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第三十五話 魔物憑き


 集落へと近付くが、やはり人の姿は見えない。だが、流石に魔物がいる森の中で人が全て出払っているなんてことはないだろう。


「警戒を怠るなよ」


 俺の言葉に全員が無言で頷く。イル達が言っていた通り、集落の中には洗濯物等の人が生活している様子が見られる。

 人が全滅していないのならば、隠れているということで間違いないだろう。


「空か?」

「誰もいないですね…」


 辺りを警戒しつつ、慎重にシロと家屋を見て回る。奇襲を受けても大丈夫なように、シロが盾を構えて先頭を歩いていた。

 他の者は家の中を見て回っている間に何処かで動きがないか、監視してもらっている。


「一箇所に籠っているのでしょうか?」

「それならば、あの洗濯物を干してある家が怪しいな」


 八軒中すでに五軒は調べ終わっており、どの家にも人はいなかった。それこそ隅々まで調べているので間違いないだろう。

 たとえ隠し通路等があったとしても、俺はレンジャーのスキルも持っているので見つけることができるのだ。


「人の臭いがするっす。臭いが残っているということは、最近この辺りを通った者がいるっすよ」


 一つの家に近付いた時、イルが鼻を鳴らしてそう言った。フィンの方を見ると、彼女も同様に自身の鼻を頼りに臭いを辿っている。


「向かった先はあの家だと思うっす」

「あたしもそう思う」


 二人が指さしたのは、洗濯物が干された家の隣の家だった。集落をよく見てみると、洗濯物を干してある家は一つだけだ。

 一軒だけ目立たせ、そこへ視線を向けさせるための罠だったのだろうか?

 しかし他の家から人が集まっているということは、その家を後回しにして他の場所の安全を確認することができるということだ。勿論その際に、人がいるであろう家の警戒はする必要がある。

 それでもどこから襲われるか分からないという状況よりかは数倍マシだろう。


「やはりここか…」


 残りの三件の内、やはり一軒に臭いは集まっているようだった。他の二軒は空だったが、イルとフィンに確認してもらった結果、俺達が来るまでその家で誰かが生活していたことが分かった。

