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その05:狐=油揚げは安直だけど好きなもんは好きらしい

単気筒のバイクにソフトケースのアコースティックギター。

立ち乗りで林道に転がる石と戯れながら少し暖かくなってきた早朝の空気を取り込む。

ここに来ると気分は大体いつもサイコー。

今までより10分早く行う「朝練」には新しいルーティーンが加わるようになった。



「ぱちぱちぱちじゃな」

「どうだった!?」

「よく分からん」

「良いとか悪いとかですら無かった!?」


そう、狐耳の彼女だ。

あ、ちょっと待て、彼女ってそういう意味じゃ無いんだが…いやでも否定するのはいやだなぁ…



…そう、狐耳の彼女だ。

何度か話が出来てやっとある程度仲良くなれたのだ。

名前を碧野 稲荷と言うらしく、この辺りかつてあった村、碧野村の稲荷「だった」らしい。

…まぁひねりも無くイナリちゃんと呼ばせて貰っている。

やはり彼女も例に漏れず、この辺りの神仏案件で実体化した存在らしく、残念ながら連絡先の交換以前の話、携帯端末を持ち合わせていないようだった。


代わりにと言うわけでは無いが彼女が現れる事について分かった事がある。

どうやら彼女はこの辺りに残っている「想い」の残痕とわずかに供給される辺りに住む人の「想い」を糧にして生きているらしく、普段は実体化せず過ごしているらしい。

最初に会ったときは俺が「朝練」しているときの「想い」のエネルギーが来たとき、ふと興味が出て覗きに来たと言う話らしい。


「というか、先にすまーとふおーんで見せて貰った動画?の音と全然違うのじゃが?」

「バンドの音は色々電源つかってるしなぁ…」

「わしも流石にエレキギターは分かるぞよ?でもほら、これとか。おぬしのと一緒じゃ無いのか?」

「あー…映像のやつはエレアコって言ってね…ここにエレキギターと同じプラグ指すとこがあるだろ?」

「あ、ホントじゃ!?」

「結構音は似てるんだけど…アンプを通すとやっぱり音は変わってくるよね」

「そんなもんかのぅ…」

「そんなもんなんじゃない?」


やはり、歌で知り合った?だけにこの娘とは音楽の話をする事が多い。

本人は三味線や琴を弾くらしく、やはり食いつきがいいのは弦楽器の様で、逆に音楽理論とか機材、音響とかの話題は喋事自体が楽しいから聞いてるって感じで会話してる。

レパートリーが偏ってる自分としては実は若干申し訳なく感じていたりする。


「そういえばイナリちゃんは山降りて遊びに行くとか出来ないの??」

「実体化の維持にはそれなりに力が必要じゃからな。最後に行ったのはまだ、この辺りにもう少し人がおるときじゃな。もう少し、信仰の力があればそれぐらい容易いのだがのぅ…」


ほうほうと昔を懐かしむ仕草を見せる美少女は仕草とのギャップも相まって声にならないほど可愛いらしい。

俺はついでに持ってきた携帯コンロでヤカンの水が沸いたのを確認するとカップに手早くインスタントコーヒーを淹れてイナリちゃんに渡す。

すまんの、と俺に一言掛けたあとにふうふうとコーヒーに集中してるイナリちゃんの様子を見ながらボンヤリと彼女と街を歩きたい。と思う様になった。

元々が知的好奇心の高そうな彼女だ。きっと色んな所に連れてっても楽しんでる姿を俺に見せて、魅せてくれるんだろう…


「ぷはぁー…コーヒー、さんきゅーなのじゃ。最近のインスタントコーヒーは昔よりも美味しくなっとるのう!?」

「満足頂けたようでなによりで」

「勿論!…あっ…名残惜しいが今日はこの辺りまでみたいじゃ…」

「次はお菓子でも持ってくよ、生じゃないけど生菓子とか」

「それは楽しみじゃ!…では、またの」

「うん、ではまた。」


…風の音と共にさあっと消え去るイナリちゃんを見送った俺は、独り言で気合を入れ直す。


「…さて、学校いきますか!」


俺はこの、残響音の残した「朝練」の後片付けしてから何時も通りの日常へと戻るのであった。


「はー…尊い」

「ひー…切ねえ」

「ふう、嫉妬を覚えるわ」

「hey!その娘は何時紹介してくれるんディスかー!?」

「ほうほう…まぁ、ソーさんが青春してるっぽくてなによりだわ」


割と景色と座席が広そうなカフェ風カフェテリアで昼食を囲いながら俺は最近のイナリちゃんとの日常を報告していた。

端からミコト、ハカセ、ハルカ、ジュディ、コーちゃんが感嘆符を漏らす。何故にはひふへほ作文?

と言うかハルカ、過激過ぎないか!?


