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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シンガリーダー "アツサ" ~異世界転生後の俺は殿---シンガリ---の常連として生きていく!?~

作者: ふるなる

 異世界転生の王道物ですので気軽に読めます(多分)。是非、暇つぶしに読んでみて下さい!!

 赤い兵士達が青い兵士達を追い詰めていく。

 俺は青い兵士を自陣の(とりで)へと帰らせる。


「早くっ! 早くっ!!」


 青い兵を束ねる王はひと握りの仲間を置いて砦へと帰っていく。

 残された兵士は攻めくる敵に立ち向かう。


 それはまるで"壁"のよう───


「ふう。王は逃がせられた。これでゲームオーバーにはならねぇ。ひと安心だ。」


 画面越しでスマホをいじるアツサ。画面上を指でスライドさせて王を動かす。その一方で、見捨てられた兵士は勇敢(ゆうかん)にも赤い兵士達の行進を食い止めようと血を流していた。


 自陣へと逃げる軍から切り離された兵士。彼らの役目は敵の追い討ちを食い止め、背中を(さら)している仲間を無事に逃がすこと。


 そんな彼らを"殿(しんがり)"───と言う。


 殿(しんがり)は限られた戦力で敵に立ち向かうという危険な仕事。そして、これは死を前提(ぜんてい)とした戦法であるのだ。


「ふぅ。雑魚を(おとり)に逃げられた。これでまだ戦える。今度も少し強い相手と戦おう。負けそうになったら雑魚を捨てて逃げればいいしな。」



 "戦国乱闘"というスマホアプリがある。

 無課金でも遊べる一部課金ありのネット対戦型アプリ。ゲームを一定進めるか、課金をすることで得られる"石"を使って"ガチャ"を引き、そこで出た戦国武将や兵士を組み合わせて自身の陣地を広げるゲームだ。

 自身の陣地から敵の陣地へと進出し、敵の"王"と呼ばれるリーダーを倒せば勝利となる。敗北れば陣地の一部が奪われる他、その日の対戦ができなくなる使用がある。ただし、戦闘中に王が殺られることなく自陣へと戻ったらその戦闘は敗北ではなくなる。

 アツサはこのアプリで重課金者の一人。金と時間のかかり、強いプライドを生み出している。アツサには"敗北"の二文字を味わう訳には行かなかった。必要なのは"勝利"か敗北回避の二つのみ。いや、欲を言えば勝利の一つ以外は不必要だ。



 アツサは失敗をまた繰り返す。

 敵に挑み、敗北を喫しそうになると"殿(しんがり)"を残して王を逃がす。

 アツサの兵は不必要な血を流していたのだ。


「くそっ、負けた……。」


 ベッドの上で一人スマホを触る。

 寝返りをうつ時、アツサは思わず画面の端に触れてしまった。そこには、広告が掲載(けいさい)されている。


「しまった。間違えて広告に触れちゃった。くっそぉ。まじで運営さぁ、こんなにも広告いらねぇよ。」


 スマホはゲーム画面からサイトへと飛んでいった。

 それを見ていたアツサは苛立ちながらその様子を見ていた。

 パッと変わった画面。

 アツサは再びゲーム画面に戻ろうと画面に触れようとしたが止めた。そこには、目を(うたが)うような内容が書かれていた。



 我は「神」だ─────



 真っ黒の背景にその文字がくっきりと映る。

 アツサは興味本位で画面をスクロールさせた。ありえないと笑ってしまう内容が書かれていた。



 とある異世界で現在崩壊の危機となっている────

 君の手でその世界を救ってくれないか────



 思わず笑ってしまった。何を言っているんだ、馬鹿ではないのか、と(さげす)み笑う。



 異世界に転生する────

 ↑をクリック!!─────



 そして、このクリックボタンを見て吹き出してしまった。面白すぎて、笑いが止まらない。そのノリでアツサはボタンを押してしまった。


 それが本当に異世界への片道切符(きっぷ)だと知らずに……


 急に目の前が真っ暗になる。

 身体が宇宙に放り出されたような感覚に(おちい)る。

 この世界の感覚が一つも機能しない。目の前は真っ暗。空気はないように感じる。味はしない。何も聞こえない。肌に触れるものもない。

 ただ、無の空間に(ただよ)うだけ。

 抵抗(ていこう)を諦めたアツサは一時(ひととき)の熟睡をし始めていった。



◆───◇───◆


  ٩(๑•ㅂ•)۶


◆───◇───◆



 感覚が戻った!?

