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第十二話 ゴブリンの群れ ~パロイア視点~


 俺は背後にいる人達を気にしながら走り続ける。


「ここまで来れば大丈夫そうか?」


 仲間の声を聞き、他の冒険者の者に後ろを確認しに行かせる。俺が率いる集団は皆ボロボロになっており、傷を負っていない者を探す方が大変だというありさまだ。

 仲間の一人であるザンダも、ホブゴブリンとの戦いで傷を負ってしまった。戦えないというほどではないが、強敵との戦いではちょっとした動きの違和感が命取りとなることがある。無茶をするべきではないという判断で、すぐに撤退して来た。

 ゴブリン達は逃げる俺達より、動けなくなった者や逃げ遅れた者達を優先して襲いに向かった。結果俺達は助かったのだが、自分達が助かるために見捨てて来たと言ってもいい。特にここは俺達が育った村であり、戦っていた者の殆どが村人である。

 置いて行った彼等のことも、当然知っていた。

 俺の仲間で怪我をしたのはザンダだけだ。他の冒険者は仲間を殺されたパーティーまでいるが、ホブゴブリンまで出て来ては仕方がないだろう。

 この中で一番強い冒険者は俺達だ。それでもホブゴブリンは強敵で、一体倒すだけでも苦労させられた。そこにゴブリンナイトや別のホブゴブリンまで出て来られては、いくら俺達でも対処できない。ザンダの傷がそれほど深くなかったのは、奇跡と言ってもいい。


「ゴブリンはいない」


 後ろを確認して来た冒険者が俺へ報告する。


「ここで一度休憩する」


 その言葉に、ようやく村人達がそれぞれ腰を下ろす。かなりの距離を逃げて来たので、追手がいないならば取り敢えずは案心だろう。

 冒険者だけならば兎も角、荒事に慣れていない村人達には一気に村まで帰る体力は残っていない。一度ここでしっかりとした休憩を取る必要がある。

 負傷した者の中には重傷者もいた。殆どの重傷者は逃げることができずに置いて来たが、ここまで逃げて来れた者達は助けたいという気持ちがあった。すぐに応急処置をしなければ、村までもたないだろうことは俺にも分かる。

 戦いに備えてある程度の準備はしてきたので、当然少しは薬等を持って来ていた。だがそれでも全然足りずに、重傷者を優先して回復させることとなった。

 持って来た回復のポーションは、高価なものではない。そのため、効果もそれほど期待できるものではなかった。いくつかのポーションを使って、重傷者の命を繋ぎとめる必要がある。

 軽傷者の回復はその後だ。さらに冒険者にも優先的にポーションを使ってもらう。もし追手が来たり他の魔物に襲われた場合、戦力が必要となるからだ。

 ザンダはポーションでの回復を断った。剣を振るうことは可能なので、ホブゴブリン程の強敵でなければ、問題なく対処可能だからである。

 今はパーティーメンバーであるナルクに包帯を巻かれているところだった。


「ねぇ、あの子達の歩いて行く方向って…」


 パーティーの最後の一人、俺達の中で唯一の女性であるワリアナが声を上げる。その方向を見ると、子供二人が一人の女性を先頭に歩いて集団から抜けようとしているところだった。


「あの者達は、この集団にはいなかったよな?」


 俺の質問に三人が頷いて答える。集団にいなかったということは、今村から派遣されて来た者達なのだろう。


「おい、ちょっと待て! お前達は新しく来た者達か?」


 子供を含めたたった三人では無駄死にするだけなので、咄嗟に俺はそう声をかけた。




 何なんだあの者達は…。

 目の前を平然と歩いていく三人を見て、必死に頭を回転させる。

 何か得体のしれない、それこそ化け物と対峙したかのように足が震えて汗が全身から吹き出していた。たった一度、変わった服装をした青髪の女性に一睨みされただけで動けなくなってしまった。ホブゴブリンなんて比較にならない程の圧を感じたのだ。


「何だったの…?」


 ワリアナが呆然とそう呟く。その声を聞いて、俺はようやく空気を吐き出す。

 背後にいる仲間達を見ると、全員もれなく青褪めた表情をしていた。あの威圧感に当てられたのは、どうやら俺一人ではなかったらしい。

 先ほどの女性を思い出し、あの者達ならばもしかしたら…という気持ちが湧いてくる。


「なぁ、追いかけようぜ」


 ナルクがそう言って、三人が向かった方向を指さす。彼等が向かっているのは、俺達が逃げて来たゴブリンの群れだろう。三人が群れを倒せなかった時、次に狙われるのは俺達となる。明らかに危険な行為なのだが、誰も彼の言葉を止めようとはしない。

