第三十八話 リストア伯爵邸襲撃2
兵士の遺体を壁の方へと寄せ、綺麗に並べておく。復讐の邪魔になるから殺したが、彼等を殺したくて殺した訳ではない。彼等は純粋に、この街を守るために侵入者である俺達と戦っただけなのだ。ここへ並べておけば、その内誰かが見つけてくれるだろう。
俺は内側から門を軽く開け、外にいる皆を誘導する。
「魔術って便利だな」
「俺は娘が魔術を使っている姿を見たが、あそこまで自在に使ってはいなかった」
「俺は魔術以外のスキルも使えるからな」
高い外壁を軽々と昇った俺を見ていた皆が言ってくるので、そう答えてやる。俺もただの魔術師ならば、外壁をあのように楽々と昇ることはできなかった。
「それより、さっさと行きましょう」
シルベーヌが話している俺達を置いて先行していく。だが、彼女は屋敷への道のりが分かっていない。そのため、すぐに戻って来た。
「あまり逸るなよ」
逸る彼女をそう窘め、できるだけ最短距離で屋敷へと向かう。兵士に見つからないように進むルートもあるが、そちらは時間が掛かってしまう。そのため、最短ルートを選んだ。
「足音が響いているから、遠くても簡単に捕捉できるな。獣人を舐めているのか?」
兵士に出くわす可能性が高い最短ルートを通りながらも、まだ一度も戦闘に発展していない。兵士は装備を着けて街中を歩き回っているので、こちらへ近付いて来ていることにすぐフィンが気付くことができる。
そのため、容易に兵士達を回避することができた。走っているのならば近付けば俺達にも聞こえるだろうが、歩いてそれも距離がそれほど近くないのに気付く。これは獣人である彼女だからできることであり、兵士達が足音を聞かれていると気付けなくても仕方のないことだ。
因みに俺達は走っているが、それほど大きな音を出してはいない。足音を聞かれないように、その辺りを調整して走っているからだ。そもそも大きな音を立てるような鎧等の装備は、聖騎士であるデール以外は着けない。
さらに今は、彼も鎧を着ていなかったりする。
「そろそろ屋敷が近いはずだ」
「兵士の数が多い。ここからは慎重に進まなければ、戦闘を回避できそうにないな」
「了解だ。慎重に進もう」
俺達はフィンの索敵能力を頼りに、屋敷へと近付いていく。慎重に進めば見つからないように進むことが可能なのは、すでに分かっている。
すでにリリア達が先行して屋敷を囲んでいるにも関わらず、戦闘の痕跡がないのが証拠である。彼女達は見つからないように進み、戦闘を全て避けたのだ。
「こっちだ」
屋敷の近くまで来ると、突然フィンが横へ逸れ始める。
「セイン様」
そこにはリリア達がいた。クロとシロ、それにビビアも揃っている。
「アタシは手筈通り、裏に回ってルゥ達と合流する」
「逃がさないようにな」
「分かっているさ」
合流してすぐに、フィンと別れる。裏口へ回ったイルとルゥの二人に合流するためだ。
「ここからが本番だ。クロ、シロ、リリア行くぞ」
「はい!」
「了解」
「お任せください」
三人を連れて屋敷へと真っ直ぐ向かう。俺達が屋敷内で暴れている間に正面から誰か逃げ出さないように、デール、ビビア、シルベーヌの三人はここで待機だ。
「まずはクロが行くね」
軽くそう言って、クロが屋敷の正門を守っている門番へと走っていく。完全に包囲しているので、逃げられる心配はない。ここからは、思う存分暴れてもらって構わないのだ。
目の前で四人の門番が即座に斬り捨てられる。あっという間に四人を倒した彼女は、止まることなく屋敷へと入って行った。
「俺の仇くらいは残しておいて欲しいんだが…」
「あはは…」
俺の呟きにシロが渇いた笑い声を漏らす。
「誰だお前ら!」
「ここが伯爵様の屋敷だと知って、襲って来たのか?」
「知ってても知らなくても、関係ないけどね」
「どちらにしても馬鹿だろう。ここには俺達がいるからな」
騒ぎを聞いて慌てて四人組が駆けて来た。この者達の恰好は、明らかに兵士のものではない。
「誰だ?」
