もう一人の奴隷は、別の場所へと先行してもらっている。


「そろそろ向かうか」

「うん!」

「はい」

「畏まりました」


 俺の言葉に三人が返事をして着いてくる。向かう先はペイルという小さな村だ。その村はオーレン王国アノーブル領の端にあり、アノーブル子爵家はリストア伯爵の正妻の実家である。俺はまず、アノーブル子爵家を潰そうと考えていた。

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