第四十二話 新たな旅へ
俺の復讐は果たされた。
相手に情報を渡して復讐が失敗に終わってしまうのを防ぐため、今までは常に目立たないように自重してきた。しかし、それももう終わりだ。
目立ちたいと思っている訳ではないが、だからといって自重する気もない。
「奴隷である私が、商会の主となっていいのですか?」
「構わない。俺達は商売のことは素人だからな。お前に任せたい」
フールで買った奴隷。商人の娘であり、しっかりと親から商売の知識を詰め込まれている。名前はニラヤというらしく、良くも悪くもそれほど目立った容姿ではない。年齢は23歳と商会主になるには若いが、それが問題となる訳ではない。
彼女を選んだのは職業がすでに商人であり、レベルが低くてもアイテムポーチのスキルを取得していたからだ。
商売をするだけならばそれほどお金はかからないが、商会を立ち上げるとなるとそれなりに金がかかる。
当然奴隷だった彼女がお金を持っている訳がないので、そのお金は俺達が全て出していた。
彼女の店は小さな店だったらしい。そこへ小さい店には普通舞い込んでこないような、大きな取引の話が舞い込んできたようだ、
明らかに怪しい話だが、ずっと店を大きくしたいと考えていた彼女の両親は、欲を出してしまったらしい。その取引に失敗して、家族全員奴隷の身分へと落ちたという。
彼女が後から知ったらしいのだが、どうやらその奴隷商と取引先が繋がっていたようだ。確実に失敗させ、奴隷として格安で奴隷商が買う。商人は教養があるため、価値が高くなることから狙われたようだ。
「私なんかが商会主…本当に大丈夫でしょうか?」
彼女は買ってすぐにレベル上げを始め、すでにレベル36まで成長している。この世界ではかなり高レベルなのだが、騙されて奴隷落ちした経験からか、未だに自信がないようだ。
「私達がいます。大丈夫ですよ」
「そうだな。道中襲われたら、返り討ちにしてやるよ」
彼女の護衛として共について行くこととなっている、ビビアとデールが彼女の側へと歩み寄る。
「今回は素材を売り捌いてもらうだけだ。何か商売を始めろって言っている訳ではない」
「そうですが…」
皆のレベルや技量を上げるため、かなりの数の魔物を葬ってきた。そのため、かなりの素材が俺のアイテムボックスに眠っているのだ。
その中で俺達の脅威にはならない程度、しかしこの世界では重宝されている素材を、彼女が取得したアイテムボックスへと移している。
新たな商売を始めるにしても、まずは支度金が必要となる。初めは素材を売って、金を稼ごうという考えだ。
さらに現在、俺達の育成によってレベルが40を超えたリーラ達が、死の森の拠点で新人を育てているところである。
ニラヤの後に買った奴隷で、職業は何もなくレベルも1の安い奴隷だった。
その者達は薬師という職業になってもらっている。薬師の上級職である錬金術師まで育てるかは迷っているが、ニラヤが売る商品にこの者達が調合したポーション等も加えようと考えていた。
「サーニャも頼むぞ」
「お任せください。しっかりとニラヤ様のサポートをこなします」
商売に行く中で、唯一低レベルであるサーニャ。彼女は最後まで仲間になることを拒み、リストア伯爵邸にいた頃からレベルが上がっていない。
デール達を付けたのも、半分以上は彼女を守るためである。
彼女達には商売と同時に色々な領地を回ってもらい、それぞれの領地の特色を見てきてもらうつもりだ。
それはこのオーレン王国だけに留まらず、他国にも向かってもらう。
「俺達は先に行くから、後は頼むぞ」
「セイン様。こちらは必ず成功させ、しっかりと儲けてみせますよ」
未だに不安そうにしているニラヤに代わり、ビビアが応える。
俺達は俺達でここから離れる予定だった。
人数が増え、戦力的には安定して来た俺達だが、それでも国に目を付けられるのは面倒である。
国からのちょっかいを受けないためにも、国の後ろ盾を得られればいい。これはリリアが提案してくれたことだが、丁度いい国があったのだ。
それも大国。オーレン王国から東へ、小国を挟んだ場所にある国、オルレア帝国だ。
この国は侵略国家と呼ばれ、沢山の国へと攻め入って国を大きくしてきた。完全な実力主義の国家で、才能がある者はどのような身分であっても優遇される。
さらに俺達には、この国にお土産という名の情報を与えることができる。
オーレン王国は現在、水面下である作戦の準備をしていた。それは周辺国家を巻き込んだ、オルレア帝国への侵攻だ。
オーレン王国は内部の問題に蓋をするため、オルレア帝国という敵を作り出そうとしているのである。この作戦に周辺国家は賛同した。オルレア帝国は大国となるために、他国の不興を買い過ぎたのだ。
小国一つ一つであれば、オルレア帝国に反抗するようなことはないだろう。だが、今回は同じ大国であるオーレン王国の作戦だ。彼等は嬉々として、その作戦に飛びついた。
「まさか家に帰ったついでに、こんな情報を持ち帰って来るとはな」
「僕も、最初に聞いた時は驚いたよ」
この情報は全て、シルベーヌとシロが持ち帰った情報だった。
フランソワ家はシルベーヌに対する嫌がらせに対し、今までは全く対処して来なかった。それは、証拠が一切なかったからだ。
しかし今回彼女の口から、命まで狙われたという報告を受ける。
流石に裏の組織まで使ってそのようなことをしていると聞いては、フランソワ家は黙ってはいなかった。
シルベーヌの実家は伯爵であり、相手は子爵。
証拠がないからと言ってここまでされたのに対処しないのは、他の貴族からも舐められてしまうからである。
これを切っ掛けに、シルベーヌは家との仲を取り戻した。
そしてその時、この情報がもたらされたのだ。上級貴族である伯爵家だからこそ、すでに知らされている情報。
俺達が入手するのは困難な代物だった。
現在シルベーヌはフランソワ家に帰ったままだ。上級貴族だからこそ入手できる情報等があるからである。
「折角人数が増えたのに、また少人数になりましたね」
「クロは、人数は少ない方が良い」
「でも、確実に味方は増えたっすよ」
いつものメンバー。始まりの四人と言ってもいい、クロとシロ、それにリリアとイル。
さらに今回は、フィンとルゥも一緒だった。
彼女達は元々種族柄能力が高いのだが、イルに鍛え上げられたため情報収集や隠密等の技量が高い。その能力は必ず役に立つ。
「目指すはオルレア帝国。そして通るのは、ライアスラだな」
ライアスラ。オーレン王国とオルレア帝国の間に位置する小国。縦長な形をした国のため、通り過ぎるのにそれほど時間は掛からない。
丁度いいから、街に寄った際にその国の実力も見せてもらうことにする。
冒険者は大陸共通だ。つまりオーレン王国で冒険者登録した俺達は、ライアスラの冒険者ギルドでも活動できる。
そこである程度の力量を見定めさせてもらう。そしてできることならば、新たな仲間を獲得したい。
オルレア帝国の後ろ盾を得るために向かうのだが、後ろ盾を得た後は必然的にオーレン王国との戦争に巻き込まれるだろう。
俺達だけで戦う訳ではないが、周辺の小国も全て敵となる。仲間は多いに越したことはないのだ。