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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
IF8話 真相
42/48

IF8話-03 平依存

 よしよし、首尾よくアルヴィスとは仲間になれそうだ。まだ完全に信用は出来ないが、彼の出世欲は良い方向に働くだろう。頭も良いしね。自分にとって得となる選択をしてくれるはずだ。


「んじゃウチはそろそろ部屋を出ますね。床は……よし大丈夫。拭き取れてる」


「このタブレットはどうすればいいのかな? これ壊したってなると軍学徒としてはあまり宜しくないんだけど」


「ああ勿論直しますよ! ちょっと待ってください」


 ウチは床に座り、フィラメンタに入る。最初は立ったままフィラメンタ入ったからめっちゃ倒れたけど、座ったまま入れば問題はない。


「よっと。どうです? 直ってると思いますが」


「……本当に電子汚染を解除する能力があるんだね」


 本当はタブレットを内部から弄っただけだけど、まぁどっちでもいいだろう。ついでに録音アプリをちょこっと改造し、盗聴アプリにしておいた。タブレットが機動中は常に音声がネットを通じてウチにダイレクトに流れてくる仕様だ。軍学徒はタブレットをスリープにする事はあれど電源切る事はほぼ無いからこれでアルヴィスが怪しい動きをしないかは監視できる。


(……電池消費量に疑問を持たれたらアレだけど、まぁバッテリーの寿命は端末ごとに誤差があるからバレへんやろ)


 バレたら別の方法を考えればいい。


「扉も直しておいたんで、問題無いはずです。いやー同室の方が帰ってこなくて良かった」


「重要な話の予感がしたからね、ちょっと長く出てもらってるんだ」


「さっすがアル。出来る男は格好いいですね」


「ヱレームに色目使われてもなぁ」


「……ウチを女性扱いしてくれる数少ない存在だったのにぃ」


 まぁしゃあない。ネブルの民の機械への悪感情は凄いし。むしろここまでフラットに接してくれるアルヴィスが異常なくらいだ。


(嫌悪感よりも自分の得を優先する性格、マジで嫌いじゃないな)


 最初に食堂で変な絡み方をしてこなければ普通に大好きなタイプの人間なのだが……たぶん内面は嫌なヤツではあるんだろう。別にウチの目的が達成されるならそんな事どうだっていい。


「では」


 ウチはアルヴィスの部屋を後にした。学長と話して有用な情報があったらまた共有しよう。



「それはそれとして……」


 腹からは血がにじみ出してる。包帯の上にシャツを着てるのだが、黒いシャツにしておいて正解だな。今後傷が塞がるまで腹の露出は控えねば。……露出少ない服少ないなぁ。


 悩みながらもウチは自分の部屋に向かう。一旦着替えないとミカヌーとの水やりの際に怪しまれるからね。



   * * *



 葬儀の日から1週間、軍学徒校が通常授業に戻った。その間に学長には接触出来たが、結局『ネブルの民が下りられない理由』は解らなかった。というか学長もまだ思いついてない様だ。

 ただウチが感じた危機感は相変わらず変わらず……


(作戦の成功率も限りなく低く感じるし、人が死ぬだけだ)


 ウチを餌にして人員を集めるとか言ってたな。集められた人も、その家族も、悲しみが増えるだけだ。


 得られたのは革命派集団《虚灯うらかし》のトップが御劔学長だという事。まぁこれだけでもかなり有用な情報だ。……誰をつぶせば計画が止まるのかがはっきりとした。まだ潰すかどうかは決めかねる段階ではあるが。


 とりあえず学長との会話で得られた情報と、直ぐには計画が動かないこをアルヴィスに共有し、ウチはこの1週間を過ごした。

 アルヴィスは十七委員会と接触する方法を探してくれるそうだ。といっても一介の軍学徒だから難しいとは思うが……そこはクロマタクトのコネを何とか良い感じにしてもらいたいね? うむ、完全に人任せ。


