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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
IF6話 破滅へ向かう計画
32/48

IF6話-05 偽りの家族でも

 目が覚めた。とういか、フィラメンタから帰還した。ただウチの躰は意識を失ってた様に倒れてたので、はたから見たら目を覚ました様に見える。


 目の前にはフィラメンタに入る前の部屋が広がっていた。



挿絵(By みてみん)



「シーエちゃん!! 大丈夫?!」


「……もう002とは呼ばないんか? バニ様」


「な! ……アンタ、それが25分もオロオロしながら待ってたアタシに対するセリフ?!」


「ごめんごめん。ただいま、バニ様」



 ……25分。映像の再生時間と同じくらいか? 速読みたいに映像をデータとして読み込んだ訳ではなく、中で観覧してたのか。


「それで大丈夫なの? 計画説明は明日にしましょうか?」


「あぁたぶん大丈夫。機能を少しずつ取り戻して行ってるだけだと思う。それに計画もOK。……全部見て来たよ」


「見て来た?」


 ウチは疑問に思うバニ様に、中で見た映像の件を知らせた。


「じゃ、じゃあシーエちゃんはそこのニューロンデバイス接続装置からデータにアクセスしたってこと?!」


「たぶん」


「凄い……そんな事が出来るなんて……。見たのはアタシが記録した過去の映像だけ?」


「そう。他にデータは見当たらなかった」


「この部屋はその気密性から、他の研究所やデータバンクとは隔離してるのよ。だから他のデータは見当たらないのね」


 ……つまり、データが繋がってればウチは何処までも潜れる訳だな。もちろん観覧には現実と同じ時間を要するし、たぶんデータ探すのにも時間がかかるんだろうけど。なんか、もっと機械なんだからさ、スっと頭にインストールとか出来んのかね? 変に人間臭いなウチの機能。



「それで、映像を見て来て、シーエちゃんどうだった?」


 バニ様は優しい顔でウチに問う。


「……エムジが、笑ってた。最初はつらそうだったけど、ウチが機動してから、とても、とても幸せそうだった」


「そうね」


「エムジは、途方もなく長い時間、一人でクロムシェルで待ってた」


「うん」


「それをバニ様が見つけてくれて、ウチを起こしてくれて……ありがとう、ありがとうバニ様」


「いいのよ。アタシも研究欲のためにあなた達に関わったんだから」


 そう言いながらも、抱きしめてくれるバニ様。暖かい。偽りの記憶だけど、家族として過ごしてきたバニ様。ウチが機動してからの三年、軍学徒としての記憶を入れてからの一年、その間に、たぶん本当の家族の様になれたのだろう。


「シーエちゃんは責任を感じなくて良い。……まぁそうは言っても難しいでしょうけど、エムジちゃんにとってはこの四年、宝物の時間だったはずよ」


「うん……」


 ウチは泣きながらバニ様にしがみつく。

 逆だったらどうだろうか。故障したエムジを抱え、直る保証も無い中、暗い部屋で数千年~数億年、時間の計算が出来ない程待つ。そしてそこにエムジを直してくれる人が現れ、再びエムジと会話が出来る。そのエムジはだんだんと元のエムジに近くなっていき、一緒の時間を過ごせる……


 嬉しいに決まってる。嬉しいなんて言葉じゃ表現しきれない。エムジを失った今ならその有り難さがより解る。それこそ、エムジにとってバニ様は救世主だ。地獄の時間から解放してくれた、神に等しい存在だ。

 ありがとう。ありがとう、バニ様。


「だから、アナタは幸せになりなさい。エムジちゃんのためにも。彼はそれを望んでたんだから。シーエちゃんのためにヱレームを駆除しようと、アルマを手に入れようとしてたんだから」


「うん、うん……」


 様々な場面でウチを守ってくれたエムジ。最期の天馬の時も、こっそりウチを守ってくれたエムジ。たぶんもう失いたくなかったんだろう。ウチが穴の記憶に恐怖してるみたいに、エムジは、ウチを失う事を恐れた。

 だからウチは、エムジのためにもウチ自身を失ってはいけない。アルマではミカヌーに寿命が来たら自殺しようかとか考えたけど、だめだ。エムジのためにも生きなくてはいけない。ウチなりの幸せを、手に入れなければ。


(ウチの、幸せ……)


 一言で言えば大切な人と共にいる。ただそれだけだ。そんな時間が幸せなんだ。今はもう、大切な人の一人であるエムジはいないけど……でも、まだバニ様とミカヌーがいる。今後生きて行けばそんな人は増えるだろう。彼等と長く共にあること、それがウチの幸せだ。失う経験を幾度も重ねた結果たどり着いた、ウチの安寧だ。


