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第十七話 ダンジョン

 

「はい、確かに」


 金を払い馬を三頭買う。足が速く丈夫な馬を買ったのでかなりの出費となった。それでも奴隷と比べるとかなり安い方だが…。

 奴隷を買っていれば、もっと安い年寄りの馬しか買えなかっただろう。

 馬車にしなかったのは足が遅くなるからだ。それに俺のアイテムボックスがあるので、荷物も最低限の物以外は持ち運ぶ必要がない。

 ブルムの件はすぐに衛兵がやって来た。誰かが呼びに行っていたようだ。俺達は事情聴取のために呼ばれたが、それほど解放までに時間が掛からなかった。あれだけの証人の前で暴れたのだ。当然の結果である。

 俺達も少しは注意を受けた。他の者達は兎も角、ブルムは戦意を喪失しており態々殺す必要がなかったからだ。この国の法では俺達の対応は何も問題がないので、お小言程度であったが…。

 衛兵達からしても、無理にとはいかないまでもできれば殺さずに捕まえたいのだ。その方が犯罪奴隷として国が使役できるので役に立つ。

 犯罪奴隷はその街の衛兵等がその場で買い取ってくれる。そしてその街が奴隷を王都へと運び、国が買い取ってくれるのだ。

 つまりブルムが犯罪奴隷になっていたら、ニットヘルムにも犯罪奴隷を売った金額が儲けとして入ってきたのである。

 たったそれだけのことであるが、国として見た場合はかなり重要なことだった。使い潰すような無茶な使い方ができる労働力が手に入るのだから。


「それではフルールへ向かいますか」


 リリアの言葉に頷き、馬に跨る。と言っても、馬を街中で走らすことはできないので、街の外に出るまではゆっくりとした速度だが。

 途中で奴隷の街によって、馬を買ってフルールへ向かう。馬を買うだけならばニットヘルムではなくてもよかったのだが、欲しい奴隷がいなかったので仕方がない。ニットヘルムとフルールは別の領地だが、徒歩で二日の距離にある。

 ダンジョンがあるため、フルールは移動することができない。そして冒険者が集まるということは、商人もそこに集まるということである。ニットヘルムは金を持っている者しか奴隷を買えないということもあり、敢えてフルールの近くに作られた街なのだ。

 馬を走らせれば一日も掛からないだろう。




 フルールは奇妙な形をした街だった。四つのダンジョンを目的に作られた街なので、それは仕方がないことだが…。

 この街では宿屋や食堂等が全てダンジョンの近くに密集している。数日ダンジョン内に潜る冒険者もいるが、日帰りの冒険者にとってはそちらの方が便利だからだ。冒険者ギルドは中央に本部、そしてダンジョン近くに素材の買取などを行う支部が設けられている。

 服屋や嗜好品を売る店も全て中央にある。普通の街ならば皆中央に店を構えたがるだろうが、ここでは中央は追いやられた結果なのだ。つまり、ダンジョンの近くに行く程人気の店があるということだ。


「取り敢えずダンジョンに潜るか」


 ダンジョンは一日二日で踏破できる程簡単ではないと聞いている。それならば、態々宿を取る必要はないだろう。ダンジョン内で休めばいいのだから。

 馬は専門の店に預かってもらう。宿屋などでも預かってくれるところはあるが、こちらの方が世話の質が良い。


「どのダンジョンに潜りますか?」

「不死のダンジョンだけは嫌!」


 リリアの質問に即答するクロ。


「お願い…」


 そう言って、俺の右手を両手で優しく包み込む。本当に嫌なのだろう。俺は安心させるように、彼女の黒髪を撫でてやる。


「んふ」


 気持ちよさそうな声を上げ、腕にしがみついてきた。


「私もできれば他のダンジョンがいいですね」


 リリアも嫌そうな表情を浮かべて言う。

 不死のダンジョンは不死族アンデットが多く出るダンジョンである。さらに不死族の中でも霊系ゴーストと呼ばれる肉体を持たない魔物は、物理攻撃では殆どダメージを与えることができないのだ。

