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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
IF6話 破滅へ向かう計画
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IF6話-01 弔い場

【二日後 第一居住区 弔い式場】


 弔い式場は第一居住区の南端、民軍共同区画に建っていた。


 軍事区画から直通の橋も存在し、また第一居住区民だけでなく第二居住区までがこの弔い式場へ赴くことが許されており、戦死者が出る度にその通路は開放される運びとなっている。


 そして本日、式場はかつてない冷たい空気に包まれていた。



挿絵(By みてみん)



「……ぅぅぅ」


 しんみりとした静寂の中、各所から嗚咽と線香の煙が立ち昇る。

 死者の数、46名。白と黒で構成された伽藍堂がらんどうな場内には、ところ狭しと兵士の写真が並べられており、その下に華が添えられている。皆二階級特進して正規軍人の仲間入りだ。


「ミナナぁ……」


 とある一角、黒い喪服に身を包んだ同じ顔した四人の少女が、寄り添うように一人の写真の前で泣いていた。泣きじゃくる三人を、長女と思しき女性が暖かく抱擁し、ただひたすら痛みに耐え忍んでいる。轟鬼姉妹だ。一人、亡くなった様だ。

 こんな光景、今日においてのみこの場では珍しくない。戦死者の多くは軍学徒、それも初めてのアルマに胸を踊らせて前日旅出ったはずの子達だ。親の心境もいたたまれず、同期の苦しみも察するに余りある。


 その中、あの場から逃げたウチだけが涙を流さず、ただその光景を見つめて──



挿絵(By みてみん)



(結構生き残りがいたのか……)



 ウチがネブルに帰った直後、街抗換装士を含めた換装士の精鋭達が遺体回収の為にアルマに上がった。天馬周辺は凄惨な状態だったが、確認出来る人数がこの代の全軍学徒よりも少なかったらしい。そのため調査を周囲に各出した所で──


(吏人達の、遺体が……)


 吏人、橙子、セロルちゃん、アラギ、四人の遺体がまとめて発見された。どうも大型ヱレームと交戦したらしい。引きちぎられ、すり潰され、焼き切られた友人達の遺体。いや、友人とは呼べないか。まだしっかり話して日も浅い。友人になるはずだった者達の遺体。ウチが裏切り、見捨てた者達の遺体。ウチに友人と呼ぶ資格など無い。


 そして天馬から吏人達までの道を更に伸ばして進んだ先には、塹壕があった。アルマを攻略する上で街抗に作られた拠点の一つだ。そこに、生き残りの軍学徒達が、いた。

 食料と水は五日で切れ、息も絶え絶え。しかし、皆、軽い脱水症状はあるものの無事ネブルへと帰還を果たしたわけだ。そして遺体の回収と皆の治療が終わった本日、葬儀が執り行われている。


 塹壕組が言うには、天馬がアルマについた直後、未登録巨大ヱレームの襲撃を受けたそうだ。そしてそれにつられる様に出現した小型サソリ式の群れ。

 ペレットルミナス第五街抗換装士はその未登録ヱレーム──現状仮に《タカ式》と呼ばれている──にやられ、活路が見いだせなくなった軍学徒達は吏人、アラギ、轟鬼長女の船頭の元、塹壕に避難した。

 その後、セロルちゃん発案の天馬奪還作戦に乗る形で第九班のメンバーとアラギが再び天馬を目指し……恐らく、再度タカ式の攻撃を受けて全滅。塹壕組はそのまま取り残される形になった。


(セロルちゃん……)


 水はあげてるよ。ウチが帰ってから。ウチが帰る前にも、ちゃんとミカヌーがあげてくれてたよ。キミの友達は、元気だよ。


(橙子、吏人……)


 葬儀の壇上ではアリゴル種の青年がスピーチをしている。「妹に敬意を表する」と。あれが、橙子のお兄さん……。腕章から察するに、第二街抗換装士。妹を、家族を失ったというのに、スピーチする青年の姿は毅然として見える。


