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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
IF7話 救世主は世界しか救わない
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IF7話-04 特異個体

 何故タカ式はこんなにも出現するのか? 新型だがもしかして量産機なのだろうか? こんなのが複数いるなど想像もしたくないが。


「俺が倒す。お前たちは防御陣形を──」


 淘汰氏が指示を出している間に走り出すウチ。ウチが換装している夬衣守は見た目こそ量産機の代替に見えるが、性能はバニ様チューンナップのプチ固有機だ。アームにはアンテナの役割も有り、いざとなれば変態宣誓に似た効果も発揮できる。もちろん固有機の変態宣誓に性能は劣るが。ただ各種能力は通常の代替よりも高くなっており、駆動部に関しても施されたカスタマイズのおかげで他の軍学徒よりも早く動くことが出来る。


 ウチが走り出す目的は二つ。一つは勿論バニ様と事前に練っていた計画。もしてもう一つは……荷電粒子砲だ。


「待ちなさいシーエ訓練兵!」


 ウチを追うという自然な形でナジェージダが付いてくる。

 現地の対応はナジェージダに任せてウチはタカ式を観察する。口が開き、砲撃の準備が整いつつある。


「っらあ!」


 砲撃の瞬間、ウチはその場で急停止、偏差射撃を避ける。やはりタカ式はウチを狙っているのか、ウチ付近に砲撃が飛んできた。砲撃はそこそこ正確ではあるものの、流石に距離があるからかウチが走っていた先よりは少しズレていた。これならずっと走っていれば意外と当たらないかもしれない。ウチが皆の集団から離れる事で、砲撃の矛先はずらせそうだ。

 ウチは再び全速力でタカ式の元に向かう。


「淘汰! 私はあの軍学徒を追うわ! 街抗換装士が二人も抜けたら残りの軍学徒を守る戦力が減る。あなたはここに残って!」


「命令違反をして動く軍学徒など助けにいって何になる。俺ならあれくらいの雑魚、瞬殺できる」


「全軍学徒の安全を優先せよって御劔学長の命令忘れたの?! 違反はしてるけどそれが確定するのは審議の後、今は彼女も護衛対象よ! それに!」


 ナジェージダが指をさす先には、サソリ式を始めとした多数の小型ヱレームが集まってきていた。ウチは強化網膜で情報を共有しながら、ひたすらタカ式への距離を詰める。


「この状況、先月の状態に似てるわ! 小型の群れから軍学徒を守らないと! 大型があれ一体とも限らない。アンタの戦力はいるわ!」


「……くそ、解ったよナジェ。なら俺はこちらの軍学徒の護衛にまわる。……タカ式はお前なら止められるな?」


「もちろん!」


 問答を終え、ウチに近づいて来るナジェージダ。うまく淘汰氏をいなしてくれてよかった。


(……早いなぁ)


 こっちがカスタムしてるとはいえ、性能のしょぼい代替ベースに対し、ナジェージダの換装してる夬衣守は固有機《怠惰なる光》。スペックが違いすぎる。もちろんスペックだけではなく操縦しているナジェージダの技量もとんでもないが。


(タカ式と接敵する頃には丁度合流できるか)


 案の定タカ式は砲撃だけでなく、航路もウチを目指して変更している。

 目的の穴まで、あと300m。採掘場所が穴とは別方向に有ったので到着までが遅れそうだ。このままでは穴の前に接敵する。



 穴まであと200m、150m、100m……接敵!



 轟という音と共にタカ式は地面に着地。着地時にウチをひき殺そうとしたが、ウチは持ち前の運動神経で避ける。このくらいの戦場、エムジと共に何度も掻い潜ったさ。記憶には無いのに、魂は覚えている。彼と駆け回った戦場を。


「じっくり実験させてもらうぞ、糞野郎が!!!」


 罵声を浴びせながら穴の方に移動するウチ。タカ式も歩行しながら寄ってくる。

 穴に突き落として、隅々まで調べさせてもらう。その上で逆電子汚染にかけて、ボロボロになるまでぶっ壊してやる!!


