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第四十四話 訓練校

 

 何故このようなことに…。部屋の中に気まずい沈黙が流れている。

 寮へと着いてすぐ、俺は寮長へと挨拶して部屋番号を教えてもらった。そして教えてもらった部屋番号通りの部屋へと入ったのだが、そこで問題が発生したのだ。

 部屋は小さな四人部屋。中央に少しだけスペースがあり、左右に二段ベッドがあるというシンプルな造りの部屋だった。

 ただ、部屋が狭いのが問題な訳ではない。

 この寮の部屋割りは、単純に来た者から順番に部屋を振っていくというもの。つまり俺の前に来た人は一つ前の部屋か同じ部屋になり、後に来た人は同じ部屋か一つ後ろの部屋になる。

 ここで問題が一つ。

 この訓練校は冒険者を育てるという場所である。そして女性冒険者というのは、男性冒険者と比べて圧倒的に比率が少ない。

 女性冒険者だけで組んだパーティーというのは殆ど存在せず、基本的に男性冒険者だけのパーティーか男女混合のパーティーである。

 そして冒険者の殆どは、パーティー内で男性だから女性だからと意識することはない。外だと常に一緒にいることになるからだ。

 新人冒険者のパーティーだと、宿で部屋を分ける金が勿体ないため、一緒の部屋に泊まる冒険者だっているくらいである。

 つまり何が言いたいかというと、この寮でも男女混合なのだ。何かが起きたとしても、冒険者を目指すのであれば自力で解決をしてみせろ、ということだろう。

 俺がこの部屋の扉を開いたのが少し前。その時俺の視界に映ったのは、着替えをしている最中の一人の女性だった。

 そして現在、非常に気まずい空気が流れているという訳である。


「ノックを忘れていた。申し訳ない…」

「い、いえ。こちらも男女混合というのは聞いていたのに、つい油断をしてしまっていたので…」


 互いに平謝りだ。そしてこれは先ほどから、何度も繰り返している会話である。女性の方は顔を真っ赤にしており、返事を返すだけで精一杯といった様子だった。

 再び気まずい沈黙が…。


「取り敢えず、俺はセインという。今日からこの部屋に住むことになった。よろしく頼む」

「は、はい! 私はアリステラと言います!」


 気まずさを払拭するため、強引に話を進めることにする。


「ベッドは何処が空いてるんだ?」

「私の使っているここ以外は」


 そう言って彼女は部屋の左上側のベッドを指さす。


「そうか。なら俺は右下のベッドを使わせてもらおう」

「はい!」


 この部屋には現在、アリステラしかいないようだ。つまり新たな訓練生が来ない限り、どちらかが卒業するまで二人きりということになる。

 やはり早めに気まずい空気は払拭し、先ほどの件は封印するべきだな。

 ベッドはカーテンで仕切れるようになっており、本来であれば見られたくない者はそこで着替えをする。彼女が中央のスペースで堂々と着替えをしていたのは、ベッドで着替えるのは狭いということと、これまで一人部屋だったからのようだ。