 この一週間、彼の端末に付けた盗聴アプリから彼が裏切った痕跡は送られてきてない。自身の出世がかかってるからだろう。良かった。


 あぁ、良くない問題と言えば腹だ。生身の肉はそうそう簡単には傷が塞がらず、包帯で隠すのも一苦労。すぐ血がにじんで来やがるし。

 今日なんてミカヌーから「最近露出少ないね」と突っ込まれた。腹見せる訳にいかんからね。長いシャツ来たりコルセットで隠したり、必死だよこっちは。


挿絵(By みてみん)


 ミカヌーとの水やりは毎日行ってるし、エムジの修理も行っている。はよ傷には塞がって欲しいものだ。冷や汗機能オフに出来て良かった。ほっといたらミカヌーに会ってる間ずっと冷や汗でてるよ。

 今もコルセットの下のシャツが少し血で汚れてる。包帯+コルセットで行けると思ったけど白いシャツはダメだなぁ。突っ込まれたら食事をこぼしたとでも言っておこう。幸い今日の昼はポルポル出汁のスープだったし、色味は合っている。



 ……次のアルマ実習は1ヵ月後。流石にそれまでには治ってて欲しい。夬衣守用のスーツ、バニ様からもらったヤツ露出の塊だからなぁ。

 もし治って無かったらガニビラ用のスーツ、橙子が最期に着てたのと同じスーツを使うしかない。


(橙子、君のお兄さんに、ウチはまだ謝れてないよ……)


 そんな日は来るのだろうか。ウチには解らない。



 あぁそれとは別に夜、バニ様の研究室にて「試して欲しい事があるの」と言われた。聞いてみた所セロルちゃんの学説の実験だそうだ。

 これの結果は虚灯にも、ウチら反アルマ組にも役に立つ情報だ。実行は一ヵ月後だが、一旦アルヴィスに共有しておいた方がいいな。


 って事で部屋に着いたウチは端末を取り出す。


挿絵(By みてみん)


「さてさて、今日も今日とて、やるべきことをやろうかね」


 ウチは端末を取り出し、アルヴィスにかける。しばらく呼び出し音がした後に、アルは眠そうな声で応答した。



「すみませんいつも《黎》にかけて。でもこっちもこの時間しか自由時間がなくて」


『僕だって軍学徒だよ? 睡眠は体に大事なんだけどなぁ』


「あはは。だからすみませんって」


『全然反省してないでしょ』


「ばれました?」


『はぁ、全くこの僕をここまで翻弄してくれて。こないだもびっくりしたよ』


「すみませんすみません。お部屋もよごしちゃいましたしね。……でも、会ってよかったでしょ?」


『まぁね。ま、まだ一介の軍学徒の僕には、その情報をどうしようかは具体的なプランは決められてないけど。十七委員会に持ってくにしてもルート構築が難しい』


「その辺は追々一緒に考えましょうよ。まだ焦る必要も無い」


『とは言っても、こんな時間にまたかけて来たんだ。何か進展でもあったんでしょ?』


「さっすが。その通りです。あーっつても進展はないかもしれないけど……」


『えーどういう事?』


「アルマ行ってみないと解んないんですよ。まぁその際にウチが死んだら全てオジャンなんで、現状の情報共有だけしたいんですよね」


『なるほどねえ。えーと次の休日は……明後日か。夕方なら空いてるよ』


「じゃあその日に。でわでわおやすみなさいー♪」


『おやすみ救世主マドモアゼル。良い夢を』


「寝れるなら、ですけど」


『そうだった。君機械だった。あーだからこんな時間に平気でかけてくるの? 全く勘弁してよ……。ま、ともかく明後日ね』


「はい。では」



 通話を終了し端末を充電器に刺し、ウチはベッドに横になりながら思考を整理する。


「次は、一ヵ月後のアルマ実習か」


 通話でも言った通りアルマに出てみないと何も解らないし、何なら特異個体が出現しなかったら特に意味はない。

 ただ、ウチがアルマで死ぬ可能性もゼロでは無いから、やる事の内容は共有しないといけない。


(ウチが破壊されたら虚灯は切り札を失うけど……でも安寧が来るわけではない。クロムシェルに入れるヱレームは実際にいる訳だし。この1週間でアルの事はそこそこ信用出来ると判断した。アルマ出発直前まで観察して、大丈夫そうなら各種映像は渡しておこう)