 ウチにしては珍しい怒りを自覚しながら、タカ式の攻撃を掻い潜る。珍しい……頭痛前のウチは色んな事に怒っていたが、今はそうでもない。しかし、タカ式に対しては別だ。こいつは……エムジを殺したのと同型の個体。


「ぶっ殺してやる!!」


「威勢だけはいいわね!!」


 ナジェージダも合流し、タカ式に攻撃。ウチはタカ式に触れられないので、ある意味でタカ式の護衛が彼女の仕事だ。タカ式が攻撃のためにその足を突き出したが最期、このヱレームは逆電子汚染され止まってしまう。ので、ナジェージダがウチに当たりそうな攻撃をいなして行く。


「友人の仇でもあるんでね!」


 エムジや吏人達を襲った個体がコイツかは解らないが、同型には変わりない。こいつらさえいなければウチは誰も失うことなど無かったのに。


「機械のくせして人みたいに友情とか語んないでよ」


「残念ながらあなたが学長を愛するのと同程度には愛も恋も友情もわかりますね。あ、あなたより上かも?」


「あぁ?! 私の愛の深さをバカにしてんのか!!!」


「ウチのエムジへの愛を馬鹿にしないでください」


 もはやある種の軽口の応酬の様なやり取りをしつつ、タカ式を導く二人。ナジェージダはウチにキレてはいるものの、動きは正確無比。流石は街抗換装士だ。


 あと50、40、30、20、10……ここだ!


「落ちろ糞ブリキ!」


「サァァァァァイ!」


 ナジェージダがタカ式に一閃。と同時にウチが拡散銃を連射し、タカ式を強制的によろめかせる。弾なら逆電子汚染が起きないことは前回のアルマで学習済みだ。バランスを失うタカ式。


「よし!」


 ウチら二人は第一目的地である穴に、タカ式を落とす事に成功した。



   * * *



 タカ式を落としたのもつかの間、ウチらは急いで穴に飛び降りる。タカ式には羽がある。あれで飛ばれたら全てがオジャンだ。だから


「くたばれええええ!」


 ナジェージダの攻撃が地面に激突したタカ式に炸裂。斬撃は羽の付け根を綺麗に切断し、飛行能力を奪う。


「よし! これならしばらくは飛べないわね!」


「なら後はひたすら逃げてクロムシェル内に入れるだけだ。確か200m程進んだ先に貫通階層があるんですよね?」


「そう。そこにもう一度落とせば100mくらいはアルマから遠ざけられるわ」


 現在の理論では100mもクロムシェルに潜ればネットワーク端子は入ってこれなくなる。それでも動ければセロルちゃんの説は証明されることになる訳だ。


「しっかし、小型も付いて来て鬱陶しいわね」


 タカ式の周囲には一緒に落ちて来たサソリ式と共に、周囲には飛行する小型が群れていた。見た事無い型だな。みたいだ。一機一機はちいさいものの、小型ながら砲撃機能があるのか、攻撃が鬱陶しい。


「可能なら小型も一緒に連れて行きましょう。タカ式が特異個体なら、小型も動ける証明になる」


「機械風情と一緒にクロムシェルの散歩なんて、気が進まないわね」


「それはウチに対して? それともヱレームに対して?」


「どっちもよ!」


「それは失礼」


 ともかく、まずは移動だ。



   * * *



 そのまま順調にウチらはクロムシェル内を移動。ガ式──小型の飛行式を仮にそう呼ぶことにした──が鬱陶しかったが、救世主である歴戦のウチと街抗換装士の前には大した障害ではない。ウチとしてはガ式に触らない方が難易度が高いが。


