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ゼロマキナIF -始まらない物語-  作者: Deino
IF5話 救世主伝説
23/48

IF5話-01 誤算

※注意

ここから先はIFオリジナル√ですが、本編のネタバレも多分に登場します。

ゼロマキナの根幹にかかわるネタバレも普通にしていくので、本編で楽しみたい人は先に本編を読むことをオススメします。

特に007話~009話のネタバレに関しては紙版ゼロマキナしか読んでない方には先にIFで知る事となりますので、ご注意ください。(紙版には006話までしか入ってません。2020年4月現在011話まで電子書籍販売中)


 ……何を、しているのだろうか、ウチは。


「──ちゃん」


 親友が何が言っている。思考が追い付かない。


「──エちゃん!」


 逃げてどうするのだ。ミカイヌの夢を奪っただけじゃないか。今日は大丈夫なはずだろう。班のみんなと結束を高めて生存率を上げるってきのう、考えてたじゃないか。


「シーエちゃん!!」


 ミカヌーの家が貧困なのは知ってる。街抗にならないといけないのは知ってる。知ってたはずだろ?


 声に反応して横を見ると、親友は泣き叫んでいた。


「ミカヌー……」


「何で、何でぇ……!!!」


 夢を、奪った。生活を、奪った。ウチのわがままのために。


「ご、ごめん……」


「ごめんじゃないよぅ……ごめんじゃ、済まないよぅ……」


 何を、してるんだよシーエ・エレメチア。


『──……──、──。──……』


 夬衣守を通して伝わる通信には御劔学長の声が入ってきていた。天馬に乗った軍学徒を鼓舞するための、実習試験に向かったウチら以外の軍学徒の為の。その通信は何一つ頭に入ってこない。


「何やってるのアンタ達!!」


 ドッグにいたバニ様が駆け寄ってくる。泣きじゃくるミカヌーと放心してるウチ、バニ様も対処に困ってる様だ。

 ウチが、ウチがしっかりしないと。この状況を作り出したのはウチだろう?


「ま、真屡丹研究室長……」


「どうしたの?!」


「ウチが、ウチが悪いんです……怖くなって、突然怖くなって、無理やりミカヌーの腕を引いて飛び出して来ちゃって……」


 動揺して敬語もアヤフヤだ。ただこんな中、側にいた親友が動きを見せる。


「ち、違います真屡丹研究室長殿。あの、私もボーっとしてて、悪いのはシーエちゃんだけじゃなくて……」


 どうして、どうしてミカヌーがウチを庇う? ミカヌーは完全な被害者じゃないか。


「何言っんだミカヌー! ウチが勝手にやらかした事態だろ」


「でもこのままじゃシーエちゃんだけ罰を受ける事になっちゃうじゃん!」


 この後に及んで親友はウチの心配をしてくれるのか。こんな、君の夢を奪う行為をしたウチを。


「二人共とにかく落ち着きなさい! 最終的な判断は御劔学長に任せる事になるけど、アタシから悪くならない様に取り計らっておくから、ね?」


「バニ様……」


 もう呼び名すら崩れてしまってる。思考がグチャグチャだ。


「ミカイヌちゃん、大丈夫、アナタは巻き込まれただけだから。アタシちゃんと見てたし。街抗への切符は無くなってないわよ」


『誰の権限があってそんな事を言う、真屡丹』


 通信で御劔学長の声が入る。天馬組への通信も終わり、問題を起こしたウチらへの対処にまわった様だ。

 音声だけでわかる。その激怒ぶりが。


『御劔学長! ウチが、ウチが悪いんです! 臆病風に吹かれて……だからミカヌーの夢は……!』


『自分が悪いと謝ればすべての事象は解決するのか? お前がミカイヌ・ゾゾ軍学徒の街抗への道を断った事実は覆らない』


 死刑宣告に等しい通信が、ウチの脳に届く。あぁ、なんてことを、なんてことをしてしまったんだウチは……。


『安心してミカイヌちゃん。これは事故だから、あなたの街抗への道ははく奪されない』


 しかしバニ様は再度先ほどと同じ内容を口にする。


『真屡丹! 何を勝手に』


『景織子ちゃん、街抗を目指す人員が不足してる事実、あなたも知ってるでしょう? 逃げ出してきたこのアホは置いておいて、巻き込まれた彼女は被害者よ。街抗を目指そうとする貴重な人材を減らさないで』


『そのための調整をするのは私なんだぞ真屡丹』


『そのための学長でしょ?』


『……ふん』


 これはセーフと言う事だろうか? ミカヌーの夢はつぶれない? でも、でもそれじゃぁさ。



 ミカヌー、やっぱ街抗になっちゃうじゃん──



 矛盾する二つの思考。親友の夢をつぶしたくない自分と、親友に街抗を諦めて欲しい自分。こんなこと両立、無理に決まってる。それに──


(ウチが守るって道も、潰えた……)