 俺以外の三人はまだ若く、少し命知らずなところがある。一度命の危険を感じるレベルの事態に陥れば、嫌でも身の危険というものを考えることになるだろう。今回は逃走の判断をすぐにしたので、そこまでの体験はできなかったようだ。

 だが、俺も三人のことは気になっていた。


「仕方がないよな…」


 三人の言葉に流されるように、自身の好奇心を肯定した。





「どこまで行ったんだ?」

「モタモタしてるから、見失ったじゃない」


 ワリアナが俺へ向かって愚痴る。そんなことを言われても仕方がないではないか。俺はあの集団のリーダーだったんだ。勝手に抜ける訳にはいかず、他のパーティーに指揮権を預けて村へ戻るように指示を出しておいた。

 情報の伝達等で時間が掛かり、結果的に追いかけるのに十分以上かかってしまったのだ。

 俺達も急いではいるが、すでに森の中へと入ってしまっている。魔物が突然襲ってくる可能性があるため、警戒しながら進む必要があった。


「まさか、森を突っ切るとはな…」


 ザンダが足を動かしながらそう呟く。

 そう。彼等が真っ直ぐに歩いて行った方向は、ゴブリンの群れと戦った方向である。つまり、森の中だ。

 俺達は逃げた際、すぐに森を出て街道を歩いた。少し村へは遠回りとなってしまうが、森の中では魔物の奇襲を受ける可能性があるため、全力で逃げるのは危険だったのだ。

 三人が森を進んでいるのは確実である。魔物の死体が時々落ちているからだ。

 さらに魔物の死体という三人が進んだ痕跡を辿る。そろそろ俺達がゴブリンと戦った辺りだ。


「気を付けろよ」


 俺がそう言うと、三人が表情を引き締める。ゴブリンの群れがいた場所というのもあるが、この先から濃い血の臭いが漂って来ていたのだ。

 前へ進むごとにその臭いは強くなっていく。


「なっ!?」

「これは…」

「おいおい、嘘だろ?」

「ありえないでしょ…」


 目の前の光景に、全員が足を止めて呆然としてしまう。

 夥しい数のゴブリンの死体。俺達が殺したものもあるが、数倍に膨れ上がっている。

 ゴブリンやゴブリンナイト等の死体に混じって、まるで同じもののようにホブゴブリンの死体が捨てられていた。

 中にはホブゴブリンと同じ脅威度である、ゴブリンマージの姿もあった。ゴブリンマージは魔法を使うゴブリンで、単体の強さであればホブゴブリン以上である。


「こっちのはゴブリンライダーじゃねえか?」


 小さな獣のような魔物と共にあるゴブリンの死体。小さな獣に乗って駆けると言われているゴブリンだ。獣が狩りを行うような動きをして、集団で襲い掛かってくるゴブリンである。

 こちらは単体の強さはホブゴブリンに負けるが、集団はホブゴブリン以上に危険なものだ。

 俺達が戦っていた時にこの二種類のゴブリンが出て来ていたら、半数以上の者達が逃げ切れなかっただろう。


「!? 今の音は?」


 俺の声に、三人が顔を見合わせる。どうやら、三人には聞こえなかったようだ。微かに聞こえた音は、恐らく戦闘音だ。


「こっちの方からだよな」


 槍を構え、いつでも魔物に対処できるようにしながら慎重に歩く。

 聞こえた方に歩いて行くと、戦闘音はが徐々に大きくなってくる。三人にも聞こえたようで、頻りに周囲を見回していた。


「ガァァァァッッ!!!」


 前方から聞いたことのないような方向が聞こえた。

 そちらへと向かい茂みを抜けると、ゴブリンの群れと戦う三人の姿があった。


「「「「…」」」」


 中央に位置するゴブリンの姿を見て、誰も声を上げることすらできない。

 ホブゴブリンよりも大柄で、オーガと言われても納得できるレベルの厳つい顔。一目見てあれが群れのボスだと分かる。そして、先ほどまでのゴブリンは雑魚同然であったということも。

 ボスの前には、小柄な黒髪の少女が立っている。剣を構えながら、余裕の表情すら浮かべていた。

 そして雑魚をその少女に近付けないように、大剣を振り回す黒髪の少年と槍を振り回す青髪の女性。数の差をものともせず、ゴブリンの群れを圧倒していた。

 たった一振りでホブゴブリンが数匹同時に飛んでいく様を見て、息を殺して見ていることしかできなかった。

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