 タカ式は体が大きいから、クロムシェルの小さい通路は動きにくいらしく、対した脅威にはなっていない。時折荷電粒子砲が飛んで来るものの、夬衣守装備の二人には撃つと解っていれば避けるのは容易。おびき出しは順調だ。

 ガ式の砲撃も数が少ない事も有り、歴戦の二人の前では大した脅威ではない。


「貫通階層に来た。先にウチが下りるんで、もし後を追って来なかったら突き落としてください」


挿絵(By みてみん)


「私に命令するな機械風情」


「以前の打ち合わせを思い出せ! 今は任務に私情を挟むな」


 エムジを、吏人達をやられた怒りを抑えきれてないウチが言うセリフでも無いが……。まぁ今はナジェージダに協力してもらう他無い。



 ともかく、ウチは高さ100m程ある貫通階層を飛び降りた。階層の側面に腕をひっかけつつ速度を落としながらの落下。しかしタカ式は……


「マジかよ」


 何の対策もせず躊躇なく貫通階層を飛び降りて来た。慌てて壁から手を放つ。間一髪でタカ式に押しつぶされず、回避する事に成功する。

 床に激突したタカ式は大部分を破損しならがも、ウチらを追う姿勢を崩さない。まるで1カ月前に出会ったアロイジウスの様だ。コイツ等は有機生命体殺害のためなら自分の命だの惜しく無いのだろうか。


(まぁ狙いが違法端末であるウチの可能性も大だけど)


 つかその方がおおいか。

 しかし──



「タカ式、止まらないっすね」


 後を追って来たナジェージダと言葉を交わす。いきなりタカ式が飛び降りたものだから焦った様だった。


「はぁ、はぁ、そうね。ふふ、これでネブルの安全神話は崩れるわ。保守派共が慌てる姿が目に浮かぶようね」


「……」


 こいつもか。こいつも、革命の為なら、アルマ奪取のためなら、ネブルの危機を利用する気なのか。

 虚灯うらかしのメンバーはどいつこもいつもこんなヤツばかりなのか。はぁ。


(バニ様は違うと……思うけど……)


 喜ぶナジェージダとは対照に、クロムシェル内で動くヱレームにウチは恐怖していた。ウチが勝手に進めてる計画的にも、特異個体の存在は証明された方が良いのだが……それはネブルが危機にさらされる確率が上がるという事だ。ネブルが平和なら、それが一番なのだから。


「……映像取ってますか?」


「もちろんよ。撮り逃す訳ないでしょ」


「タカ式はまだ活動してます。少し逃げて様子を追いましょう。周囲の小型を観察したい」


 タカ式が動いているのはある意味想定内だが、タカ式についてきた周囲の小型の動きが気にある。タカ式付近にいるサソリ式やガ式は未だ稼働している。


(ここはアルマの地下100mだぞ……)


 普通ならネットワーク端子は入ってこない。ヱレームは活動不可能なはずなのだ。やはり特異個体、タカ式からネットワーク端子が出ているのか。


(でも動きは遅いな)