 重量がある。五感で感じる感覚も何変わりない。


(そうか、あれは夢に落ちる感覚だったんだ……)


 目の前は暗闇だが、ほのかに外の光が入り込む。空気を感じる。味はしない。人の気配が聞こえる。肌に触れる高級そうなフワフワのベッド。


(フワフワのベッド……!?)


 アツサは飛び上がり目を開けた。

 そこには見慣れない風景が広がっている。


「えっ、ここはどこだ!?」


 アツサの声に気付いた(ひげ)が羊のワタのようにモコモコしているのが印象的な男性。黒いキチリとしたスーツが真面目そうに見せている。顔は人間と言いきれず、犬の顔も混じっているように見える。


「おや、ようやく起きましたかな。わたくしはアグマル国で執事をしておりますマッシュと申します。」


 アツサの頭の中でさらに複雑に絡まる糸。

 意味が分からなくなっていく。


「どういうことだ? お前、人間か? それと……」


 この状況が読み込めず混乱している。


「人間族ではないですかな。わたくしは"ヒヒツジゲ族"です。このアグマル国にも人間族は暮らしています。安心して下さい。」


「もっと分からんくなる。アグマル国ってのも聞いたことないし。ここは日本じゃないのか?」

「日本……? どこですか?」

「えっ、まさか地球でもないのか?」

「……聞いたことはありますが、何を示しているのかは存じません。申し訳ないです。わたくしの勉強不足でございます。」


 アツサは絡まった糸を一つ一つ解くことにした。

 自身の情報をマッシュに伝える。逆に、マッシュから知らない情報を得る。

 簡単に言い合ったことでアツサの頭に浮かぶ一つの答え。



(俺は異世界に転移か転生した!?)



 そうアツサは異世界に転生したのだった。



◆───◇───◆



シンガリーダー "アツサ" 

~異世界転生後の俺は殿---シンガリ---の常連として生きていく!?~



◆───◇───◆



 ツルツルに(みが)かれた床のタイルや壁。ほのかに照らすシャンデリア。その上を一歩ずつ歩いていく。


「ここはアグマル国の……あなた方で言えば、その国会とか天皇の家? というものと同じでしょう。」


 マッシュは国会というものを知らないからこそ出た言葉だろう。ここはアグマル国の中心であり、王の家兼国の中心を果たす場所だ。

 見た感じヨーロッパの宮殿のイメージと似ていた。

 アツサはこの世界に転移した訳ではなく転生したのだ。すなわち、アツサは能力を持っている。

 ただ、その能力は何か、能力の使い方、それらを知らないがために能力は扱えない。


「はい、ここです。」


 マッシュは部屋の中に入る。

 中からヒヒツジゲ族が現れた。手には小さな箱を持っている。


「さて、アツサ様。能力を知るためにまずは一本髭の毛(・・・)を頂きます。」


 彼は早く仕事を終わらそうとしているのだろう。

 能力を知るためには髭の毛が必要となることを知る……。


「って、髭っ!!?」

「はい。髭でございます。」

「え、髪の毛とかじゃなくて髭なのっ?」

「そうです。他の国では髪の毛から情報を得る機械を持つ場所もあるそうですが、ここでは()の毛なんです。」


(ええー。マジかよ。)


