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第三十六話 王女


 イルの話でオーレン王国の上の者達は腐っていると感じていたが、まさか自分の子供まで捨てるとは思わなかった。

 いや、こちらでは彼女は魔物憑きと呼ばれる。そのような存在を、王城に置いておく訳にはいかないのだろう。殺されなかっただけでも、幾分かマシなのかもしれない。


「私は五歳になった時、魔物憑きとして数人の兵士と侍女と共に王城を追い出されました」


 五歳までは王城の一室に隠されて過ごしたそうだ。魔物憑きではあるが、流石に幼い他の王子や王女がいる中、リーラを捨てることができなかったのだろう。

 五歳まで過ごす間も決して部屋から出ることはできず、軟禁生活を送っていたらしい。

 追い出す際に従者を付けたのは、彼女に対する罪悪感からか、それとも親心からなのか…。


「その後、私は容姿を隠して転々と彷徨い続けました。その中で持っていたお金も、共にいた兵士や侍女も、減っていきました」


 彼女は自分の後ろにいる、計四人の男女を見る。


「すでに残っているのは四人です」


 その後も辛そうにしながら、彼女は独白を続ける。それを聞いている彼女の従者達は、そんなリーラを見ることができないのか下を向いていた。

 警戒していたシルベーヌ達も、すでにその様子は見られない。

 最初の頃は街や村に滞在していたらしいが、彼女が魔物憑きだと知ると襲ってきたという。同じ場所に居続けることができず、結果的に人里から離れた場所で暮らすことになったらしい。その際に従者は山賊や盗賊に襲われたり、魔物に襲われたりして死んでいったそうだ。

 現在は九歳と言っていたので、四年もの間そのような生活を送って来たのだろう。

 彼女の上には三人の姉と、同様に三人の兄がいるらしい。全員が可愛がられて育ち、国民を勝手に働く奴隷のように認識しているそうだ。

 王都に貴族街と平民街といった区別を付けるような親だ。その親に甘やかされて育てば、さぞゴミのような価値観の人間に育つことだろう。


「八日程前にこの集落は魔物に襲われてしまい、兵士五人が亡くなってしまいました。次に襲われたら、私達は生き残ることができないでしょう。残り短い命です。どうか、それまでの間静かに暮らさせていただけないでしょうか?」


 すでに生きることは諦めているようだ。現実を見て、このままでは生き残ることができないと判断しているのだろう。八日前…確か地竜が山裾に現れたのも、それくらいだったと聞いている。魔物が態々襲って来たのは、地竜の移動が原因の可能性があった。まあ、今となっては関係ないのだが…。

