第十四話 パロイアの功績
村は現在、宴会を行って盛り上がっていた。勿論ゴブリンの群れの討伐祝いであり、安静にしていなければいけない重傷者以外の負傷者も参加している。
村人の殆どが参加していたこともあり、村全体で騒がしい声が響いていた。この村にいた冒険者は皆元々この村の生まれであったようで、特に奮闘していた冒険者達は村の英雄のような扱いを受けているようだ。
ゴブリンの群れの討伐が無事に認識されたのは、ゴブリン達の追撃を行っていたパロイア達が帰って来た時だった。
ゴブリンは素材となる部分がないので、基本的には討伐証明の部位以外は持ち帰らない。商人がいないとアイテムボックスやアイテムポーチを使えないので、持ち歩く物は選別しないといけないのだ。
だが彼等は、ゴブリンキングの装備していた鎧や斧を持ち帰って来た。俺達にとっては何でもない物だが、この村にとってはよい装備だったようだ。
パロイア達は俺達が討伐したと言ったようだが、受け入れてもらえなかったようだ。今は宴会の中心で接待されていることだろう。
彼等が討伐したのだと言い張ったのは、このギルドのギルドマスターだった。彼はブクブクに太って歩くのも苦労しており、冒険者には相応しくないような体型をしている。
俺達は無事にクエストを終えたということでEランクに昇格した。遅れて参加したので少額だが、依頼の報酬ももらえた。パロイア達はゴブリンキングを討伐したということでBランクに昇格となったが、本人達が辞退したのでCランクへの昇格となった。
冒険者ギルドとしてもゴブリンキングという大物を討伐したということで、面子のために昇格させなければいけなかったのだ。
村では初めての上級冒険者ということで喜ばれていたが、本人達は困ったような表情をしていた。脅威度Dランクとされるホブゴブリンに苦戦していたのだから当然だろう。脅威度Cランクの魔物の討伐など、彼等にできるはずもない。
今回の件で、彼等は追撃でゴブリン達を狩っていた。もしかすると、経験値が溜まってレベルが上がった可能性はあるか…。それならCランクでやっていくことも可能かもしれない。
パロイア達は意外といい奴等だった。必死に俺達がゴブリンキングを討伐したのだと、ギルドに報告してくれたのだ。それでもギルドは…いや、ギルドマスターは彼等の主張を認めなかった。子供である俺達よりも、彼等が討伐したという方が信じられるということなのだろう。
「そろそろ行くか」
「そうですね」
「夜の道って、暗いけど少しワクワクする!」
俺の言葉にリリアは了承の意を示し、クロは楽しそうな表情を浮かべていた。基本的にこの世界の者達は夜になると動くことはない。理由は単純で、暗くて視界が悪く危険だからだ。
だが、俺達は夜の行動にも慣れていた。レベル上げで行った場所の中には、野営をしていられるほど安全な場所がないというところもあったからだ。それならば、夜でも動いて早く抜けた方がいい。一番危険なのは、禄に休めもせずに時間を浪費することである。
村中で馬鹿騒ぎが起こっている中、闇夜に紛れて村を出て行く。夜逃げをしているような気分だ。しかし、この村に滞在していてもいいことはない。
俺達はギルドマスターに目を付けられているのだ。勿論悪い意味で。
原因は悲しいことにパロイア達だ。彼等が真実を告げる度に、ギルドマスターは嫌そうな表情を浮かべる。
彼が禄に調査もせず、パロイア達をゴブリンキングの討伐者としたのだ。今更俺達がゴブリンキングの討伐者となれば、彼は問題行動を取ったことになる。それを嫌ったのだ。
自身の保身しか考えていないような男なのである。
それを聞いたリリアは殺そうと言っていた。だがゴブリンキングの討伐者となっても、ギルドの規定上昇格は二段階となる。つまり、Fランクだった俺達はDランクになるだけなのだ。
俺のことを思って提案してくれたのだろうが、それほどの価値を感じなかった。
リリアがランプで前方を照らしながら歩く。暗闇を使った奇襲に警戒しながら、次の目的地であるニットヘルムへと歩みを進めた。
「お客さん、そろそろ見えてきますよ」
男の言葉に、身を乗り出して前方を覗く。目の前には街道が敷かれた平原。そしてその先には大きな門と、それに見合う大きさの壁。城壁とまではいかないが、六メートルくらいの高さはあるだろう。それが横へずらりと伸びている。