 アツサは髭を取られた。

 無理やり引かれた髭はアツサに痛みを与えていた。


「ありがとうございます。確認は数分後。その時までゆっくりして下さい。」

「いててて、お、おう。」


「さあ、そういうことです。この国の状況の説明ついでに少し休憩室に行きましょう。」



 マッシュは客間へとアツサを連れさせて高価な椅子に座るように進めた。

 アツサはその通りに椅子に腰をかける。

 羊毛がフワフワな座り心地を作り出している。

 マッシュは深く座り込む様子を一通り眺め終えると、すぐに口を開いた。


「話しましょう。この国がどの状況に陥っているかを……」


 部屋にかかる重力がさらに重くかかっていくのを感じる。

 部屋の明かりが少し薄暗くなったようなった。


「まず前置きから話させて貰います。この世界では一つの大陸に国が固まっているのです。およそ、十四の国があるのですが……」

「ですが?」

「ある日、国の一つナトリ国とリュオン国が争い始めたのです。二つの国は戦争前から大陸から少し離れた孤島を巡って対立していました。どちらも孤島を自国のものと主張していたのが原因です。」


 マッシュが話し始めたのはこの世界の二つの国の状況。

 まだアグマル国は出てきていない。


「過程を飛ばしますが、結果はリュオン国の勝利。その孤島は彼の国のものとなったのです。そしてこの勝利が、リュオン国が侵略国家となる始まりなのです。」


 トーンダウンしていく声。

 アツサはそこまでの話とリュオンの様子で結果を予想した。


「もしかしてリュオン国とここの国は戦争している……みたいな。」

「ええ、その通りです。」

「やはり、領土問題で戦争が起きたのか?」

「違いますよ。リュオン国は龍動族(るどうぞく)で成り立つ国家。我々は半分以上をヒヒツジゲ族で占める多民族国家。

 リュオン族は龍動族こそ崇高(すうこう)とし、逆にヒヒツジゲ族は厄災を生む種族として排除する対象としたのです。それに反抗を示した我がアグマル国とリュオン国は対立、すぐに戦争となりました。

 今も尚、戦争は続いている(・・・・・・・・)のです。」


 戦争という波乱の中にアツサは飛ばされた。

 飛ばされた自分を優しく接してくれたマッシュ達のためにアグマル国の役に立ちたいという考えが浮かぶ。


「これが我が国の状況です。」


 マッシュは重い重力に抗い立ち上がる。


「さて、もうそろそろ結果が返される頃です。結果を取りに行きましょう。」



◆───◇───◆



٩(๑•ㅂ•)۶



◆───◇───◆



常夏(とこなつ) アツサ


ステータス


レベル 多分そんな高くない

体力 高いんじゃない?

攻撃力 分からない

防御力 高そう

回避力 皆無

素早さ 遅そうな気がする



「ふざけてんの? この解析!!」


 アツサは貰った紙を見て苛立っていく。


「えっ、ステータスってこんなあやふやな感じなの? 普通は数字じゃないの?」

「普通は具体的な数字なんですが、何せ髭から入手できるDNAがそんなにありませんでしたので……」

「もう、髭から解析するのやめたらっ!?」


 苛立ちをぶつけるアツサ。怒りをぶつけられてあたふたするアグマルのヒヒツジゲ達。


「しかし、"能力"の方は完全に解明されてますので。」

「能力……? 裏か。」


 アツサは紙を裏向きにひっくり返した。

 書体で書かれた文字を読んでいく。



常夏 アツサ


能力:ダメージを全て別空間に移し、蓄積されたダメージを元に空気を圧縮し、一瞬にして空気を解放することで衝撃波をうむ能力




「長っ!!?」

「そうですか。」

「いや、当たり前だろ? 覚えられねぇよ!!」

「ですが、【ダメージ吸収】よりかはいいでしょう。」

「ダメージ吸収の方がいいよ!!」




常夏 アツサ


能力:ダメージ吸収(訂正)

効果:受けるダメージを全て異空間に移す。そこでダメージを圧縮すると同時に空気を取り入れて圧縮する。攻撃する際、身体及び身体に触れている武器から異世界の圧縮されたものを解き放ち強い衝撃波をうむ。




