9話 美少女転校生とセイクリッドアビリティオタク
午前0時前。牛尾悠香は自室のベッドで寝転がりながら考え事――後悔をしていた。
(……酷い事しちまった。イライラしてあんな事言っちゃった。セイクリッドアビリティは大事だけど灯里も大事なのに……。もう友達失格だ……)
牛尾悠香は何度もため息をつきながら仰向けになったりうつ伏せになったりを繰り返していた。
(明日からはもう喋る事も無いかもな……。てか気まずくて学校行けねぇ……)
牛尾悠香は後悔のせいで全く眠れず、五十嵐灯里に酷い事を言った事で頭がいっぱいになってしまった。大好きなセイクリッドアビリティの事も考えられず、憂鬱な状態になっていた時だった。
ピンポーン
家のインターホンがなった。すでに午前0時を過ぎている時間にインターホンがなったのだ。だが、牛尾悠香は玄関に行く気になれず、家の前にいるであろう人を放っておいた。だが――
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン――
とインターホンはならされ続けた。牛尾悠香は憂鬱な状態のまま、仕方なく玄関に行って、チェーンを付けたままドアを開けた。そこには――五十嵐灯里の妹の五十嵐葵美が1人で立っていた。一応、五十嵐葵美の後ろに五十嵐灯里の母である五十嵐桜華が乗っている車があるので1人で来たわけではない。
「やっと出てきた~遅い~!」
「……なんだ……こんな時間に……」
「お姉ちゃん知らな~い?」
「え? 灯里がどうかしたのか……?」
「お姉ちゃん帰ってこない……。どこ行ったの~?」
「……うぅ」
五十嵐葵美が牛尾悠香に聞いた時、牛尾悠香に強い不安が襲ってきた。
(まさか……!? 灯里の奴、命のセイクリッドアビリティで何かしたんじゃ!?)
牛尾悠香はすぐに五十嵐葵美と車に乗っている五十嵐桜華に言った。
「高校の近くの公園! あたしと灯里はそこで別れた! もしかしたら……」
牛尾悠香がそう言うと、五十嵐桜華はすぐに、
「そっか! 悠香ちゃん! 葵美! その公園に行くよ!!」
と急ぐように言った。牛尾悠香と五十嵐葵美はすぐに五十嵐桜華の車に乗ってその公園に向かった。大変な状況なため、車内での会話は無かった。
10分程で高校の近くの公園の前に着いた。牛尾悠香、五十嵐葵美、五十嵐桜華はすぐに車から降りて公園に入った。入ってすぐの所にあるベンチに、うつむいて座っている五十嵐灯里がいた。牛尾悠香はすぐに五十嵐灯里の所に行った。しかし……
ピチャ……
五十嵐灯里の周囲に大量の赤い液体――血が水たまりのようにたまっていた。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁ!! 灯里! 灯里ぃぃぃ!!」
牛尾悠香は酷く焦って、うつむいて座っている五十嵐灯里の両肩を掴んで揺さぶった。しかし、五十嵐灯里からの反応は全く無い。それどころか、揺さぶられる五十嵐灯里の体の至るところから血が流れてきた。高校の制服で隠れているが、五十嵐灯里の体は傷だらけで、その傷から血が大量に流れていた。高校の制服は血の色で染まっていて、もう血を吸収できない程に血を吸収していた。
「灯里! あたしが悪かった! だから起きてくれ! 起きてくれぇぇぇ!!」
牛尾悠香はパニックになりながら、必死になって五十嵐灯里に呼び掛けた。だが、五十嵐灯里からの反応は無かった。
牛尾悠香は涙を流しながら何度も五十嵐灯里に呼び掛け、五十嵐葵美は状況を理解した途端に大泣きし、五十嵐桜華はショックで何も考えられずただただ立ち尽くしていた。
牛尾悠香はさらに強い後悔に襲われた。
(あんな事言わなければ! 後藤凡太郎の言うことよりも灯里の思いを受け入れるべきだった! 時間を戻せるならそうしたいのに……! でも、時のセイクリッドアビリティを使える人はまだいない……。くぅ……あたし……最低だ……灯里を自殺に追い込んだ人殺しだ!)
牛尾悠香は全く動かない五十嵐灯里の両肩を掴みながら泣いた。そんな牛尾悠香の横では大泣きし続けている五十嵐葵美がいた。牛尾悠香はそんな五十嵐葵美を見ながら思った。
(魂のセイクリッドアビリティでも灯里の体を直す事は……。無理か……。精神に作用する魂のセイクリッドアビリティじゃ体までは直せない……。いやまて! も、もしかしたら魂のセイクリッドアビリティで助けられるかも……!)
牛尾悠香は小さな希望をかけて、五十嵐葵美に言った。
「葵美! 灯里の魂はまだ灯里の体にあるか!?」
「……そ……そんなの……! わからないよぉ!!」
「灯里の体に触ればわかるかもしれない!」
「う……うん……」
五十嵐葵美は涙を流しながら五十嵐灯里の体に触れた。五十嵐灯里の体に五十嵐灯里の魂は……、
「……あった」
「え!?」
「あった! あったよぉ! お姉ちゃんの魂あったぁ!」
「そ、そうか! なら灯里の魂に呼び掛けて灯里の体を直すように言ってくれ!」
「うん!」
五十嵐葵美は魂のセイクリッドアビリティで五十嵐灯里の魂に干渉した。
「お姉ちゃん聞こえるぅ!? ボクだよ!? 葵美だよ!?」
『……あお……み……?』
「そうだよ! お姉ちゃん! 死んじゃダメ! お姉ちゃんが死んだらボクすごく悲しいよぉ!」
『……でも……私……悠香ちゃんに……嫌われた……もう死ぬ……』
「ダメだよ! ゆ……牛尾悠香もお姉ちゃんを起こそうと必死だよぉ!?」
『え……? 悠香ちゃんは私の事……』
「嫌いなんかじゃないよぉ! 嫌いなら起こそうとしたりしないよぉ!」
『そ……そっか……それなら……私……生きたい! 葵美の力……貸して!』
「うん!」
五十嵐葵美は五十嵐灯里の魂に力を送り込み、五十嵐灯里の魂はその力で五十嵐灯里の体を命のセイクリッドアビリティで直し始めた。
五十嵐灯里の体は僅か10秒で完全に直った。そして、五十嵐灯里は目を覚ましてゆっくりと顔を上げた。牛尾悠香は五十嵐灯里と目を合わせると、感激で涙目になった。
「あ……灯里……」
「悠香ちゃん。私の事嫌いじゃない?」
「当たり前だ! 灯里を嫌いなんてあり得ない!」
「じゃあさ……私の事好き?」
「あぁ! 好きだ!」
「なら……愛してくれる?」
「もちろんだ! あたしは灯里を誰よりも愛するよ!」
「アハハ……嬉しい……嬉しいよぉぉぉ!!」
五十嵐灯里は牛尾悠香におもいっきり抱きつき、牛尾悠香も五十嵐灯里を抱いた。五十嵐灯里と牛尾悠香はカップルのように抱き合っていた。
五十嵐桜華は自身の愛娘が元気になったのが嬉しいのか目尻から少し涙を流した。……一方の五十嵐葵美はというと、
「牛尾悠香ばかりず~る~い~!」
と大好きな姉に抱かれている牛尾悠香に妬いていた。