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第四十三話 ライアスラ

 

 ライアスラで唯一ダンジョンが存在する街、それが今回寄り道のために目指した街だ。名前はヒローというらしい。

 ライアスラは元々ダンジョンが国内に一つしかないため、冒険者の数が少ない。小国な上に稼ぎやすいダンジョンという場所が一つしかなければ、他の国に移った方が儲かるからだ。

 国に残っている殆どの冒険者は、このヒローという街に集まるらしい。

 冒険者ギルドへと入ると、恒例である値踏みするかのような視線が飛んでくる。それを無視して受付嬢の前へと向かう。


「冒険者ギルドへようこそ」


 この場にいるのは、冒険者登録を済ませてある俺だけだ。クロも冒険者登録をしているが、今回は外で待たせてある。

 連れて来たところで、見た目が子供である彼女は厄介事の種にしかならないからだ。それに連れて来ても、彼女は受付嬢の話すら聞かない。

 リリアを連れて来ようかとも思ったのだが、それはそれでクロが騒ぎ出しそうだったので止めておいた。

 それにイル達を待たせるのならば、念のためにリリアも側に置いておいた方が良い。一応容姿は隠しているが、どのようなアクシデントで気付かれるか分からないからな。

 その時に対処できる人物はリリアしかいない。クロでは見た目が若過ぎるので、獣人の奴隷を何人も連れているのは不自然に映ってしまう。シロもいるが、彼はあまり貴族に見えないからな。


「この街の依頼の情報と周辺の魔物の情報を教えてくれ」


 俺は予め用意していた金と身分証を彼女の前に置く。


「冒険者の方でしたか…」


 周辺の魔物の情報と言っても、その殆どがダンジョン内の魔物の情報だった。やはり冒険者達はそれほど稼ぎにならない街の外の魔物より、稼ぎになるダンジョン内の魔物の方が気になるようだ。


「申し訳ございませんが、貴方はまだ訓練校を卒業していませんよね?」

「訓練校?」


 そのようなことは初めて聞かれた。これでも俺は日本での知識がある。そのため、訓練校という言葉の意味は分かる。

 だがこの世界に、学校というものの存在はない。勿論学校という名前という意味ではなく、教養等を学ぶ環境がないということだ。

 なので知識を得たければ弟子になったり、商人達は自分の子供に教え、そうやって親から受け継いでいく。また、貴族は教養のある者を専属で雇っていたり、両親が教え込んだりする。

 冒険者ギルドでそのような名前を聞くからには、冒険者に関する知識や戦い方等を学ぶ場所なのだろう。


「俺はすでに、他の国で冒険者としての経験がある。訓練など今更必要はない」

「しかし…規則ですので。訓練校を卒業していただかなければ、この街で依頼を受けることはできません」


 融通が聞かない。どう考えても、ここにいるどの冒険者よりも俺の方が知識も力もあるのだが…。

 それよりも。


「この街だけなのか?」

「はい」


 俺の問いに答えた受付嬢が、さらに追加で情報をくれる。

 どうやらこの訓練校という制度は、数年前に作られたものらしい。ダンジョンが一つしかなく、冒険者が少ない国。

 当然この街に冒険者達は集まって来るのだが、ベテラン冒険者は無理に元いた街を離れない。ある程度の金を稼げているので、今更危険を冒すようなことをする必要がないからだ。

 つまりこの街へと集まって来る冒険者は、他の街等で仕事に有り付けなかった連中か、ダンジョンの稼ぎに夢を見る現実を知らない新人冒険者だという。

 そしてそう言った者達は、実力が伴っていない。ダンジョン内の魔物は一階層からある程度の魔物が出現する。それほど強い訳ではないが、街の周辺に現れるゴブリン等の雑魚を狩っているような冒険者では、相手にできないのだ。

