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第二十六話 逃走中 ~シロ視点~

 

 頭を低くして茂みに隠れ、男達をやり過ごす。目の前を十人の男が通り過ぎていく。皆一様にフードを被り、腰にはそれぞれ武器を携えている。


「無事にやり過ごせたようですね」

「すみません。足手纏いで…」


 僕の言葉に、隣の女性が申し訳なさそうに俯いて言葉を漏らす。彼女はフランソワ伯爵家のシルベーヌ・フランソワだ。特徴的な緑色のフワフワした髪をフードで隠している。いない訳ではないが、珍しい色だ。普通にしていても目立ってしまう。

 セインに頼まれて彼女を迎えに来たのだが、彼女は元婚約相手の子爵に狙われているらしい。それもただの相手ではない。子爵家の兵士の格好をした者もいるが、それ以外の格好の者は全員裏組織の者達だ。僕が以前妨害した組織の者達も混じっているので間違いない。

 執拗に追われているのは、僕が原因でもあるのだが…。以前邪魔されたことを根に持っていたようで、血眼になって探しているようなのだ。

 今回関わっている組織の名は黒い狐(ブラックフォックス)というもので、そこの下部組織の者達が沢山混じっているの。おかげでかなり数が多い。

 黒い狐は世界最大の犯罪組織、影の追跡者(シャドウストーカー)の下部組織である。黒い狐はそこそこ大きいと言っても、所詮はオーレン王国内部での話だ。しかし影の追跡者は、国などは関係なく世界中に展開する程大きな組織である。

 少数精鋭の殺し屋集団である九大蛇ナインオロチと影の追跡者が、世界の二闇と言われているほどだ。この二つの組織が国内で活動していようと、国は滅多なことでは関与しない。下部組織の者達は時々捕らえられているようだが、影の追跡者の情報を知る者はいないらしい。

 また、影の追跡者の情報を知る者達は口封じで殺されているか自害しているようだ。国の中枢にも影の追跡者のメンバーがいるのではないかと疑われているという。


「そろそろ動きましょうか」

「はい」


 彼女が手を差し出してくるので、それを握って駆け出す。僕一人ならば何とかできる自信がある。相手は数が多いだけで、それほど強い訳ではないからだ。だが、シルベーヌはまだ育成すら始めていない。実家でのパワーレベリングで少しはレベルが上がっているようだが、それでもレベルは8。

 スキルはステータスの上昇するもの以外なく、戦闘ではスキルを使えない。それも剣の稽古を積んでいたというだけで、パワーレベリングのおかげで実戦経験はなし。

 僕が聖騎士でなければ、彼女は今頃死んでいただろう。聖騎士も十分に戦える職業だが、どちらかと言えば守りを重視したスキル構成をしている。決して攻撃力がない訳ではないが、剣鬼や戦闘王のような爆発的な突破力はない。

 守ることに向いている反面、集団に囲まれてしまえば突破することが難しいのである。特に今回は倒してもキリがない程の人数がいる。そのため、こうして隠れながらの移動となってしまった。


「次の街に辿り着けば、流石に追っ手も手出しが難しくなりますから。それまでの辛抱ですよ」

「はい! その後、訓練をしてくださるんですよね?」


 黒い狐はこの領地ではかなりの力を誇っているようだが、次の領地ではあまり力を持っていないらしい。そこを選んで逃げ込むことで、追っ手を撒こうと考えている。流石に、追っ手から逃げながらスキル獲得に必要な魔物を探すことは難しい。

 それにしても政略結婚が嫌で冒険者を目指してしまうような人物だからか、かなり胆力があるようだ。追われている身でありながら、訓練という一言に楽しみな感情が籠っている。普通貴族令嬢が追っ手に追われている状況ならば、もっと怖がったり焦ったりするものだと思う。


「勿論ですよ。十分に戦えるだけの強さは、最低でも身に着けてもらいます」

「ありがとうございます!」


 本当に嬉しそうだ。彼女にはすでに、セインの復讐の話は説明してある。勿論セインの名前や詳細は伏せているので、理由があって貴族家を襲うということだけだが…。

 彼女は一部を意図的に端折った説明を受け、同じ貴族の闇に触れた者として仲間になることを約束してくれた。セインのことは、本人と会ってから話すつもりだ。

 彼はこの世界において、かなり異質な存在だと思う。

 僕達を助けた上、簡単に上級職まで上げてくれた。二十年、三十年と訓練を積んでも、上級職になれない者の方が圧倒的に多いのだ。帝国最強と言われる隊長も、天才と言われていたが上級職になるまで十年以上掛かったらしい。

 それもただレベルを上げるだけでなく、セインは戦い方すら魔物を使って学ばせてくれたのだ。危険な魔物を使って剣の訓練なんて初めて聞いた。

 さらに色々な職業の成長に必要な魔物や数、出現場所も知っている。上級職になれた者は数が少ないので、それらの情報はあまり出回っていないのだ。下級職でも全ての情報を集めるだけでかなりの手間が掛かる。

 その上自身はレベル50になった僕やクロよりも強い。それに豪商といった非戦闘職のスキルまで使いこなすことができる。特に非戦闘職はレベル上げが難しいため、その上級職は数十年や数百年に一人といった存在である。その者達は勇者のように伝説とされていた。

 それなのに彼は、母殺してと自身殺そうとした伯爵家を襲って潰そうとしている。伯爵家を潰すだけならば、彼の力があれば王家に掛け合うだけで潰すことができるだろう。

 たった数か月で上級職を育成でき、さらに自分はそれより強く魔術等も使える。そのような存在を国が放っておくはずもなく、彼を手に入れるためなら喜んで伯爵家の一つくらいは潰すだろう。それも伯爵家を擁護することによって、彼を敵に回すとなれば尚更だ。

 そもそも貴族家を…それも上級貴族を相手に真正面から殴り込みをする等、普通は誰も考えない。外出中の貴族に奇襲を仕掛けたり、屋敷内で食事に毒を盛ったり等はあるだろうが、まともにやりあうのは戦争中くらいだろう。

 態々姉や僕を助け、さらに育てる必要等はない。食事やレベル上げは最初、全て彼が面倒を見てくれたのだ。奴隷として買ったリリアやイルの育成を初めから見ていたので、かなりの手間なのは分かる。


「シロさんの言っている方は、貴族の者なのですよね? どのような方なのでしょうか?」

「…説明するのが難しいですね。やはり、直接会って話してみるのが一番かと」

「そうですね。ですが、やはり気になります」


 すでに何度も組織の者達を排除しているので、彼女は僕の強さを目の当たりにしている。なので、余計に僕を強くしてくれた人物については気になるのだろう。

 それに彼女を育てるのは僕だが、その後セインの役に立ってもらうと約束してもらっている。今後仲間になる人物としても気になるのだろう。


「彼は…」

「誰かいるぞ!」

「見つかってしまいました!」

「こっちへ」


 シルベーヌの手を引っ張って、声とは逆の方へと進む。


「はぁ…。こっちにもいましたか」


 撒くために障害物等の側を通りながら進んでいたのだが、正面に四人の男がいた。まだこちらに気付いていないようだが、ここは気付かれたとしても足音を立てて走るしかない。後ろの連中が近付くと、どの道その声で気付くだろうから。

 流石に挟まれてしまっては回避することができない。


「できるだけ僕の後ろに隠れてて」

「すみません。お任せします」


 背後からの彼女の声を聞き、僕は腰に下げた剣を抜いた。

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