第三十四話 謎の集落
宿を引き払い、町を出る。決めた道を馬で走り抜け、徐々にスラーベンへと近付いていく。本来ならば馬を走らせれば二日もあれば辿り着けるのだが、今回は遠回りをしているためそうもいかない。
さらに人里から離れた場所を通ったりするので、道も悪く魔物も現れやすい。
獣人三人娘であるイル、フィン、ルゥが先行して索敵をし、魔物を見つける度に倒してくれている。そのため、あまり速度を落とさずに進むことができた。
普段は暇そうにしているクロも、俺の前に乗せているためか大人しい。何故か前でなく俺の方を向いてこちらへ抱き着いているが、騒がれるよりかはマシなので放置している。
四日で終わる旅の予定だが、林道や山岳地帯も通るため、何が起きるか分からない。対処できないことは流石にないとは思うが、予定は狂う可能性がある。
今回はそれを見越して、フォグで色々な食料を確保していた。美味しい魔物が出るかは分からないので、現地調達というのは賭けのようなものだと前回思い知らされたからだ。
「今日はこの辺りで野営にしましょう」
「あれ? イルとフィンは?」
「セインお兄ちゃん達を待っている間に、少し先を見てくると言ってました」
「分かった。アイテムボックス」
ルゥが少し開けた野営に向いていそうな場所に、一人で待っていた。俺はアイテムボックスからテント等の野営道具を出していき、皆に渡す。それぞれが受け取った物を手に、テキパキと準備を進めていく。
「シルベーヌはテントを組み立てたことがあるの?」
「いえ、今回が初めてです」
「それにしては上手ね」
テントの組み立てに苦戦しているビビアの横で、シルベーヌはササッとテントを組み立てていく。農家の娘であるビビアは、テントの組み立てなど経験がないのだろう。
「経験はありませんが、知識はありますので」
シルベーヌは貴族なので、遠出する際も自家の兵士や使用人がいる。そして野営準備も彼等がするため、自分ではしたことがないようだ。それでも、何度も見ているので知っているのだろう。
「私は冒険者志望でしたから…」
すっかり忘れていた。見て覚えたのかと思っていたのだが、単純に冒険者では必要な知識だと勉強しただけのようだ。
「冒険者は色々なことが自由にできていいよね。私なんて農家の一人娘だから、農業以外の選択肢はなかったよ」
「冒険者が皆自由な訳ではありませんよ」
「そうなの?」
「はい。冒険者で自由な暮らしができるのは、ある程度才能のある者達だけです。お金がなければ、生活だけで精一杯になってしまいますからね。それに依頼は数に限りがあるので、常に仕事がある訳ではありません」
「そうなんだ。そう言われると大変そうだね」
「そうだったのか…」
冒険者のことをかなり勉強していたのだろう。シルベーヌは冒険者に関して、色々な知識を、それこそ冒険者しか知らないような知識まで披露していた。
ビビアがそれを聞いて驚いた表情を浮かべている横で、デールが少し悲し気な表情を浮かべている。
彼は冒険者どうこうではなく、ビビアの言葉を聞いて表情を変えていた。恐らくだが、農家を継ぐことが嫌だというカミングアウトを突然されたのが原因だろう。
この世界では家の仕事を子供が継ぐのが当たり前だ。日本のようになりたい職業の勉強ができる学校もないので、平民は家の仕事を継ぐか冒険者や兵士になるしかないのだ。
兵士になる道も狭き門である。冒険者とは異なり、兵士になることができれば給与が出る。生活は安定するので、腕に自信のある者は冒険者になる前に一度兵士を目指すのだ。
「先を見て来たっすよ」
「準備が速いな…」
イルとフィンも丁度いいタイミングで帰って来た。
「早速食事の準備をしていきますか」
「そうですね」
アイテムボックスから道具を取り出して以降、俺がやることは何もない。これほど楽をしていていいのだろうかと、思ってしまう自分がいる。
やはり異世界に来てもまだ、自分が率先して仕事をするという意識が抜けていないのだろう。
そんなことを考えながら、準備を進めてくれる女性達を眺めていた。
「セインお兄ちゃん。この先に村があります」
すでに出発してから二日が過ぎ、残り二日の行程を残すのみとなっていた。順調に進んでいる中、そう言って先行していたルゥが戻って来る。
「村?」
村なんてこの辺りにはないはずだ。道順を決める際に、フォグで地図を確認しながら決めたので間違いない。それにここは森の中だ。魔物も普通にいるし、好んで住むような環境ではない。
ここはすでにリストア領となっている。違う領地なので地図に載っていなかったのだろうか?
