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第四十五話 訓練校の落ちこぼれ生徒

 

 ここでは四つのランクに生徒が分けられている。下から最下級生、下級生、中級生、上級生といった感じだ。

 この訓練校では毎月一度、月終わりに試験を受けることができる。その試験に合格できれば中級生、上級生へと上がることができるのだ。

 そして見事上級生として試験を突破できると、卒業を認めてもらえるらしい。

 因みに最下級生というのは、月終わりの試験までに訓練校へと来た者達のことを指す。試験日が指定されているため、下級生として訓練を受けられるのが月始めからなのだ。それまでは訓練に付いていけるように、基礎中の基礎を鍛えてもらえることになる。

 最下級生だからといっても、何も教えてもらえない訳ではないのだ。

 俺は非常に運が良かった。明日が丁度月終わりのため、明後日から下級生として通うことができる。今日は荷運び等もあるため、訓練校には行かなくてよいことになっていた。勿論明日は試験で教師が忙しいため、最下級生は休みとなる。

 つまり俺は最下級生として、基礎中の基礎という一番面倒な訓練を受けなくていいということだ。

 もしこれが一か月近くも続くとなっていた場合、クロでなくても嫌気が差していただろう。

 これからは自重をする必要がなくなったとはいえ、今回は本当の実力は隠すつもりでいる。Eランクの実力があれば問題なく卒業できるのであれば、EかDランク程度の力を示しておけばいいだろう。そちらの方が、無暗に俺の力を見せなくて済む。

 それに今回、アリステラの卒業を支援すると伝えてある。あまり実力差を見せてしまうと、それが悪影響になってしまう可能性だってあるのだ。

 兎にも角にも、まずは訓練を受けてみないことにはどうなるか分からない。俺はここの生徒の実力も、彼女の実力も把握していないのだから。


「下級生を教える、タスアダだ。先月にも見た顔もいるが、まあよろしくな」


 そして二日が経ち、俺は晴れて訓練校の下級生となった。教室には全部で八人。上に上がる程試験が難しくなるため、下級生は基本的には全員新しく来た人となるそうだ。つまり中級生、上級生になる程試験に失敗して残る人が増える。

 そのため、下級生は比較的人数が少ないらしい。

 教師の男は割と優しそうな印象だった。冒険者を育てる学校なので、もっと厳つい男をイメージしていたのだが…。

 そしてそのイメージは的を外れていなかったことが後に分かった。中級生や上級生の担当教師は、厳つい男だったのだ。下級生は教える内容が基礎的なことが中心となるため、最初の一か月は訓練校に馴染みやすくなるようにとの配慮だろう。

 最初から厳つい見た目の男が熱血教師をしていたら、生徒が付いていけなくなってしまうからな。

 授業は午前中に勉学。魔物や薬草等の知識、職業やスキル等の知識を教わっていくようだ。これは生息分布を教えるため、国や国内のダンジョンの内容等も含まれるらしい。この街の魔物やダンジョンの知識だけを詰め込むという訳ではないようだ。

 これは素晴らしいことだと思う。訓練校を卒業しないと依頼を受けられないのはこの街だけだが、これならば他の場所でも教えが役に立つ。そして実際にその知識が有効となると知れ渡れば、他国からも訓練校に来る生徒が現れるかもしれない。

 そして午後からは武術訓練となる。下級生の間は、肉体作りや体力作りが主となるらしい。そして色々な武器を体験してみるのだとか…。

 殆どの生徒は職業について教わった後に、どの職業になるかを決める。そしてその職業に合った武器の訓練をするのだ。しかし生徒によっては、使い易い武器が何かで職業を選ぶ人もいるらしい。

 これに関してはどちらも正しいと言えるだろう。なりたい職業になってそこから頑張るのも良し。自分が使い易い武器を得意とする職業を選び、その利点を活かしてさらに上達していくも良し。


「それで、まずゴブリンは」


 教師はゴブリンの情報を話す。誰もが知っているという訳ではないが、誰でも倒せる程の弱い魔物だ。教師の説明に、興味を示している者は少ない。

 試験で確認される項目には知識もある。文字の読み書きができない生徒も大勢いるため、日本のように黒板に書いて説明するということはない。勿論教科書という物も存在しない。

 全て彼の口頭での説明なので、聞いて覚える必要がある。

 俺も英雄街道をプレイしていたので、殆どの情報は頭の中に入っている。しかしゴブリンのような雑魚の生息地等は、覚えていなかった。

 英雄街道では、主人公はただの村人だ。初めはゴブリンを何度も相手にしていたのを覚えている。効率良く狩るために、弱点等も調べた。まさかその知識が、今更になって使えるとは思ってもみなかった。


「えっと…」


 隣では、アリステラが教師の話を聞いて混乱していた。決して話すペースが速いという訳ではないが、彼女はすでに若干付いていけていない様子だ。

 席割は訓練校へと来た順。つまり、同室の者が近くの席になるようになっている。これも訓練校側の配慮か?

