5話 人間のクズとイビルアビリティ教の女
その日の夜。小鳥遊心咲は何も食べられずお腹を空かせていた。いつもなら小鳥遊光紀、小鳥遊美樹、小鳥遊健志が食べなかった残飯が部屋の前に置かれ、それを食べるのだが、今は3人共いないため何も食べていない。
「ゴールデンウィークが終わるまで何も食べられないなんて……。きっと帰って来た時に弱ったあたしを見て嘲笑うんだろうなぁ……」
小鳥遊心咲はため息をつきながら自身の布団の上で寝転がっていた。お腹が空いて寝入る事ができないため、何もしていないのにどんどん疲れた。そんな中、小鳥遊心咲は考え込んでしまった。
(あたしって……なんでこんなにダメダメなんだろ……。何やっても全然上手くいかないし……。光紀は天才で美少女なのにあたしは無能でブス……。あたし……きっと産まれてこない方が良かったんだな……。神様からも……見放されてるんだな……。見放されてるからセイクリッドアビリティも授からないんだな……)
小鳥遊心咲は精神が落ち込み過ぎて涙を流してしまった。そのまま泣き続けるが泣き寝入りはできず、嫌な事ばかり考えてしまっていた。肉体的にも精神的にも疲れていった。
そんな時だった。
ガン!! バンバン!! ガチャン!!
玄関の扉を誰かが叩いて壊したような音がした。だが、小鳥遊心咲はこれっぽっちも警戒せず、考え事をした。
「……強盗かな? あたし……強盗に殺されるのか……。まぁ良いか。あたしが死んでも誰も悲しまないし……」
玄関の扉が壊されてすぐに、玄関の扉を壊した奴の足音がした。まっすぐ小鳥遊心咲の部屋に向かってきた。小鳥遊心咲は死ぬ覚悟をした。
(痛いのは一瞬だけ、痛いのは一瞬だけ)
と、思い続けた。
玄関の扉を壊した奴は小鳥遊心咲の部屋の前に来た。すると、扉を3回ノックし、
「失礼しますよ」
と言った。若い女の声だった。そして、玄関の扉を壊した奴はゆっくり小鳥遊心咲の部屋の扉を開けた。
「こんばんは。あたしは小鳥遊心咲です」
「……は?」
小鳥遊心咲の前に現れたのは小鳥遊心咲――ではなく小鳥遊心咲と同じで地味な顔をした貧相な女だった。
「嘘です。あたしとお前って似てるよね」
「……似てません」
「似てるよ。顔面偏差値が1しか無いところとかIQが1しか無いところとか」
「……1……じゃない」
小鳥遊心咲は明らかな嫌な顔をした。一方の玄関の扉を壊した奴はニヤニヤしながら、
「冗談だ。真に受けるな」
と若干えらそうな態度で言った。だが、小鳥遊心咲は嫌な顔のままで玄関の扉を壊した奴に聞いた。
「……てか誰? 何しに来たん?」
「あたし高梨美瑠来。そっちのたかなしとは別の漢字のたかなしだ。ここに来た目的は強盗だ」
「……そうか。で、高梨美瑠来は何を盗むつもりだ?」
「小鳥遊心咲です」
「……は? 嘘の自己紹介はもういいって」
「いやいや。小鳥遊心咲を盗むのだ」
「……意味がわからない」
「この家から小鳥遊心咲を盗み出す。それがこの高梨美瑠来の目的」
「……何それ? そんな王子様っぽいことはあたしみたいなむしけらにじゃなくてお姫様っぽい人にしろよ。例えば――」
「小鳥遊光紀だろ? お姫様っぽいのって。あんなんどうでもいいわ」
天才の小鳥遊光紀をあんなの呼ばわりした頭のおかしい高梨美瑠来。身の程知らずの高梨美瑠来はついでに言った。
「小鳥遊光紀って天才だけど傲慢だよねぇ!」
「…………」
「否定しなかったな? 小鳥遊心咲もそう思ってるな?」
「……思ってない」
「いや思えよ。大勢の野郎共に好かれておきながら全員をゴミのように捨てやがったんだぜ?」
「……光紀には愛する――」
「月見里友梨香だろ? 知ってる。あいつは天才だけど強欲だな! 大罪メスガキカップルだな! アッハッハッ!!」
「…………」
「否定しなかったな? あたしのあのメスガキ共に対する悪口を否定しなかったな?」
高梨美瑠来にそう言われたが、小鳥遊心咲は慌てる事なく、
「あたしは……あの2人の事を良い人とは思ってない」
と言った。
「そうか! なら! ……リピートアフターミー!」
「……リピートアフターミー」
「この小鳥遊一家は!」
「……この小鳥遊一家は」
「小鳥遊心咲以外!」
「……小鳥遊心咲以外」
「人間のクズ!!」
「……人間のクズ」
「月見里一家も!」
「……月見里一家も」
「人間のクズ!!」
「……人間のクズ」
「高梨美瑠来と小鳥遊心咲は!」
「……高梨美瑠来と小鳥遊心咲は」
「ニューゴッド!!」
「ニューゴッドいやそれは違うだろ」
小鳥遊心咲は自身はニューゴッド(新たなる神)だという事を否定した。そんな小鳥遊心咲に対して高梨美瑠来は顔面を近づけて、
「それ以外の事は肯定するんだな?」
と言った。
「それは……」
「小鳥遊光紀と違ってダメダメだとしても親ならちゃんと子に対して接するべき。だが、あのクソジジィとクソババァはそれを怠った。親としての義務を果たしていない」
「……そうだな」
すると、高梨美瑠来は不気味な笑みを浮かべて、
「さあ! 人間のクズ共から解放されて明るい未来へ進もうぜ!」
「明るい……未来」
「そう! あたしが属するイビルアビリティ教ならそれを叶えてくれるぜ!」
「……そうか。……ん? ……あれ? もしかしてこれ邪教への勧誘?」
「誰が邪教だ。イビルアビリティはセイクリッドアビリティを超える神聖な力だぞ?」
「でもイビルじゃん。名前的に悪じゃないか」
「だってセイクリッドアビリティとかぶっちゃうし」
「そこは気にするんだ」
だが、小鳥遊心咲はイビルアビリティ教に対して否定的な反応はしなかった。むしろ、肯定的に受け止めた。
「……あたしは……イビルアビリティ教に入れるのか?」
「ああ! 誰でも能力を手に入れられるぞ!」
「それなら……」
「そうと決まれば出発だ! こんな人間のクズ共の家におさらばしてイビルアビリティライフを始めよう!」
小鳥遊心咲は高梨美瑠来と小鳥遊家を出た。そして、高梨美瑠来に案内されてどこかに行った。