 これであの小さな一軒に、三軒分の人が集まっていることになる。つまり、家の中にはあまり人数がいないということだ。

 洗濯物といい、残りの家屋は実際の人数よりも何人か多く見せるためのフェイクだったのだろう。


「最後はここだよな」

「ここには確実に人がいるぞ」

「どうしますか? 逃げられないように、囲んでしまいますか?」


 シロが絶対に逃がさないといった様子で尋ねてくる。


「いや、必要ない。逃げずに隠れているということは、俺達から逃げ切る手段がないのだろう。今更逃げようとはしないと思うぞ」


 すでに集まって隠れているということは、俺達が集落へ入る前にはこちらの存在に気付いていたはずだ。馬に乗って来たのも確認しているのだろう。


「行くぞ」


 聖騎士であるシロを筆頭に、俺達は人がいるであろう家へと近付いていく。


「止まれ!」

「お前達は何者だ!」


 家の中から、武装した二人の男が現れる。鎧や兜は革等で作った物だが、男が持つ剣や盾は立派な物だ。ただの盗賊や山賊には見えない。


「セインお兄ちゃん。家の中から物音が聞こえます。中にまだ数人隠れているはずです」


 家に近付いたからか、それとも中の者が物音を立ててしまったのか。どちらにしろ、ルゥがその音を聞き逃すことはなかった。


「俺達は旅の者だ。こんなところに村なんてなかったはずだ。お前達こそ何者だ?」


 俺達の詳細は出さずに、まずは相手の情報を聞き出す。


「俺達はここにただ住んでいるだけだ」

「そうだ! 小さな集落だから、地図にも載っていないんだ」


 男二人はそう答えるが、ただ住んでいるだけには見えない。


「それにしては立派な装備をしているな」

「この辺りには魔物がいるからな。身を守るためだ」

「そうか、魔物がいるのか。ならば、何故危険だと知っていてここに住んでいる? 何か人目につかないように暮らさないといけない事情があるのか?」

「それは…」


 先ほどまで誤魔化すように言葉を並べていた男は、遂に言葉を詰まらせる。もう一人の男もどう返答しようかと考えているようだ。

 普通の人間ならば、まずこのような危険な場所に集落は築かない。さらに装備も見せてしまっているので、変に誤魔化せば山賊や盗賊と思われて退治されてもおかしくない。

 黙っていることから考えて、恐らく人に言えない事情を抱えているのだろう。それもここまで危険な場所で生活しなければならない程のことを。


「武器を下ろしなさい」

「なっ!?」

「しかし…」


 そう言って家の中から二人の女性を連れて現れたのは、一人の小さな女の子だった。と言ってもフードを目深に被っており、声からそう判断しただけだが…。


「この人数差、それに森の中へ入ってきたということは、あの方達は腕に自信があるということでしょう。二人になった貴方達に、どうにかできるとは思えません」

「「かしこまりました」」


 彼女の言葉に従い、男二人は武器を下ろす。それだけで女の子が高貴な存在なのだろうと予測できる。周囲の者達は従者なのだろう。やはり、かなり面倒な事情を抱え込んでいるようだ。


「旅の御方達、この者達が失礼なことを。申し訳ございませんでした」


 そう言って、一度頭を下げる。そしてその行動に従者達が何かを言う前に、そのまま話を続ける。


「事情を聞きたいのであれば、お話致します。ですがこの後話すこと、そしてこの集落のことは心の中に留めておいてほしいのです。これは貴方達のためでもあります」

「俺達に関係のない事情だったなら、態々周囲に吹聴するつもりはない」

「ありがとうございます。では、まず初めに」


 そう言って女の子はフードを取り、その容姿を露わにする。


「嘘!?」

「お下がりください!」


 ビビアが驚きの声を漏らし、シルベーヌが下げている剣に手を掛ける。

 だが、それを見ても女の子は身動き一つしない。


「シルベーヌ、抜くなよ」


 腕を掴んで彼女を止める。抜くなよという言葉は、他の者達にも放った言葉だ。

 全員彼女の容姿を見て、警戒心を剥き出しにしていた。


「貴方は驚くことも、敵意を向けてくることもしないのですね」


 感心したように、俺に向けて女の子が言う。


「ん? どうしたの?」


 どうやら俺だけではなく、クロも驚いている様子はない。

 皆の様子が突然変わった原因は、すでに分かっている。それはフードの下から出て来た、彼女の容姿だ。

 地球では白人と呼ばれる人種と同じくらい肌が白い、この世界の人達よりもさらに白い肌。肩で切り揃えられてある白髪、極めつけは白と言うには少し濁った灰色の瞳。

 所謂アルビノというやつだが、この世界では魔物であるヴァンパイアに似ていることから、魔物憑きと呼ばれ忌み嫌われている。

 クロとシロの二人はスラム出身で、さらに親がいない。そのため、教えてくれるような存在がいなかったのだろう。旅の中で俺が色々と常識を教えてきたが、魔物憑きに関しては教えていなかった。日本での生活で、アルビノの存在を知っていたからだ。

 シロが知っていたのは、彼が色々な人間と関わりを持っているからだろう。恐らく話の中で、誰かに教わったのだ。

 魔物であるヴァンパイアは他に、瞳が赤い、牙があるといった特徴がある。そのため、一目で彼女が魔物ではないことは理解できる。


「私…」


 そこで彼女は一度言葉を切り、表情を引き締めた。


「我はオーレン王国の第四王女、リーラ・オーレンである」


 突如口調を変え、王女然とした様でそう言い放つ。そしてそこまで言って、今度は悲しそうな表情を浮かべる。


「私はすでに、父上に捨てられた身なのですが…」


 最後に、彼女は自嘲気味にそう告げる。その声に先ほどのような力強さはなかった。

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