 アルマで活動していた時に比べ、周囲のヱレームの動きは鈍かった。タカ式が放出するネットワーク端子量はアルマで観測される端子よりも少ないという事か。

 タカ式自体の動きもクロムシェルに落とした時に比べ、鈍く感じる。ただ100mの高さを落下したことによるダメージの可能性もいなめないのそこは判断しにくいが。


 ウチとナジェージダはしばらくクロムシェル内を逃げてみた。タカ式は鈍く、落下時のダメージで荷電粒子砲も故障したのか、脅威ではない。

 周囲の小型も、タカ式の側にいる個体は稼働しているが、距離が離れた個体は活動を停止してる。


「これは……やっぱりタカ式、特異個体がネットワーク端子を放出してますね」


 ただタカ式周囲にいる個体も動きが機敏ではない。アルマにいる時よりはネットワーク端子の量が少ないのだろう。


「そうね……。じゃあそろそろ、このブリキどもを片付けようかしらね」


「了解」


 ウチとナジェージダは軽い足取りで周囲のヱレームを破壊していく。ウチは剣先で触れるだけ、ナジェージダは超絶的な操縦技術により確固周囲のヱレームを全滅させた。


「タカ式はウチが止めます。ネットワーク端末がある状態で、調べたい事があるんで」


「聞いてるわ」


 全身ボロボロでもたつくタカ式に、振動ブレードを差し込む。それだけでタカ式は機能停止した。

 停止までに少し時間がかかったので、やはりウチの逆電子汚染は大きさに比例するらしい。



   * * *



『こちらナジェージダ。タカ式の掃討は終わったわ。逃げた軍学徒も保護した』


 ナジェージダが淘汰街抗換装士に連絡をしてる際に、ウチはフィラメンタに入る準備をする。


『……なるほど。それは驚きだけど……やっぱりあんたを置いて来て正解だったわ』


「ナジェさん、アルマで何かあったんですか?」


「気軽にナジェさんとか呼ばないでくれる?」


「ナジェージダって名前長いねん。ぶっちゃけウチ、会議室でのひと悶着を快く思って無いんで敬称付けるのもめんどいし、ナジェージダって呼び捨てで呼んでも? あなたもウチも快く思って無いでしょ? 痛み分けでいいじゃないですか」


「絶対に嫌。二人の時もせめてさん付けはして。本来は立場も年齢も、こっちが上なのよ」


 ウチはバニ様が偶然作った端末という設定になっている。別にクロムシェルで見つけた言えばいいのにと思うが、名誉権室長が勝手に一人でクロムシェル行ってたのバレたら良く無いのだとか。それに外部で見つけた機械よりも、ネブルに置おいて信頼のある技術者が作った機械という方が民衆の指示も得やすいという事から、こういった設定になってる。

 ウチの識別名称は《技巧端末》。バニ様が当初考えていた救世主に対する仮説、人格を持つ機械を作るとそれがヱレームへの対抗手段になるという仮説が、うまく行った例として虚灯には説明されている。真相を知るのはバニ様と学長だけだ。

 ウチが出来たのは偶然で、量産は無理。だからウチ一人を使ってアルマを攻略しようというのが虚灯の目標なのだが……どうなんだろうねぇ。


「年齢は上でも、計画の立場ではウチの方が上だが?」


 本当は年齢も絶対ナジェージダより上だが、バニ様が開発したという設定上ウチの年齢は4歳強という事になっている。バニ様がウチとエムジを発見したタイミングで、発明に成功したという設定だ。


「……っち」


「つーわけでよろしくナジェさん。んでアルマでは何が?」


「……もう一機、タカ式が現われたそうよ」


「な?!」


 驚愕の事実に固まる。やはりこの特異個体、一体ではないのか……こんなのがゴロゴロいるのがアルマ、そして集まってるのが機都。……眩暈がする。


「淘汰が一人であしらったらしいから、大した被害は出てないみただけど」


「大した? 被害は出たのか?」


「いいから! アンタは今は自分の仕事を優先しなさいよ!」


「……確かに。今知っても何も出来ない。やる事をやろう」


 心は不安でいっぱいだ。あの地獄を生き残った同期達。彼等に何も無いと良いのだが……。


「あとアルマの小型、サソリ式達ね。淘汰がタカ式を撃破したら明らかに動きが鈍ったそうよ」


「淘汰氏がタカ式を撃破したのはいつ頃です?」


「私達と別れて割とすぐ、二体目のタカ式が現われたみたいだから、たぶんこっちのタカ式が貫通階層を落ちたくらいかしら」


「となると、やっぱりタカ式はネットワーク端子を放出してますね。こっちのタカ式の端子はクロムシェルの構造上、アルマには届いて無い。アルマ上のタカ式が壊れたら周囲の小型が鈍ったって事は、そういう事なんだろう。ネットワーク端子の総量が減った」


