その01:マジ綺麗な子にあったわ
一発目、投稿していきます!
朝、天気が良いのが一目でわかる遮光されてないカーテンから目覚ましの代わりの日の出の一発目の光が目に入ると俺は体を起し、ひと伸びした。
本日も異世界召喚されることもやたらスゲーチート能力をもらえることも無く一日が始まる。
とはいえ、全く面白くも無い世界ってわけでも無い。
勝手に中の上だと思っている自分の生意気そうな顔を鏡で見ながら「朝練」の準備を始める。
「朝練」ていうのは…あー
…一昔まえにエクストリームな所でアイロンかけるのって流行ったじゃん?
あと、なんか嵐の中でギター弾く的なロックンローラー。
多分、あのときの「え、こいつらバカすげー!?」って言う気持ちが地味に今でもくすぶってて…大学入って2年目の俺はなんとなくにこんな日課を始めてた。
バイク乗って人が登山で使うような林道に行けるところまで走ってからの音楽の練習。
ギターと歌を交互に繰り返して…
歌の時はバイク強めで道の終わりまで、ギターの時は木陰の合間にあるちょっとしたスペースでステージのように。
手早く準備を整えた俺はいつも向かう学校に背を向けてバイクを発進させた。
桜と梅雨の合間の季節に心地よい風を感じながら、朝の全く人気のない田舎道を走るのは山の麓の大学に通う学生だけの贅沢なんじゃないかと、口角が上がるのを抑えきれずに思わず笑い出してしまう。
サイコーの気分だ。
緩い登山道のような林道はなんちゃってオフロードな223ccあるトリコロールカラーのバイクとソフトのギターケースでいける程度の荒れ具合で別に急ぐまでもないペースで幾ばくか走るとちょうど良いところを自分で決めて止る。
別に朝方だし特に人がくるわけでもないんだが同じ所を通る人が困らないよう端に寄せて適当に座るところを探す。
ばしばしと手で払った岩に雑に腰掛けると、ケースからギターを取り出す。
譜面も何もあったもんじゃないコードをジャカジャカと引きながら森林浴を肌と耳で楽しんでいると、いつもと違う音が聞こえてきた。
「ほぉう…これはまた酔狂な歌舞伎者がおるのう…」
「おっと誰かいたのか…っ!?」
一目で奪われた。
声を、思考を、周りの景色を。
柔らかな緑の隙間から差し込んだ朝日が目の前の女性の姿を映し出す。
透き通るような黄金色の髪は彼女に人知を超えた魅力を。
決してフェイクとは思えないリアルを感じる耳としっぽには超常の者としての気配を。
巫女服のような和装は、そのものが神聖であることをはっきりと主張させ、違和感なく調和された自然に絵としての理由をつける。
難しいこと言わずにはっきり言うと、俺には彼女がいわゆる女神にしか見えなかった。
「…綺麗だ…」
「ん?そうじゃな、ここはわしもたまに手を入れておるお気に入りの…!?」
急にこちらを驚いたように見ながら彼女はしばらく沈黙をしていた。
「…いつもここに来るのか?」
「…あ、最近は朝によく?」
「名は?」
「奏一…津奈木 奏一」
「…そうか…またくる」
「え、あっ!?」
ひゅうと少し強めの風がほほに当たるのに気づいたときには先ほどの女性は目の前からいなくなっていた。
あれは幻だったのか?
釈然としないまま俺は帰宅したのだった。
さて、朝練と言うからには終わった後も本日の予定は全然残っている。
というか、一日はまだ始まったばかりだ
実家であまり食べていなかったイングリッシュ・マフィンの朝食を手早く作り、体に入れると今日の講義の準備を進める。
確か今日は電磁気学と英語だったか?
