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第十八話 傀儡のダンジョン

 

 ダンジョンは思っていたよりも親切設計になっていた。迷路のようになっておりマッピング能力がないと苦労するだろうが、各階層に休憩できるような少し広めの小部屋が作られている。その場所には魔物が近寄ってくることもなく、階段付近も同様に魔物がいない。

 これは決して近付けないという訳ではないので、追いかけられている時に入った場合は平気で追いかけてくるのだが…。

 そして、階層を跨げば魔物が追いかけて来ないということも分かっている。最悪次の階、前の階に行ってしまえば逃げ切れるということだ。

 やはり俺達にとって、一番の問題は階段を見つけるまでに時間が掛かるということだろう。こればかりは仕方ない。

 左右の分かれ道や三叉路、行き止まりや魔物が溜まっている小部屋というものもあった。魔物部屋と呼ばれるそれは罠の一種のようだが、俺の狩人のスキルである罠感知に引っかからないのだ。ただ魔物が沢山いる部屋として認識されるのだろう。

 ダンジョンには普通、罠感知が使える狩人を同行させる。狩人がいないパーティーは罠の位置が書かれた高価な地図を購入してからダンジョンに潜る。

 このお金をケチってダンジョンに潜った者達の殆どが、負傷して帰って来るという。ただ罠に掛かるというだけではない。

 罠に掛かった際に運悪く魔物に襲われたり、そうでなくても常に罠に気を張っておく必要がある。集中力が長続きするはずがなかった。


「ようやく出てきましたね」


 目の前には鈍色の巨人。アイアンゴーレムだ。ようやく七階層まで来た。そして、ここからは何が出てくるか一切情報がない。

 流石にこのレベルの敵ならば問題ないだろうが…。


「斬鉄剣」


 実際、飛び出していったクロが容易くアイアンゴーレムの巨体を切り裂いた。高さ二.五メートル以上、幅も一メートル近くあるので両断とまではいかないが、しっかりと機能停止に追い込んでいる。彼女のステータス的に、斬鉄剣を使わなくても一撃で倒すことは可能だ。


「早く次行こ!」


 俺の腕を掴んで歩き出す。この辺りの魔物は弱すぎて、すでに飽きてしまったらしい。大半の時間を何の代わり映えのないダンジョンの風景を見ながら歩いて過ごしているので、俺も彼女の気持ちが分からなくはない。

 だが後ろでマッピングしてくれているリリアの前で、そのようなことを口にできるはずもなかった。


「これなら、地図を買ってもよかったかもな」


 そう。探索された階層ならば、それぞれのギルド支部で地図を購入可能なのだ。地図はマッピングした数人の冒険者からギルドが買いとる。そして何枚か溜まったところで、しっかりと見比べてギルドで地図を量産するのだ。

 傀儡のダンジョンならば、六階層までの地図なら売っていた。六階層の地図は詳細なものではないそうだが、階段が分かればそれで問題がない。

 あの時俺が購入していれば…。

 ダンジョンに潜るのは初めてだったので、地図なしで進んでみようと俺が言ってしまったのだ。結果、何時間も階段を探して歩き回るという苦行をすることになってしまった。

 ゲームでは自分の足で歩かないうえ、ここまで探索に時間が掛からなかったのだ。これならば、クロの言葉を聞いて地図を買っておけばよかった。今更後悔しても遅いが。

 実は彼女達はダンジョンに何回か潜っている。スキルを獲得するためのミッションは特殊なものを除き、特定の魔物を指定数倒すというもの。そのため各地の魔物が存在する、ダンジョンに潜るのが一番効率的なのだ。

 どこのダンジョンにどの魔物が出るという情報がなければできない方法だが…。


「ご主人様と一緒に潜ると、ダンジョンでも楽しいですね」


 リリアが突然そんなことを言ってきた。俺が地図のことを考えていると読んで、さりげなくフォローしてくれようとしたのだろうか?

 そう思って彼女の方を向くと、本当に楽しそうに微笑んでいた。


「私も楽しい!!」


 俺の横で飛び跳ねながらクロがアピールしてくる。二人はダンジョン探索が好きなのだろうか?