「でしょうね」


 ますます厄介だな。特異個体。こっちのタカ式も平気でクロムシェル内を動いていた。ネブルの安全のためにも、コイツ等には対処しなければ。


「んじゃこれからはウチの仕事か。しばらく意識失いますが護衛頼みますね。ヱレームは来ないでしょうけど回帰機構が突然動き出しても不思議じゃないから、クロムシェルは」


「わかったわ。……はぁ、私が機械の子守なんて、冗談じゃないけど」


「大好きな学長の命令を無視する気ですか? 貴方の愛も浅いですね」


「一々癇に障るブリキだな!」


「あはは。癇に障らない機械なんているんですかね、ネブルの民にとって」


 とまぁ、ナジェージダとのくだらない会話はそこそこに、ウチはフィラメンタに潜り、タカ式にアクセスする。さてさて、どんなデータが拾えるやら。



   * * *



 いつも通りの極彩色の空間に、ウチは浮いていた。


挿絵(By みてみん)


(そういえばフィラメンタ内って、衣装の変更も自由なんだな)


 ここは恐らくデータ空間。自分の姿もポリゴンモデルであろう。衣装も夬衣守換装用スーツでは無かった。

 現在のウチはタカ式の中に潜っている状態。アルマでアクセスした際やバニ様の研究室と違い、現実的な造形物は見られない。

 無数に浮くデータの中から必要なものを見つけ、情報を集めねば。


「目指すは、ネットワーク端末か」


 今現在のネブルのヱレーム学ではネットワーク端末がヱレームの脳と考えられている。そこにアクセスすれば何かしら情報がもらえるだろう。


 漂うデータをかき分け、ウチは端末を探す。そしてそれは、意外と早く見つかった。


「……でかい」


 膨大な量のデータが渦を巻いている。恐らくこれがネットワーク端末の内部。まずは近づいて観察してみよう。


「どれどれ……レイベニウス、デノ、アンティル。こいつの名前か?」


 アロイジウスにも名があったように、このタカ式にもあるのだろう。もしかしたら体のどこかに刻印されているかもしれない。


「表面だけだとこれ以上は解らないな」


 データがひも状に絡まってるような状態だ。それぞれを見るためにはそれこそひも解く必要がある。ので、ウチはデータの固まりに触れてみたのだが……



『──Filamenta Cloud Connect Please.』



 突如響き渡る英語。ウチが発した訳では無い。これは、このデータの、ネットワーク端末の中から聞こえた声だ。


(フィラメンタクラウドコネクトをお願いします??)


 ここはすでにフィラメンタではないのか。クラウド? 雲を意味する単語だが……機械用語では違う意味もある。外部にあるデータベースの事だ。フィラメンタはクラウドなのか?


 というか、何故この声は聞こえて来た? タカ式は今機能停止してるはずでは。

 バニ様の動画を見た時とは違う。データ再生で声が聞こえた訳では無く、直接端末から発せられた声。つまりタカ式が機動している??



『FilamentaCloud has failed to form and is unable to connect to the AMOS server. We will form a new Cloud. Existing history discovered. Are you ready to connect?(フィラメンタクラウド形成不能。AMOSサーバーへ接続ができません。新規クラウドを形成致します。既存履歴発見、接続してよろしいですか?)』



 再度発せられる声。確実にタカ式が、タカ式のネットワーク端末が再起動している証拠だ。それにしても情報が多い。

 フィラメンタクラウド形成不能? ウチがネブル内でフィラメンタに入る際、周囲にポリゴンが展開されていったが、あれのことか? フィラメンタを作れる端末なのかウチは?

