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第四十七話 訓練校の落ちこぼれ生徒3

 

 訓練校は毎日続く。試験まで一か月しか期間がないということもあるが、それ以前にこの世界に日本のような休日という考えは存在しないのだ。

 勿論店なども同様である。定休日といったものは存在しない。品物がなくなればそこで終わり。新たな商品を入荷しに行くといった感じである。

 アリステラにとって、それはかなりキツイことだった。午前は講義を受け、午後からは基礎トレーニング。さらに寮へ帰ってからは、俺からその日の講義の内容をおさらいする日々。

 彼女は未だに基礎トレーニングについて行くことがやっとといった様子だったので、俺から実技の手ほどきはしていない。流石に今の生活で精一杯だろうと考えたからだ。

 彼女のレベル上げや、戦い方を教えたりも今後はしていかなければならない。しかし、それは今すぐに行う必要はないだろう。

 なにせ一週間経ってもまだ、実技は基礎トレーニングなのだから。少しずつ運動量は増えてきている。だが無理に量を増やしても効率が悪いと分かっているようで、ほんの少しずつだ。それに休日が存在しないため、体を休める日も存在しない。

 このペースだと、半月近くは基礎トレーニングに費やすと予想できる。下級生の内は武器を触る程度で、本格的に武器の扱い方を教わるのは中級生になってからだろう。

 元兵士の騒いでいた二人は、基礎トレーニングばかりの現状に不満を隠しきれていない様子だ。しかし、それは俺も同じだった。元々適当に流す程度でやって来たが、流石に飽きてきた。


「危なくはないですか?」


 アリステラがへっぴり腰の状態で、俺へと尋ねてくる。そして彼女の目の前には、一匹のゴブリンがいた。

 俺達は現在、フィロキアのダンジョン近くにある森に来ていた。退屈な毎日に飽き飽きしていた俺は、彼女のレベル上げをしようと考えたのだ。所謂気分転換と言うやつである。

 彼女も訓練校が終わってからの日々の勉強会には飽きてきていたようで、最初は俺の言葉にかなり乗り気だった。しかし実際にゴブリンを見た彼女は、怖じ気付いてしまったのだ。

 まだ彼女は自分に合った武器を見つけていない。それどころか、俺は彼女に武器の扱い方すら教えていないのだ。なので今回は雑魚中の雑魚であるゴブリンを、態々見つけてきた次第である。


「大丈夫だ。ゴブリン程度なら問題ない。それに、たった一撃与えればいいだけだ。後は俺が始末してやるから」

「そうですよね…」


 俺の言葉を聞いて、少しずつゴブリンへと歩みを進める彼女。今回は誰にでも扱い易い、短剣を用意していた。リーチは短いので、その分近付かなければならない。だが、武器に振り回されるよりかはマシだろう。

 それに武器の使い方を練習する訳ではない。目的はあくまでレベル上げ。そして魔物を攻撃するという行為に、少しでも慣れることだった。


「キシャァァァ!!」

「ひっ!?」


 当然近付けば、相手に気付かれることになる。彼女に気付いたゴブリンが威嚇するように声を上げたことで、アリステラは恐怖を覚えてしまったようだ。


「来ないで!!」


 ただただ何も考えることなく、彼女は一心不乱に短剣を振るう。だがいくら雑魚と言っても、そのような攻撃がゴブリンに当たることはない。


「シャァァァ!」


 しかしゴブリンの方も、中々飛び込めないでいるようだ。武器を持ったゴブリンだと危なかっただろうが、素手のゴブリンだとただ短剣を振っているだけでも、相手を牽制できるのだろう。

 短剣という速度重視の軽い剣だったことも、影響しているだろうが。

 だが、このままではいつまで経っても一撃を与えることはできないだろう。それどころか、彼女はやがて疲れて動きが鈍る。その時、ゴブリンは躊躇なく彼女へとその爪や牙を突き立てるはずだ。


「敵を良く見ろ! 相手もビビっているぞ。こっちの方がリーチが長い。それを活かせ!」

「はい!」


 まだ彼女の動きはぎこちないが、それでも先ほどよりかはマシになった。しかし短剣をむやみやたらに振らなくなったことで、ゴブリンも攻撃しようとしていた。


「はあっ!」

「ギャッ!!」


 先に動いたのはゴブリンの方だった。それに対して、アリステラは後から短剣を振るう。

 それでも攻撃を与えたのは、彼女の方である。浅くではあるが、ゴブリンが攻撃のために伸ばした腕を切り裂いたのだ。これはこちらの方がリーチが長かったために、できたことである。やはり戦いに慣れるまでは、雑魚を相手にさせるのがいいだろう。