「アリステラはどうしてここに?」


 少し話しただけだが、彼女の腰の低い話方と性格は、冒険者には向いていないことが分かる。何か事情があって冒険者になったのは明白だ。

 因みに、そのような者達は一定数存在する。


「別に話したくなければ、話さなくてもいい」

「いえ、そういう訳では…。ただありふれたもので、それほど面白い話ではありませんよ」


 そう言って話す彼女の過去は、本当にこの世界ではよくある話だった。

 彼女は農家の娘として生まれた。

 他にも二人の兄と、一人の妹がいるという。農家で必要なのは男手だ。そのため、家の仕事を継ぐのは兄二人。

 娘二人は何か仕事を見つけるか、何処かの家に嫁ぐ必要があった。

 アリステラは十四歳の頃に、嫁ぎ先が決まったらしい。そしてそろそろ結婚というところで、事態が一変する。

 夫となるはずだった男が、病に倒れたのだ。

 彼女はその彼の代わりに家の仕事をして過ごした。しかし彼女の頑張りも空しく、男は三年後に死んでしまう。

 彼が死んだあと、家の仕事を引き継いだのはその男の弟だった。

 結婚もしていない彼女は、その家の者ではなかった。家から追い出されてしまったのだ。

 その時点で彼女の年齢は十九歳。日本ならばまだまだだが、この世界では十九歳から小さな村で結婚相手を探すのは難しい。

 早い段階で、年齢の近い者との婚約が決まってしまうからだ。

 彼女は仕事を探す以外、生きていく道を閉ざされてしまった。そして選んだのが、冒険者として生計を立てていくという道だった訳だ。


「俺は冒険者だ。ここを卒業しないと、依頼を受けることすらできないと言われたから、仕方なく来ただけだな」

「Eランク冒険者…」


 彼女の話を一方的に聞くだけなのも申し訳ないので、俺も身分証を見せながら彼女に告げる。


「すでにEランクの冒険者であれば、すぐに卒業できますね」


 やはり訓練校と言っても、最低限の知識と実力を付けさせるためだけのものらしい。

 ダンジョンの低層の魔物がそこらの雑魚よりも強いと言っても、Fランク冒険者でもパーティーを組んで連携が取れていれば討伐可能だからな。

 卒業後は自分達で実力を上げてくれ、ということだろう。


「私はすぐに置いて行かれてしまうでしょうね」


 彼女の雰囲気が少し変わり、瞳の色が若干暗くなった気がした。


「私は二週間前に来たのですが…」


 そこからは、彼女の愚痴が永遠と続く。

 次から次へと彼女の口から言葉が溢れ出し、こちらが口を挿む暇もない。時々俺へと話が振られるが、基本的に彼女の言葉に同意するような言葉以外は選択肢にないようなものだった。

 ここに来て二週間。彼女はここで訓練を受けていたようだが、あまり上手くいっていないようだ。やはり俺が思った通り、彼女の性格的に冒険者のような仕事には向いていないのだろう。

 話を聞いている限り、他の者達もそれほど上手くいっているようには感じない。しかし、彼女は自分を下げて話す。

 何かあったのか、周囲の者に劣等感を感じているのだろう。

 なので周囲の者達に愚痴を溢せるはずもなく、部屋も今までずっと一人だったため、色々と溜まっていたようだ。


「このままだと私…卒業できません…」


 愚痴が止まったかと思えば、遂には泣き出してしまった。

 嫁ぐ先を失い、実家の仕事を手伝うという選択肢も取ることができず、最後の希望として冒険者になると決意したのだろう。

 そして今、その道すら断たれようとしている。このまま冒険者になれなければ生きていくことができないので、かなり必死なようだ。精神的にかなり追い詰められているのだろう。

 仕方がない…。同じ部屋になったのも、何かの縁だろう。


「俺が面倒を見てやろうか?」

「面倒って!? えっと? 私…すでに二十歳になったんですけど、それでもいいのですか?」

「? 何がだ? 年齢は今、関係ないだろう」

「ありがとうございます!! こんな私をもらってくれるなんて!」


 ? もらう? 私を…?


「いや!? ちょっと待て! 勘違いするな!」


 これは明らかに勘違いされている。ん?

 今回は俺が悪いのか?


「俺は冒険者としての特訓。つまり、卒業するための面倒を見るということだ!」

「そう…だったのですか。それでも、ありがとうございます…」


 言葉では礼を言ってはいるが、明らかに落胆したような表情となっている。日本の知識がある俺は、二十歳という年齢は若いと思う。だが、この世界では二十という年齢は微妙な年齢だ。

 彼女としては冒険者になれることよりも、夫を得ることの方が良かったのだろう。

 それにしても、今日会ったばかりの俺と結婚しようとするとか…。俺の言葉が悪かったのは認めるが、流石に必死過ぎではないだろうか。

 それにこういうことを言っては悪いが、愚痴を聞いていた感じ、彼女からは何か面倒な雰囲気が感じ取れる。

 年齢や容姿等は一切関係なく、彼女を嫁にもらうのは危険だと、俺の脳内で警鐘が鳴り響いているのだった。

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