 いやタカ式は形成不能とワザワザ発言している。つまり通常なら形成可能なのだ。通常と今の違い……アルマにいるか否かだ。アルマ上ならば形成可能なのだろうか。

 特異個体がネットワーク端子を発生させられるとしても、その量は周囲の小型の動きの低下を見る限り低そうだ。今このクロムシェル内はアルマほど端子が遍満していないのだろう。

 端子とフィラメンタは関係がある?? フィラメンタはヱレームの通信基盤の様なものだと以前仮定したが……もしかしてネットワーク端子は電波みたいなものなのだろうか? ラジコンを動かす際の信号の様な……それにヱレーム以外の機械が触れると誤動作を起こすという。


 となればAMOSサーバーは電波塔の様なものか? サーバーと言ってるし、アクセスをする対象だ。AMOSサーバーから電波、ネットワーク端子が放出され、各ヱレームは起動する。その他にタカ式の様な特異個体が存在し、各自電波を微弱ながら放出する。これがヱレームの駆動メカニズムなのか? その通信の際に形成される世界がフィラメンタ。

 だからクロムシェルにいる今、電波が届かない今、タカ式はフィラメンタを形成できない。

 そう考えるとクロムシェルがネットワーク端子を遮断するのも理由は簡単だ。電波は金属の壁を貫通しにくい。巨大な金属塊であるクロムシェルに端子が入ってこなくても不思議では無い。


 そして次に気になる単語。新規クラウドの形成、接続。クロムシェルに閉ざされネットワーク端子が無い今、いったいどこにそんなものが……

 あ。



(ウチ……か?)



 ウチは元々自分を改造されたヱレームとにらんでいたが……。ウチがタカ式よりも高次元の特異個体で、なおかつ故障ないしは人に改造されたヱレームと言う説が正しければ、ウチは常にネットワーク端子を放出している事になる。

 ラジコンよろしく放出する電波の周波数は違うのだろうが、もし接続が出来るのだとしたら──



『New Cloud──Hello(ようこそ、新しいクラウドへ)』




 フィラメンタ内に形成される、新たなクラウドが。アルマで触れた雲の様なモヤが。そのモヤがだんだんと人の形を成して行き、そして……



「……ウチは、超特異個体のヱレームか」



 シルエットが完全にウチの姿になった瞬間、フィラメンタは爆発的に脈動しだし、ウチは弾き飛ばされた。

 慌てて接続を遮断し現実に戻るとそこには……


「な?! どういう事よブスブリキ!」


「どういう事でしょうねぇ」


 あえて情報は渡さないが、ウチにはある程度の確信が得られた。一か月前、クロムシェル内でウチらを襲って来たエレーム、アロイジウス。奴がなぜあの集落に入ってこれたのかは特異個体という証明がなされた今謎は解けたが、解けてない謎はもう一つあった。



 奴は何故、再び起動したのか──



 タイミングが良すぎる。ウチとエムジが発見した際に動き出すなど、まるで小説の舞台装置だ。動いたのには理由がある。

 回帰機構の移動による一瞬の亀裂からネットワーク端子が入ったのかとも想像したが……そもそも特異個体周辺の小型ヱレームを見るに、ネットワーク端子が多く無いと動きは鈍る。一瞬端子が入って来たくらいではあんなに激しく動ける訳無いのだ。

 それこそ、様々な障害物に遮られた状態でラジコンを動かすがごとく。少しでもラジコンが動いて電波を受信できなくなったらラジコンは止まってしまう。

 なら何故アロイジウスは動いたのか。簡単だ、電波を出してる存在が近くにいたのだ。だから動けた。その電波は、正常起動しているヱレームには毒になるが、一度毒に犯されて、もしくは端子切れで活動停止した個体にはむしろ駆動の為のクラウド形成を助ける様で……。



 目の前で再度起動を始めたタカ式を見ながら、ウチは自分が発している毒は、種類が違うネットワーク端子なのだとはっきりと自覚した。




■ガ式ヱレーム


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


デザイン:歯車ラプト 3Dモデル:Deino



■ヱレーム図鑑


挿絵(By みてみん)


イラスト:歯車ラプト

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