 ウチが死んでもミカヌーとバニ様は生き残る。彼女らの安寧を守らねばならない。……バニ様は虚灯に所属してるからちょっと立場が難しいが。

 ウチが仮に死んだ後、脅威を伝える人間が必要だ。虚灯はあの情報、ヱレームがクロムシェルに入れるという事実をアルマ攻略に使うだろうが、ウチとしてはネブルの安全を強化する方向に使って欲しい。クロムシェルと通じる穴を可能な限り塞ぐとか、夬衣守使いを陸羽にも配備するとか。


 その辺は陸羽志望で保守派のアルヴィスに任せておけば大丈夫だろう。まぁ彼が今後十七委員会とコンタクトが取れればだが。


(でも映像あれば、陸羽のお偉いさんとか仲間は引き込めるだろ)


 ……どれもウチがもしアルマで死んだ場合の想定だ。そうならずに行けるならそれが一番。まずは明後日アルヴィスと会って話をしてからだな。心配のしすぎは良くない。ストレス……はたまらないんだった。ウチは機械だった。偽の記憶植え付けられてからどうも自分を人間と勘違いしがちでいかんね。


(バニ様の実験内容を、アルにも伝わる様に簡略化しておくか)


 ウチは横になりながら思考をまとめる。バニ様の実験内容は簡単言うとセロルちゃんの仮説の証明だ。その仮説を解りやすくつたえないとな。

 ネットワーク端子を発生させるヱレーム、特異個体がいるであろうという事。そいつらはクロムシェルに入れるであろうという事。またそいつらに引き寄せられて、普通のヱレームも集まるという事。


(仮説が外れててくれると、嬉しいんだが)


 計画的には驚異の証明はウチをネブル防衛兵器として売り込む際の武器にはなるのだが、ネブルの脅威は少ない方が良い。ただ外れてるとなると何でヱレームがクロムシェル来てるねん問題が説明出来ないので、複雑な所だ。


(そもそも特異個体出現しないと話始まらないしな)


 これも考えてもしょうがないだろう。当日アルマでなるようになる。ともかく特異個体が出てこないと話が始まらない。結果は1ヵ月後のアルマ実習で。


(出来るだけ多くの人が死なず悲しまず、平和なネブルが続きます様に)


 ウチの祈りは、届くのだろうか? エムジ、見てくれてるか?



   * * *



【1ヵ月後、アルマ実習直後】


 また人が死んだ。ヒナリアとマナナ。ヒナリアとはもしかしたら仲良く、マナナにはいつまでも謝罪を続けたかったのに。

 アルマがいけない。アルマが。あんなものがあるから、人はそこを目指して自ら死に向かうのだ。残された家族や友人を置いて。


(姉妹がいるだろう、マナナ……)


 轟鬼五姉妹は、これで三人になってしまった。亡くなった姉妹への敵討ちの意思でも街抗を目指していたのだろうが、その結果が死では……先に亡くなった姉妹も浮かばれない。


(ヒナリアは、どうだろうか)


 ヒナリアの家族構成は知らない。悲しんでる人はいないかな? 少なくともウチは悲しいよ。アラギ、何で守ってくれなかったんだよ。天国は、あの世は、無いのか?


(あの世で、ヒナリアもマナナも、大事な人に会えてるかな?)


 せめて空では幸せに。現世に残ったウチにはそれを願う事しか出来ない。


(エムジはそこにいるのかな? それともまだここにいるのかな?)