「バニ様、計画について詳しく聞きたい」


 だからこそ、今は進みつつあるアルマ奪還計画の見直しが必要だ。



   * * *



 計画の概要は映像で見たので、現在は計画の進行度と、今後の方針を聞いた。


「計画に関しては正直、景織子ちゃんもいないと全ては語れないわ。アタシはあくまで技術面のサポートだもの。プランの共有はしてても、芯髄は景織子ちゃんに聞かないと解らないわ」


「もちろんそれでいいよ。今夜中に全てわかるとは思って無い。あ、バニ様夜遅いけど大丈夫? 眠かったら明日でも」


「いやここまで来たんだから今にしましょうよ。アタシだってエムジちゃんのためにも、少しでも前に進みたいもの」


「そっか、ありがと」


「それにこれから数日はたぶん、アタシは忙しくなるわ。それは景織子ちゃんもだけど……。軍学徒達の遺体回収に葬儀、今後の軍学徒校の予定調整。アタシは天馬の状態も見ないといけないし、街抗換装士がやられるレベルのヱレームの分析もしないといけない」


 これは後の話だが、軍学徒に生き残りがいたのでバニ様はヱレーム研究のために生存者から情報収集して実際忙しくなった。計画の件はこの日の夜にやっておいて正解だった訳だ。

 それにしてもやっぱり、逃げるって重要だな。タカ式の情報も逃げた軍学徒から得られた訳だし、吏人達も、逃げていてくれれば……。

 ……一人逃げたウチにはそんなこと言う資格無いか。


「計画は今、どんな状態?」


「まだまだ序盤ね。まずはシーエちゃんを換装士にしないといけないから。景織子ちゃんが考えてるアルマ奪還計画、シーエちゃんが電子汚染抑えられる事を前提としてるから、まずはシーエちゃんがアルマに出られることが前提ね」


 その前提がとてつもなく怖いが……


「ウチ一人が電子汚染を浄化できるとして、それだけで機都を攻略できるとは思えないんだけど……」


「そこはアタシの出番ね。どこかの集落の天才科学者みたいに、シーエちゃん自身を作る事は出来ないけど、シーエちゃんの浄化機能を応用する事なら出来る」


「……というと?」


「シーエちゃん専用の夬衣守を使って、シーエちゃんの能力を周囲の換装士にも付与できるシステムを作ってるわ。っていうかもう出来てる」


「えぇ?!」


 バニ様が言うには、ウチ専用の固有機、背中にアンテナの付いた夬衣守を使って、他の換装士にもウチに似た能力を付与する事が出来るらしい。また夬衣守は各個人の脳を使って動かす寄生兵器だが、ウチがリンクをしてあげることで換装士が夬衣守を動かすリソースをウチの機械の脳で処理し、機動性能を上げる事も可能だとか。

 簡単に言うとウチ周辺にかかるバフである。もうその夬衣守出来てるってどういうことだよ。


「名前はずばり、《変態宣誓》!」


「ふざけ過ぎじゃない?! その名前!!」


 いや面白いしウチは好きだけどさ。というかウチの固有機って、ウチを街抗換装士にでもする気か? 今のところ固有機は街抗換装士しか所持してないが……。いや、ウチをネブルのヒーローにするなら、街抗換装士の肩書はむしろプラスか。うわーなりたく無い。


「電子汚染とネットワーク端子には深い関係があると踏んでるんだけど、もしシーエちゃんの汚染浄化能力がネットワーク端子にも影響するなら、変態宣誓を使って周囲のネットワーク端子を浄化して、ヱレームの動きを抑える事も出来ると思うわ」


 ……それは出来そうだな。ヱレームに触れただけで奴らは停止した。ウチの能力を外に放出するのが変態宣誓という夬衣守なら、ウチがいるだけでヱレームの動きを鈍らせる、もしくは停止すらできそうだ。

 味方へのバブと、敵へのデバフ、双方を合わせた兵器になるのか、ウチ。ウチがアルマ奪還賛成派なら飛びつく性能だな。


 バニ様には悪いけど、一旦この情報は伏せておこう。現時点ではまだ、ウチしか知らない。ウチがヱレームを逆電子汚染出来る事は。


(そこから逆説的に考えれば、ネットワーク端子と電子汚染はほぼ何らかの相互関係を持ってるな)