(ごめんなさい。ごめんなさい……)


 ウチが、ウチが飛び出したから……。救世主なのに、必要な時にアルマにいなかったから……。ウチが皆を、見殺しにしたから……。貴方の、大事な家族を……。


 浮沈家代表も吏人を讃えている。生き残った軍学徒の為に命をささげた四人。立派だ。立派だった。立派だけど……



「アラギ君……」



 ヒナリアが泣いていた。ヒナリアだけじゃない、轟鬼姉妹が、見知った顔が、その場にいたほとんどの人間が泣いていた。

 家族を、恋人を、友人を失い泣いていた。


(死んでしまったら、おしまいじゃないか)


 見殺しにした本人にそんな事言う資格も無いけど、どうしても考えてしまう。何で皆、アルマなんて目指したんだ……。こんな立派で安全な集落、クロムシェル中探したってありゃしないのに。

 いや、それもウチ視点の話だ。他の集落の情報なんてネブルの民は悠久文献でしか知らない。ウチだって記憶からは抜けている。穴が、なんとなくそう主張してるだけだ。この感覚を皆に持てという方が酷だ。救世主しか知り得ないだろ、そんな情報。



 救世主……。ウチが、ウチが救世主だったんだろ? ヱレームを即時無力化する能力があったんだ、ウチがいれば、あの場は何とかなったのではないか。皆、死なずに済んだのではないか。

 吏人も橙子もセロルちゃんもアラギも玲ちゃんも、皆、皆、死ななくてもすんだかもしれないのだ。彼等の帰りを待つ人の元へ、届けられたかもしれないのだ。それに──



(エムジ……)



 ウチがいれば、ウチがその場にいれば、彼を失わなくて済んだかもしれないのに。


 バニ様と御劔学長からはウチの特性を聞いた。助けられたかもしれない。少なくとも、いないよりいた方が良かったろう。


 ただ──


(ウチを主軸に沿えた、アルマ攻略計画、あれはどうなんだ)


 二日前、アルマから帰り、詳細を聞いた計画だ。ウチの力だけでどうにかなるかを含めてだが、無謀すぎる。仮に成功するとして、どれほどの死人が出るのだろうか。この様な悲しみの場が、更に増えるだけなのでは?



『有り難うございます! あなたのおかげで娘が助かりました!!』



(娘との再会を心から喜んでいたミカヌーのお母さん。どっちが、良いのだろう?)


 ネブルに帰ったその日は計画を聞いて終わったが、次の日は軍学徒校も休校だったためミカヌーの実家に顔を出した。

 換装士たちはその日、まだアルマでみつけた軍学徒達を保護しており、とても授業どころではない。遺体の回収と選別も必要だった。ウチも手伝わなくて良いのかと学長に聞いたが、一階の軍学徒として登録されてるウチはその必要はないそうだ。治療を受けてる同期のお見舞いに行こうかとも思ったが、逃げたヤツがどの面下げて行けようか。

 結局、ミカヌーから誘われる形で実家に顔を出す事になった。


 先日のアルマでの事件はネブル中の大ニュースだ。軍学徒が46名も死んだとなれば、うちの子は大丈夫なのかと心配するのが親というものだ。現に、今式場では涙を流す親が多数いる。皆「街抗なんか、目指させなければ良かった」と、後悔を口にしている。


 ミカヌーの母親も人種としては同じタイプだった様で、このニュースを聞いて青ざめていたらしい。娘が街抗に入れば、いずれ遅かれ早かれこの現実は来たと思うのだけれど。

 しかし、自分だけは大丈夫、家族だけは大丈夫と思うのが人の常だ。例にもれず、ミカヌーの母親も此度の事件で初めて『街抗志願は危険』と認識できたらしい。


 生きてる内に、二度と会えなくなる前に、命の大切さに気が付けたのは良い事だ。これからの人生を、共に歩める。明日が来ないかもしれないという恐怖を、魂に刻める。それはとても臆病で生きづらい生き方かもしれないけど、失って悲しむより、よっぽど良い。



