その06:バンド…友達と組むのって最高じゃね?
「そういえばソウイチ、おまえさん自分のバンドは組まんのか?」
「え、バンドですか?」
1日休講が決まった月曜日。
ざぁと言う雨音をBGMにしてここ数日は仕事場であるライブハウス?、ギルドでランチの後片付けをしながらジンさん、ヨルさんと世間話していた。
文字通りそういえば、と切り出されたジンさんの一言は割と俺にとって想定していないものでつい、オウム返しのように聞き返してしまった。
「そうよ、ソウイチ君。仲の良い女の子がいるんでしょ?その子にかっこいいところ見せたいと思わないの?」
「…考えもしてなかったですね…」
「その顔は本当に考えもしなかったって顔だな…」
「いやぁ…ここでセッションしたり、「朝練」したりの毎日って割と音楽欲?満たされちゃうんですよね…」
それに見せたい相手が見てくれるかという話もあるだろうし。
「うーん…そんなもんなのか?最近の若者は…」
「なんか勿体ないわね…学祭のライブにでるとかはしないの?学祭に出れるのは学生のうちだけでしょ?動画とかにのこしておけば後で見たり出来るじゃない?」
「そういえば募集今週まででしたね…確かに勿体ない気がしてきました…」
ヨルさんの言う通りその手があったかと今まで興味の無かった学祭にスポットがあたった気がした。
確かにそれなら件の彼女にも見せることが出来る。
「とりあえず応募しとけしとけ、メンバーなんてのはその後に考えたってなんとかなるもんだよ、多分」
「多分!?…まぁ、せっかくですし仲良いメンツに軽く声かけてみますよ」
「頑張れ若者ー」
緩ーく応援されながらもキリの良い所まで片付けを済ました俺はそろそろ天気も更に悪くなってくるから、と先に切り上げる事になった。
無事、天気が酷くなる前には家に帰り着いた俺はせっかくだから今日の話をハカセにすべく電話を掛ける。
ハカセは専攻が同じと言う事もあり、何時ものあの面子の中でも一際、連絡取り合ってる気がしてる。
大学で初めてあったのになんと言うか…竹馬の友感?が凄まじい。
コールは5コール目位で通話に切り替わった。
「ソーさん!やっぱり今日は雨やばいな!?来ないとは聞いとったけど…どーした?…まさか家来るのか!?」
「いやいや行かねえよ!?…実は今日ジンさん等と喋ってたんだけど…」
先程まで喋っていた学祭ライブについて軽くハカセに打診してみる。
だいぶ先の話だがせっかくの祭りだ。仲のいいメンバーでやってみたいと思ってしまうのは俺のエゴだろうか…?
「うーん…面白そうだとは思うけど、逆に全く楽器の経験ない自分でいいのか?とも思ってしまうんだが…」
「所詮?有志募って見せっこするだけだから良いんじゃねーの?俺はエンジョイ勢だし、クオリティー低くてもいつものメンバーでやりたいなぁ…」
消極的に見えたハカセにまぁ、仕方ないか…と行ったようにボヤくと心外だと言わんばかりにハカセが語気を強める。
「待て待て!やるなら俺は全力だぞ!?それにやらないとは言ってない!」
「え、という事は…?」
「少なくとも俺は、どんな事があろうとも乗ってやる。とりあえず、申し込んでくれ!」
マジかよ。
降って湧いた機会に胸がざわつく。
力のある強い光がバンと自分の人生にスポットをライトを照らすような錯覚に陥る。
少し先の未来で自分が小さくても一瞬だけ学祭の「主役」なれるのかと不思議な実感が沸いてきた。
あれ、なんだこれ、滅茶苦茶うれしいぞ!?
「と、とりあえず申し込ませて貰うよ…なんかありがとな?ハカセ。」
「いやぁ、なんか楽しみになってきたな!」
「まぁ、抽選とかもあるだろうしホントに出来るかは分からんよ?」
「でも、俺はなんとなく通る気がするんだよなぁ…」
一騎当千な味方を得た気分で俺は学祭のライブに「想い」をはせる。
ステージに一緒にたつ仲間と眼下に広がる観客。通い慣れたキャンパスに組まれたステージが非日常になって盛り上がってくイメージは気分を高揚させるのに十分すぎるほど、魅力的に思えた。
イナリちゃんは…
「そしたら、あいつらに聞いてみて何やるかとかも決めないと!あと、ソーさんの言ってた例の娘も呼びたいよなぁ…」
「イナリちゃん?…あの娘は…」
「あぁ、あの場所から動けないんだっけ?うーんざんねんだなぁ…」
そう言うハカセの口調が本当に残念そうで、だけども打開策を見つけようと考えているように聞こえて、つい自分の胸が熱くなってくる。
本当に、どうすればいいのだろうか…
「歌…」
「ん?」
脳裏に過ぎった2文字の単語を殆ど無意識に俺は呟いていた。
消えてしまいそうな種火をハカセが見つけてくれ、一気に広がっていく。
「そうだよ、歌!」
「ど、急にどうしたよソーさん?バンドなんだからボーカルどうするかって話か?」
「それもだけど!ハカセ、微レ存論覚えとる!?」
「この間ミコトらと話したよな?リアル「想い」が力になる…なるほど!」
「そうそう!そんでもって歌には音の波動に気持ちが入るから気持ちがシンクロしたときっ!」
「最も効率よくエネルギーが発生する…だよな、ソーさん?」
「そういう事!だから曲を、オリジナルの歌を作ろう!」
「おう!…おう!?」
いきなり理論が飛躍したなと言わんばかりに驚いた声を上げるハカセ。
「いきなり理論が飛躍したな…ソーさん…」
実際に言ってきた。
「まぁ、言わんとする事は分かるし、やると言った以上、喜んで協力させてもらうが…俺たち…と言うか俺に出来るだろうか…」
「大丈夫、大事なのは気持ちだ!!」
「その通りだけど身も蓋もないな!?」
その後何時も通りの他愛もない会話をハカセとしていた。
ただ、そこで語られる「もしも」や「俺なら」は何時もよりキラキラしていた気がする。
願いはかなう(物理)
自分としては頑張って書籍化したいです
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