 もっと勉強して、頭良くなろう。


「ネブルの民が下りられなくなる理由って、思いついたのか?」


「いや、それはまだね……アタシ達三人、アタシと景織子ちゃんとエムジちゃんね。三人は定期的に集まってアイデア出してたけど、ちょっと難しいわね。あなたが前に撮って来たクロムシェルで活動するヱレームの映像は、少し使えるかもしれないけど、ちょっと弱いわ」


「あー見たのねあれ」


「ええ」


「ねぇ、見せてもらってもいい? データある?」


「アタシのタブレットにコピーした映像が入ってるわね。……一緒に見ましょう」


「うん」


 フィラメンタでアクセス出来なかったのは、バニ様のタブレットが物理的に部屋の回線につながって無かったから。バニ様のタブレット内も機密情報だらけだろうから、どうせオフラインになってるはずだ。

 バニ様はタブレットを操作し、目的の映像を見つける。そして


「よいしょ」


 エムジの昔の躰に寄り掛かる形で座る。「シーエちゃんもおいで」と。

 ウチらは二人で、エムジが残した映像を一緒に見た。



   * * *



『っしゃ! シーエ! 今の内に下層まで逃げるぞ!』

『現実を見ろ! 盗賊にさらわれた町娘だろうが!』

『調子に乗るんじゃねぇぞファッキンブリキ……俺のシーエに、んな汚ねぇ刃をぶっ刺そうとした罪……重ぇぞ?』

『馬鹿野郎くクククククるなッ!』

『ふざけんじゃねぇぞ!! シーエ!!』

『当たり前だ。むしろお前が死んだあと、俺は悠々自適に過ごすつもりだよ』


 映像はエムジの視点で録画されている。だから彼の姿は映らない。その代わり、ずっと彼の視線に先にいるのは──ウチだった。


(鉄くずにならないって、言ったじゃないか)


 ずっと、ずっとずっとウチを目で追っているエムジ。ウチを必死に守ろうとしているエムジ。


(「俺のシーエ」……。そうだよ、ウチはお前の物だよ。ずっとずっと昔から、お前が守りたかった、大切な機械だよ)


 データ収集と考察が目的だったのに、ウチはまた泣いていた。隣を見るとバニ様も。……ウサギの頭巾から涙出てるがどうなってるんだろうか。もしかしてバニ様の頭部は既に無く、この機械式頭巾に脳だけ入ってるのかもしれない。神経で動かす機械は夬衣守や義肢等、色々存在している。バニ様が肉体改造してても不思議は無い。


「ありがとバニ様。エムジの声、聴けたよ」


「うん。何度も言うけど、エムジちゃんにとっての幸せは、アナタの幸せだからね」


「そうだな」


 これだけの状況証拠がそろっちゃったらな。


「映像、本当はシーエちゃんにあげたいんだけど、気密性が高いから……見たくなったらアタシが忙しく無ければいつでも見せてあげるから、言ってね」


「うん。ありがとう」


 ホント、優しいよなこの技術者。



 さて、それとは別に気になっていたポイントのおさらいを……


(『Ideteted the hight-level singularity──高レベルの特異点を発見』)


 ……特異点? 物理学用語だよな。ある基準の下においてその基準が適用できない点や対象の事。何の基準だろうか。


(『An extrmination is cancelde. I Refer to registraion information of "A.M.O.S-Server". searching,……Error.Without terminal informaition relevance,A target is "illegal terminal" 送信をキャンセルします。A.M.O.S-Serverの登録情報を参照して検索すると……エラーが発生します。端末情報の関連性がない場合、対象は「不正端末」です』)


 ウチはヱレームが発した英語を翻訳していく。三度目の頭痛で英語が解る様になった。これは人間の話だが、記憶喪失を起こしても大抵の場合は言語は忘れない。ウチは機械だからその限りではないが、英語も覚えていたのだろう。英語が何かは知らないけど。


(送信をキャンセルって言ってるな……。何に送信しようとした? アムオスサーバーを参照とも言ってる。何かしらと通信してるな、エラー起こしてるけど。古いから? それともクロムシェル内だから? 不正端末はアルマ上のフィラメンタでも言われた。不正以外の端末もあるなもちろん)


 ウチが不正端末で、端末情報の関連性が無い。つまり関連性がある端末は正常端末な訳だ。ヱレーム同士が通信してる可能性は大だよな。やっぱウチ、改造されたヱレームなんじゃないかな? 不正だろうが正式だろうが、端末としては認識されてるワケだし。


(となるとウチがネットワーク端子の無いクロムシェルで活動出来るのはよくわからんが)


