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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
IF6話 破滅へ向かう計画
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IF6話-04 計画

「なぁシーエムジ。貴方達二人に、私から提案が──いや、作戦立案がある」


 御劔学長は笑いながらそう告げた。いや、笑いながらは語弊がある。笑い声は出してないし……少し口角がつり上がってるだけだ。心の内にある喜びを隠しきれない様に、邪悪な笑みが、顔に……。


 ネブルが危険と知って、人々が死ぬかもしれないと知って、喜ぶ女性。怖い。



 怖い、怖い、怖い、怖い……。



 今までも学長を怖いとは思っていたが、それは単に迫力のある人間だったからだ。でも今は違う。なんだこの……何だ、"コレ"。人、なのか? 人間なのか?


 先ほどのセリフでも学長の内心はハッキリしている。『生き方を肯定されると喜ぶようにできている』。学長は街抗だった。アルマを奪還する事に夢を抱いた女性だったのだろう。その生き方を肯定されて喜んでいる。ネブルの危機を喜んでいる。なんだ、この生き物。


 計画の全容はこれから語られるが、簡単に推測するとウチを使ってアルマ取り返そうぜ計画なんだろう。今までの事実と照らし合わせればそれは推測できる。問題はその動悸だ。



 アルマを取り返すのは"ネブルの人々を不幸にしないため"だろ? なぁ?



 学長の笑顔は、生き方を肯定されて喜んでいる事実は、この動機と矛盾する。アルマを取り返すために、ネブルを利用する考え……。

 何もないのが良いに決まってるじゃないか。ネブルは安全なのが良いに決まってるじゃないか。なのに、その危機を知り、それを理由にアルマ奪還を目指す……。アルマを手に入れるために、ネブルの危機を利用する。完全に目的と手段が逆転している。



(狂ってる……)


 ウチはただひたすら寒気を感じながら、学長が、人間と思えない化け物が語る作戦の内容を聞いていた。



「今日は簡単に概要を説明する。シーエの《鍵》としての素質を根幹にした──《機都》駆除計画の概要を」


「《機都》駆除だなんて、大きく出たわね景織子ちゃん」


「大きく? 馬鹿を言うな、《機都》の駆除こそが我々《虚灯》の最終目標であり、同時にシーエムジ共の宿願なのだろう。ヱレームを皆殺しにすれば、万事は解決だ。ならば駆除作戦の打ち合わせをせず、何をする? 餅つき大会の打ち合わせでもするか?」


「はいはい! ウチ海苔餅が食べたいです!」


 ……このころのウチ、エムジへのリアクションは今に近いが、頭は弱いな。思考する癖がついてない。失い続けた上で身に着いた、危機感が無い。当たり前か、頭痛が来て無いんだから。

 目の前の女性が語る内容に、恐怖を感じないのか? いや、まだこのウチは目覚めて日も浅い。計画も説明途中。不思議では無いな。神経が過敏になってる。


「でだ、まず《機都》の駆除そのもの、すなわち最終実働作戦の思惑も零じゃあないが、詳細を詰めるには現段階では情報が不足しすぎている」


「なら話は終了じゃない」


「違う、始まるのよ。だからこそ《浄化》を司るシーエの《異端子》を根底に据え、真屡丹、貴様の技術に街の資源を全てに投入させられれば、作戦考案も土台不可能ではない。幾らでもやりようはある」


「前提条件が土台不可能じゃない。そもそも002を根底に据えた作戦を、今のネブルが許可するとさえ思えないわ」


 ウチも同感だ。


「話を先走らせるな真屡丹。言うとおり、実働作戦に必要なものは三つ。軍の全勢力の協力、全街民による賛同。即ち、ネブルの総力を上げシーエを中心に据えた作戦考案をする必要がある」


「だから不可能ね。002は押収、保守派に処分されて終わるだけよ。世論は確かに街抗を推している、けどそれはガス抜きの範疇、あくまで夢の範疇よ。命懸けでアルマ争奪作戦に賛成するほどの気運はないわ。ましてや、機械である002を中心にした作戦なんて、バッシングの嵐でしょうね。26年前の元探索委員会事件、貴方が忘れた日なんてないはずでしょう」


