第十三話 ゴブリンキング討伐
「雑魚が多すぎて鬱陶しい!!」
クロが叫びながら剣を振るう。ゴブリンナイトの剣の隙間を的確に狙い、目の前にいるゴブリン達を次々と倒していく。
リリアは周囲を取り囲み、多方向から同時に攻めてくるゴブリンライダーの群れを、槍を縦横無尽に振り回して薙ぎ倒していった。
「はぁぁ!!!」
俺も全力で大剣を振るう。ホブゴブリンの持つ棍棒を断ち、そのまま体まで両断する。さらに返す刀で、こちらへ迫って来ていたホブゴブリンを二匹同時に薙ぎ払う。
俺のステータスはレベル320だけあって、クロやシロではできない戦い方ができる。力任せの一撃が、他の者にとっては命を容易に刈り取るものとなるのだ。
大剣を使っている理由がこれ。安物の武器や防具程度なら、その防御を簡単に貫くことができるのだ。だが、俺達はただステータスに頼った戦い方をしている訳ではない。
俺の場合はこれが一番効率がいいというだけで、しっかりとした剣術も扱うことができる。剣術の師匠は、竜の守護者と呼ばれる魔物だ。
この魔物は龍の渓谷の奥へと続く道を守る番人である。渓谷の奥には中級以上のドラゴンが生息しており、そこへ続く道へ近付くと現れる。
見た目は竜というよりも二足歩行の羽の生えただけの蜥蜴であり、多種多様な武器を扱う。
強さは奥への道を守る存在だけあって、手前にいる下級ドラゴンよりも強い。武器の扱いも、そこらの達人と呼ばれる者達と遜色ないレベルである。
俺達はある程度レベルを上げた後、この魔物で徹底的に戦い方を学んだのだ。剣の扱いは達人級に近いと自負してる。
「これで一通り片付いたな」
辺りに散乱する無数のゴブリン死体。その中に時々混ざる人間の死体は、先ほどの集団が戦った時に死んでいった者達なのだろう。
着いた時点で百近いのゴブリンの死体があったことから、それなりに頑張ったということも把握していた。
あれだけの人数がいて倒したのが百というのも、悲しい話なのだが…。
かなり早い段階で撤退したのだろうと思う。判断が速く、結果的に最小限の被害で済んだのだ。
そう考えるとあのパロイアという人物は、指揮官としてそれなりに優秀だったのだろう。ホブゴブリンに苦戦する程度だから、冒険者としてはどうかと思うが。
「それではこちらへ」
武器に着いた血を拭ったリリアが、俺達をゴブリンキングの下へと誘導する。どれだけ雑魚を倒そうが、ゴブリンキングが残っている限りは無限に雑魚が増え続けることになる。時間は掛かるだろうが、今回と同様の規模の群れに戻すことだってできるはずだ。
「うわ~」
クロがとても嫌そうな声を出す。数分歩いたところでゴブリンキングは見つかった。先ほどと同程度の数の雑魚を周囲に配置している。
「魔術を使えば早いのでは?」
「そうだよ! 使おう!!」
リリアの提案にクロが乗る。スキルマスターの俺は、魔術すら使うことができる。それも魔導士の上級職である大魔導士のスキルすら扱えた。
だが大規模な魔術は、必ず跡を残すことになる。魔導士の職業に就ける者は貴重なので、魔導士の捜索が始まるだろう。特に今回は、俺の存在が知られている。
冒険者として登録してしまっているので、確実に俺が魔導士だということが広まるだろう。正体を隠して使える場合は使ってもいいが、今回は使うべきではない。
「今回は俺達がここに向かっていることが知られているんだ。そう簡単に魔術は使えないだろ」
「そうですね。失礼しました」
リリアが頭を下げ、クロが仕方がなさそうな表情で頷く。
「クロにゴブリンキングは任せる」
「クロがあれやっていいの? ならすぐに倒すね」
そう言って彼女は剣を抜く。
リリアもそれだけで理解したようで、俺が走り出すと同時に彼女も動く。
俺とリリアが正面から突っ込み、その少し後ろをクロが付いてくる。
