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第二十話 傀儡のダンジョン3

 

 転移した後部屋を出て廊下へ抜けると、後ろの部屋がダンジョンの壁で見えなくなった。その壁に手で触れると、手が壁の内部へと入って行く。

 さらに、一度このダンジョンの魔法陣を通ったことがある者以外は通れないのだ。これが一階層に隠し部屋があるにも関わらず、全く見つからない理由である。

 俺達はそのまま傀儡のダンジョンを出る。向かう先は近くのギルド支部だ。向こうは俺達がこのダンジョンの情報を集めていたことを知っている。ダンジョンから出たことを態々伝える必要はないが、冒険者というものはいつ死んでもおかしくない。

 ギルド職員等をやっていると、クエストの受注やダンジョンに潜って以降、一度も見ない者達も大勢いるだろう。

 特にダンジョンの性質上、冒険者の死体は装備品等を除いて一切残らない。ダンジョンに吸収されてエネルギーとされるからだ。

 吸収されなかった物もランダムな場所で排出されるため、見つかるかどうかは運次第である。

 どの道今回は素材の買取をしてもらおうと思っていた。支部に顔を出すこと自体は手間ではない。売るのはアイアンゴーレムの素材を一体分。それとそれまでに出現した魔物の素材だ。

 アイアンゴーレム以外の素材はそれほどの値が付かないだろう。

 アイアンゴーレム自体も一体分以上は流石に売ることを躊躇われた。

 理由は簡単だ。支部にはそれぞれ、雇ってもらうためにポーターという存在がいる。彼等はダンジョン内で荷物運びを専門としているのだ。

 冒険者の仲間で職業が商人の者は限られる。戦闘職ではない商人を態々仲間に加えたくはないのだ。その代わりにいるのがポーターで、特に持ち物が限定されるダンジョンでは往復するのに時間が掛かるため、かなり重宝されている。

 職業もバラバラで普通に荷運びしかしない者もいれば、ある程度は戦闘にも参加できる者もいた。戦闘職や商人でアイテムポーチを使えるポーターは雇うのにそれなりに高い金を必要とする。

 俺達は勿論ポーターを雇わなかった。他人が見ていると使えるスキルが限定されるし、アイテムボックスを俺が使えるからだ。それをギルドの者に見せる訳にはいかない。

 アイテムポーチならばそれほど問題ないが、それ以上の容量を持っているのが気付かれると同時に、俺が豪商という上級職であることが露見する。

 この若さでも、戦闘職ならばまだ何とか誤魔化せる。かなり悪目立ちするだろうが、所詮はそれだけだ。しかし、非戦闘職の上級職は珍しさの桁が違う。

 戦闘職と比べてミッションをこなす難易度が跳ね上がるからだ。

 今回はアイテムポーチから、一体のアイアンゴーレムの素材を支部内で取り出す。これは、ポーターを雇って連れて行かなかったことに対する理由にもなる。

 ポーターの雇用は、特にこの街では推奨されていた。荷物持ちならばそれなりに力があれば子供でもできるので、貧しい子供の仕事にもなっているからだ。

 冒険者達は危険な状況に陥った時、ポーターを守る義務等は一切ない。勿論囮等の故意に危険に晒すようなものは犯罪行為とされているが。

 ポーターも危険があることは分かっていて仕事を引き受ける。死んだ際は冒険者からギルドが金を受け取り、その者の選んだ受け取り主の下へと届けられるのだ。

 俺達が支部内に入ると、真っ先にポーター達が近付いてくる。彼等は自分が選ばれようと必死になっているのだ。それでも決して前へ出てくることはない。冒険者の中には粗野な者もいるし、邪魔をして仕事に有り付けなくなると困るからだ。

 そのまま買い取りカウンターの方へ向かうと、彼等は残念そうな表情を浮かべながら離れていく。ようやく俺達がダンジョンに潜りに来た訳ではないと気付いたようだ。

 背負っていた鞄から魔物の素材を取り出していく。俺はダンジョンを出る前に、大剣をアイテムボックスへと仕舞って鞄と取り換えていた。

 さらにアイテムポーチからアイアンゴーレムの素材を取り出す。と言っても、アイアンゴーレムは全身が鉄でできている。そのため、全てが素材と言っても過言ではない。


「…………」


 カウンターにいた男性は、口を開けて呆然としていた。視線はアイアンゴーレムへと注がれ、動きが完全に止まってしまっている。


「誰か来てくれ!!」


 数十秒の無言の時間が流れた後、彼が叫ぶ。そして現れたのは、一人の大柄な男性だった。彼は胸元に大柄のナイフ、腰には大きな包丁のような物を携えている。

 ギルド専属の解体屋なのだろう。冒険者は魔物の素材を売る際、解体を自分でしてから売るか解体屋にしてもらうかを選ぶことができる。ギルド専属の解体屋に任せると、解体料が素材の買取価格から引かれてしまう。