 エムジはただのAIだが、ウチはヱレームに関連した何かの様な気がするんだよな。現時点ではまだわからん。


(『Protextion application is cancelde and an extermination is begun. 停留申請をキャンセルして駆除を開始する』)


 つまりアロイジウスはウチが何者なのかを参照し、不正と判断したので駆除に取り掛かったのか。エムジも記録の中で言ってたな。ずっとヱレームに追われてるって。不正端末はとりあえず駆除しとけ、がヱレームなのか。


(『It was parallel eith the distinction name "comrade murder"."First-rateness illegal terminal".Ishift to an extermination mode. "同志殺人 "という区別名と平行していた"第一級違法端末" 駆除モードに移行』)


 ……第一級違法端末が同志殺人と紐づけられている? これはエムジに向かって荷電粒子砲を浴びせようとアロイジウスが動いた際に発した言葉だ。ウチとエムジはヱレームから同士殺人という指名手配を受けている様なものか?

 そりゃ、各集落でヱレーム倒しまくってたら警戒されるよな。追われるのも当然だ。


 ……こりゃ確実に、ヱレームに知能あるな。ウチらみたいな感情まであるかは解らないが、単なる殺戮機械じゃない。情報を共有している。


 となると、ますます機都攻略なんて難しくなるわけで……



「確かにこの映像だけじゃ、ネブルの民を動かすには弱いな」


「そうなのよねー」


 ウチは話を戻す。


 クロムシェルで活動するヱレーム。ネブルの常識では十分脅威なので、学者や危機感のある人間ならこの映像だけで恐怖させるには十分だが、民衆はそうでもないだろう。なんてったって非常にアルマに近い位置にある集落での出来事だし、超老朽化してたし。

 それに脅威ではあるが、「だから機都ごと潰そう!」とはならないだろう。フィラメンタ内でも考えたがそんなもん、地震が怖いからプレート止めよう作戦みたいなものだ。いくらウチにバフ&デバフ効果があっても敵の数が違う。億単位のヱレームがいるんだぞあそこ。

 ちなみにプレートって概念は頭痛と共に思い出した。どこで知ったのかは解らないが、地球──ウチらが住んでいる星の内部にある構造の一つだ。


 そんな荒唐無稽な機都殲滅より、むしろウチをネブル防衛に回した方がいい。変態宣誓の能力が無くともウチはヱレームを止めたし、電子汚染を浄化できるのだ。ネブルに侵入したヱレームの駆除も、汚染されたシステムもウチなら対処し放題。変態宣誓あればその効率はさらに上がる。


(エムジが恐れてた、保守派にウチが没収され壊される件は、対処しないといけないけど)


 ネブル防衛に使った方が良いというのはウチの考えだが、かといってウチがアルマ攻略に役立ってしまうのも事実。保守派は不安因子は潰したいだろう。



(降りられない理由はゆくゆく何とかする……何か嫌な予感がするな、学長の言葉)


 ネブルが乗らざるを得ない理由は今は無い。それが出来た場合は学長の言う通り、ウチを主軸にしたアルマ攻略作戦を実施する。機都をつぶすために。

 でも理由って……ネブルの危機を知って笑っていた化け物が考える理由だぞ。危ない橋を渡る可能性は無いか? バニ様は自分の家族みたいだと言っていたが……思い入れが目を曇らせてる事は無いか? バニ様は優しい。四年暮らしたウチをここまで愛してしまう程に。学長の計画は全てが上手くいくならネブルを幸せにするものだろうが、そのリスクをバニ様は正確に把握してるのだろうか?


 作戦が起動した場合、ウチがアルマに、戦場に出る事になる。それはネブルの為だろうか?

 計画が成功すればたしかにヱレームの脅威は無くなる。でも、機都を落とす? ウチ一機の能力を使って? バニ様の技術と合わせれば応用は効くだろうが……それでもウチが死ぬリスクは多い。

 ウチだけでは無い。死人はどれほど出る? 失敗した際の対処は? ウチが破壊されたらネブルを守る希望は無くなるぞ。ウチがいれば、少なくとも多少のヱレーム進入にはネブルは耐えられるだろうに、その戦力を喪失しかねないぞ。


 ミカヌーを悲しませたくないのもあるが、ウチが死ぬことはネブルのリスクにならないか?

 ウチはヱレームに対抗できる。ならクロムシェルにヱレームが来ても、守れるのでは? 攻撃ではなく防衛に使うべきでは?