 これは彼女の精一杯のお願いといったところか。

 俺はシロとシルベーヌを見る。

 言葉にはしないが、二人は明らかに助けたそうな顔をしていた。二人だけではない。

 彼等程ではないが、他の者達も彼女の話を聞いて微妙な表情を浮かべていた。


「流石にそこまで聞いて、放っておく訳にはいかないな」

「そうですか…」


 俺の言葉を聞き、勘違いしたのかリーラは悲しそうな表情を浮かべる。


「アイテムボックス」


 俺はアイテムボックスから、日持ち良い食料をいくらか取り出す。

 俺の行動に驚いているリーラを無視して、さらに続ける。


「イルとフィン、デールとルゥを連れて森へ」

「了解っす」

「分かったぜ」


 二人がそれぞれペアを作って行動を開始する。

 これで近場の魔物はいなくなるだろう。


「あの…えっと…」


 困惑しているリーラをやはり無視する。


「大丈夫。セインに任せておけばいいから」


 クロが彼女にそう言い放つが、それでも説明はしない。


「はぁ…私が説明致します」


 仕方がないといった様子で、シルベーヌが無視され続けて若干泣きそうになっているリーラの下へと向かう。

 俺はそれを止めない。彼女ならば、上手く説明してくれるだろう。

 自分で説明しなかったのは、単純にリーラを助けようと思った理由を説明することが恥ずかしかったから。

 彼女の話を聞き、親に見捨てられた俺と重ねてしまったのだ。まあ俺の場合は殺された上に、その事実を隠蔽されたのだが…。

 彼女は軟禁され、第四王女として表に出ることはできなかった。俺も本妻であるビビアンに子供ができた後、屋敷の外に出ることは許されなかった。

 共通点があり過ぎる。これは仕方がないことなのだ。

 クロが説明しなかったのは、俺とリストア家の関係を隠して説明するのが面倒だったからだろう。それは容易に想像が付く。

 そして夕方には、近場の魔物を狩り尽したイル達が帰って来た。


「このような沢山の食事は、久しぶりに食べました」

「美味い!」

「こっちの肉も!」

「私達もよろしいのでしょうか?」

「ああ。生肉は長持ちしないから、残りで干し肉でも作りな」

「はい!」


 魔物の肉はそれほど美味しいものではなかった。それでもリーラ達に感謝される。

 彼女達は魔物を避けながら、獣を狩って肉を確保していたようだ。数はあまり確保できず、決して満足できる量ではなかったらしい。

 そこへ魔物の襲撃だ。兵士の数が減り、集落を警戒しなければならないため、狩りに出ることができなくなった。

 近場の野草や、偶然通りかかった獣を狩る程度の食事しかできていなかったようだ。

 それに何より、いつ魔物に襲われるか分からない状況下で、気が休まることがなかったのだろう。

 今回の狩りで魔物はいなくなったが、それも一時的なものだ。森の魔物を全滅させた訳ではないので、その内やってくるだろう。

 彼女は助けたいとは思うが、まだ俺の事情を正直に話せる仲間として、信用できるかどうかは分からない。

 できればセインの復讐が終わるまで、待っていてほしいところだ。

 それにリーラ達のレベルでは、一緒にいても足手纏いになってしまう。それで仲間を危険に晒す訳にはいかない。


「俺達は明日の朝、ここを発つ」

「はい。ありがとうございました」

「「「ありがとうございました!」」」


 俺の言葉に一瞬残って欲しそうな表情を浮かべたが、リーラはすぐに笑顔を浮かべた。明らかに作り笑顔だが、それを指摘するようなことはしない。

 五歳までしか王城にいなかったと言っていたが、追い出されて正解だろう。王城に残って他の兄弟達と同様に育てられていた場合、彼女がここまで良い子に育つことはなかったはずだ。

 やはり彼女は助けるべきだろう。復讐を終えてから仲間にすれば、スローライフに影響が出るかどうかというだけだ。

 仲間に入れた後でまだ信頼できるか分からないようであれば、上級職まで育てなければいい。そう自分に言い聞かせる。


「すぐには無理だが、俺達の仲間にならないか?」


 これは仲間に相談していない俺の勝手な言葉だが、その仲間達からは一言も反論はなかった。


「仲間に…ですか?」

「ああ。その時が来たら、ここへ迎えに来る。俺もまだ将来どうするかは決めてないけど、ここで生活するよりはいいだろう。それに生きていくための強さを身に着けられるように、しっかりと特訓もする」

「特訓ですか?」

「王女殿下にそのようなことは…」

「そうです! 危ないですよ!」


 焦ったように兵士の男達が言う。


「最低限、自分の身を守れる強さは身に着けておくべきだ。貴族達もそのために、従者を連れて魔物狩りに向かったりするんだからな」


 俺の言葉に口を閉ざす二人。俺に言い負かされた訳ではなく、反論しようとした男達をリーラが止めたのだ。


「セイン様が来てくださらなければ、私達は遠からず全滅していたでしょう。身を守る力が必要なことは、身を持って理解しているはずです」

「それは…」

「そうですが…」


 二人が言い負かされ、侍女二人が彼女の言葉を聞いて神妙に頷いている。


「皆様が魔物を倒して食料を与えてくださったとはいえ、次に魔物の襲撃を受けた時が私達の最後でしょう。それまでに迎えに来てくださることを願っています」

「ああ。すぐにまた戻ってくる」


 こうしてリーラ達を仲間にすることが決まった。

 そうと決まれば、彼女達が魔物に殺される前に急いで復讐を終えようか。

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