流石は侯爵領の中にある街だ。立地も平原と、かなりいい場所である。村は基本的に端にあったり山の周辺にあったりと不便な場所にあるため、外へ出ると林道や森がある。林道や森には魔物が住み付いているため、魔物が村の近くへ現れる可能性が高い。
見渡す限り平原に魔物はいない。魔物の集団暴走や群れのボスが現れるといったイレギュラーなことがない限り、早々町の近くにまで魔物は来ないだろう。それに平原だと魔物がいてもすぐに見つけられるので、はぐれの魔物程度ならば即討伐される。
俺達はたった二日でニットヘルムに到達できた。運がよかったのだ。
現在は商人の馬車に乗っている。偶々ニットヘルムに奴隷を買いに来た商人の馬車を見つけ、少しばかりの金を払って乗せてもらったのだ。
馬車はニットヘルムで売るための商品も置いていたが、奴隷を乗せて帰るのが一番の目的なので十分に広かった。
積み荷を牽いた馬車の速度はそれほど早くない。馬の休憩等も挟む必要があるからだ。それでも、俺達が歩くよりは早いだろう。実際に、三~四日かかると思っていた道のりが、二日で済んだのだ。
これが護衛を複数連れた商人であったならば、速度はさらに落ちただろう。御者を商人が自ら務め、御者台の横に護衛を一人だけ付けているというレベルの商人だったからこそ、俺達も早く到着できたし金を払って乗せてもらえたのだ。
「それでは私はこれで」
商人が俺達へ挨拶をして去っていく。こちらは乗せてもらったのだが、金を払っているので向こうもこちらを客として扱っていたのだ。
「お尻が痛い~」
クロがそう言って自分のお尻を押さえる。馬車は貴族が乗るような豪勢なものではなく、積み荷や奴隷を運ぶための硬い荷車のようなものだった。リリアも体を伸ばしている。
平原に着くまでは道も悪く結構揺れたからな…。歩くよりはマシだが、それでも体は疲労しているようだった。
ニットヘルムはフルールの途中だったので見て回ろうと思ったが、奴隷を買おうとはあまり思っていない。よい奴隷がいれば買おうかな…という軽い気持ちだ。
この世界の奴隷には人権がある。そのため、奴隷商人もしっかりと管理をしないといけないので金が掛かるのだ。真っ当な商売をする奴隷商人ということが前提であるが…。
なので奴隷は基本的に思ったよりも高額である。亜人は人権がないが、その分希少性と人間よりも優れた能力を持っているということで、同様に高額となる。
そもそも、人間の国家は亜人を攫って来て奴隷にする等といったことは禁止していた。勿論それは建前上であって、黙認状態ではあるが…。
真っ当な方法で亜人を得るには、他所から奴隷となった亜人が回ってくるという幸運を掴むか、人間の国に来て犯罪を犯した亜人を見つけるしかない。
つまり亜人を売買している奴隷商人の殆どが、犯罪に手を染めたあくどい商人ということだ。
仲間のイルも、森に住む部族の者で誘拐されたと言っていた。
人間の奴隷は、見た目が相当綺麗な女性でない限りは男性の方が高くなる。労働力として力のある男性の方が使えるからだ。良い職業の者、レベルが高い者も値段が高い。
年寄よりも若者の方が値段が高くなる。だが子供は育てる必要があり、それまでは労働力としてあまり使えないので少し安い。他にはリリアのような訳有りの者も安くなる。
一般的な奴隷の相場は、金貨二百枚前後と言われてる。勿論先ほどのように奴隷の状態などでかなり上下するが。
この世界の通貨は、銅貨、銀貨、小金貨、金貨、大金貨となっていた。銅貨十枚で銀貨、銀貨十枚で小金貨、小金貨十枚で金貨、金貨十枚で大金貨となる。大金貨は商人達や貴族達の大きな取引などでしか出回らないため、基本的に高い品でも金貨で表されることが多い。
この世界の物のそれぞれの価値は日本とかなり違う。なので正確なことは分からないが、大体銅貨一枚で百円くらいの価値はあった。金貨一枚で十万円だ。
金貨二百枚なら持ってはいるが、簡単に使えるような額ではない。まともに冒険者として仕事をしていないので、宿代などで減る一方なのだ。
「まずは今日の宿を決めましょう」
リリアの提案に、俺もクロも即座に頷いた。奴隷を見て回るよりも、先に宿の確保が重要だ。
それに今日は、馬車の旅ですでに疲れている。宿を決めたら今日はゆっくりしようと心に決めた。