 先日の昼と違い交渉材料もない。ウチの行為は敵前逃亡と同じだ。極刑以外の道はない。

 ウチがミカヌーを守る事も出来ない。

 ウチが死んだらエムジを悲しませるかもしれないのに、それも回避出来ない。 


『まぁいい、ミカイヌ・ゾゾ軍学徒、あなたへの対処は追って連絡する。この糞のせいで多少回り道にはなるだろうが、ここで街抗への道が断たれる訳ではないから、今後も精進する様に。さて、そこで黙ってる救えない糞よ』


『はい……』


『お前の処遇は直接言い渡す。そこで待っていろ。エンジニアの諸君、この糞が逃げ出さない様、見守っててくれないか。なんせ閉まりかけの天馬からいきなり降りる様な逃げ足を持ってるからな』


『『イェスマム!』』


 周囲のエンジニアがテレス整備士を含め、皆虚空に向かって敬礼する。ウチに逃げ道は無い。どうする、どうするこの状況。



 ミカヌーの夢はまだ途絶えてない。ウチのせいでミカヌーの生活が改善されないという不安は消えた。なら後は、エムジの事。ウチが死なずにいる事が、エムジにとって最善では無いだろうか?

 ならばやる事は──もう一度逃げる事。逃げて逃げて逃げて……その先は解らないけど、まずはエムジに会わないと。


 幸い今は夬衣守を装着している。実技学年主席の実力を遺憾なく発揮できる状況。整備士やバニ様は振りほどける自信がある。

 ウチは脚に力を入れ、ホイールを回転させようとした。その時だ──



 ビービービー!!!



 けたたましいアラームがドッグ内に鳴り響いたのは。何だ? 何が起きた?

 周囲の整備士も「何だ?!」「確認を!」と慌てている。


「どいて!!」


 バニ様が整備士の束をかき分け、天馬の操作モニターを注視する。そして──


「天馬と……音信……不通……?」


 最悪の言葉を、発した。あぁ、だから、アルマなんて行くべきではない。



   * * *



挿絵(By みてみん)


『何だ真屡丹、どうした!』


 モニター越しに通話をする学長とバニ様。


『アタシにも解らないわ! とにかくアルマに到着した天馬の信号が、消失したのよ!』


『な?!』


『ただの故障じゃないわ! 完全音信不通なんて、何かとてつもない事態がアルマで起きたのよ!!』


『とてつもない事態とは何だ! もっと具体的に言え!』


『まだアタシにも解らないわよ! でもこんなに一斉にアラートが鳴るなんて……』


 鳴るなんて、何だろうか? 嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感が。

 穴達が、穴の住人達が一斉に『『『だから行くなと言ったんだ』』』と主張している。

 バニ様は続ける──


『考えられるのは、大規模電子汚染か広範囲攻撃。でも街抗換装士がいる状態なら、多少の攻撃を受けても対処可能だろうし、天馬の無線が使用不可になることなどありえない……』


 バニ様は通信しながら考える。


『となると電子汚染の可能性が高いけど……、機都から遠く離れた天馬の位置でそんな電子汚染があるとは思えない』


 電子汚染の濃度は機都に近づくほど大きくなる。天馬付近ではヱレームに遭遇しない限り通常の機器も使用可能のはず。遭遇したとしてもこんなに直ぐ汚染されるのはおかしい。


 でも、でもウチは知ってる。この原因を知っている。



「ヱレームだ……」



 体が震える。魂に刻まれた恐怖が顔を覗かせる。ヱレームだ、ヱレームにやられたんだ。皆、皆……穴の彼等と同じ様に、皆ヱレームに……



「シーエちゃん?」


 ミカヌーが心配そうにのぞき込んでくる。夢が断たれないと解ったからか、涙は止まり、代わりに心配そうな顔がウチを見つめる。


 天馬のトラブル。これはヱレームの仕業だ。何故わかるのだろう……。でもこれは超能力でもカンでも無い、経験から出た言葉。何故かウチはアルマがそういう場所だと知っている。知っているんだ。


 ウチはよたよたとバニ様の元にすり寄る。


「ヱレームの襲撃があったはずだ。とてつもなく大規模な」


「何で、解るの? シーエちゃん……」


 バニ様は何かを恐れる様な視線でウチを見る。


「知ってるから、ウチは奴らを、知ってるから……」


「……!」


 絶句するバニ様。ウチの言葉にどれほどの信憑性があったのか解らないが、すぐさま御劔学長に通信を行う。


『ヱレームの攻撃よ! たぶん、過去に例を見ない程の!!』


『どうした真屡丹!? 何故わかる!』


『シーエちゃんが言ってるの! 確信めいた目で、シーエちゃんが!』


『何……?!』


 ウチが言ったという事実に何故か驚愕する御劔学長。何だいったい。二人共、ウチが確信を持っているという事実を疑わない。

 ウチ視点ではヱレームの仕業だと断言できる。理由はうまく説明できないが、過去にこういったケースを何度も経験した……気がする。過去ってなんだろうか。両親の件も含め、記憶が不可思議だ。



 しかし、ヱレームだとするなら……第九班の皆は、一年を共に過ごした皆は、どう、なる……?