 壊れたエムジを修理出来るめどは全く立たない。そもそも機械であるウチらに魂があるかも不明だ。ウチがまたエムジと会える世界は来るのだろうか? 会いたいよ。会って、また声が聴きたいよ……。




 つらい結果になったアルマ実習だったが、得られた情報は莫大だった。何よりネットワーク端子を自ら放出する個体が確認されたのが大きい。どちらの計画にもプラスに働く情報ではあるが、正直ネブルの危険度が上がったことが証明されたのでウチは嬉しくない。


 もう一つ嫌な情報は、機都を制圧してもアルマは手に入らないという件だ。ヱレーム達はAMOSサーバーと呼ばれる機関からネットワーク端子を飛ばしてもらい、活動している。そのサーバーは複数あるみたいで、機都はその一種だとか。ならウチ使って機都制圧してもまだ戦いは続くじゃないか。アルマ奪還計画には安寧なんてありゃしない。


 それに……今回戦死した同期達……。ヒナリア、マナナ……。

 タカ式が複数確認もされている。機都制圧に赴いたら死者の数はどうなる? 死人だけ増やして、結局何も得られませんでしたとならないか? 特異個体は複数いるみたいだぞ?

 ヱレームに知能があるのも確定したし、ネブルの位置を覚えられるのもまずいと思う。


(ウチによく似たアルビという名のヱレームも気になる)


 ウチ自身もほぼヱレームである事が確定したし、深入りしない方が安全だ。学長が提示した『ネブルの民が降りられない理由』も危険すぎる。天馬を通して特異個体をネブルに入れるなど……。

 今まではどっちの計画にも転べるように動いて来たけど……これは本格的に腹をくくって、学長の計画をつぶすしか無いな。

 学長は十七委員会に話をすると言っていた。普通に考えれば一度特異個体をネブルに入れ、その危険性をアピールしてからプレゼンに行くだろうが……行動力の塊みたいな学長の事だ。うかうかしていられない。


(バニ様は、裏切る事になっちゃうけど)


 嫌われたく、ないなぁ。まぁ、無理か。


 例え嫌われてでも、ウチは愛する人たちを守る。だから今日も、彼に電話を。



   * * *



「と、いう状態なんですよ」


『それはまずいね。保守派としてもその作戦は阻止したい。街抗にのさばられても困るから』


「つーか問題はそれを超えてます。一歩間違えばネブルの危機ですよ。ヱレームには知能がある。天馬の位置を覚えられたらアルマ奪還どころか常にネブル防衛になってしまう」


『うーん。事態はかなり深刻だね』


「正直ウチらだけでどうにか出来る域を超えて来てます。まぁまだ計画実行までは数年の猶予は有りますが……十七委員会の交渉がどのタイミングで行われるか解らない」


『出来れば僕だけの手柄にしたかったけど……まぁ街抗側の良い様にされたら僕としても損しか無いからね。こっちも二人じゃ限界か。何とかするよ』


「たのみます。こっちは人種的にもそういうの無くて……何か当てはあります?」


『会った事は無いけど、本件に関しては軍監査警察の首領、平依存さんの手を借りるのが良いかもね。学長の発言は、明らかにネブルを危機に陥れるものだ。ちゃんと証拠は撮ってる?』


「そこはもちろん。今度お渡しします。ツテの方は任せても?」


『軍学徒の身である僕には正直荷が重いけど……まぁ将来の為にやるよ。うまく行けば僕の株も上がるだろうしね。でも学長の計画を抑えるのは警察に任せるとしても、前に君が言ってた計画の方がどうなるの? 自分を陸羽の防衛兵器として売り込む案。出来れば僕もそこんとこ美味しい汁が吸いたいんだけどなぁ』


「ウチだってそれは通したいですよ。えっとそのツテの方……すみません名前まだ覚えられてないですが、その方は出世欲とかある方です? あと十七委員会へのツテも」


『僕も直接は会って無いから断定はできないけど、たぶんどっちも高いよ』


「ならそれは大丈夫ですね。ともかく十七委員会の方は急ぎです。可能なら早めに繋いでください」


『頑張るよ。進展あったら連絡する』


「宜しくお願い致します」



 ……すべてをアルヴィスに任せる形になってしまうが、急がないとな。



   * * *



 そんなこんなで数日後、アルヴィスから連絡があった。平依存さんと接触可能になったとの事。早いな。

 クロマタクトのツテを使い接触を図ったそうだ。盗聴していたが特に情報は漏らさずコネだけ繋いだみたい。すげぇ。

 アルヴィスは陸羽側軍学徒の優等生だ。クロマタクト内でも信用が高く、平依存氏に会ってみたいという要望は割とすんなりと受け入れられたみたいだ。日頃の行いって大事だね。過去のウチを振り返っても思うわ。


