3話 命のセイクリッドアビリティと魂のセイクリッドアビリティ(回想)
五十嵐灯里は倒れている五十嵐葵美の手を握りながら泣き続けていた。
(今日は誕生日パーティーをするつもりだったのに……。葵美、すっごく楽しみにしてたのに……。どうして葵美が殺されなくちゃいけないの……? 許さない……。穴田亜栖美……絶対に……!)
五十嵐葵美の死による悲しみと、五十嵐葵美を殺した穴田亜栖美への怒りが五十嵐灯里の脳内を支配した。その時――、
『我は世の神話にて伝わる神。汝に命の力を授けよう』
という女性の美しい声が聞こえた。五十嵐灯里はその言葉を聞いてすぐにハッとした。
(今の声……神様……!? 命の力……命のセイクリッドアビリティ! ……命……それなら……!)
希望が出てきたと感じた五十嵐灯里は五十嵐葵美の体を触って、五十嵐葵美の体を治すイメージを想像した。
(生き返って! お願い!)
五十嵐灯里は倒れている五十嵐葵美のそばで願い続けた。すると、五十嵐灯里からは見えていないが、五十嵐葵美の傷ついた背中と背骨と内臓が治っていった。完全に傷がふさがると、出てしまった分の血液が体内で作られ、止まっていた心臓が動き出した。そして――、
「……う……ん」
という小さな声をだして五十嵐葵美は目覚めた。
「っ!!」
五十嵐灯里は目を見開いた。五十嵐葵美は目を少し開けて、五十嵐灯里を見た。
「あれ~? お姉ちゃん? ……泣いてるの~?」
「……あ、葵美~!!」
五十嵐灯里は五十嵐葵美を抱き寄せて、強く抱きしめた。五十嵐葵美は驚いてしまったが、大好きな姉に抱きしめられてすごく嬉しそうな笑顔をした。
「良かった……! 生き返ってくれて本当に……良かった~!!」
「え……? お姉ちゃんなに言ってるの~?」
「葵美は……葵美はあの穴田亜栖美って言う犯罪者に……こ、殺されて……!」
「え……? ボク……生きてるよ~?」
「私が……生き返らせたの……。 命のセイクリッドアビリティを授かって……それで!」
「……ボク……お姉ちゃんのおかげで生きてるの~?」
「……そう……なるね……」
「ありがと~お姉ちゃ~ん! ボクお姉ちゃんの事もっとつきになった~! だいつきだいつき~!」
五十嵐灯里を強くだきしめる五十嵐葵美。お互いに満面の笑みを浮かべながら抱き合っていた。そんな、抱き合っている2人のところに1人の女――帰ったはずの穴田亜栖美が酷い悪人面で近づいてきた。
「小娘。まさか貴様までセイクリッドアビリティを授かるとはな。しかも死んだそっちの小娘を生き返らせた。……そんな厄介なセイクリッドアビリティを持つ貴様はこの穴田亜栖美が今すぐ殺してやるぞぉぉぉ!!」
穴田亜栖美は小刀を取り出し、五十嵐灯里の背中を刺そうとした。穴田亜栖美に対して五十嵐灯里は片方の手を穴田亜栖美の方に向けて――、
「穴田亜栖美。……死んで」
と普段とは全く違う冷酷な感じで言った。穴田亜栖美は五十嵐灯里が落ち着いているのが気にくわないのかより一層酷い悪人面になった。
「死ぬのは小娘――」
穴田亜栖美は発言を言いきる前に意識が消えた。穴田亜栖美はそのまま床に倒れ、小刀が手から離れた。
「た、倒した……?」
五十嵐灯里は五十嵐葵美を抱くのを止めて、倒れている穴田亜栖美に触れた。呼吸は無く、心臓も止まっていた。命のセイクリッドアビリティの力で穴田亜栖美は死んだのだ。
五十嵐灯里はセイクリッドアビリティの力でとはいえ、人を殺してしまった。だが、焦るという事は一切無かった。むしろ、敵討ちができた事で清々していた。
「お姉ちゃん! お姉ちゃ~ん!」
五十嵐葵美は五十嵐灯里の手を握って声をかけてきた。
「ん~葵美~どうしたの~?」
「この人どうなったの~?」
「…………」
「お姉ちゃん?」
可愛らしく小首を傾げる五十嵐葵美。五十嵐灯里は少し怪しい笑みを浮かべて、五十嵐葵美に言った。
「葵美。この人の魂を地獄に落とす事ってできる~?」
「え!? ……な、なんで……?」
「葵美を殺したこの人を放っておくことはできないからだよ~!」
「……う、うん」
五十嵐葵美は倒れている穴田亜栖美を叩いた。すると、2人には見えていないが、穴田亜栖美の魂はどこかに消えた。穴田亜栖美は肉体も精神も完全に死んだのだ。
「やったね葵美~! 悪者を倒したよ~!」
「……う、うん」
五十嵐葵美は五十嵐灯里の態度に若干困ってしまったが、そこまで気にする事は無かった。
その後、駆けつけた警察官や別のところで買い物をしていた五十嵐灯里の両親に五十嵐灯里は事情を説明した。監視カメラにも説明と合った情報があったので、五十嵐灯里は罪にとわれなかった。五十嵐灯里と五十嵐葵美は今着ている血まみれの服から新しく買った服に着替えてから家に帰った。
その日の夜。五十嵐灯里の家で、五十嵐葵美の誕生日パーティーが始まった。五十嵐灯里の母親はパーティーの始まりの挨拶を始めた。
「葵美! お誕生日おめでとう!! 今日はとんでもない事になってしまったけど無事誕生日パーティーができて嬉しいわ! そして……2人共! セイクリッドアビリティを授かった事! ……おめでとう!!」
五十嵐灯里の母親の挨拶の終了と共に、五十嵐灯里の父親が元気に拍手した。
「お母さん! お父さん! ありがと~う!」
「ありがと~!」
五十嵐灯里と五十嵐葵美は盛大に祝われて嬉しそうにご馳走を食べ始めた。
この日の事件は公にはならず、2人の姉妹がセイクリッドアビリティを授かったというめでたいニュースになるだけだった。だが、現場のデパートにいた一部の人は穴田亜栖美という女を忘れる事はできなかった。