 農家の娘ということだったので、ゴブリンすら相手にしたことがないのだろう。ここに集まっているのは、冒険者志望の生徒。ゴブリンのように誰もが知っているような魔物は、教師もそれほどしっかりと話す気はないのだろう。

 必死に先生が言ったことをメモしている。嫁ぎ先の仕事で読み書きが必要だったのか、彼女は文字が書けるらしい。農家育ちにしては珍しいと思う。

 収入は少ないだろうが、代筆や代読という仕事もある。彼女は冒険者になれなかったとしても、他の仕事に就くこともできるだろう。何故そこまで冒険者に拘っているのか…。

 そして四種類程の低ランクの魔物を教わったところで、午前中の講義は終了する。

 今から昼休み。昼食の時間だ。

 昼食は食堂で配給されることになっている。ちょっとしたスペースに椅子や机が並べられていた。生徒が自分達で配給を受け取り、好きな席へ座るのだろう。

 上級生になるほど講義より実習の時間が増えるため、昼休みの時間は微妙にずれていた。いや、敢えてずらしているのかもしれない。

 流石にこの食堂に全生徒は入りきらないだろう。


「セインさんは余裕がありますね…」


 少し疲れた表情を浮かべるアリステラが、俺の前へ座る。


「セインさんは字が書けるのでしたよね。メモをしなくて大丈夫なのですか?」

「問題ない。というより、文字が書けない生徒もいるんだ。メモしなくても卒業できる程度しか、教わらないということだ」

「……」


 俺の言葉を聞き、目の前で死んだような顔をするアリステラ。

 実際、今日教わった魔物はたったの四種類だ。試験までは一か月。卒業までは最短三か月。

 日本ではさらに沢山のことを試験日までに教わっていたのだ。そして高校入試や大学入試等は三年分の知識が試される。

 それに比べれば、なんと楽なことか。簡単な計算等も今後教わるらしいが、そちらも一切問題視はしていない。精々足し算や引き算程度だからだ。

 貴族達ですら掛け算や割り算は習得しない程、この世界では難しい計算と言われている。商人が汗水垂らして勉強し、ようやく身に着けるレベルの計算なのだとか…。

 日本では九九という形で、掛け算を覚え易い形から覚えていく。それがない、そもそも学問を学ぶような環境がないこの世界では、教える側も上手に教えることができないのだろう。

 俺が奴隷として買った商人の娘ニラヤも、掛け算や割り算はできないと言っていた。当然できるようになってもらったが…。

 彼女は俺の教えを受け、それほど苦労することなくできるようになった。そして俺の教え方が分かり易くて良いと、絶賛してくれたのだ。

 商人としての知識がない俺だが、その時はニラヤに商人の鑑とまで言われてしまった。


「メモを必死に取っていたが、理解はできているのか?」

「いえ…それが、メモを取るのが精一杯で…」


 俺はこのような生徒を知っている。中学生頃、同じ教室にいた。

 その生徒はかなり几帳面にノートへ書き写す生徒だった。しかし、かなり成績は悪かったのだ。

 俺が少し勉強を見た際、その生徒は言った。黒板に書いてあることを綺麗に書き写していると、次の話へ進んでいるのだと。

 つまり書くことに必死で、しっかりと話を聞けていないのだ。そのため、一切頭にも入っていないのだろう。

 彼女は似たような状況に陥っていた。

 これは根本的に、指導していかなければならないかもな…。

 この学校は、成績が悪い生徒に対して教師が親身になってくれる訳ではない。成績が悪い者は、あっさりと不合格を突き付けられるのだ。


「俺が何とかしないといけないか…」


 目の前で昼食を食べる彼女に聞こえないよう、小さくそう呟いた。

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