「バニ様、作戦を実行するとして、死者って出る?」


「……出るわね。確実に、大勢死ぬわ」


「それは街抗だけ?」


「予定では、ね」


 バニ様も少し暗い顔をしている。此度のアルマでの事件、バニ様の心にも響いただろう。

 人が死ぬというのはそう言う事だ。天馬で登って行ったエムジを、彼がどれほど心配し、そして失って悲しんだか、今までのやり取りで十分察せる。


 街抗の人間本人は死んでもいい。暴論だろうが、彼らは皆アルマを目指して死地に赴く精神を持っている。しかし彼等の友人、家族、待つ人はその限りではない。彼等が死ぬことで悲しむ人は大勢いる。

 別にそんな事、今回の作戦に限った話じゃないけど……機都攻略ともなれば死者の数は今までの街抗の活動の比にならないだろう。


「エムジちゃんは、死ぬ予定では無かった」


 バニ様はぽつりと呟く。


「誰かが死ぬ覚悟はしてたわ。機都を制圧する作戦ですもの。でも、怖いわね、正直」


「バニ様……」


「景織子ちゃんと話をつめないといけないけど、作戦への不安要素は死者の数だけではないの」


「というと?」


「元々街抗への志願者は減ってたのに……今回の事件、正直もう街抗志願者を募るのは絶望的よ」


「……となると、今いる街抗だけで作戦を実行する事になるのか」


「それと、シーエちゃんの同期ね。あぁもうアナタ達は二年次に上がってるから、新入生も追加かしら」


 あの地獄を経験したものに、もう一度地獄に行けと言うのか。いったいどれ程の軍学徒が希望するだろうか。

 軍学徒校はシステム上、街抗か陸羽を志願した後に進路変更は出来ない。ので今の生徒達は問題無ければそのまま街抗になるのだが……


(まぁ、わざと成績不良にして辞退するヤツは多く出るだろうな)


「ともかく、数が足りないんだな」


「そうなのよ。シーエちゃんのおひろめをとてつもなく素敵で希望一杯に演出して、志願者増やしでもしない限り」


「でもそれは……」


「だまして死地に送るようなものだわ」


 バニ様は「景織子ちゃんなら平気でそれくらいしそうだけどね」と乾いた笑いをもらした。



「あと、計画の進行だけど……ウチは記憶このままでいいのか?」


 演技が出来ないからという理由でウチには偽の記憶が入った訳だが、今は全てを知ってしまった。

 ……両親の記憶は人間として生きる上では必須な記憶だ。しかもそれを入れてくれと提案したのはウチ自身。誰にも文句を言えないし、しょうがない。穴が二つ増えただけだ。仮に天国があったとしても、埋まらない穴が……


「しょうがないわね。ここでリセットしたら今までの生活がパーだし、一年分の軍学徒の記憶をでっち上げてアナタに入れても、どこかでボロが出るわ。今まで入れてた仮想の記憶と違って、シーエちゃんを見てた軍学徒は沢山いるし」


「それもそうだな。それにウチ、なんとなくだけど今ならボロ出さずに生活出来ると思うよ」


 性格変わったねとは言われるだろうけど。


「……お父さんとお母さんの件は、ごめんね」


 ……。


「あなたに街抗を目指してほしくて、入れざるを得なかったの。両親を失ったって記憶を。頭痛前までのシーエちゃんは、それでも元気に幸せそうに暮らしてたから気が付かなかったけど……。寂しかったわよね」


「バニ様……」


「アナタが、自分の記憶が偽ものだと知ってなお、その首飾りをしてるのを見て……アタシ、どう接しって良いか、解らなくて」


「バニ様は悪く無い!」


 ウチは慌てて否定した。


「記憶を入れてって言ったのはウチだ。だからバニ様は悪く無い。謝らないで。その代わり──」


 どういう設定だったのか、聞かせて? とウチはバニ様に抱き着いた。


「架空の人物だけどさ、バニ様の中にはあるんでしょ、設定。ならそれが、ウチの両親なんだよ。物語の登場人物を愛するみたいに、ウチは両親の事を今でも好きだから」


「……うん」


「それに、その両親と仲が良かったって設定のバニ様はさ、育ての親って記憶が入ってるバニ様はさ、例え偽の記憶だとしても、ウチにとっては家族だから」


 だから、聞かせて。



 その夜、ウチは研究室で朝まで両親の設定を聞いて過ごした。何でそこまで細かく設定してるんだよと、ちょくちょくツッコミを入れながら。


 両親が、本当にいたような、そんな気がした。

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