第四十八話 オルレア帝国 ~リリア視点~
ライアスラを抜けてオルレア帝国へと入り、すでに一週間が経過していました。オルレア帝国は現在でも他国へ進攻して領土を増やしているため、かなり領土が広いのです。
ヒローを出てライアスラを抜けるまではたった数日でしたが、帝都であるオルレアまで到達するのに時間が掛かってしまいました。
「ようやく着いた! さっさと暴れて、力を示そ!」
すでに暴れる気のクロ。いくらオルレア帝国が実力主義だとはいえ、ただの暴れん坊を取り立てるとは思えません。
「駄目ですよ。正式な許可を取ってから、暴れてください」
「そうっす。敵対したら意味ないっすよ」
「え~」
私とイルの言葉に、不満気な声を上げる彼女。
流石にこれを見過ごす訳にはいきません。このままだと、ご主人様の考えたプランが失敗してしまう可能性があるのですから。
「駄目です。僕もリリアさんと同じく、力尽くでも止めさせてもらいますよ。それに、今回セインから話し合いを任されているのは、リリアさんなのですから」
「分かったよ…」
まだ少し不満気ではあるものの、シロの言葉を聞いて一応諦めてくれるようです。
そう。今回私が、ご主人様から全てを任されているのです!
なので、絶対に失敗する訳にはいきません!!!
「何か、凄い気合入ってないか?」
「仕方ないですよ。セインお兄ちゃんから、直々に任されているのですから」
フィンとルゥが二人で何やら話をしています。私のことを話しているようですが、今はオルレア帝国とのことに集中してほしいものですね。
「それでは、向かいますよ」
こうして私達は、私を先頭にオルレアが誇る城門へと近付いていく。
流石帝都、それも戦争で発展して来た国の城門だけあって、今まで見て来た中でもかなり立派な代物だった。私やクロでも、一撃で破壊することは難しいでしょう。
ご主人様ならば、一撃で破壊する方法を持っているかもしれませんが。
私のご主人様は、とんでもない力の持ち主です。
初めて会ったのは、私が奴隷として奴隷商会にいた頃。奴隷になる前に左腕を失ってしまった私は、誰にも買われずにいました。当然です。片腕が欠損しているということは、肉体労働すら禄にできないということなのですから。
これが奴隷でなければ、まだそれほど問題はなかったでしょう。片腕でも、生きていくことはできます。しかし、私がいたのは奴隷商会。奴隷を買うのには何かしらの目的があり、態々奴隷商会へと来る者達にとって、健康的な肉体というのは必要な要素でした。
私はかなり安い値段を付けられていました。それでも、買ってくれる者は誰もいませんでした。
元いた奴隷や、新しくやって来た奴隷。彼等が売れていく中、一人だけ残る私。
今となって思えば、当時は相当やさぐれていたと思います。
原因は簡単にいくつも思いつきます。片腕を失ったことにより、唐突に生活が困難になったこと。
奴隷という身分に、突然落とされたこと。そしてそれにより、生活環境ががらりと変わってしまったこと。
そして、私だけいつまでも売れ残っていたこと。
奴隷は売れればお金になりますが、売れなければお金が掛かるだけの存在です。奴隷は人権があり、無暗に殺される心配はありません。しかし私のいた奴隷商会は、奴隷狩りを行っていた者達です。村を襲い、その村人を奴隷として連れ去る。つまり、すでに犯罪を犯している者達です。
彼等はこれ以上は損になると分かれば、平気で奴隷を処分するでしょう。そして私はかなり安い値段を付けられていた奴隷。恐らく、処分される日が近かったのだと思います。
そんな私を、ご主人様は買ってくださいました。何故私を買ってくださったのか、その時は全く分かりませんでした。
何かの犯罪に利用され、切り捨てられるのだろう。そう考えているほどでした。
その後、ご主人様は獣人の女の子を一人買われました。ご主人様の話を聞く限り、私が安かったので買ったようです。
やはり私は、値段が安いからという理由で選ばれた存在。どのような扱いを受けるのかと、不安で不安で仕方がありませんでした。
ですがご主人様は、私の傷を癒してくれました。なんと、失った腕が元通りになったのです!
私も村に生まれ、そこで十年以上生きてきました。なので、これがどれだけ凄いことなのかは分かります。
村の教会や、大きな街にある神殿。そこにいる多額のお金をもらって治癒の魔術を使ってくれる神官ですら、体の欠損を治すことはできないのですから。
これほどの治癒魔術を使える者は、他にはレベティア神国の教皇様くらいでしょう。
それだけではありません。
ご主人様が私達を連れて向かったのは、誰も近付かないと言われている龍の渓谷でした。そこに辿り着くまでにも、見たこともないような魔物が沢山いました。
私はそこで死を覚悟しましたが、ご主人様はその魔物をいとも簡単に倒してしまったのです!
治癒魔術も使えて、戦いもできる。これほど力を持つ人物は、聞いたことがありません。
そしてそこで、クロとシロの二人に出会いました。ご主人様は私を奴隷ではなく、二人同様に仲間として扱ってくれます。
私にとってご主人様は恩人であり、誰よりも優れた人物であり、伝説の勇者よりも尊敬できる御方なのです。
「絶対に成功して見せます!」
気合が入るのも、当然というもの。これが成功するか否かで、私達のこれからが大きく変わっていくのですから。
「二重の城壁ですか…」
シロが街中を見て、そう呟きます。門番に身分証を提示して、私達はすんなりとオルレアへ入ることができました。
そして初めに目に飛び込んできたのは、二つ目の大きな城壁。どうやら、城を囲む城壁のようです。その外に城下町があり、さらに街を城壁で囲んでいるのでしょう。かなり頑強な街のようです。
「何用だ!」
城下町を抜けて城の正門までやって来ると、四人の兵士が前で警戒をしていました。
ご主人様から大まかな話の流れは聞いていますが、細かい会話は私自身が考えて行わなければなりません。ここからが、私の腕の見せ所という訳です。
「私はオーレン王国から来た者です。貴国がまだ手に入れていない情報を、入手してまいりました。早くお伝えした方が良いことなので、皇帝陛下への謁見を所望します」
後ろ盾を得るために、まずは皇帝か宰相に会いたいところです。
「フン。陛下は忙しい身であらせられる。他国の者の戯言など、聞く必要はない」
一切こちらの話を聞く気はないようです。
その後も話を続けて謁見を願い出ますが、結果は同じでした。このままでは、全く話が前に進みません。
「さっさと立ち去れ!」
ついには私達を追い返そうとする始末。
どれだけ私が頭を使おうと、聞く耳を持たない相手には通用しませんでした。そもそも、相手の頭が悪すぎることが原因でしょう。
普通は皇帝には直接謁見できなくとも、伝えるくらいはするはずです。そうすれば、皇帝が他の者に話を振ります。そうなれば、位の高い者に私達は話ができたのですから。
彼等は頑なに、私達が来たことを上に伝えようとしません。本当に、何を考えているのでしょうか?
いえ、何も考えていないのでしょうね。ただ自国の民でもない私達のために、門の前から動くのが面倒なだけなのでしょう。
話が通じないのであれば、クロの言う通り実力行使もありかもしれません。だんだんと、そちらの方が良いのではないかと思えるようになってきました。
「一体どうしたのだ!!」
「なっ!? 軍隊長!」
そろそろクロに暴れてもらおうかと考えていた時、目の前の兵士とは明らかに格が違う鎧を纏った兵士が城から出て来たのだった。