 魔導士や神官がパーティーにいなければ、かなり苦戦するダンジョンである。そして、魔導士や神官で冒険者をやっている奇特な者は殆どいない。

 さらに肉体がある魔物でスケルトンはまだいいが、ゾンビやマミーといった魔物は臭いし汚い、見た目が気持ち悪いと冒険者から嫌われていた。

 不死のダンジョンは四つの中で冒険者が敬遠するダンジョンなのである。

 他のダンジョンは獣のダンジョン、鱗のダンジョン、傀儡のダンジョンと呼ばれていた。

 獣のダンジョンは一番人気のダンジョンだ。獣系の魔物が多く出てくるダンジョンである。それほど魔物が強くなく、毛皮や肉等の素材も金になる。

 次に鱗のダンジョン。こちらは爬虫類の魔物が多く出てくるダンジョンで、低階層ならばそれほど強い魔物はいない。最下層にはドラゴンがいるのではと言われている。

 そして傀儡のダンジョン。こちらは不死のダンジョン程でないにしろ、あまり冒険者が潜りたがらないダンジョンだ。ここの魔物はゴーレム系や人形ドール系と呼ばれる、非生命体の魔物が多く出るダンジョンとなっている。低階層は素材があまり売れない魔物ばかりなので、人気がないのだ。


「三つの中からならばやっぱり」

「「傀儡のダンジョン」」

「鱗のダンジョン」


 意見が二つに分かれてしまった。俺とクロがリリアの方を見ると、彼女は一人だけ目立ってしまい恥ずかしそうに俯いて赤面していた。

 いつもは凛としていて大人っぽい表情をしているので、かなり珍しい光景である。


「クロですら合っていたのに…」

「え?」


 そう言ってさらに俯くリリア。そして、その呟きを聞いてクロが彼女へと詰め寄った。





 傀儡のダンジョンへと足を踏み入れる。ダンジョンは管理等はされていないので、入ること自体は自由だ。それこそ冒険者でなくても入れるが、中での生死に関しては自己責任となっている。

 俺が傀儡のダンジョンを選んだ理由は、潜る冒険者が少ないからである。ここなら色々と気にすることなく潜ることができるはずだ。

 ここのダンジョンが何層まで続いているのかは知らないが、最高到達階層は地下7階層だと聞いている。ただしこれは普通に潜ったのではなく、できるだけ魔物に見つからないように進んだ結果だった。

 地下7階層でアイアンゴーレムが出てくるらしい。これの攻撃力と硬さに手も足も出ず、即座に退散したようだ。アイアンゴーレムからは鉄が取れる。なので素材的にはかなり美味しいが、7階層まで辿り着ける冒険者がそもそも少なく、辿り着けた者達も同様に退散する羽目になったらしい。

 今一番攻略されているのが、人気なだけあって獣のダンジョンである。それでも9階層までしか攻略できていないらしい。なんでも10階層にはボス部屋があり、そこのボスに苦戦しているようだ。そもそも危険が付き纏うので、無謀な挑戦をする者がいないのである。


「簡単ですね」

「これが階段か~」


 俺が手を出さずとも、クロとリリアだけで十分であった。一階層は殆ど一本道で、魔物もウッドゴーレムしか出て来なかったのである。

 そのまま二階層も同様に、順調に進んでいく。


「そろそろ夜になりますので、休息を取りましょう」

「時間が全然分からないや」


 リリアの提案で休憩できそうなスペースを探す。クロがポツリと呟くが、俺もクロと同意見だった。時間を気にしていないと、ダンジョンの中だと時間間隔が狂ってしまう。ここには日本のようにスマホも腕時計もないのだ。


「それよりも大したことないな」

「はい。階段を探す方が大変ですね」


 俺の言葉にリリアが答える。半日ほどで5階層まで到達していた。ロックゴーレムやナイトドールといった魔物が新たに出現するようになっていた。

 だが、それよりも階層が広くなっているのだ。少しずつ迷路のような作りに変わり、階段を見つけるのに一苦労といった調子である。

 リリアがマッピングをしてくれていなければ、何度も同じ通路を通る羽目になっただろう。彼女は本当に多才である。スキルマスターとなり、様々な職業のスキルを持っている俺よりも…。

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