 んで今がその平依存さんの部屋。なう。


挿絵(By みてみん)


 とりあえず入室と共にフィラメンタ使って片っ端から盗聴器や防犯カメラ止めて、以前のアルヴィスみたいに動画を見せている。……盗聴器ありすぎだろこの部屋。どれだけ用心深いねん。

 ウチが各種機器を止めた事実に平依存さんは驚愕、秘書のロコモネさんが攻撃を仕掛けて来たが、ウチの強化外骨格で何とかした。


 機器を電子汚染風に止めた事と、ウチがロコモネさんを制圧したことが理由で平依存さんはウチをただ者ではないと認識、映像を見てくれるに至った。

 ……鬼と呼ばれる種族のロコモネさんに、ユーラニア種に見えるウチが勝ててしまってる時点で異常事態だからな。アルヴィスは横で「すごぉい」とか言ってた。状況楽しんじゃってるじゃん。


 んでその肝心の平依存さんは映像を見終わり──


「救世主? ヒトリディアムに味方するヱレーム? おいおいおいおい凄いじゃねぇか! えぇ? 何てネタ持って来やがるんだ」


 と興奮気味に食いついた。


「しかも革命派が動いてる? 虚灯?? 最高のネタだ。あー楽しくなりそうだ。よぉやくあの糞街抗を、御劔達をぶっ潰せる……」


「いや街抗をつぶすのは困ります」


「なんでさ?!」


 平依存さん、話してみてまだ時間が浅いが、会話のノリが良いというかなんかめっちゃ話しやすい。いや万人に話しやすい訳では無いだろう。むしろ人からは嫌われるタイプだ。喋り方がいやらしいし、笑顔も不気味だし。ただウチには、救世主として複数の修羅の門をくぐって来たであろうウチには、話しやすい。

 この人は芯がはっきりとしている、目的の為に全力疾走する人だ。なんとなく雰囲気でそれが解る。そそいてその目的がウチと同じなら……これ以上強力な見方は居ない。



 軍監査警察の首領、《死霊喰らい》の平依存。頭痛以来勉強を重ねたウチは、彼の存在をなんとなく情報としては知っていた。流石に名前までは憶えてなかったが、警察のトップがヤバイヤツと言う情報は。

 んでそのヤバいのが、目の前の喋り方が小物臭漂わせる男性だ。



「街抗はネブルの民にとっての希望です。ここにいるアルヴィスの言葉を借りるなら見世物パンダ。アルマ奪還計画は阻止したいけど、民衆のガス抜きの対象が無くなるのはネブルにとっても困る」


 ウチはアルに食堂で語ったのと同じ内容を平依存さんに語る。彼は頭を掻きながら「んーしゃぁねぇなぁ。納得出来ちまうわ」と街抗撲滅をすんなり諦めた。


「セプテンバーの野郎をギャフンと言わせてやりたかったが」


「ギャフンとか言葉選び終わってますね先輩。いつの時代の人ですか?」


「うるせぇよロコモネ! 目の前のヱレーム? 救世主? 確かシーエちゃんだっけ? に負けたからってふてくされるな」


「私は負けてないです」


「意地張ってどうすんだよ! それで俺のボディガードがホントに務まるのかぁ? お前を秘書に置いた理由忘れるなよ」


 まぁウチも勝ったとも思って無いけど。ロコモネさんとしてはウチを倒せなかったのが不服らしい。よほど戦闘に自信があるのか。

 ……ヱレームの、機械の前では個人の戦闘力なんて何の意味もなさないのにな。


 ウチはアルマの惨状を思い出しそうになり、慌てて思考を切り替える。



「つーか先輩、映像を見たからってコイツが本当にヱレームだって認めるんですか? どっから見てもヒトリディアムじゃんすか」


 コイツ言われた。


「アホかロコモネ! それが御劔達の戦略じゃねぇか。ネブルの機械への悪感情はそりゃもうとんでもねぇ。だからこのヱレームを人として認識させて民衆の支持を得ようっていうな」