 ゴブリンはそれほどダメージを受けた訳ではない。だがその痛みに、咄嗟に後ろへ退いてしまう。

 それを俺が蹴って倒す。このような雑魚相手に、剣を使うまでもない。


「ふぅ…。かなり疲れます」

「相手は雑魚だぞ。無駄に動き過ぎなんだよ」

「いえ…体力もそうですが、精神的にも疲れました」


 初めの魔物との戦闘で、かなり疲弊したようだ。相手は雑魚の魔物であるゴブリンとはいえ、緊張していたのだろう。

 それでも早く慣れてもらわなければ、ゴブリンではレベル上げの効率が悪すぎる。

 あまり自由にできる時間がないので、取り敢えずはレベル8くらいまでは上げようと考えていた。そのための経験値を溜めるのに、もっと強い魔物と戦いたい。

 次の日の訓練のことを考えたら、彼女は早めに休ませてあげたいのだ。あまり森の奥深くへ、強い魔物を探しに行くことはできない。

 浅い場所にいる魔物の中で、できるだけ強い魔物を狩る必要がある。それでもレベルを8まで上げるのに、どれだけ時間が掛かるのか…。


「取り敢えず、後二~三匹は倒して帰るぞ」

「え……?」


 アリステラが俺の顔を見て固まる。それほど嫌なのだろうか?

 もしかすると、初めての魔物討伐だから優しくしてもらえるとでも考えていたのかもしれない。実際、冒険者はあまり何度も魔物との連戦をすることはない。

 疲労が溜まっている状況で魔物と戦うのは危険だし、想定外の魔物との遭遇だってある。それに戦闘で怪我をするかもしれない。そうなれば、怪我が治るまでは戦力が大きく下がる。

 俺達がレベル上げで何度も連戦ができるのは、俺が魔物を倒しているからだ。クロ達もレベルを上げる際、一撃を与えるだけだった。パワーレベリングで倒す魔物は、自分よりもかなり格上の魔物だ。勿論、一撃を与えるだけと言っても危険は伴う。

 流石に魔物は選んでいるので、一撃で死ぬようなことはない。クロ達も龍の渓谷へ辿り着く前に魔物を狩って、最低限のレベルは確保していた。

 それでも、攻撃を受ければ当然怪我をする。俺がその都度回復させていたのだ。神官のスキルもあれば、薬師のスキルでポーションも作れた。これで、さらに効率の良いパワーレベリングをしていたという訳だ。

 そしてしっかりと追加で二匹のゴブリンを倒し、寮へと帰る。


「疲れました。もう、無理です」


 帰ってきたアリステラは、そのまま自分のベッドへと倒れ込んだ。

 翌朝、俺は彼女に告げる。


「今日は講義の復習をする」

「分かりました!」


 俺の言葉を聞いた彼女は、嬉しそうな表情を浮かべている。昨日のゴブリン退治は、彼女にとってそれほどきつかったのだろう。

 試験は実技と勉学、どちらも合格点を取る必要があり、片方でも落としたら不合格となる。そのため、レベル上げばかりに時間を割いていられないのだ。


「その代わり、明日はまたレベル上げだ」

「……はい」


 絶望的な表情を浮かべる彼女。

 だが、彼女は勉学も実技もどちらも得意ではない。なので、交互にするしかないのだ。せめてどちらか片方が得意であれば、もう少し楽をさせてあげられたのだが…。






「はぁっ!」

「グギャ!?」


 そして半月が経った頃、彼女は一人でもゴブリンを狩れるようになっていた。ようやく慣れてきたようで、相手の動きをしっかりと見ながら戦えるようになってきたのだ。

 それはゴブリンだけではなく、他の魔物を相手にしても同様である。流石に一人で戦うのは難しいが、危なげなく一撃を与えるくらいはできるようになっていた。

 基礎トレーニングのおかげで、体の動きも良くなっているようだ。

 持久走でも、最後尾という位置を脱していた。と言っても、まだ後方にいることには変わりないのだが…。

 そして現在、持久走でのトップは俺になっている。最初と比べて距離がかなり伸びたことにより、元兵士の二人の体力が保たなくなったのだ。彼等は、今は上位集団に混じっている。そして他の者達も持久力が上がったことにより、その二人と競える者が現れ始めていた。


「よし! 今日は武器を使った訓練をしてみよう。と言っても、全て訓練用の模擬剣等だがな」


 こうして俺達は、次のステップへと進むこととなった。

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