 だってもう、ウチはエムジに、会えないのだから。それより、よっぽど──



 ミカヌーの家は本人から聞いていた通り、とても貧乏だった。生活の基準が全く違う。それこそ、スラム街の様な……。スラム街なんて概念、ウチは何で知ってるかな? 悠久文献には出て来たけど、今はしっかりとイメージ出来る。たぶんウチがネブルに来る前のどこかの集落、もしくはアルマにあったのだろう。ともかく、並みの生活必需品すら買えないレベルの暮らし。洗濯機とか、冷蔵庫とか。


 あの家にお金が必要なのは事実だ。事実ではある。でも、無いとすぐ死ぬ訳ではないのだ。



『お金なんていらない。生活なんていらない。この娘が無事でいてくれれば、それでいい』



 ミカヌーのお母さんのセリフだ。娘を抱きしめ、泣きながら、呟かれた言葉。ウチもそのはずだったんだよ、父さん、母さん……存在すらしてなかったけどさ。


 バニ様に植え付けられた記憶。救世主に、アルマを目指したいと思わせるために植え付けた記憶。この記憶に踊らされ、ウチは一年を軍学徒校で過ごした。そして、エムジを失った。


(バニ様を恨んでる訳ではないよ。誰を恨んでる訳でもない。記憶入れる前のウチも賛成してたしな。ただ、頭痛が無かったから……穴の存在をウチが認識してなかったから……)


 恨むのなら、自分だろう。あの状況を打開出来たはずの存在は、ウチしかいないのだから。


「ミカヌー」


 ウチは隣にいる親友に尋ねる。


「夢を追った結果死んで残った人を悲しませる事と、夢を捨てて身を守り大切な人と過ごす事。どっちが大事だと思う?」


 アルマに出発する前のウチにはどちらかを選ぶ資格は無かった。でも夢を追っていたミカヌーになら、答えが出せるだろ?


「……大事な人と、一緒にいる事だよ」


 ミカヌーはウチの手を握りしめ、答えてくれる。そうだよな。愛より大事なものなんて、無いよな。 

 失いたく無いし、失わせたくも無い。周囲から聞こえる失った者達の慟哭が、その想いを加速させる。


(ウチが、終わらせてやる。こんなこと、もう二度と……)



「ありがとう、シーエちゃん。私を助けてくれて。お母さんにまた会わせてくれて」


 ウチが決意を新たにしていると、ミカヌーが会話を投げかけてくる。


「シーエちゃんがいなかったらきっと私死んでたから」


「……」


 ミカヌーと引き換えに、多くの人の命を見捨てたウチは微妙な笑顔でしか返せない。


「シーエちゃんと一緒にいられる幸せだって、シーエちゃんがくれたんだ」


「……ウチは怖かっただけだよ。ミカヌーを失うのが、エムジに失わさせるのが、怖かっただけだ。その結果、皆を見捨てたんだ」


 ネブルにいると思ってたエムジは、アルマに行っちゃってたけど。ウチのせいで多くの命が失われた訳だけど。


「違うよ」


 でもミカヌーは、そんなウチを否定する。


「シーエちゃんは悪く無い。シーエちゃんのおかげで助かった命がここにあるんだよ。私を見て」


「ミカヌー……」


「生きてる人のために、生きて」


 簡単に割り切れるものではないし、割り切ってはいけない感情なのだろう。この自責の念はウチが活動停止するまで心に刻んでいくべきだ。そしてその上で──



 生きてる人の為に、ネブルの人の為に、動こう。



 それが、一人逃げて生き残ったウチに、救世主に、やれる事だろう? ねぇ、エムジ。

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