 ミカヌーは助かった。良かった。でも他の皆は……? 天馬でアルマまで上がった皆は……?



『アルマ実習が終わって時間できたらさ、もっと深く悠久文献について語ろうぜ』


 吏人……



『実習から帰ってきたら、橙子と──そう呼んでもらえませんか?』


 橙子……



『明日から一緒に水やりしてもいいかな?』


 セロルちゃん……



 明日、明日、来るはずだった明日……


 ウチが、大声で反対してれば、よかったのかな。吏人、橙子、セロルちゃん……他にも玲ちゃん、轟鬼姉妹、アラギ、同学年の皆……。

 皆、皆殺されてしまう。ヱレームに殺されてしまう……!


 ウチが大声で「行くな」と言ったって、どうせ皆聞きやしなかったさ。でも……やらずに、ミカイヌだけを連れて逃げたのは、ウチだ。つまりウチは、ミカイヌだけ助かれば良いと、思った訳で……。命の選択を、してしまった訳で……。



「シーエちゃん!」


 震えるウチを抱きしめてくれる柔らかい感触。


「ミカヌー」


「シーエちゃんのせいじゃない!」


 ウチの思考を読んだのか、ミカヌーはウチを慰める。


「でもウチが、もっと主張してれば……」


「無理だよそんなの、私だって、連れ出されて泣いてたじゃん! 皆アルマに行きたいの! それが街抗なの! だから、無理なんだよ、シーエちゃん……」



『景織子ちゃん! 天馬の降下は出来ないの?!』


『第二文司令の許可がまだ下りない!! ──それに、此度のトラブルの原因がヱレームにあるのなら、天馬はすぐには降下させられない。街抗の戦力を集めなければ。今各換装士に召集をかけている』


『……っ! 換装士が揃うまで、何分くらい?』


『早くて30分だ。心配はそれよりも第二分司令の対応の遅さだ。いつまでも足を引っ張りやがるゴミ共が』



 ウチの思考が負のループに入ってる状況でも、バニ様と学長は必死に事態への対処を行っている。ドッグ内のエンジニアも常に動き回り状況の究明と改善を試みているが……今のところ進展は無し。

 ヱレームが原因なら天馬は直ぐに降下させられない──当然と言えば当然だ。天馬とネブルは一本道で繋がっている。降下させればヱレームにネブルへの入り口を開いてしまうのと同義だ。


 通常、天馬付近は機都からとてつもなく離れている都合から、ヱレームはいない。それにヱレームはネットワーク端子を摂取しないと活動出来ないので、それを遮断してしまうクロムシェル内には入ってきても活動を停止する。この二つの理由で天馬は今まで安全に運用されてきた訳だが……先日ウチが遭遇したクロムシェル内で動くヱレーム、あれの存在が御劔学長の思考にブレーキをしているのだろう。


 アルマの状況が完全不明の状態なら天馬下降も選択肢の範囲だろうが、ウチがヱレームが原因と断定してしまった現状、侵入を許すわけにはいかないのだろう。何故ウチの進言が信じられているのかいまだに謎ではあるものの、ヱレームの仕業なのはほぼ確実……ウチ目線では確信がある。



 そんな、どこもかしこもが慌ただしく混乱している中で、バニ様が、はっ、と何かに気が付いてウチに駆け寄ってくる。



「シーエちゃん!」


「何……バニ様……」


 ウチは仲間を見殺しにしてしまった自責の念から、バニ様を正式名称で呼ぶ余裕もない。

 でも、次に語られたバニ様の言葉で、ウチの余裕はさらに無くなる。



「エムジちゃんは、どうしたの?」



   * * *



 ……何だって?


「エムジちゃんよ、エムジちゃん、どうしたのよ!」


「どうしたって、何? え?」


「ああそうだった、アナタ知らないんだった!」


「何が……なぁ、エムジがどうしたんだよ! バニ様! エムジが、何なんだよ!!」


 嫌な、嫌な予感が……頼む、頼むよ、神様……でもそんな期待は裏切られる。いつだって、現実は待ってくれない。世界はウチの都合なんて無視して周っていく。



「エムジちゃん、アナタを守るために、天馬に乗ってたのよ……もしものことがあった時のために、攻撃用の外骨格に、人格を移して」



 足元が、世界が、ガラガラと崩れ去る音が、ウチの心の中で鳴っていた。



あっちを立てれば、こっちが立たず……。

こっちを立てれば、あっちが立たず……。

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