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第三十九話 力の代償


 流石に彼女をこの場に一人、残していく訳にはいかない。こっちへ来たクロが、確実に誤って彼女を殺してしまう。


「リリア、彼女のことは任せる」

「かしこまりました」

「セイン様! 待ってください!」


 サーニャが俺を呼び止める言葉を無視して、次の部屋へと向かった。


「ようやく見つけた」

「何故こんなことを…」


 数部屋探し終えた後、宝物庫かと思うほど金目の物が置いてある部屋でビビアンを見つけた。彼女は何と、暢気に自分の持つ鞄へ高そうな品を詰め込んでいたのだ。

 そしてそれに付き合わされたのであろう兵士達の死体。彼等は俺が部屋の扉を開けるなり、襲い掛かって来た。

 それをあっさりと返り討ちにしたのを見ていた彼女は、すでに顔面蒼白で体は震えている。


「ここが伯爵家だと知って、襲って来たのですか?」


 恐怖からだろう。平静を装ってはいるが、汗が噴き出ており、俺と目が合うことを避けている。


「私を見逃してくれたら、あなた方の襲撃は不問としましょう。今ならばまだ間に合います」


 俺はその言葉には答えない。

 返事をしなかったからか、彼女はかなり焦った様子を見せる。


「この屋敷にあるお金を全て用意しましょう! なのでどうか、私を助けてください! どうですか? お願いします!!」


 全ての言葉を無視していたら、遂に彼女は床へ額を擦り付け始めた。そして泣き叫びながら、俺へ助命懇願する。


「俺の狙いは金目の物ではない。初めから、お前達を殺すことが目的なんだよ」


 俺は錯乱している彼女でも分かり易いよう、落ち着いた声でそう告げてやる。


「そんな…。何故…」


 助けてもらえないと悟ったビビアンはようやく絶望を滲ませた表情を浮かべた。それでもまだ、俺がセインだとは気付いていないようだ。

 もしも気付いていたのなら、何故と俺に理由を尋ねたりはしないだろう。俺の母を殺したのは、彼女自身なのだから。


「思い出せないのなら、思い出せないでいいさ。思い出したところで、殺すことには変わりはないからな」

「嫌! まだ死にたくない!!」


 逃げようと慌てて立ち上がり、彼女は扉の方へと走り出す。無事にこの部屋を出たところで、その先に待っているのはリリアだ。すでに彼女は詰んでいる。


「態々逃がしはしないけどな」


 俺から離れようとする彼女の肩を掴み、力任せに投げ飛ばす。


「きゃっ!?」


 ドンと壁に激突した彼女は、そのまま床に崩れ落ちた。頭から血が流れている。どうやら今ので頭をぶつけてしまったらしい。


「まあ、関係ないか。アイテムボックス」


 俺はアイテムボックスから、不要な剣を一本取り出す。

 それで彼女の首を切り落とし、ついでにその剣を体へ突き刺しておく。俺の母も体を貫かれていたから、これは意趣返しのようなものだ。


「あまりにも呆気なかった」


 もっと抵抗してくるかと思っていたのだが、予想は大きく外れてしまった。最初に兵士を殺して、力量の差を見せつけてしまったからだろう。

 これは少し失敗だった。ビビアンは殺人に手を染めている。なので俺にも刃を向けてくると、そこを返り討ちにしようと考えていたのだ。それに、結局最後まで俺のことを思い出すことはなかった。

 やはり自分から名乗るべきだったのだろうか?

 しかし、名乗ったところで何かが変わる訳でもない。母を殺したことを、悔やんでほしい訳でもないの

だ。

 そしてさらに屋敷を見て回り、通路の一番端にある最後の部屋。


「貴様らが襲撃者か」


 その部屋の中に、ビビアンの息子であるバンがいた。かなり広い造りの部屋だ。彼の自室なのだろう。


「何の用件で…いや、これから死ぬ人間に聞く必要はないか」


 彼はすでに剣を抜いている。それも二本の剣を、それぞれ左右の手に。


「お前は俺達に勝てると思っているのか?」

「今の俺では無理だろうな」


 彼は俺達がこの屋敷にいる兵士を相手に、全て倒してここまで来たことは知っている。ある一定以上の実力があることは、彼にだって分かってるはずだ。

 俺だってバンの実力くらいはある程度知っている。デール達から得た情報、リリアが集めてくれた情報、そしてサーニャが与えてくれた情報。それらを合わせれば、大まかな実力くらいは想像が付く。