 この時点でのバニ様の考えはウチにかなり近い。街抗はガス抜き。そしてネブルの民は機械に悪感情を頂いている。ウチが六日前、ミカヌーに感じた疑問だ。ミカヌーはエムジを嫌わなかったが、それはウチという機械の側で過ごしたからだ。通常の市民は機械に対する嫌悪感を捨てられない。

 だからこその、ウチを人として、人の記憶を入れて、あくまで人としてふるまう、人間の味方ですアピールが必要だったのか。自身を人だと思い込む機械。……通常ならそれだけで悲劇の話が作れそうなくらい混沌とした設定だな。今のウチは、人とか機械とかどうでもいい、自分のアイデンティティとかどうでも良い悲劇に見舞われてるけど。

 自分の境遇とかどうだっていいんだ。ウチはただ、愛する人々と共に過ごしたいだけなんだ。この計画は、それを後押ししてくれるものなのだろうか。



「……今のままなら、賭け成立以前に降りられて終了でしょうね。けど、降りて欲しくない私は、慈悲で持ってる腰抜けどもに与えてやればいい」


「与える?」


「ジョーカー入りの手札と──降りられない理由をだ」


 ……。


「シーエ、よく聞きない」


 御劔学長は赤いワインを揺らしながら、薄暗く妖艶な雰囲気ただよう部屋の中、諭すように告げた。


「あなたは厳密にはヱレームじゃぁない。知性を持っている時点でヱレームとは別次元。寧ろヱレームを滅ぼすために、何らかのプロセスで、何処かの《集落》が、何れかの時代に開発したんじゃないかと、真屡丹は推測してるわ。ヱレームにあるはずの《ネットワーク端末》が、ゴキブリキには見られなかったし、貴方の《人格情報》も、ヱレームには見られない特異なものよ。《ネットワーク端子》が存在しないこの街で起動しているのが良い証拠ね」


 ……ウチがヱレームではない? ウチはてっきり救世主伝説にのっとって、自分をヱレームだと思っていたが。ヱレームの事自体良く解ってないが、大きく分類するとネットワーク端末があり、ヱレーム以外の機械を電子汚染してくる機械の事だ。エムジがヱレームではないのは納得。普通に汚染されるし、端末も無い。彼は高性能AIを積んだアンドロイドだ。そういえばアンドロイドって言葉、記録の中のウチも使ってたな。


 しかしウチはどうだろう? 明らかに特殊能力を持っている。ネットワーク端末は無いだろうが、ウチの逆電子汚染はヱレームのそれと似てないか? それにフィラメンタ。今いるこの空間でウチは不正端末と言われた。不正があるという事は正規端末があるという事だ。六日前に出会ったヱレーム、アロイジウスも「イリーガルターミナル」、つまり不正端末とウチを呼んでいた。そして今、アルマにいない今、アルマで観測した雲の様なものは存在しないし、ウチは不正端末ともいわれない。


 ネブルにはネットワーク端子が入ってこない。ウチはネットワーク端子無しでも動くからヱレームでないとバニ様は推測している。しかしヱレームもネットワーク端子が無いクロムシェルに入ってきてるんだよな? これを根拠にウチをヱレームではないと言えるのだろうか? ウチが、クロムシェルに潜れるようになったヱレームという説は残るよな?


 どこかの集落が開発したのではないかと言う推測はウチも賛成だ。しかし、それはヱレームを改造して作ったとかそういう類のものでは無いか? ……このあたりはバニ様と話し合いが必要だ。

 ネットワーク端子とは何なのか、電子汚染とは何なのか、フィラメンタとは、不正端末とは、ウチの逆電子汚染の正体は。これらの真相を探さないと、この問題にはけりは付けられないだろう。今はそれを疑問に思ってもしょうがないし、解決すべき問題でも無いのかもしれない。


 それよりも問題は、計画の方。こちらの方が人々の命を守る上で必要な情報。ウチの正体が解らずとも、ヱレームに対抗できるならやれることは多くある。その『力』の使い方を、学長は間違えてはいないだろうか?


