第二十七話 集結
三か月の期限が近付き、俺達はフォグという小さな町に集まり始めていた。この町はリストア領にかなり近いが、町の規模が小さい故にリストア領からは村人くらいしか来ない。そのためリストアの人に会っても、俺がセイン・リストアだと気付く者はいない。
この後リストア領へ入るのに、一番丁度いい町だったのだ。それにリストア伯爵邸があるリストア最大の都市、スラーベンからもそれほど離れていない。全員乗れるように馬を揃えた今となっては、一日野営をする程度で辿り着くことができる。
馬を買い揃えるための金は、皆のレベル上げで得た魔物の素材や俺の作成したポーション等でどうにか工面した。重い鎧を着ているのはシロとデールだけなので、それほど立派な馬を揃える必要がなかったのが幸いした。
俺達は全部で十人の大所帯となっている。この人数ならば馬車で進む方が安くつく。だが、時間を考えればこちらの方が良い。それに小柄な者が多いので、一頭に二人乗っていたりする。別に、馬を十頭揃えた訳ではない。
今は全員が揃うのを待っているところだ。まだ、イル達獣人三人組がこの町に辿り着いていなかった。
「まさか、これだけの人数になるとは…」
「そうですね。僕もこれほど集められるとは思いませんでしたよ」
話し合いの際には、シロしか仲間の当てがなかったのだ。あと二人仲間にできたら御の字と考えていたのに、まさか俺達とイルがそれぞれ二人ずつ仲間を連れて来るとは、シロが一番思い浮かばなかっただろう。
それに俺とイルはすでに一度会っているが、シロとはこの町であの日以来の再会となったのだ。
「セインさん。隠れた闇を滅ぼすため、共に頑張りましょうね」
「…そうだな」
一番対応に困るのが、このシルベーヌ・フランソワというシロが連れて来た伯爵家の次女だ。別に仲が悪いという訳ではない。
初めて会った時にはシロがあまり俺のことを話していなかったようで、探るような視線を向けられていた。会話の内容もかなり遠回りしながら俺の探りを入れている感じだったのだ。
面倒になった俺は、彼女に全てを話した。すでにデールやビビアにも話している。仲間にするのであれば、話してしまっても問題ない。信頼できる者として、仲間に加えているのだ。
彼女は自身の境遇もあってか、俺の過去を聞いて俺以上にやる気に満ちた瞳になっている。俺の復讐を手伝っているのか、彼女自身の貴族の闇に対する復讐なのかが分からない。それが一番対応に困る点なのだ。
ビビアもかなりやる気を出してくれてはいるが、彼女は俺の境遇を知って同情してくれている。デールにはリストア領から無理矢理追い出されたという、個人的な恨みがある。なので、彼女達はこのことを話していても分かり易い。
「これが成功した後、本当に伯爵家や子爵家に復讐しなくていいのか?」
「はい。別に構いません。元々私は政略結婚させられる身でした。冒険者になりたいと訓練を積んでも、精々子供の遊びのようなものです。それが今では、これほどの強さを手にできたのです。今更復讐したい等と思っていません」
そう。これなのだ。彼女の家や子爵家にも復讐するか聞いたところ、彼女はそれを拒んだのだ。俺の話を聞いてやる気を出したということは、少なからず恨みは持っているはず。それなのに、復讐するつもりは一切ないという。
シロから、彼女の育成についての話は聞いている。勿論、散々裏組織の者達に邪魔されたことも、それを雇ったのが例の子爵であることも。
彼は思い出しただけで、疲れた表情を浮かべていた。山賊や盗賊といった者達に嬉々として突撃していく彼がそこまで嫌そうな表情を浮かべるのは珍しい。相当な人数を相手にしたのだろう。
これがクロなら確実にキレている。シルベーヌを守るということを忘れ、一人で突撃して皆殺しにするに違いない。
あまり大人数で固まっているのも不自然なので、俺達はグループに分かれて行動している。と言ってもメンバーは変えているので、常に同じ者と行動している訳ではない。
宿は一緒だが、部屋は俺達とシロ達が別々に辿り着いたので別れている。宿の主人も、同じ宿の客同士で仲良くなったとしか認識していないようだった。
「セイン!」
クロが背後から抱き着いてくる。俺とクロは別のグループだったのだが、どうやらこっちに来たようだ。
「全員揃ったっすね。久しぶりっす」
声の方へ振り返ると、イル達獣人やリリアとデールにビビアもいた。イルと出会ったので、俺達を探していたようだ。
新たな仲間はそれぞれ初対面なので、自己紹介をしてもらう。特に獣人族は、俺達五人はイルがいたので気にしないのだが、残りのメンバーは少しぎこちなかった。先にフルールで会っているビビアを除いて。
一応伯爵邸の襲撃では、獣人は獣人だけでグループを組んでもらおうと考えている。獣人ということを晒す訳にはいかないので、その方が何かと動き易いからだ。今もフードとコートやマントで特徴を隠しているので、見た目は怪しさの塊である。
流石にこの格好で、伯爵邸の側で待機する訳にはいかない。彼女達には、裏口に身を隠して待機してもらおうと考えている。
イルも屋内では弓が使い難いため、短剣で戦う羽目になる。それならば、屋外で待機している方がいいだろう。
「数日はこの町に滞在する。その間に、少しでも仲良くなっていてくれ」
「そうっすよ。フィルもルゥも警戒し過ぎっす」
初対面なので仕方がないとは思うが、何かがあった際に連携が取れないと困る。俺達五人は問題ないが、彼女達は急いでレベルを上げただけだ。まだレベル40になった者は一人もいない。
多人数で戦うとなれば、相手とレベル差があってもダメージを負うことはある。下手をすると自分では窮地を凌ぐことができず、仲間の手を借りる必要があるかもしれない。
「僕もセインとイルの意見に賛成です。特にシルベーヌさんは貴族なので、皆よりも亜人と仲良くし辛いと思いますが」
「仲間なんだから、背中を預けられるくらいには信頼できるようにするべき」
シロとクロも続ける。クロが言ったことは、俺がリリアやイルを買った時に彼女へ言った言葉なのだが。覚えていてくれて嬉しいと喜ぶべきなのか、堂々と俺の言葉を真似たことに呆れるべきなのか…。
「近くの森に、この五人に行ってもらいましょう。深くまで行けばこの町の人間は入って来ないでしょうし、森の深くでも五人でいれば危険な魔物はいないですし」
「森ですか…?」
デールが不安げな声を上げる。彼は少し臆病すぎる気がする。レベルの低いただの農家として数十年生きて来たから、未だに自身の強さが分かっていないのだろうか?
確かに森の奥は強力な魔物がいて人間は立ち入らない。だが、彼等は全員レベル30超えだ。それに職業も剣鬼1、戦闘王1、聖騎士1、レンジャー1、大魔術師1とバランスが良い。問題ないはずである。
「フィルとルゥがいれば基本的に迷うこともないはずっす。リリア、名案っすね」
「俺も賛成だ」
俺とイルの言葉を受けてクロも賛成。シロは少し考えていたが、結局賛成した。
「期限は三日。それまでは森の中で魔物を狩って過ごすように。水は川があるようなので、問題ないでしょう。食料も獣や魔物、木の実や野草を採って過ごすこと」
提案者のリリアが最後に纏める。
「三日間も森の中…」
「ルゥはあたしが守るからな」
「私はもう守られなくても大丈夫だよ!」
「頑張りましょうね」
「そうだね!!」
呆然としている者、気合の入っている者等バラバラだが、こうして三日間のサバイバル生活が決定したのだった。