「ガァァァァッッ!!!」
ゴブリンキングが俺達に気付いたようで咆哮を上げる。その声で他のゴブリン達も、ようやく俺達の存在に気付く。
「今更遅い」
「露払いは任せてください」
武器を構えようとしていたゴブリン達との間合いを瞬時に詰め、正面の者達を切り伏せる。目の前にはゴブリンキング。そして、周囲には他のゴブリンの群れ。
「ゴブリンキングなら余裕」
クロが正面に立ち、ゴブリンキングに剣を向ける。
その間に俺とリリアは左右に分かれ、周囲のゴブリン達を屠っていく。全て倒す必要はない。群れのボスさえ倒してしまえば、自然と群れは瓦解することになる。
当然群れのゴブリン達は倒すまでいなくならないが、群れとしての機能をなくしたゴブリン達が集団でこの森から出てくるということはないだろう。後は他の冒険者達に任せておけばいい。
ゴブリンキングが振り下ろす斧が、クロの剣によって簡単に受け止められる。
「グギャ?」
金属同士のぶつかる音が鳴り響くが、それ以上斧が下がることはない。それを見たゴブリンキングは、不思議そうな声を上げる。
明らかに自分よりも小さいクロに、自分の一撃を受け止められるとは思っていなかったのだろう。クロはレベル50で、さらに前衛職である剣鬼だ。下級ドラゴンの薙ぎ払いすら受け止めたことがある。ゴブリン如きに、彼女の力を超えられるはずもない。
「ガァァァ!!」
怒ったゴブリンキングが、再び斧を大きく振り上げる。
「弱すぎる。斬鉄剣」
斧が天高く振り上げられた時には、クロはすでにゴブリンキングとの間合いを詰めていた。彼女は跳び上がり、実際に同じ目線にいるのだ。
そのままスキルを使用して横一線に剣を振る。それだけの動作でゴブリンキングの太い首が切断され、頭部が血飛沫と共に宙を舞う。
「ギャ」
「ギャギャ!」
ボスを倒されたゴブリン達は、一斉に散り散りとなって逃げていく。
「近い奴はやっとくか」
「かしこまりました」
態々追いかけることはしないが、近くにいたゴブリンの逃げる背中に剣を振るう。
「今だ! 行くぞ!!」
そんな声が聞こえ、茂みから四人の人間が飛び出してきた。そしてそのまま、逃げるゴブリン達を追いかけて攻撃を加えていく。
「あいつらは…」
パロイアとかいう冒険者とそのパーティーメンバーだった。俺達の跡をつけてきたのだろう。普通の戦闘なら彼等では力不足だろうが、相手は逃げ惑っている魔物だ。背中から斬りかかり、楽にゴブリン達を倒していく。
「どうするの?」
「放っておいてもよいかと」
「そうだな。あいつらも無理はしないだろう。俺達は村に戻るか…」
いくら逃げていくゴブリン達だからといって、流石に彼等も深追いはしないだろう。指揮官として撤退の指示を素早く出した者達だ。
もし深追いして死んだとしても、それは自己責任なのだが…。
俺達は来た道を辿り、ハルトへと戻った。
俺達がハルトへ戻ると村は大騒ぎとなっていた。負傷者多数、さらに討伐失敗を告げられては仕方のないことだろう。
冒険者ギルド内は悲痛なムードが漂っている。彼等は援軍が到着するより、ハルトがゴブリンの群れに蹂躙される方が早いと知っているのだ。
そんな中、俺がゴブリンの群れを討伐したと言ったので、周囲は苛立ち始めた。
「そのような嘘は流石に言っていいものでは…」
冒険者登録をしてもらった受付嬢に、再び俺は説教されることとなった。
誰も信じてくれないが、これは仕方がない。俺も初めての冒険者としての活動であり、魔物討伐時に証明するための証拠を持って帰る必要があることを忘れていたのだ。
リリアならば忘れずに伝えてくれたであろうが、彼女は冒険者登録をしていないのでこのシステムを知らない。
そして、クロがこの手のことを気にするはずもなかった。