 御劔学長は続ける。


「しかし──手前の理論が共通認識たりえるかは別問題。機械アレルギーがあるネブルのヒトリディアムにとってね、いきなり貴方を公表しても針の筵。我々の手を離れ研究材料にされ、脳端末舐られまくった挙句処分されるのが落ちなの。これを最も懸念してるのはゴキブリキよ」


「ったりめーだ」


 ネブル上層部は保守派が多いと聞く。ヱレームに対抗できる能力を持つウチ──それこそ兵器だな。それの存在が知れたら、本気でアルマ奪還を目指す街抗達は使いたがるだろう。そうなる事態を、保守派は恐れている。

 そしてエムジはウチを守るために、ネブルの気質を恐れている。


「故に私たちは考えた。今みたいな事態で大切なのは民意。なら、役者を演じてみるのも悪くない。救世主伝説は無論私達が作ったわけじゃない、けれど、寧ろそれが好都合ね。有りもので上手い料理を作ると喜ばれるものよ。《救世主伝説》ってのは、遥か昔から、それこそネブルの創世以前からクロムシェルのいたるところで歌われている伝説なわけだし、これ以上都合の良いものもない」


「ウチが……つまり救世主に……?」


 ここにきて映像のウチは理解を示す。悠久文献に存在する伝説を利用し、ウチを救世主として祭り上げようという内容に。

 ……いや、たぶんその伝説に出てくる存在、ウチだけど。エムジはずっと戦ってたって言ってるし、ウチの胸には無数の穴が開いてるし。まぁ真の意味での救世主ではないだろうが、伝承で語られてる存在は恐らくウチだろう。

 ……ウチが本物の救世主、まさしく意味道理の救世主なら、穴が開いてる訳ないもんな。皆、守れてるはずだ。複数の集落で見つかってるという事は、文献に出てくる救世主は失敗を繰り返してるという事だ。まさしくウチじゃないか。常に失敗し、あげくエムジまで失った、ウチじゃないか。


「そ。けれど貴方をジョーカーとして認識させるのに必要な条件は二つ。人として生きることができるという証明と、救世主足りえる実力の証明。そのすべてを果たすために、貴方には訓練兵として、アルマを目指すヒトリディアムを演じて貰う必要がある。ゆくゆくは正規換装士となり、名実ともに地盤が固まった所で、お披露目よ。これがジョーカーの作り方。降りられない理由は私たちとエムジがゆくゆくなんとかしていくけれど、貴方は貴方がすべきことを──理解できたかしら?」


 概ねウチが想像していた計画の概要と似ている。問題は記憶を消す理由だが、それはこの後の映像を見ればわかるかな?

 そう思っていると、開口一番、ウチが動いた。


「ウチに……人の記憶を入れて」


「おい……シーエお前なにを」


 エムジが不安そうな顔でウチを覗き込んでいる。


「今のウチじゃだめだ……ウチじゃ絶対……演技なんて失敗する……人のマネなんて出来ない、ボロが出る……。ロボだけに、ういーんがちゃん」


「誤魔化すな、冗談で」


「……」


「……」


「……ヒトの記憶を入れるくらい……出来るだろ? バニ様なら」


 沈黙に耐えられなくなったのか、ウチはバニ様に話を振る。


「ええ、出来るわ。人格情報の基盤はいじらずに、記憶領域だけを取っ替えればいいだけだから」


「ほらっ、なら」


「けど002。それはね……今までの記憶を全部、消す必要がある」


「……全部?」


「そう全部。この部屋で目覚めてから、貴方が001と過ごしてきた三年間の記憶を全部……」


「……で、でも……三年前だってウチは色々忘れてたワケだし……また同じ事を繰り返せば……」


「いえ、三年前とはまるっきり違うわ。気休めを言っても仕方ないから本当のこというけれど、今でも僅かに残ってる『昔の記憶』さえも、全部綺麗サッパリ消えるの。長い間、貴方が001と戦ってきた記憶も全部、忘れるなんて次元じゃない。消しちゃうの。正真正銘……貴方はまっさらになる。002とは接点もなければ恋慕もなにもない、事実ごと根こそぎ消える──出荷時の電化製品のような、真っ白さよ」


