第三十二話 友好を深める? ためのサバイバル ~デール視点~
一日目
森に入って最初にすることは水場の確保だ。食料は最悪なくても三日生き延びれるだろうが、水がなくては三日生き延びることは難しい。
だが、今回はその必要がない。娘のビビアがセインのおかげで魔術師になれたからだ。魔術師は色々な属性の魔術が使えると聞く。娘もしっかりと彼に育成されたようで上級職である大魔術師になっており、魔術師のスキルは全て得ているらしい。
水の確保も火を起こすのも、娘がいればすべて解決することができる。こうやって実際に森の中で野宿をしてみれば、かなり魔術師が便利な存在だということが分かる。軍や冒険者にとって、これほど有益な存在はいないだろう。
だが、冒険者に魔術師は殆どいない。絶対に重宝されるだろうが、それ以上に国が戦力として魔術師を欲しがっているのだ。
娘から不死のダンジョンでの話を聞いている。それを聞けば戦力としてかなり有用なので、国が欲しがるのは分かるのだが…。
大魔術師となった娘は、それこそ国王に言えば宮廷魔術師にしてもらえるだろう。そのまま何処かの大貴族の嫁や養子になり、貴族様になれる可能性だってある。
それでも俺は、娘を城へ連れて行くつもりはない。俺達を不当に家から追い出したのはこの国の貴族であり、そんな俺達を助けてくれたのはセインだ。それにリストア伯爵は姉の仇とも言える。セインの手伝いをしようと考えるのは、自然なことだろう。
勿論、娘が自ら国に召し抱えられたいと言うのならば、セインに逆らってでもその言葉を尊重するつもりではあるが…。
しかし娘の様子を見ても、セインの下を離れる気はないように思う。彼等も仲間を強くすることを考え、裏切らないような者達を慎重に選んでいる節がある。
魔術師がいて水の心配がないのなら、次は寝床だ。寝床の確保が必要なので、一日目はそれに時間を費やした。
元々森に入ったのが昼だったので、それだけで辺りが暗くなってきてしまう。
流石に俺達が高レベルになったとはいえ、暗闇の中森をさまよい歩くのは危険だ。町にも浅い場所の情報しかなく、森の深くではどのような魔物が出てくるかも分からない。
「腹減ったな」
「木の実等では、あまりお腹は膨れませんね」
魔物を狩れていないので、肉を食べることができなかった。
獣人のフィンとルゥが魔物を狩って来ると言ってくれたのだが、それは全員で断った。いくら人間よりも暗闇や森の中を歩くのが得意と言っても、それはこの森の中に住んでいる魔物だって同じだ。流石に二人だけを向かわせる訳にはいかない。
それでも近場の木の実等を採ってきてくれたのだが、やはりそれだけでは満足な食事にはならないようだ。特にこのメンバーは食べ盛りが揃っているからな。
初めは全員、少しギクシャクしていた。
接点がないようなメンバーばかりだから仕方がない。どのように接していいのか、分からなかったのだ。
当たり前だが人間は、奴隷以外の獣人と接することは殆どない。それにフィンとルゥの二人も、こちらを警戒している節があった。
次にシルベーヌ。彼女はフランソワ男爵家の娘で、要するに貴族様だ。姉がリストア伯爵の妾になったが、それは弟である俺には何の関係もないことだった。つまり俺自身は貴族様とは殆ど関わったことがない、ただの平民なのだ。
なので、彼女と話す際にはかなり緊張した。セインと仲が良かった娘は俺ほどではなかったが、それでも同じように硬い表情を浮かべていた。勿論、獣人二人はさらに話し難そうにしていたのだ。
セインの言っていたことがよく分かる。彼等がいた時はここまで酷くなるとは思わなかった。もう少しマシな会話ができていたからだ。だがそれは、彼等が緩衝材となっていたからに過ぎないのだと、今回のことで分かった。
「セイン様が…」
「いえ、シロさんだって…」
「イルも…」
「それより…」
女子四人がキャッキャウフフと楽しそうに話している。話している人物に関してはバラバラだが、それぞれの言葉に信頼感が籠っていた。
彼女達四人は夕食の準備や寝床の準備をしている際に仲良くなっていた。
このメンバーは非常にパーティーとしての相性が良い。
剣鬼1、戦闘王1、聖騎士1、レンジャー1、大魔術師1と前衛から後衛、援護職まで揃っているからだ。それは俺達を森へと送ることを決める際に、セイン達も言っていた。
しかし、彼等は一つだけ見落としていたことがある。
それは…。
「非常に気まずい」
俺はボソッと、そう一人呟く。
最初の頃はまだよかった。皆ギクシャクしていたので、俺は娘と会話していたのだ。だが仲良くなった今は、女子四人で会話を楽しんでいる。
流石に若い女子達の会話に混ざれるはずもなく、俺は一人寂しく隅で会話を聞いているだけの存在となっていた。
五人中四人が若い女。こうなることは初めから予見しておいて欲しかった。
こうして四人の中が深まり、一日目が終わった。
二日目
二日目は狩りを行うメンバーと、周囲の探索を行うメンバーに分かれて行動することになった。
探索のメンバーは野草や木の実等の採取も行うことになっている。時間を節約するために、戦闘はできるだけ回避するそうだ。
俺は狩りのメンバーに加わっていた。聖騎士は防御系のスキルが多いので、俺達が倒せなそうな魔物が出た場合は、俺が時間を稼ぐことになっている。
後は剣鬼でありながら獣人としての能力で索敵が可能なルゥ、そして大魔術師であるビビアがいる。
獣人二人は共に索敵が得意なので、別れて行動してもらっていた。初めは狩りは危険だからとルゥの代わりにフィンがこちらへ来ようとしていたのだが、流石に後衛職二人となるためルゥに来てもらっている。
向こうは二人となるが、レンジャーのフィンと盾の扱いも得意な戦闘王であるシルベーヌがいれば大丈夫だろう。そもそも探索メンバーは戦闘メインではないからな。
フィンは他の者達を信頼している訳ではないようだが、同じ獣人であるイルにだけ心を許している気がする。しかしルゥはイルだけでなく、セインにも心を許しているようだ。
娘が話すのはセインのことばかりなのだが、それに返答をするルゥの言葉からそれが見て取れる。
人間は亜人との過去の諍いを、今でも忘れてはいない。当時のことを知らない俺達にもそれは伝わっており、子供の頃から亜人は危険だと教わってきた。
亜人達の様子を見れば、向こうも人間に対して同じように思っていることが分かる。
そのため、今でも人間と亜人は仲が悪い。互いにそれが普通…当たり前だと思っているのだ。
だが、セインは違う。彼は獣人であるイルを仲間として扱い、さらに彼女が連れて来たフィンやルゥにも同様に接している。
だからフィンもルゥも俺達に協力的なのだろうし、まだ子供であるルゥに至っては彼に心を許しているのだろう。
彼の強さは桁外れであり、彼に常識は通用しない。その証拠が俺達だ。たった数か月で、国で数人しかいない上級職にまでなることができた。
これは今まででは考えられないことであり、明らかに普通ではない。これほど簡単に上級職へとなれるのならば、今頃人間という種族は世界を統べていただろう。
彼ならば、この世界の常識となっている過去の悲しい遺産を塗り替えられるかもしれない。偶にそのような夢物語を考えてしまうことがある。
それだけ彼は異質な存在でもあるということだ。
そして俺は、そんな彼がどのような人生を送るのかを見たいと考えている。できれば、彼の手助けになりたいとも。
そのようなことを考えながら、俺達はルゥが見つけた食べられそうな魔物を狩っていった。