 しかし俺に勝つことは無理だと言うバンの口元は、僅かに笑みを浮かべていた。


「だが、俺は今から新たに生まれ変わる。貴様らを倒せるだけの力を手に入れて見せよう!」


 そう言って彼は、懐から一つの石を取り出した。

 それは禍々しい黒色をした拳大の石。それを彼は、床へと投げつける。


「はははっ!! どうだ!」


 投げつけられた石が衝撃で砕け、中から何かが現れる。

 それは実体のない存在。

 悪魔の呪い(デモンズカース)と呼ばれる魔物だ。霊系ゴーストの魔物の一種だが、名前の通り悪魔の魂からしか生まれない珍しい魔物である。

 この魔物自体はそれほど強くはない。だが厄介なのが、何者かに憑りつき肉体を得た場合だ。この魔物は肉体の持ち主の能力を、大幅に上昇させるという力を持っている。


「これが新たな力だ! お前達人間を殺すための力!!」


 バンの言葉が貴様らからお前達へと変わっている。すでに悪魔の呪いを宿した代償が出始めているようだ。

 悪魔の呪いはかなり強力な力を与えてくれる。その代わり、徐々に自身の体を悪魔の呪いが浸食し始めるのだ。最終的には、完全に体を乗っ取られてしまう。

 浸食の強さは悪魔の呪いの強さによって、悪魔の呪いの強さは生前の悪魔の強さによって異なる。そして悪魔の呪いが強い程、能力の上昇量も大きくなる。


「次代の魔王を生み出すとか言っていた悪魔からもらった力だが、素晴らしいものではないか!」


 自身の肉体を確認するように少し動き、そう彼は呟く。


「魔王様!!」


 そう高らかに叫ぶと、俺目掛けてかなりの速度で迫って来た。


「敵の排除!」


 バンは左右の剣を縦横無尽に振るう。その速度は高レベルの剣鬼であるクロと遜色ない程だ。


「速い!?」


 咄嗟に大剣を抜いて防御するが、一つ一つの攻撃がクロと同じ速度である。それが左右の剣から放たれるため、受ける側にとっては二倍の速度で攻撃されているのと変わらない。


「シールドバッシュ!」

「ガッ!!」


 少し無茶だが、大剣を盾に見立ててスキルを放つ。

 無事にスキルは発動し、俺は前方へと急加速する。大剣と激突したバンの体が、大きく後方に吹き飛ぶ。


「ここが広くて助かった。大剣を振り回しても問題なさそうだ」


 今度はこちらから距離を詰める。


双撃ダブル。さらにハードスラッシュ!」


 相手が攻勢に出れないよう、スキルを次々と叩き込んでいく。


「四連脚。衝波!」

「グアァァッッ!! 何故だ! 何故我がお前如きに…」


 剣のスキルだけではなく、足等の体を使ったスキルも混ぜる。


「まだだぁぁぁ!!!」


 彼の防御を捨てた捨て身の一振り。それを横へとずれて躱すと、再び彼の剣が縦横無尽に動き出す。


「先ほどまでの威勢はどうした? これが人間の限界か?」


 俺が防御に回ったことにより、途端に煽り始めるバン。いくら部屋が広いとはいえ、流石にここで上級職の強力なスキルを放つ訳にもいかない。

 それに…。


「お前も攻撃の手が緩んでいるぞ」

「黙れ!!」


 図星を突かれた彼が大声で吠えるように叫ぶ。先ほどシールドバッシュで攻撃の起点を作られたことから、かなり反撃を警戒しているようだ。その分だけ攻撃の手が弱まっている。

 こちらにはまだ、聖騎士の防御スキルを温存するだけの余裕があるのだ。それに使えるスキルが多数存在する俺には、起点作りなどは容易いことだ。


「もらった!!」


 バンが大剣の隙間を縫って、強引に剣を突き入れようとする。ようやくできた僅かな隙だ。彼はそれを的確に狙ってきた。

 だがしかし、それは俺が自ら作った隙だ。


風の奔流(エアブラスト)

「なっ!?」


 流石に俺が魔術を使えるとは思わなかったのだろう。至近距離で吹き荒れた風に、彼の体が大きく後方へ傾く。

 こちらも存在するのは一瞬の隙。大剣を構え直して斬りかかる程の猶予はない。


「竜爪!!」


 選んだのは蹴り。俺の足から放たれた三本の衝撃が、真っ直ぐバンの下へと向かう。


「ガハッ!」


 彼は咄嗟に横へ跳んだようだが、流石にこれを回避することはできなかったようだ。

 上半身と下半身に、綺麗に別れている。三本の衝撃が飛ぶスキルなので良かったが、一本の衝撃だと躱されていたかもしれない。

 部屋の中へと風が吹き込んでくる。原因は、後ろの壁に三筋の大きな穴が開いてしまったからだ。足の動きを最小限にして威力を抑えたのだが、やはり威力が強すぎる。


「何故…だ。強大な力を…手に入れたはず…」


 悪魔の呪いが宿った彼は、相当に生命力が高いらしい。死にかけではあるが、まだ息があった。


「理由は簡単だ。強い力を手に入れただけで、お前自身は弱いからだ」

「……」


 すでに話す力が残っていないのか、それ以上彼からの言葉はない。

 実際、体を動かしているのは魔物である悪魔の呪いだ。そのため、バンではできないような動きをいくつかしていた。

 それでも、使えないスキルを使うことはできない。

 生前は強力な悪魔だったとしても、生前持っていたスキルを使えない。バンの体でできること以上のことはできないのだ。

 そして、バンの元々のレベルは低い。貴族であることから、パワーレベリングで少しはレベルが上がっている。それでも10にも満たない程度であり、使用できるスキルは一つも得ていない。

 つまり、戦闘中に使えるスキルが一つもないのだ。

 それが今回の、彼の一番の敗因。能力値が高いだけでは勝てないというのは、高レベルのプレイヤー同士の戦闘ではよくあることだった。

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