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その12:The Live what I wanna tell you.

冷たい風に暖かい光が差し込む。

近くで走っている俺の後ろに車が1台。

コーちゃんが借りてきてくれたレンタカーだ。

イナリちゃんがいなくなるまであと2日ギリギリ…

なんとか間に合ったが少しだけ自分の表情が硬いことに気づく。

どうやら自分も緊張していた様だ。

俺は両肩を片方ずつ2回叩いて気合を入れる。


きっと今日は最高の日になる。

いや、してやる。

気持ちの準備は万端だ。




「ヤバいな…ちょっと緊張してきた。」


時間は少し戻って今日向かう準備の最中。

少しひりついた緊張感はハカセのその一言で逆に霧散した。


「大丈夫、かどうかは分からないけど幸いにして?観客は一人だよ。ハカセ?」

「…ただ、そのたった一人の観客は俺達の演奏が上手く行かないとこの世からいなくなるんだけどな…」


ミコトがらしくない楽観的なセリフで励まし、コーちゃんがそれでも気は抜くなと釘を刺す。

居心地の良い何時もの雰囲気。なら言うべき事はきっとありのままの俺の「想い」なんだろう。


レンタカーに積み込んだ機材の最終チェックを終えた俺は、改めて3人に向き合って言葉を紡いだ。


「3人とも、ありがとう…3人からしたら居るかどうかも分からないような女の人の為に手を尽くして…こんな短時間で形に出来たとは思えない位仕上げてくれたな…」


湧いてくる「想い」が一気に口に向かい言葉に詰まりそうになる。

3人は「想い」をぶつけに行く相手は俺らじゃないだろ?と俺のセリフを止めさせた。


「気にすんなって!ソーさん、俺も例の女の娘?凄い気になってるし!」

「一応言っとくと僕らはつまるところ、その娘じゃなくてソウイチの為にやってるんだからソウイチには全力で「想い」を出してもらわなきゃ困るんだからね?」

「ソーさんといるとまるで小説の登場人物になった気すらしてくるから面白いよね。楽しみにしてるよ」


「…任せろ!」


準備の済ませた夜明け前。

誰の声も聞こえない少し冷たく感じる空気に暖かな「想い」が響いた。



いつも通りいつもの場所へいつもの感じじゃないけどおもむろにバイクを降りると、ついてきてくれた友達に指示を出す。


いつもの場所が、あの小さなステージが、様変わりしていく様子は俺の目にも新鮮でこれからやることに不思議な高揚感を覚える。


電源、アンプ、ギター、ドラム、キーボード、

およそ似つかわしくない機材が整然と並び、俺の一つ目に奏でる音を待つ。


--さあ始めようか。


音楽の経験が全くない友達に仕込めたことはそう多くない。

ゆっくりと歩くレベルのシンプルなリズム。しかし力強く。

シンプルなベース音。だけどドラムと歩調を合わせるように。

白玉のキーボードは曲が持っている要素を全て理解しないといけない。


俺は俺の友達だからできるアンサンブルをこの瞬間、用意出来たのだ。

もう、最高に決まってるよな。


音合わせするように刻んでいたリズムと音を一気にブレイクする。

これから始めるのは俺の本気…そしてイナリちゃんに送るメッセージ。

弱い20年弱の浅い経験しかない俺が君に贈るメッセージなんてひとつしかないだろ?






メッセージに込められた単純で純粋な大好きを、大好きな彼女に強引にでも叩きつけた。

迷惑?とかそんな事考えない純粋な…俺のエゴ。

その他大勢にはバカだとしか思われない事を全力でやりきってみたが…

…幸いな事に、彼女には伝わったみたいだ。


「まったくとんでもないやつじゃのうお主は」

「どうだった俺の本気は?」


朝日の差し込みと重なるイナリちゃんの柔らかい微笑みは俺にイエスのメッセージを言外に伝えてくれる。

が、彼女の口から改めて、直接、聞きたい俺はどうだった?と聞いてみた。


「確かに…伝わったのじゃ…まるで塊を投げつけられたような荒さだったがの?って…ん?そこの3人は?」


イナリちゃんはしょうがないやつじゃの、と口ずさみながら眉間を寄せるが、表情は変わらない微笑みを残していた。

そして、現れたそんなイナリちゃんに驚く様子のマイフレンズ。


「驚いた…」

「いや、疑ってたわけじゃないんだけどさ…実際会ってみると…」

「…なるほどな、これはソーさんが朝練に力を入れるわけだ」


言外に、想像以上に可愛いと伝えられたイナリちゃんは?マークを浮かべながら、しかし自分の中に確かに信仰の力が入ってくることを確認して、驚いたように目を開いた。


「…これは…?」

「信仰の力ってやつだっけ?やっぱりイナリちゃん美人だから、ひと目見ただけで皆想うところがあるんじゃない?」

「ああ、あほぉう!いきなり何、こっ恥ずかしい事を言っとるのじゃ!?お主は!?」


俺が率直な感想を伝えると、あたふたといきなり慌てるイナリちゃん。

何故かマイフレンズ3人とも半ば呆れ顔で


「わーお…ソーさんらしいわぁ…」

「正に神殺し、すけこまし」

「でも、まぁ…逆にそれが結局彼女を救った?っぽいんだよね…?」


そう言いながらうんうんと頷き合ってるのだが…

え?俺ってそう言うキャラなの?

え、イナリちゃんも頷くの?


…まぁ、それは置いといて。


「そういえばイナリちゃんさ、以前三味線の電子楽器はあるかって聞いてたよね?」

「ああ、確かに言っておったの?それがどうしたのじゃ?」

「はいこれ」


そう言って俺が持ってきたのは自作したエレクトリック三味線。

以前彼女が三味線をやると聞いていた俺は親戚から使っていない三味線をもらい、他のアナログ楽器用のピックアップを加工して取り付けた三味線を自作していた。


「…ほー、器用なもんじゃのう…」

「まぁ、何とか間に合って良かったよ…」

「…ソウイチ、これって作るのにどんだけ掛かった?」

「えっと…まぁ、曲書いたり機材準備とかの合間の時間全部??」

「…通りで今週の講義ほぼ全部休むわけだわなあ…」


そんな感じで…まあ今回のプレゼントってわけだ。

指輪とかネックレスとかは今回、なんか違うかな?と思って用意したものだったりする。

…決してサイズが分からなかったとかそういう話ではない。


気を取り直して。


「やるでしょ?セッション」


そういってアンプに接続した三味線をほい、と彼女に渡す

挑発的な笑みを浮かべる彼女は軽くため息を付いたあと笑いながら俺に


「当たり前じゃろ?愛しい人よ」


そう言って準備を始めた。

さあセッションの始まりだ。


小さなステージ。

機材を置いたらそれで終わり。

観客が1人だった俺の|本気《彼女を消さないために尽くした全力》は|その数を0にして《彼女をステージに上げて》幕を降ろした。


俺は隣で笑い合えた彼女にどうしようもない程の強い安堵と胸の高鳴りを感じていた。

というわけでいったん一区切り?です!

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