第二十三話 ビビア
俺が二人に状況を説明して仲間になってほしいと頼むと、ビビアはすぐに頷いてくれた。デールは俺達の強さを信じてくれるまで時間が掛かり、その後も自分達が強くなれるのかと心配していた。
自分の娘も巻き込むことになるので、かなり慎重に考えていたようだ。最終的にビビアが父を納得させ、彼も頷いてくれることになった。
「まさかビビアに魔導士の才能があるとはな…」
「そうですね。私もビックリしました」
そう話し合いながら、俺とビビアは不死のダンジョンを進む。
デールとビビアは農作をしていたので、職業に就いていなかった。仲間にするにあたって試したところ、彼女には魔導士の才能があったのだ。魔導士は国や大貴族に召し抱えられるほど貴重な存在だ。スキルはどれも攻撃力が高く、射程距離が長い。さらに攻撃範囲も広いのだ。
集団相手であっても、一撃でかなりの数を倒すことができる。魔物にも人間の兵士相手にもかなり有効な攻撃力となるのだ。
何も調べず無条件でデール達を放りだすとは…。リストア領はかなり勿体ないことをしたようだ。王に献上すれば、大金か更なる領地をもらえたことだろう。
俺も仲間に魔術師が欲しかった。才能があればクロを魔術師にしたかったくらいに。少数で多数を相手にするならば、やはり魔術師は必須だと思う。
「そっちにスケルトンだな」
「くらえ!」
ビビアが両手持ちの杖でスケルトンを殴る。腕の骨が折れ、そこから先が体から離れる。
「お願いします」
俺が蹴りを入れると、骨の体はあっさりとバラバラになった。これで彼女に経験値が入る。今俺達はパワーレベリングをしていた。不死のダンジョンへ来たのは、霊系の魔物が魔術師のミッションに関係してくるからだ。
ある程度レベルアップした後は、鱗のダンジョンや傀儡のダンジョンにも潜る予定だ。これで上級職まであと一歩という所まで、スキルを獲得できるはず。
デールは騎士になった。こちらは今、クロとリリアと共に獣のダンジョンに潜っているはずだ。鱗のダンジョンには彼も用事があるので、ビビアと共に潜ることになっている。
「スケルトンはいいですね」
杖を見ながら、ビビアがそう呟く。先ほどゾンビを杖で殴った時のことを思い出しているのだろう。
あの時は大変だった。杖がゾンビの肉を潰し、その腐肉や腐った体液が付着したのだ。俺の水の魔術ですぐに洗い落としたが、ゾンビに物理攻撃は止めておこうと二人で誓った。
霊系の魔物が出て来ていないので、まだ彼女は攻撃スキルを獲得していない。経験値獲得でレベルは上がっているが…。
鱗のダンジョンや傀儡のダンジョンに先に潜っていれば、彼女もスキルで魔物を攻撃できたはずだ。俺は先に不死のダンジョンに来たことを、ゾンビを倒した後に後悔したのである。
霊系の魔物が出てくるのはもう少し下だろう。そう思って、経験値を稼ぎながら階段を探した。
「ウィンドボール」
ビビアの構えた杖から風の玉が放たれる。それを受けたソードスケルトンが踏鞴を踏み、俺の大剣が体を吹き飛ばす。
「ウィンドボール」
二発目の風の玉が、俺の近くにいたマミーに当たる。
「ファイアエッジ」
俺が放った大きな炎の刃がマミーを飲み込む。奴が纏う包帯ごと、体を燃やし尽くした。
マミーはで包帯を纏ったゾンビみたいなものだ。流石に遠距離攻撃で倒させてもらう。剣で斬りかかりたくはない。
五階層まで来たが、何も問題なく順調に進んでいた。このダンジョンはマッピングの必要がない。傀儡のダンジョンのように狭い通路のような場所ではなく、広い墓地のような階層になっているからだ。基本的に迷う要素がない。階段を見つけるのがとても楽だ。
さらに魔導士や神官にはとても潜り易いダンジョンとなっている。視界が広いので敵を見つけ易く、遠距離から攻撃をし易い。さらに範囲攻撃も有効。
霊系の魔物以外はそれほど足が速くなく、ソードスケルトンでも一般人が走るより少し速い程度だ。それもカタカタと骨が鳴るので、近付いてくるのがすぐに分かる。
六階層から先も問題ない。七階層から魔物が少し強くなったが、ビビアがダメージを与えた後に俺が攻撃するので全て一撃で倒せた。