「俺達はBランク冒険者様だ。と名乗ってみたものの、ここで死ぬから関係ないか」
「ギャハハ。全くだな」
かなり軽い調子だが、あまり油断している様子もない。俺達が少人数で襲撃しているから、それだけの実力はあると分かっているのだろう。
「ここは僕に任せてください。後からすぐに片づけて追うので」
「リリアを付けてもいいぞ」
「いえ。一人で十分です」
「そうか」
それだけ言って、俺達は屋敷の入り口へと向かう。
「何言ってんだ?」
「一人でだと?」
「そもそも先に行かせるかよ!」
彼等を無視して屋敷へ入ろうとする俺達を追いかけ、一人の男がこちらへ駆けてくる
「シールドバッシュ!」
「ぐあっ!?」
シロが大盾を構えたまま突進し、追いかけて来ていた男を吹き飛ばす。男は油断していたのか、その一撃で壁に激突して意識を失っていた。
「こいつ…強いぞ」
「慎重に囲め」
今のシロはしっかりと装備を整えている。あれくらいの相手ならば、囲まれても問題はない。
「これは…」
「派手に暴れてるな…」
屋敷の中を見て、ただただ呆れるしかなかった。
目の前に広がる光景はまさに地獄。クロが斬り捨てたのであろう死体の数々。そして一部に広がる血の海。
「クロは左に行ったようだな」
「そうですね。私達はこちらへ進みましょう」
左右に分かれる通路。一目見ただけでクロがどちらに行ったのかは、通路に広がる光景を見れば分かるというものだ。
一部屋ずつ俺とリリアで確認していき、中にいた人間を殺して回る。
今回、俺達は仮面を付けずに姿を晒していた。誰一人として逃がすつもりはないからだ。それは屋敷内を守る兵士だけに限らず、侍女や執事等もである。
恐らく、侍女や執事の中に俺や母の死を知っていて黙っている者がいる。リストア伯爵や伯爵夫人が、自分達の手を汚して証拠を隠滅するとは思えないからだ。
その後、口封じで殺された可能性もある。しかしその情報は、俺が知ることができるものではない。
「こっちにも侵入者がいるぞ!」
「ここを通すな!」
時々目の前に出てくる兵士を、片っ端から殴っていく。屋敷内では大剣は振り回し難いので、今回は素手である。それでも武闘家や拳聖のスキルを使えるので、何の問題もない。
それに兵士の数がかなり少ない。殆どの兵士は、派手に暴れていたクロを追いかけて行ったのだろう。
「きゃっ!?」
「待てリリア!」
リリアが斬ろうとした侍女の顔を見た俺は、咄嗟に彼女の剣を受け止める。
だがいくら俺のレベルでも、彼女の剣をスキルも使わずに素手で受け止めるのは無謀だったらしい。腕の半ばまで剣が減り込み、骨に直接剣の衝撃が伝わる。
「なっ!? 申し訳ございません!!」
「いいさ、俺が突然割り込んだんだ。大いなる癒し」
回復魔術を自身に掛け、すぐに治療する。大きく裂けた腕の肉が、再生してくっ付いていく。
痛過ぎる!! 特訓の際に何度か怪我は経験したが、やはりこの鈍い痛みには慣れないな。しかし、表情に出すことは我慢できたはず。リリアのことだ。今ので一言でも痛いと俺の口から漏れていたら、トラウマになっていたかもしれない。
俺を呆然と見ている侍女。身を挺して助けたことに驚いているのか、それとも何故助かったかを理解できていないのか、困惑した表情を浮かべている。
「久しぶりだな。サーニャ」
「え…まさか。その名前で呼ぶということは…セイン様?」
「ああ」
彼女は俺が生まれてからずっと世話をしてくれた侍女だ。当時まだ子供だった彼女は、幼い俺と何度も遊んでくれたのを覚えている。さらに正妻の子供が産まれて俺の立場が失われてからも、彼女は変わらずに俺を世話してくれていたのだ。
彼女はサーナヤルトという名前で、幼かった俺は呼び辛いからとサーニャと呼んでいた。
「まさか生きていらっしゃったとは…」
彼女の目から涙が零れ落ちる。だが今の俺には、再開の喜びに浸っている時間はない。このままでは、クロが一人で屋敷の中の者を片付けてしまう。せめて母の仇くらいは俺が討ちたいのだ。