「……消えちゃう……のか」


「おい止めろ真屡丹ッ、んな巫山戯たこと許されるわきゃねーだろが」


 エムジが必死に話の流れを止めようとしている。あぁ、また泣きそうな顔して。やめろよ、映像の中のウチ。これ以上エムジを悲しませるな。計画よりも、エムジを優先して動いてくれよ。エムジを、悲しませないでくれよ。


「……。……やらせて、エムジ」


「……シーエ……。馬鹿なこと言うな……」


「馬鹿なこと、かもしれない……けど、この作戦が成功したらエムジは幸せになれるんだよな? もうウチらが、怯えて暮らさずに済むんだよな?」


 ……成功、したか? エムジは、幸せになったか? この隠れ家で過ごしていれば、少なくとも一年後にエムジを失う事にはならなかったんじゃないか? もっともっと長い時間、エムジの側にいてあげられたんじゃないのか?


「……。……そうだが」


 ……エムジは、ずっと怯えて暮らしていた。たった一人で、クロムシェルの中で。だからヱレームが滅びれば安寧が訪れると考えている。

 それは間違えではない。間違えではないけど、そのリスクが、失敗した時のリスクが、あの惨状だろう。


「なら、大事な作戦じゃんか。ちょっとでも不安は解消しておいたほうがいい。違うか?」


 映像の中のウチは見ているウチと正反対の思考をする。

 ちょっとした不安に、必要以上の対応を? ゴキブリが出るかもしれないから駆除のため家ごと壊すみたいな、そんな意味不明な作戦を?

 クロムシェルにいたヱレームはアルマに近い位置だった。ネブルから4kmも離れている。しかも活動を停止してた。……直ぐに来るか解らない危機に対し、過剰に防衛してないか? 地震が来るのが怖いからプレートを止める無謀な作戦に出るみたいな……それはもう防災ではない。

 ここで、ネブルで、備えた方が良くないか? ウチの力があれば出来るだろ。ウチもエムジも、御劔学長の口車に乗せられてないか? この作戦以外の選択肢を、考慮に入れてるか?


 それに、一緒にいれば、一緒に暮らしてれば、ヱレームがやって来た時に、一緒に死ねたじゃないか……。この作戦はどちらか片方が先に死ぬリスクが高いじゃないか。機都を落とすんだぞ? 数億のヱレームの中に、ワザワザ飛び込むんだ。ここで二人で待ってればよかったじゃないか。そうすれば、お前もウチも、どちらかを失う事無く、ゆっくりと、終焉を待てたのに……。


「……。……お前はどうなる……また全部……失うんだぞ……せっかく元に戻ってきたのに……ようやく幸せになれそうだったのに……」


「ウチはさ、もう十分、幸せだよ」


 映像のウチはエムジを抱きしめる。そんな事でエムジは救われないのに、絶望に染まるエムジを、救えないのに。

 エムジはウチの幸せを願ってるんだ。ただそれだけなんだ。ようやく幸せになれる、この言葉の意味をもっと考えろよ。今までの集落やクロムシェルでは得られなかった幸せが、此処ネブルにはあるって事じゃないのか? エムジは、記憶を持ったウチと共に暮らしたいと思ってるんじゃないのか?