「あ、必要ならお腹切って機械出します?」


「えぇ?!」


 何か平依存さんにどんびきされた。ウチも可能ならまた切りたくはない。折角治ったしね? でも納得が必要ならいたしかたない。次のアルマ実習はガニビラスーツで出るだけだ。

 軍学徒でいる限り、そして街抗に所属する限り、アルマへの、地獄への道は塞がらない。


「やめときなよ、あれ超床汚れるよ?」


「せやかてアル」


「先輩の部屋なら汚していいですよ?」


「おおぉぉぉぉい! 何でだよ!!」


 何か四人合わさると漫才みたいな空気出るなこの空間。まだ初対面なのに。


「つか」


 平依存さんは話題を帰るためか、ウチを凝視する。


「機械かどうかは別にいいんだよ。まぁあの映像がフェイクって事はなさそうだけどな。部屋の機器も汚染されてるし。ただそれより虚灯だったか、そんなとんちき集団が革命起こそうとしてんのがまずいんだよ。そんでその鍵がこのシーエちゃんという訳だ」


 平依存さんはウチを指さしながら続ける。


「そのシーエちゃんが、奴らの言う技巧端末が、今俺らに味方しようとしている。この事実が重要なんだよ」


「機械を味方にするんですか? しかも軍学徒からもらった情報を?」


 ロコモネさんが反論する。まぁロコモネさんもネブルの民。機械への反感はあるよな。


「馬鹿かお前! 使えるものは何でも使うんだよ! つーかこのシーエちゃん? 見る限り別に敵意なさそうなどころか、完全に俺らの味方じゃねぇかよ。陸羽にとっての救世主だよ。革命派も一網打尽に出来る、ネブルの安全も守れる、一石二鳥だ!」


「僕も今は軍学徒ですけど、このまま行けばしっかり陸羽入れる予定ですしね」


「そうだアルヴィス。いやぁ良い情報を持ってきてくれたなぁおい!」


「ウチの存在や立場は大いに利用出来ますが、平依存さんとのコネはアルが結んでくれました。卒業後の彼の進路はお願いしますよ?」


「任せとけって。俺ぁ出世欲がある奴は好きだぜぇ?」


 アルヴィスの地位の件はこれで何とかなるだろう。よしよし。あとは平依存さんと協力しつつ、アルマ奪還計画を中止に持っていくだけだ。


「くはははは。楽しくなって来たじゃなえぇか。よだれが止まらねぇぜ」


「汚いです先輩」


「ものの例えだよ!」


 ホント楽しいなこの人達。



   * * *



 ウチら四人はその後も定期的に会い、計画中止への算段をまとめて行った。平依存さんが調べてくれたが、学長は今のところ特に十七委員会とは接触していないらしい。やはり特異個体をネブルに入れ、危機感をあおってから交渉に入るという訳か。となるとウチが正規軍人になるまでの数か月、まだ余裕はある。


「十七委員会への交渉は、早い方がいいねぇ。これだけの材料がそろってんだ。シーエちゃんを防衛兵器にするって案も通ると思うぜ?」


「それは有り難い! 是非ともお願いします」


「ただ、そうはいってもやっぱシーエちゃんは機械だ。あそこのじじい共は頭は良いが極度の怖がりが多くてな。まぁ俺も保守派だから気持ちは解るが、思考する機械、特にヱレームと思わしき機械を陸羽に置いておくってぇ案には、少なからず反対は出るだろうよ」


「ですねー」


「だからこそ、シーエちゃんの危険性の無さを訴える必要がある。もちろん俺だけで交渉も出来るが……話してる限り、シーエちゃんなら行けると思うんだよなぁ。十七委員会との直接交渉。どう、やってみる?」


「そんな「今夜飯いく?」的なノリで……。でも正直、ウチも説き伏せる自信はありますよ。たぶん過去に何度も、似たような事は経験してる。


「そりゃぁ頼もしい!」



 もうすぐ軍学徒も終了。ウチは換装士になる。……その前に、一つの決着を迎えてやろうじゃないか。

 ウチは平依存さんの案内で、十七委員会との直接交渉の場に向かった。

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