下駄箱 〜俺と彼女の話方〜
午後八時。
下校時刻になり、部活を終えて玄関へ向かう俺。
廊下の窓から藍色の空が見える。
玄関に着き、下駄箱を開けると、
あれ、なんだこれ…
中にはアジアンテイストの柄がはいった封筒が一枚。差出人の名前はない。
見間違いかと思って、メガネをかけ直す。が、どうやら現実のようだ。
俺はその場では開けず、家に持ち帰ることにした。
寝る前に手紙を開封してみる。机の電気スタンドを点け、ハサミで丁寧に切る。
中には封筒の柄と同じ手紙がはいっていた。字は手書きで男子か女子かの判断はつかなかった。
手紙の内容はこうだ。
林 鱗太郎 様
突然のお手紙、、大変驚かれたと思います。
でも、私はただあなたを見ているだけなのは、嫌になりました。
あなたと直に話をしてみたい。けれど、その勇気は今の私には、ありません。
だから、手紙に私の気持ちをしたためます。
あなたが好きです。
追伸 また手紙を書きます。
こ、これは世にいう、ラブレターかっ!
思はずベッドの上で身もだえする俺。
でも…これじゃ、誰が俺を好きなのかわからんじゃないか。
数日後
「せんぱーい、隣いいですか?」
食堂で昼飯のうどんをすすっていると声をかけられた。
同じ部の後輩、(ちなみに、将棋部)、水瀬楓。
そして、その背後には双子の妹、水瀬紅葉の姿があった。
共に同じ容姿をし、共に美少女。黙っていたら、見分けがつかない。(俺はわかるが)。
部に二人が入ってくれたときは、男ばかりのむさくるしい場所にオアシスが現れたがごとく。
「ああー、いいよ」
二人が俺の前の席に座る。揃ってオムライス。双子だなぁ。
ふと、紅葉と目が合う。が、すぐに逸らされてしまった。
俺のこと怖いのかな。いや、確かに目つきは悪いが。だから、メガネしてるんだけど。
「ああー、また負けたっ!」
楓が悔しそうに地団太を踏む。
「フン、俺に勝とうなんざ十年早い!…お前は打つのが雑なの。もっと落ち着いてやれ」
放課後、俺は部室で楓と二人、将棋を指していた。
今日は部活の日ではないが、いつでも自由に使っていいのだ。
「そろそろ、やめるか」
将棋盤をかたずけ始める。楓も椅子を元あった場所へと返す。
「…先輩」
「んー?」
俺はなかなか元の場所に戻せない将棋盤に四苦八苦していると楓が背後から声をかけてきた。
「私、先輩のこと…好きです」
「はぁっ!?」
驚いて振り返る。
楓の目は真剣だった。
適当に将棋盤を戻すと、俺はしどろもどろで答える。
「ええっと…しばらく考えさせてくれ」
足早に彼女の横を通りすぎ、部室を出る。
頭がパニックになっている俺はとにかく玄関へ向かう。そして、下駄箱を通過儀礼のように開ける。
今日も入っている、手紙。しかもおまけ付き。
林 鱗太郎 様
もうすぐお誕生日ですね。少し早いですが、プレゼントも同封しておきます。
プレゼントとは、匂袋だった。嗅いでみると、ラベンダーのほのかな香りがした。
いったい誰なんだろう…
翌日、俺は下駄箱を開けて、驚いた。そこには手紙が入っていた。
嘘だろ、こんな朝っぱらから…
とりあえず、こそこそとカバンに入れると、その場を後にした。
教室で開けるのは周りの目が気になるので、無理だろう。俺は昼休みを待って、屋上へ行くことにした。
屋上には『立ち入り禁止!』の紙が貼ってあるが、かまわず開ける。
一人の男子生徒が寝転がっているのが見えたので、一番端の箇所へと移動する。
封筒を手で切って、中を読む。
林 鱗太郎 様
これが最後の手紙になります。今まで読んでくださってありがとうございました。
さようなら
たった、それだけだった。
俺はしょんぼりして、五、六時間目の授業をふて寝した。
数日後
俺は走っていた。何処へ向かうか? 決まってる、玄関だ。
廊下の窓から赤い光が射し、全てを赤く染めている。
階段を駆け降り、下駄箱が見えてきた。下級生の方へ向かう。
いた…!
その人物は、今まさに下駄箱から靴をだそうとしていた。
俺はその手を掴む。相手は目を見開いてこちらを向く。
「お前だったんだな…俺に手紙を送ってたのは……紅葉」
紅葉は泣きそうな顔をして、唇を震わせる。
「わたし…、わたし…」
「聞いたんだな、楓から。俺に告白したんだって。それでもしかしたら、と思ってお前のノート見せてもらったんだ。
そしたら、字が同じだったから…」
コクリッと紅葉が頷く。
「わたし…お姉ちゃんの邪魔になりたくなっかたの…。先輩のことも好きだけど、でも…」
「…悪いけど、楓の告白は断ったよ。あいつのことは妹みたいなものだから…なぁ」
紅葉がこちらを見る。
「楓とはたくさん話をして、そう思い立ったんだ。けど、紅葉とはちゃんと話たことなっかたな」
「先輩…」
「俺たちもっと話す必要があるんじゃないか?」
彼女は俯いてしまった。でも、俺は話続ける。
「俺は、紅葉とたくさん話をして、それでお前の気持ちに向き合いたい。それに、見つけて欲しかったんだろ。
自分のこと。だから…」
「話をしよう」
俯いていた彼女が顔を上げる。その顔には、薔薇が花咲いたような笑顔。
「はいっ!」
ああ、不意打ちだ…
今回は少し詰め込みすぎたような気がします。
学校の場所で、第三弾です。