「地図はリストア領から流れてくる物も確認していました。森の中にあることから考えて、領主に申請していないただの集落のようなものでしょう」
俺が尋ねると、シルベーヌが答えてくれる。流石は伯爵家の令嬢だ。その辺りの教育も、しっかりと受けているのだろう。
本妻に子供ができるとすぐに隅に追いやられた俺とは違う。俺はそういった貴族の教育を受けた記憶がないからな。
「イルとフィンは村に?」
「はい。中へは踏み込んでいませんが、外から様子を探ってみるようです」
「そうか。こんな森の中に住んでいる者達が、俺のことを知らせに態々スラーベンにまで行くことはないだろう。何か情報が聞けるかもしれないし、一度寄ってみるか」
「では、私は先に行って二人にそのことを伝えてきます」
「ああ。頼む」
ルゥがそう言って馬を走らせると、隣にシルベーヌがやって来る。
「何か事情があって、危険を冒してまで森の中に潜んでいるのかもしれません。警戒はしておいた方がよろしいかと」
「分かっている。それに…」
そう言って後ろを見る。
俺に釣られて彼女も視線を向けると、そこには気合の入った表情を浮かべるシロがいた。
「山賊や盗賊の隠れ家の可能性がある限り、シロが勝手に突撃する可能性もあるからな。それなら、全員で向かった方がいいだろう」
「確かに、シロさんはそのような御方でしたね。私もそれに助けられたのでした」
シルベーヌは思い出したのか、仕方ないという表情でシロを見る。
これに関してシロは確かにどうしようもないが、貴族の闇関係の最近の彼女も同じようなものだ。そしてその際にシロが彼女に向ける視線も、同じような視線だった。
二人は案外似た者同士なのだろう。
俺以外の者達も同じようなことを思っていたようで、シルベーヌへと視線を向けていた。
「集落にはすぐには入らない。イル達が外から様子を見終わってそれを確認した後、全員で慎重に入ろう。この森の魔物はそれほど強くない。もしかすると、魔物がいる中でも生活できる力を持った者達が住んでいるのかもしれないからな」
「そうですね」
シロがそれを聞き、真剣な表情で頷く。俺が一番心配しているのは彼なのだが…。
そしてイル達と合流して話を聞く。
「外から見る限り、家屋は全部で八軒。集落を囲む柵はかなり頑丈に作ってあり、これは魔物を警戒しているのだと考える。そしてあたし達が見ている間、住人は一人も見ていない」
フィンが簡単に説明をしていく。
イルとルゥはまだ監視を続けている。
「すでに誰も住んでいないのか?」
「いや、それはない。生活しているような痕跡はあったからな」
「食料を得るために外に出ているのか。それともこの時間はあまり外に出ないのか。どちらにしろ家屋の大きさから考えて、それほど人数がいるとは思えない。警戒しながら集落に入れば問題ないだろう」
一番怖いのは住んでいる者達に囲まれ、一斉に奇襲されることだ。だが、それも獣人三人が周囲を警戒していれば察知することは難しくないだろう。
もし俺達に気付いてそれぞれの家屋に籠っているのだとしても、無暗に家屋内へ侵入しなければ問題ない。
念のために聖騎士であるシロとデールを前方と後方に、獣人三人を左右に分けて警戒してもらい、俺達は集落へと入って行った。




