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第二話 スキルマスター誕生


 此処は何処だ?

 頬に硬く冷たい感触が伝わってくる。体にも同じく硬い感触がするので、地面に倒れているのだろう。それは分かるのだが…。

 俺は確か…ゲームの終了時間を待って部屋にいたはずだ。しかし、目の前では沢山の人が通り過ぎていく。こちらに気付いたような人もいるが、誰も俺を助けようとしない。人が倒れているというのに、何とも薄情な奴等だ。

 それにしても、皆日本人ではないような…。


 そうだ…此処はリストア領で、僕はセイン・リストア。リストア伯爵家の息子だ。


 !? 何だ今のは…。俺は羽柴 紅。ただの日本人のはずだ。伯爵とか貴族の位のことだろう。日本に貴族なんていない。今のはいったい…。

 困惑している俺の脳にさらなる記憶が断片的に浮かんでくる。


 僕は妾の子。

 正妻には子供ができなかった。

 しかし、母が僕を生んだ後に正妻が身籠った。

 ある程度育った時、突然正妻とその息子の態度が豹変した。

 そして、突然の正妻による母の死…。


 次々とセインの記憶が流れ込んでくる。

 そしてさらに、


 スキル『鑑定』を獲得しました。スキル『ファイア』を獲得しました。スキル『一閃』を獲得しました。…………。


 俺の脳内に次々とシステム的な声が聞こえてきた。鑑定? ファイア? これは全て英雄街道であったスキルだ。

 声と共に、スキルの使用方法が脳に刻まれていく。


「うっ! ぐぅ…頭が割れそうだ」


 次々とスキルの使用方法が脳に刻まれ、さらにセインという男の記憶が脳内に流れ込んでくる。死にそうな程頭が痛い。無理矢理脳内に刻み込まれるそれらに、脳の処理速度が追い付いていない。

 このままでは拙い。視界もぼやけてきた。


「くそっ」


 俺はそこまでしか声に出せず、目の前が真っ暗になった。




「…い……ぶ? ……」


 …何か声が聞こえる。意識が復活すると同時に、先ほどまでのことが思い起こされた。

 意外にも、頭痛等は襲って来ない。意識を失っている間に、勝手に脳が処理してくれていたのだろうか…? 何はともあれ命は助かったようだ。


「大丈夫?」


 声が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。そこには、綺麗な白髪の女の子がいた。彼女は俺より年齢が下だろう。俺もセインの記憶から、自身が12歳だと自覚してる。その女の子が薄い黄色を帯びた瞳をこちらへ向けていた。


「大丈夫?」

「ああ」


 もう一度話しかけて来たので、俺は短くそう返しておく。今は状況を整理したいところだが、心配してくれた子を邪険に扱うわけにはいかない。

 今いるのは異世界で、この体はセイン・リストリアという子供のものだということは分かる。俺の中に彼の記憶が残っているからだ。そして恐らくだが、英雄街道というゲームと同じような世界なのだろう。ゲームそのものかもしれない。

 俺の記憶の中には、英雄街道で得られる全職業のスキルが詰まっている。


「此処は…?」


 辺りを見回すと薄暗い洞窟だった。俺を鉄の棒が取り囲んでおり、檻の中だと一瞬で理解することができた。何故こんなところにいるのだろうか? 俺は地面に倒れており、そのまま気を失ったはずだ。


「おう、ようやく目覚めたのか」


 その言葉に視線を向けると、檻の外に数人の男がいた。どいつもこいつも剣を携えており、こちらへ不躾な視線を送っていた。


「目が覚めてよかったぜ。一応大事な商品だからな」


 そう言って男がゲラゲラと下品な笑い声を上げると、同調するように他の者達も笑い声を上げる。俺はこいつらに拾われ、そのまま檻に閉じ込められたようだ。

 商品と言っていたので、俺達は何処かへ売られるのだろう。奴隷のようなものか? 相手は盗賊とか山賊なのだろうな。

 男達はこちらへ近付いて来ず、洞窟の通路へ視線を送っている。そちらに出口があり、何かを待っているのだろうか?