 普通は自分で行うのだが、専門の者達に任せずに自分で行って失敗してしまうと、素材の価値が大きく下がってしまうのだ。その点ギルド専属の解体屋は失敗しても自分達の責任であり、素材はそのままの額で引き取ってもらえる。

 解体技術に自信のない者や初めて見るような魔物、解体が難しい魔物等はギルドで解体してもらう。


「アイアンゴーレムか…」


 解体屋の男性が呆然と呟く。鉄を鍛錬したりするのは鍛冶師の仕事だが、アイアンゴーレムの体を仕分けるのは彼の仕事になるだろう。果たして彼の持っている刃物が通じるのかどうか…。

 遠目からギルド職員もこちらを眺めていた。アイアンゴーレムの素材を持ち帰ったことが珍しいのだろう。なにせ、最高到達者はアイアンゴーレムに歯が立たずに逃げて来たのだから。


「これは俺にもどうしようもないな。鍛冶屋の者にこのまま買い取ってもらうしか…」


 さらに奥からもう一人解体屋が出てきた。彼の言葉を聞く限り、彼がここで一番腕が立つのだろう。


「お前達がこれを倒したのか? 他にはないのか」

「一体倒して逃げてきた。結構強かったし、これ以上は持ち歩けないから」


 俺がそう言うと彼は少し残念そうな、だが納得したような表情を浮かべる。これは最初から決めていたセリフだ。あまり強いと知れ渡ると、リストア伯爵領にも噂が流れてしまうかもしれない。冒険者は勝手気ままに色々な地を旅するのだ。勿論一箇所に定住している者達も大勢いるが。

 これからさらにアイアンゴーレムの素材を色々な場所で売る予定なのだ。一種の妥協点であった。これくらいならば、冒険者の中でも少し強い程度で済む…はずだ。

 ギルド職員達が集まって、こちらへと情報を聞きたそうにしている。俺達が何者なのか、ダンジョンは何処まで潜ったのかと。

 だが、気になっていようと聞くことはできない。滅多なことでは詮索してはいけないことになっているからだ。これは冒険者が、犯罪歴がなければ誰でもなれるということが関係している。なりたいならば、貴族や王族であってもなることが可能なのだ。

 そして、高貴な者達が冒険者を始める理由。沢山あるだろうが、気軽に詮索していいようなものではない。さらに何処まで潜った、どのルートを通ったという情報も、それは冒険者側が善意で伝える情報である。強制して聞き出すことはできない。

 これも良い狩場等を見つけて独占したい冒険者や、特殊な方法でダンジョンを潜る冒険者に対する配慮である。

 当然のことだが、危険な魔物や何かアクシデント(魔物の集団暴走の兆候等)を見つけた際は報告の義務が存在する。


「これくらいでいいか?」


 俺は小さな袋をカウンターで渡された。袋は小さいながらに重く、その中には小金貨や銀貨が詰め込まれていた。金貨も混じっているように見える。

 俺達もどの程度の値段になるかは分からない。自分達の装備は買ったものではないし、そもそもアイアンゴーレムの鉄の値段がどれほどなのかも知らないのだ。


「確かに」


 俺は金額を数えるのを止め、袋をアイテムボックスへと仕舞う。彼等にはアイテムポーチへ入れたとしか見えないはずだ。


「ちょっと待ってくれ」


 俺達が支部を出ようとすると、職員の一人に声をかけられた。


「次回も傀儡のダンジョンへ潜ってくれないか?」


 今までアイアンゴーレムを倒せる者等いなかった。さらにここは冒険者の街だ。武器や防具は必需品であり、素材となる鉄はいくらあっても足りない。

 彼は俺達がまたアイアンゴーレムを討伐してくれることを期待しているのだ。


「危険だし、他のダンジョンも見て見たい」


 俺がそう言うと、彼は落胆した様子で肩を落とした。強制はできないので、彼はこれ以上強く言えないのだ。そもそも他のダンジョンに潜る邪魔をしたとなると、他の支部が黙ってはいないだろう。

 職員や解体屋の人達に見送られながら、俺達は支部を後にした。

 冒険者支部を出るまで、終始クロは無言を貫いていた。彼女は少しでも気を抜いた拍子に、口を滑らせてしまう可能性があるからだ。

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