「…まぁコーちゃん、確かに青春?っちゃ青春っぽいかもだけど…」

「でも、アレだろ?街をぶらつくようなデートとかしたいってことだろ?分かるはー…」


やいのやいの男性陣でアオハライドしているがやけに女性陣が静かなのが気になる…

あれっ、ハルカがぷるぷるしだした…あ、キレた


「…うがー!!青春とかなんだ!?ズッ婚バッ婚ってか!?彼氏作るのが正義だってのかー!?!?」

「ハルカ!?落ち着いテ!?スッゲー下品なこと言ってるアルヨ!?」

「…ハルカさん、荒みすぎじゃね?青春に親でも殺されたんか?」


暴れるハルカと何故かチャイナなポーズを取るジュディ。

コーちゃんが何故か分からない、といった様な顔をしていると推定美少年のミコトからアンサーが飛んできた。


「あー…なんか初めて行ったコンパが残念な感じだったらしいよ?」

「もしかしてこの間ミコトが呼び出し食らったやつ??」

「そうそう、何事かと思ってギルド行ったら完全に酔っ払っててさ…酷いことされたのかって聞いたら逆に連絡先すら聞かれなかったってさ…」

「飲んでるハルカはサムライ・ガールだったヨ!言葉の切れ味は正に日本刀!若しくは宮城峡ってやつね!」

「宮城峡?」

「コーちゃんずコレクションじゃない?」

「あー」

「こちとらアルコール初心者じゃーい!男なら皮肉の1つや2つ、笑って受け流せー!!うがー!!」


…実はこの中でお酒が飲めないのは俺だけだったりする。

というのもコーちゃんとミコトは1つ年上でハカセとハルカはついこの間、20歳になっている。ジュディは少なくとも成人はしてるはずだけど…幾つ年上なのかは実は聞いたことがなかったりする。

まぁ、女性に年齢聞くのもあれだしね。

コーちゃんの家にあるカラフルなお酒コレクションを見てると成人して早く嗜んで見たくなるが、目の前にいる酒癖悪くてしくじりガールを見てると程々というのは大切なんだなぁとボンヤリ思ってしまう。


「…なによ?文句あるなら言ってみなさいよ?」

「い、いや?別に?…っハカセ!そろそろ俺ら昼の講義じゃねぇかな?」

「そ、そうだなソーさん。実験は時間も掛かるし大変だよなー!?なー!?」


仕事人の様な鋭い目付きの人間にひと仕事されては敵わないと戦略的撤退のアイサインをお互いに送った俺とハカセは人柱を2柱建てる事でなんとか次の講義に向かうことが出来たのだった。

許せ、コーちゃん&ミコト。


((二人とも…後で覚えておけよ?))


よし、帰りはラーメン奢ろう。そうしよう。


因みにこのあと食べた池の近くにあるやたらメニューの豊富な餃子屋さんで食べたラーメンは中々美味しかった。

ついでに水餃子も奢らされた。


「はぁー懐かしいのぅ…昔、即席麺は栄養食と言われてての?探検隊がコイツを持ってく写真のポスターがそこら中に貼っておったわ…」

「へぇーそうなのか…どちらかと言うと俺らの世代はジャンクフードの代名詞ってイメージが強いような気がするけど…」


ズルズルと音を立てながらいつの間にか出来上がってた木製のテーブルと椅子で昔の栄養食?を啜るっているのは何時もの「朝練」場所。

この間、ラーメンを食ってた時に(そういえばカップ麺位なら持っていけるな)と思い立ったので早速次の日に持ち込んでみたところだ。

思いの外受けがよく内心、ガッツポーズ。


「それにしても…イナリちゃんは絶対こっち選ぶと思ってたんだけど…」


そう、普通は逆だと思うんだがイナリちゃんはカップ型の醤油ラーメンで逆に俺がキツネうどんを食べていたりする。


「あほぉぅ、どうせこのなりだからと何も考えずにそれを持ってきたのじゃろう?わしだって偶には当時を懐かしんで別の物を食べたくなるときがあるんじゃ。おぬしだって毎日同じ物を食べてるわけでは無かろう?」

「うっ…ま、それはまぁ…おっしゃる通りで…」


チョイスが安直すぎるとダメだしを食らった俺は確かに何も考えずに持ってきてしまったことを反省した。

そりゃ、気になってる娘には少しぐらい持ってくるもんをひねらんとなぁ…


「しっかしそうなると…2,3個持ってきた別タイプのやつも同じく油揚げ入ってるし…」

「なに!?そんなのあるのか!?」

「え、でも要らないんじゃ…?」

「そんなことは言うてなかろう!?それはそれ、これはこれじゃ!」


…とりあえずイナリちゃん「も」油揚げは好きだったらしい。

…うん…まぁ、結果オーライだな、うん。


少し水を足して再度お湯を沸かすと、イナリちゃんはカップ型のきつねうどんにもお湯をいれ、フライング気味にふたを開けて旨そうにほおばる。

女の子のよく言う別腹制度なのかと感心しながら、見た目相応な仕草の彼女を横目に片付けを始める。

ちょうどゴミ袋を縛る前に食べ終えた彼女はヒョイッとそのカップを袋に入れてくれて、そうだと言わんばかりに俺に声をかける。


「そういえば、ここから2,3日はまた雨が続くらしいからの?道も危ないし間違ってもこんようにな?来てもわしは現れんからの?」

「はいはい、了解。…そしたらまた。」

「またの。」


「何時」と言わずに何時も通り「朝練」の場所を後にする。

去り際にほんの刹那だけ見せる彼女の横顔だけは淡く、瞳がちりつくほど美しく目が離せないのに…好きになれない。

俺は少しだけ感じる苦い後味を背に今日もまた日常をこなすべく林道を、そして下界へと下って行くのであった。

そういえば地味にこいつは舞台だったり登場人物だったりに知ってる場所&知り合いがモデルのキャラとか入れてるんですよね。

小説書きあるあるなんですかね?


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