獣のダンジョンでも七階層から魔物が強くなるらしい。そして傀儡のダンジョンでも七階層からアイアンゴーレムが出現する。四つのダンジョンはどれも同じ設定なのだろう。
そう考えると、不死のダンジョンも二十層が最終階層になる可能性が高い。
やはり十層でボスが現れた。ボスはスピリットという火の玉のような見た目の魔物だ。素早く飛び回りながら魔術を放ってくる敵である。
ビビアは攻撃を当てるのに苦労していたが、当てた後は俺の攻撃で瞬殺だった。元々霊系の魔物は物理攻撃には強く、魔術等の攻撃には弱い。
その後も魔物は強くなっていったとはいえ、大したことはなかった。そして、
「そろそろ危険だな」
「そうですね。明らかに魔物が強くなっています」
十七階層からは流石にビビアには後ろへ下がってもらう。この階層からは通路でないことが問題となった。
十六階層までは魔物が強いとはいえ、それほど危険ではなかった。ビビアもすでに経験値で上がるレベルは上がりきり、他のスキルも習得してレベル18となっている。スキルはまだ覚えることができるが、ステータスは魔術師の最大まで上昇しているのだ。
しかし、ここからの魔物はレベルが違う。傀儡のダンジョンと同様に、ゴブリンキングに近いレベルの魔物が出現している。
さらに彼女は防御力の低い魔術師だ。たった一度攻撃を受けるだけで、彼女にとっては大ダメージとなるだろう。当たり所が悪ければ即死も有り得る。
ビビアは俺が貴族の子供だから様付けで呼んでいたが、今は自身を拾ってくれたことに対して恩義を感じているようだ。俺の言葉はしっかりと聞いてくれる。
それに言葉は丁寧だが、兄妹のように話す。これは昔からそうだった。物心付く前からの仲だったので、貴族と平民という立場を理解した後でも関係性だけは変わらなかったのだ。
このダンジョンはとても経験値効率が良かった。フロアが広いうえに雑魚(俺にとっては)が沢山現れる。ビビアが範囲攻撃を行った後に俺が範囲攻撃で倒すと、一気に魔物十体分近くの経験値が入ってくるのだ。彼女はすぐに経験値が溜まってレベルアップしていった。
ここからは経験値を稼ぐ必要がないので、俺が全ての魔物を倒せばいい。ミッションに必要な魔物だけ、残して後で彼女に攻撃してもらえばいいのだ。
さらに下へと進んでいく。途中で氷女という氷を使う人型の魔物や、火蜥蜴という全身火の蜥蜴を数体倒して、ビビアのレベルをさらに二つ上げた。
「二十階層のボスですか」
そう呟く彼女は、一切緊張しているようには見えない。
「セイン様が倒してくれますから」
俺の表情を見て読み取ったのか、こちらを見て言う。
「もしミッションに関係ある魔物だったら、一撃攻撃を当ててもらうぞ」
「へ? そんな…」
俺の言葉を聞き、一瞬呆けた彼女はすぐに顔が青褪める。助けを求めるように手を伸ばしながら、こちらへ近付いてきた。先ほどのまでの魔物を見てきたので、さらに強力なボスということで流石に怖いのだろう。
「あの…その時は守ってくれます?」
「数が多いと、一人で守り切れるか分からないな」
体を縮めながら言った彼女の言葉に軽く答える。実際どうなるか分からない。メカワイバーンレベルの敵ならば、五体までは同時に相手にしても守り切れるだろう。だが、それ以上の数となると自信がない。俺一人ならば、絶対に勝てるのだが…。
聖騎士のスキルを全力で使って、でき得る限り彼女を守ろうとは考えている。俺にとって妹のような存在なのだ。
「行くぞ。取り敢えず入った後は、扉の近くで待機しておけ」
「はい」
彼女は距離を取りつつも俺の後ろへ隠れる。俺も低レベルのビビアを連れているので、傀儡のダンジョンの時のような油断はしていない。
「ギャガァァァァ!!」
扉を潜った先にいたのは、ドラゴンの姿をした骨だった。
「ひっ!? ドラゴン!!!」
ビビアが魔物の咆哮を受け、恐怖で体を硬直させる。足が震えており、それ以上進めないでいた。このままでは、扉の前に彼女だけ置き去りになってしまう。
「あれはドラゴンじゃないから大丈夫だ」
安心させるようにそう言いながら、俺は彼女の腕を取ってその体を抱き寄せた。




