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05.むかしの記憶(下)

 エドはいつもわたしの味方で、侍従たちにいじめられていると小さな体で立ち向かって守ってくれた。

 大魔導士の息子であるエドの魔法にはみんな恐れていて、エドに仕返しする人は誰もいなかった。そのおかげで、わたしは平穏な日常を手に入れたのだった。


「おはよう。今日もフィーと会えて嬉しいよ」


 エドはいつも優しくて、わたしが欲しい言葉をくれた。ひとりぼっちだったわたしはエドと過ごす時間が楽しみで、エドもまた、わたしに会いたいと思ってくれているのが嬉しかった。

 絵画に描かれた天使のような微笑みを向けてくれるエドに見つめられると、自然と本音が零れ落ちる。まるで、魔法をかけられてしまったかのように。

 

「わたし、エドと出会ってから毎日が楽しいの。エドにとってはとても辛い状況なのはわかっているけど……エドに会えて、本当によかった。どこにも行かないで欲しいって、思ってるのよ。もちろん、エドには安全な場所で幸せに暮らして欲しいと思っているわ」


 するとエドはしごく真面目な顔つきになった。


「フィー、覚えていてください。この先どんなに絶望することがあっても、いつか私が助けに行きますから、強く生きてくださいね」

「やっぱりエドは、わたしの前から消えてしまうの?」


 そんなの嫌だった。もはやエドはかけがえのない存在で、エドに会えない生活なんて想像もしたくないくらいで。

 泣きたくなる気持ちをそのままエドにぶつけると、エドは蕩けるような笑みを浮かべて抱きしめてくれた。


「私は捕虜ですからいつかはここを離れるでしょう。でも、絶対に迎えに行きますから」

「本当に?」

「ええ、嘘はつきません。あなたに忠誠を誓った身ですから」

「え? いつ?」

「遠いとおい昔です」


 まるでおとぎ話を聞かせるようにそう言うと、エドは私の髪に鼻先を埋めた。耳元にはエドが深く息を吸い込む音が聞こえてくる。


「はぁ……大丈夫ですよ、フィー。私たちの魂は金の環で繋がっているんですから。たとえフィーが私から逃げ出したくなっても離れられません。どこまでも、あなたを追いかけます」

「私がエドから逃げることなんてないわ。大好きだもの」


 するとエドはわたしの頭から顔を離す。

 向かい合ったエドの青い目からぽろりと涙が溢れていた。泣いているエドに驚いているとエドの顔が再び近づいてきて、優しく、唇を触れ合わせてくれた。


 柔らかくて温かい唇を受けとめる度に、エドもわたしのことが好きなのかもしれないと思えて、幸せな気持ちになる。

 エドはいつだってわたしに”幸せ”を与えてくれた。



 しかし、そんな幸せな日々は長く続かず、エドはある日いきなり会いに来てくれなくなった。



 忙しいのかもしれないと思って来る日も来る日も待ち続けてみたけど、それでもエドは現れなかった。嫌われたのではと落ち込んでいたある日、侍従たちがある噂をしているのが聞こえてきた。

 お父様が気まぐれを起こして、エドやその他のリエータの捕虜たちを奴隷として家臣たちに与えたのだという。


 それを聞いてわたしは何日も泣き続けた。大好きなエドが、初恋の人が、奴隷として惨めな生活を送ることになるなんてあんまりだと、女神様に訴えた。


 それからエドの消息を知りたくて王城に来る家臣たちの話を盗み聞いてみたけれど良い報せは得られず、それどころか恐ろしい現実を知ることになった。

 リエータの人たちは搬送中に賊に襲われて、一人残らず連れていかれたそうだ。


 完全に絶望に落とされたわたしは生きる気力さえも失って人形のように生きていたけれど、今までにエドがくれた言葉を思い出して、なんとか生きてきた。

 もしかしたらエドは奇跡的に助かっていて、また巡り会えるかもしれないと、希望を持って。


 女神様は慈悲深くも、私の願いを叶えてくれたんだと思う。そのおかげで再会できたのだから、今度こそわたしはエドと離ればなれにはなりたくない。


 今度はわたしが、エドを幸せにしたいから。

着実にエドの手に堕ちていったフィーです。

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