 考察はしてみるが、今まで意識を失っていたので判断材料が少なすぎる。


「メニュー、ステータス」


 男達に聞こえないように小さく呟く。


「…あれ?」


 ステータス画面が開かない。これで開くだろうと思っていたが、音声では反応しないのだろうか? だがPCがここにない以上、音声か何かで反応してもらわないと困る。


「??」


 色々試していたが、ステータス画面の開き方は分からなかった。隣では白髪の子が俺の様子を見て不思議なものを見るような顔をしていた。

 まあ一人でぶつぶつ言っていれば、傍から見た場合気味が悪いか…。


「ステータスってどうやって見るんだ?」

「ステータス?」


 一人で考えてもキリがないので尋ねてみたが、結局疑問で返された。


「自分の強さとかのことだよ」


 俺が聞き方を変えると、理解したのか頷いてくれる。


「身分証のこと?」

「身分証?」


 今度は俺が聞き返す羽目になった。

 身分証とは、文字通り個人の身分を示す証明書のようなものらしい。カード型のそれには、名前や年齢、その他ステータスや所持スキル等が記載されているという。一度犯罪を犯して捕まれば、身分証に犯罪歴等も記載されるそうだ。

 軽犯罪ならば住み難い程度だが、重犯罪ともなると街にすら入れてもらえなくなるらしい。

 今の俺は身分証を持っていない。セインが発行してもらう前に正妻が身籠り、隠し子となったからだ。


「鑑定」


 自身に鑑定スキルを使ってみる。これは商人のスキルで、アイテム等の詳細を確認するためのものだ。


「…駄目か。詳細鑑定」


 次に商人の上級職である、豪商の詳細鑑定を使う。こちらは鑑定スキルの上位互換で、魔物の素材等から魔物本体の詳細を見ることもできた。


「何だこれ!?」

「? どうしたの?」


 無事にステータスを確認することができたのだが、書いてあることに戸惑ってしまう。白髪の子が尋ねてくるが、それに応える余裕はない。


 セイン・リストリア 男 12歳

 職業スキルマスター レベル320

 ………


 職業スキルマスターなんて、ゲームには存在していなかった。それにレベル320というのも異常だ。攻撃力等のステータスも、どの上級職と比べてもかなり高い。

 スキルを確認してみると、何故320という半端な数字になっているのかが分かった。

 スキルが重複していないのだ。

 英雄街道というゲームは、スキル獲得でレベルが上がる。そして下級職が25、上級職が25の合計50個のスキルがあるのだが、その中にも共通スキルというものが存在するのだ。

 下級職で10、上級職で10あるそのスキルは、全てステータスが上昇するスキルである。残りの15個ずつは職業スキルと呼ばれ、職業専用のスキルを覚えたり職業に偏ったステータスの上昇するスキルがある。例えば魔導士なら魔力等が上昇し、騎士なら防御力が上昇するといったものだ。

 職業スキルの中でステータスが上昇するスキルは、職業にもよるが多くて5個しかない。だが一つ一つが大きく上昇するため、馬鹿にはできない。

 今回は180個分の共通スキル、ステータスが上昇するスキルが手に入らなかったため、ステータス自体は狂ったほど高くはない。それでも他の上級職に比べて、2倍以上のステータスなのだが…。

 スキルマスターという職業になった原因は、全職業のスキルを覚えているからだろうか? 異世界チートでこのようなことになったのか…それとも俺が日本で全職業最大レベルにしていた恩恵なのか…。

 一応、他の者のステータスも確認しておこうか。


「詳細鑑定」


 隣の女の子に詳細鑑定を使ったが、効果が発揮しなかった。他の男達にも同様に効果がない。


「どうしたの?」

「いや、ステータスの確認をしようと思ったんだが…」


 詳細鑑定は魔物の素材か自分にしか効果がないのだろうか? 元々ゲームでも人や魔物そのものに使用するものではなかったからな。

 自分のステータスを確認できただけでもよかった。相手がどれだけ強いのかは分からないが、ゲームと同じならレベル320の俺に勝てる者などいないだろう。連携が取れたレベル50三人を相手にして、ようやく苦戦を強いられるといった強さだ。

 今の俺には装備が一つもないが、男達も強力な装備をしているようには見えない。高レベルの者達ならばある程度装備は充実しているはずなので、そこからも敵の力量の低さが分かる。

 後は俺が戦い慣れていないという点が問題だった。セインの記憶があるので、少しは剣を振ることができる。それでも、少し齧った程度だ。こういった行為に慣れた者達と比べると、明らかに劣るだろう。勿論羽柴 紅としても、平和な日本に住んでいたのだ。喧嘩程度ならば何度か経験があるが、刃物を振るった経験など一度もない。

 この世界では、ステータスの違いがどれだけ戦いに影響するのか…。

 恐怖等は一切なく、ただそれだけが気になって仕方がなかった。

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