鞄にノートPCと教科書、筆記具を入れて再び家の扉を開けた。
二階建てのアパートの下にある駐輪場に向かうとどうやらこれから出かけそうな隣人に出くわした。
「よっすー、ソーさん。今日は1限?」
「いやいやコーちゃん、それだとちょっと遅いっしょ?それと、おはよー」
今俺が挨拶した相手は通称コーちゃん。名前を大島 光輝といい、一年の時からパンキョーで仲良くさせて貰っている。
自他共に認める読書フリークってやつで、古今東西あらゆるジャンルの本を読むから昔読んでたドマイナーな漫画とかでもわかってたりするスゲーところがある。
そんなコーちゃんの大学での専攻は当然…
「あ、そうだコーちゃんってたしか文学部だったよね?」
「ん?そうだけど…それがどーしたん?」
頭に?マークを付けたようにコーちゃんが俺に尋ねる。
「いやさ、この辺でめっちゃ美人の狐耳の娘の出る話とか知らないかなぁ?と…」
「ソーさん。ラノベでも読んどけ」
「いや、じゃなくてっ…!?」
「はいはい…でも昔の人のそういう系の本探すの面白そうやね、OK!探しとくは!」
「あっおい!?…って行っちゃったか…あー」
コーちゃんはそう、軽く流して先に出て行った。
今日のこと話したかったんだが…まぁいつでも会えるし、後でで良いかぁ…
気を取り直してさっき山へ向けたバイクの進路を勤勉いそしむキャンパスへと向け直すのだった。
キャンパス。真っ白な下地に色を与える事で芸術を生み出せる物。
または人生に彩りを与え、豊かにする所。
よく言う全入(全員入れる)時代とか日本のそれはモラトリアムだの青春の延長戦だの言われてるらしいがどんな使い方するとかは人それぞれだし、多様性あるこの場所は高校時代までで感じていた閉塞感を一気に吹き飛ばすぐらいには居心地の良いところだと個人的には思ってる。
俺の通ってるここは所謂一つの敷地に全部そろってるワンキャンパスってやつらしく某夢の国(バチカン?)ぐらいの広さに文理様々な学部がある所だったりする。
所在地は山。ぶっちゃけ山ってかけば「ああ、あそこね」って言われる程度には僻地にあるから知的好奇心ある人間が学ぶには(他に何も無いから)かなり良い環境だったりする。
「お、ソーさんや!ようこそ下界へ!」
「ふぉっふぉっふぉ、霞を食べて生きるのにも飽きてきたわい…って仙人じゃねーから!?」
「そうだよ、ハカセ。僕もあんなところでどうやって生きてるんだろ?って思ったことあるけど、ソウイチくんは人間だし普通にご飯食べてるはずだからね?」
「ミコトも言ってること大概じゃね?」
「…というか二人もどっちかていうと仙人サイドの人間だろーよ」
「「え?」」
「え?じゃねーよ!?」
なかなか失礼に挨拶する二人はそれぞれ田中 博士と川口 命。この二人とも会ってから一年ぐらいになる。
ハカセはぶっちゃけ名前はヒロシ何だが漢字がまんまハカセなんで皆そう呼ぶようになった。性格が「ハカセ」のステレオタイプとはまるで正反対の人間だが髪の毛が天パだからその辺はハカセっぽいと個人的に思ってる。
ミコトは性格…と言うか勉強する度合いで言ったらよっぽどハカセに近いかもしれないような人間で専攻が生物学部のドクターライクな服装をよくしている。ただ、顔立ちがどう見ても美少女のそれで生物学的に男なのが本人が勉強している内容よりよっぽど理解できない。…あれ、生物学的に男なんだよな?
「?どーしたソーさん。クエスチョンマーク浮かべてそうな顔して」
「…いや、ミコトって生物学上男だったよな…っておもってな…」
俺がミコトの性別に若干の疑問を覚えることを伝えるとハカセは笑ったように一蹴しようとする。
「HAHAHA、なにをおっしゃるウサギさん。…あれ?」
「はぁぁぁ!?二人ともしんっじられない!?僕の股ぐらの確認作業、アーッ!んなにしたくせに!?」
「ちょ!?その言い方、誤解ないか!?」
「ヒソヒソされる…ヤメテ!?」
…というかその言い方は男でも女でも語弊があるぞ!?
「これだから仙人組は…」ってまた言われるわ…
因みに、仙人組っていうのはどうやら俺らのグループを指す呼び方で、大学からさらに山側のアパート取ってる奴らのことを指すらしい。別の友達から「市街地の方が明らかに女の子と遊ぶとき便利なのになんで山のさらに上とかすむの?何?仙人なの?」って突っ込みくらって初めて俺たちは「その発想は無かったっ…!?」って声をそろえて言ったときにつけられたあだ名だったりする。いや、だってさ、マジでその発想無かったんだわ…
まぁ、以来開き直ってちょくちょくネタにしてたりするんだが…こんなことやってる内は彼女もへったくれもないわなぁ…
さて、そんな感じでじゃれ合ってると時間は割とすぐ過ぎてくもんで、そろそろ教室へ向かわないといけない時間になってきた。
敷地が広いキャンパスでは早めに教室の近くについてないと間に合わなかったりするからそろそろ移動しないと。
「ハカセ、そろそろ教室に移動しないと」
「りょーかい…あ、そうだ二人とも昼どうするよ?」
俺がハカセに教室に一緒に向かうよう促すと、ハカセは昼食をどこで食べるか聞いてきた。
「あー…英語ん教室から近いところが個人的には良いなぁ…」
「となると…僕らは3号館だからとんかつとか?」
「かなぁ…?コーちゃんどうするかソーさん、聞いといてよ」
「あいよ」
ミコトと分かれてハカセと同じ講義を受けに教室へ向かう。
そういえば、朝練の時のあの娘の事も話しとくか…
俺はそう、心の片隅に止めておくのであった。