 この街に来た冒険者の内、八割近くはたった数か月で重軽傷を負う。さらに死者もかなり多いらしい。

 その問題を打開するために作られたのが、この制度らしい。

 冒険者の数が少ないライアスラという国。その中でも一番冒険者が集まり、一番死傷者が多い街。このような制度ができるのは、当然の結果だった。

 そして俺のように他のダンジョンに潜った経験がある者で、態々このような冒険者にとって旨みが少ない小国の街に来る者はいない。

 なので例外というものは存在していないのだろう。


「訓練校でさっさと成果を出して、卒業すればいいんだな」


 圧倒的な実力や知識を見せ、さっさと卒業させてもらおう。かなり目立つだろうが、気にすることはない。

 それに力を示しておけば、俺に絡んでくるような馬鹿も減るだろう。

 冒険者の連れている奴隷はこの訓練を受ける必要はないらしい。やはり冒険者とは違って、死んでもいいという考えなのだろう。

 つまり、クロと俺が卒業すれば問題はないという話だ。


「卒業には、最低でも三か月はかかりますよ。実力を示せなかった人の中には、半年以上も訓練校にいた人もいますが…」

「三か月だと!?」

「はい」


 俺の驚きの声を聞いても、受付嬢は淡々と答えるだけだった。

 この三か月という期間は、実力や知識が優れているほんの一部の者達にしか関係がないらしい。殆どの者達は、たった三か月では卒業できないという。

 どれだけ優れた評価を示したとしても、三か月は掛かってしまう…。

 戦争に関しては問題ない。

 オーレン王国は大国だと言っても、相手も大国だ。それなりに準備が必要となり、さらに周辺国家と足並みを揃える必要もある。最低でも半年は掛かるだろうと、シルベーヌは言っていた。

 三か月を訓練校で無駄にしても、オルレア帝国に情報を渡す前に戦争が始まるということはない。しかし、オルレア帝国が独自にその情報を入手してしまった場合、情報の価値は一気に下がってしまう。それに半年で攻めてきた場合、オルレア帝国側の準備期間は三か月。

 その時間でどれだけ戦力を集められるのか…。

 やはり先に伝えておく必要がある。


「分かった。訓練校は何処にある?」

「それは…」


 俺は訓練校がある場所を聞いて、冒険者ギルドを後にする。


「セイン様」

「皆、少し状況が変わった」

「??」


 俺は全員に先ほどの受付嬢の話を伝える。


「そうですか…それでどうしますか?」

「俺はついでに訓練校の様子も見てくるつもりだ。これからの育成に、役に立つかもしれないからな」

「分かりました」

「それで、僕達はどうする?」

「皆にはオルレア帝国へと先に向かってもらいたい。皆の実力なら、俺がいなくても問題ないはずだ」


 それにしっかり者のシロとリリアがいれば、安心して任せることができる。


「クロは冒険者の方? それとも帝国?」

「帝国だ」

「分かった!」


 何か直観的なもので、訓練校というものがどういうものか察したのであろう。こちらに付いて来なくていいと聞いて、クロは嬉しそうな表情を浮かべていた。

 流石に冒険者という職業柄、素行不良で卒業できない等ということはないだろう。それでも彼女を連れて行っても、間違いなく面倒くさそうにしている未来が見える。

 話も聞かず、実技の場では暴れ回ることが容易に想像できるのだ。

 訓練校というものが、こちらではどのような代物かは分からない。だが、俺が考えているような学校みたいな場所であれば、彼女との相性は最悪だ。


「それでは先に行ってきますっす」

「待ってるからね! 早く来てよ!」

「ああ。分かっている」


 俺は皆と別れ、一人で訓練校へと向かう。

 訓練校には寮のような建物が存在するらしく、五か月は無料で滞在できるらしい。勿論食事も用意してくれるそうだ。

 これはあまりお金がない冒険者が、三か月以上も依頼を受けることができず、訓練校へ通うこと等到底不可能だからである。

 五か月という期間が設けられているのは、昔金のない者が冒険者を目指している訳でもないのにやって来て、卒業せずに何か月も寮に住み着いたことが原因らしい。

 厳しい冒険者の訓練を受けてまでタダ飯に有りつくのならば、しっかりとした仕事を探せばいいのにと思ってしまう。


「ここが寮か」


 訓練校のすぐ側。そこに二階建ての建物があった。

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