「目が覚めて、もう何もかも全部なくなっちゃってて、でもさエムジ、お前だけがいてくれたんだよ。──ありがとな」


「……」


「なら今度はウチが、頑張る番だから。ウチが皆の……救世主になる」


 やめろよ、やめてくれ、エムジを、取り残さないでくれ、頼む……頼むよ……


   * * *


 映像は容赦なく切り替わる。これは記録だ。過去だ。変える事は出来ない。


『最終確認するわよ。これから002の記憶を全消去する。そしたらもう貴方はシーエじゃなくなる。全く別の、シーエになる。もう二度と、戻れないわよ』


 スピーカーから流れるバニ様の音声。背景は今までの生活空間とは打って変わり、研究所だ。この施設は知っている。ウチがアルマでの頭痛で見た、記憶と同じ場所だ。


「うん、分かった」


『……最後に、002に言っておきたいことはある?』


「んーそうだな。強いて言うならエムジ、今までありがとな。これからもウチを、よろしくな」


「……」


「もー、えへへ。なんだなんだー、んな悲しそうな顔すんなよ……う、ウチまで、ウチまで悲しく、ウチまで悲しくなっちゃうだろー」


 笑いながら、映像の中のウチは泣きだす。もっともっと泣きたいのはエムジだろうに。何億年も待ってようやく出会えた大切な人、その人が記憶を失っても尚、恐らく以前に近い関係になれたというのに。また、失うのだ。

 ウチは、失わせてばかりだ……


「……」


「……安心してよ……ウチは……今日までの全部忘れたって……真っ白になっちゃったって……絶対大丈夫」


 お前は大丈夫だろうさ。でもエムジは……


「……」


「またきっと……エムジを好きになるから……──」



 映像はその後、ウチがアルマで思い出したタイミングと同様の、シーエ・エレメチアとしての初回起動の様子を第三者視点で映し続ける。

 こんなにショックなことがあったのに、あんなに優しい手つきでウチを撫でてくれたのか、エムジは。どこまでもどこまでも、ウチの為だけに動いていたのか、エムジは。


 どこで間違えたのだろう。何を間違えてしまったのだろう。ウチは、エムジがいればそれで良かったはずだ。エムジだってそうだったはずだ。二人は共依存だった。そのはずだった。


(計画──)


 いや恨むべきはここではない。この計画に乗ってしまった、愚かな自分だ。選択をしたのは、過去の自分だ。


(ウチが、すべきこと──)


 整理しろ、頭を回転させろ、それくらいしかウチには出来ないだろ? 多くの喪失の経験で得た臆病さ、危機管理感覚、それをフル回転してやるべき事を探せ。計画に乗るのが最善なのか、悪手なのか、考えろ。

 今生きてる人のために。ミカヌーの、バニ様の、ネブルの民のために。


(やるよ、エムジ)


 エムジは数億年レベルで孤独と戦ったんだ。ウチはまだエムジを失って五日。はっきりとエムジの死を認識したのは今日だ。

エムジに寂しい想いをさせたんだ。ウチがするくらいなんだ。耐えれるだろ、シーエ。お前は耐える義務がある。


(それに、希望が消えた訳では、無い)


 エムジは機械だ。そのエムジが修理不可能だった機械であるウチを、バニ様は修理してみせた。自分に無い技術を他人が持ってる事があるという証明だ。

 それに、技術は発展する。バニ様は修理は出来たがAIは作れていない。エムジやウチを作った何者かがどこかにいるはずだ。その人に出会えずとも、その技術を追う事は出来るはずだ。


(途方もない年月が、かかっても)


 当面はバニ様とミカヌーが手伝ってくれるが……人には寿命がある。しかし、ウチには無い。ウチがずっと研究を続ければ、いつかはエムジを修理する事だって……。

 どれだけかかったっていいさ。エムジは無限にも近い時間を耐えたんだ。ウチだって、耐えられる。耐える義務がある。


(そのためにも、ネブルが必要だ)


 穴の記憶と照らし合わせても、とても大規模で安定した集落、ネブル。ここさえあれば、研究は続けられる。

 そのためにも、出来るだけ長くネブルを安全に、ヱレーム襲撃に備えるんだ。


(計画がネブルの安全性を上げるのなら、乗るのも手だ)


 考えろ。リスクとメリットを洗いなおせ。ウチは、どう動くべきだ?



 思考を続けること数分、映像は終わり、映像内のウチは扉の外に出て行った。今頃初対面のミカヌーと話しているだろう。

 次の映像は開始されない。ここで記録映像ストックは終了か。あたりを見渡すとウチはまだフィラメンタの中にいた。


「手動で出れるのかな?」


 なんとなく出たいなと思ったそのタイミングで


......

.....

....

...

..

.



 ウチの意識は現実に覚醒する。

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