 だが、少なくともクロは先ほどまで退屈そうな表情をしていたはずだ。リリアに対抗しているだけだろう。

 彼女は子供のように無邪気で…いや、まだ子供なのだが。考えも表情もコロコロと変わる。それがまた見ていて面白い。

 そしてリリアは、俺といるといつも嬉しそうに微笑んでくれる。会社員時代にこんな女性が上司や部下にいたら、俺の人生も変わっていたかもしれない。


「次は十階か。ボス部屋だろうな」

「そうですね。大丈夫とは思いますが、一応警戒しておきましょう」

「大丈夫大丈夫。問題ないって…痛っ!?」


 リリアの言葉にクロが暢気に応え、そしてリリアに頭を叩かれる。彼女達のよくあるじゃれ合いだ。なんだかんだで二人は仲がいい。

 九階層まで来ていた。アイアンゴーレム以上の強敵が出現しなかったので、難易度自体は簡単だった。


「大丈夫だろうと、警戒はしておくべきです」

「むぅ…」


 クロが頬を膨らませる。リリアも本気で怒っている訳ではないし、クロもそれを理解して遊んでいるのだ。

 リリアが本気で怒った時は、叩くではなく拳で殴られる。それも殆ど手加減せずに。

 流石に全力で殴られるということはない。高レベル前衛職の全力の拳を受けては、痛いの一言では済まなくなる。そして仲間でなければ首が飛ぶ。これはリリアだけではなくクロも同じだが…。

 ボスは何が出てくるか分からない。このダンジョンはゲームに存在しなかった場所だからだ。恐らく、魔王討伐以降に現れたダンジョンなのだろう。

 他にもいくつか知らないダンジョンがあったり、反対に知っているダンジョンがなくなっているということもあった。


「完全にボス部屋だな」

「そうですね」


 階段を下り先には大きな扉が存在した。この先のフロアが丸々一つ部屋となっており、そこにボスが存在する。

 ボス部屋の扉は勝手に開閉するシステムとなっている。そしてボスはその部屋からは出て来ない。なのでこちらもボス部屋から出ることができれば逃げ切れるのだが、自動なので扉が開くまでの時間を稼がなければならないのだ。


「では、行きましょうか」


 リリアが扉の前に立つと、少しずつ扉が開かれていく。

 見えたのは下半身は馬、上半身は人間のようなシルエット。ケンタウロスのような見た目の魔物だった。しかし、よく見ると全身金属でできている。

 人が馬に跨っている時と同じくらいの大きさがあり、侵入者である俺達を見下ろしてくる。


鉄の騎馬(アイアンドール)ですか」

「二体いるから、一体は任せる」

「クロがやる!」

「それでは、私は下がっております」


 それぞれの担当が決まった。俺は大きな剣を持った鉄の騎馬を、クロは槍を持った鉄の騎馬を相手にする。

 鉄の騎馬ならば、まだゴブリンキングの方が強い。この程度ならば一人でも倒せるだろうが、全員ただ階段を探して歩くだけの作業に飽きていたのだ。

 リリアもそれが分かっているため、今回は手を出さない。

 この程度の相手では楽しめないだろうが、それでもアイアンゴーレムよりは遥かにマシである。

 リリアは俺を守ろうとしてくれるが、それは何があるか分からない場合だけだ。今回のように何も問題がないと分かっているならば下がってくれる。


「こっちこっち」


 クロがそう言いながら、鉄の騎馬の横を走る。それを見た片方の鉄の騎馬は、威嚇するように槍を振り回しながら、彼女の方へ駆けてゆく。

 態々分断してくれたらしい。彼女なりの心遣いなのか、それとも俺の大剣に自分の獲物も巻き込まれるとでも思ったのか。

 剣を構えた鉄の騎馬は、無言でこちらへと駆けて来た。全身鉄でできた騎馬の突撃は、かなりの衝撃を伴う。力だけで見ると俺の方が強いだろうが、体重の違いでこちらが吹き飛ばされることだろう。

 なので俺は正面からは受け止めない。馬の横から叩き付けるように大剣を振る。力任せに振った剣は、金属同士がぶつかる大きな音を立てる。勢いを全て削ぐことはできないが、俺の斜め後ろへと転がっていった。

 騎馬は全く動かない。上下に別れたその体は、すでに機能を停止していた。


「一撃とは…流石です」


 これも大剣があってこそだ。いくら俺に馬鹿力があろうと、ただの片手剣では両断なんてできるはずもない。

 クロの方でも金属音が鳴る。

 丁度彼女の剣が、相手の防御しようとしていた槍を斬っているところだった。そのまま相手の体へもダメージを与えるが、流石に一撃とまではいかなかったようだ。

 再び剣を振る。今度は深くまで剣が入ったようで、騎馬はその動きを停止した。


「斬鉄剣じゃないと上手く斬れない…」


 最初の一撃で与えた傷を見てそう呟くクロ。スキルも使わずに鉄の槍を簡単に斬ったという点は、彼女にとって大したことでもないらしい。

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