「まあ、少し難しいけど。要は、《ダメージを溜めて攻撃する時にそのダメージを返す。ただし、ダメージは受けない。》ってことだろ? まあポ〇ケモンでいうダメージを受けない"がまん"って技だな。」


 アツサは能力を見て妙な熱意を湧き上がらせていく。

 熱気が周りを包み始めた。


「なあ、マッシュ。この能力が本当なら、俺は無敵ってことだろ。俺も手伝ってやるよ。」

「何をです?」

「戦争中なんだろ? 助けてやるよ!! 俺の力で!」

「それはありがたい。偶然にも我が国の軍長は北海道(・・・)という世界からきた異世界人であり、あなたと同じ異世界人。もしかしたら、縁がありそうな気がします。」


 アツサはマッシュの言葉を聞いて一つの言葉に引っかかった。


「ちょっと待て。北海道から来たやつがいんのか?」

「ええ、名をリョウスケという我が国の希望です。今、戦争で前線に立って戦っています。」

「そうか、俺もそのリョウスケに会いたい。戦争に加勢する。ついでに、リョウスケと合わせてくれ!」

「分かりました。上と話してきます。まだこの世界に不慣れで疲れた所でしょう。ゆっくりとくつろいで下さい。」


 アツサは先程居座っていた客間に向かい椅子に座った。

 一人で現実世界のこと(ふけ)っていると、紫色の(あご)髭を(たくわ)えたヒヒツジゲ族がやってきた。


「アツサ様。あなたを向かいに参りました。早速、戦場にお行きになりますか?」

「ああ。俺は強いからな。」

「それでは、まずは万全の装備から整えましょう。」


 彼について行く。

 まず服装を変えられた。少し重く、硬いので外からのダメージを減らすことができそうだ。

 次に武器庫。アツサは数ある武器の中から(やり)を選択し、背中に装備した。

 そしてようやく町の中へと出た。

 閑散(かんさん)とした町の中を歩いていく。影を見つけてもそれは女や子どものみ。アツサは男はみな戦場へと駆り出されているのだと悟った。

 町を抜け住宅街を抜け森の中に入る。

 茂みを()き分けながら森を進んでいく。ひたすら歩いていくといつしかヒヒツジゲ族の姿が見えていった。


「ここは第三戦場。主戦となるのは第一戦場であり、軍長は第二戦場で軍を指揮しておられます。」


 さらに先に進む。

 人間ではないもの達の中を進んでいく。ついに、人間を見つけることができた。

 無造作に伸びた髪の毛やムダ毛。暗いオーラをまとった人物だった。


「この人こそが我が軍長リョウスケ様です。」


 彼はアツサに説明をした後、リョウスケの方を向いて話し始めた。


「ボス……。この方は新たな戦力でございます。この世界の者ではないものの、それなりの戦力になると考えられます。」


 リョウスケはそれを聞いて、アツサの方を向いた。案内してくれた彼は邪魔にならないようにその場から遠ざかった。


「オヌシは能力は何……?ヽ(^o^)丿」


 いきなりそんな話?───とツッコミたくなったが、堪えて返答をした。


「俺はダメージ吸収です。」

「何か強そうンゴ。オヌシには6番の称号を与えるンゴ。」


(──ンゴ!?)


拙者(せっしゃ)と同じ故郷の感じがあるンゴ。」

「お……おう。そうだ、です。俺は愛知県からきた常夏アツサっていいます。」

「同じ日本人だ(*º ロ º *)!!」


 さっきから見てはいけない顔文字のようなものが見える。アツサは見てなかったことにしようと目を()らす。


「それでは安価(あんか)6番を戦力に加えるンゴ。」


(安価6番?)


「第二舞台の裏に構えて貰うンゴ。向こう側に歩くと集団がいるから、そこに行け└(՞ةڼ◔)」ビョエエルュアッシュエエエシャングラティア-」


(えっ、この人怖っ!!)


「何をしておるのだ、安価6番」

「あっ、安価6番って俺のことか。わ、分かりました。」

「早くするんだ└(՞ةڼ◔)」キェェェェェイ。現在アグマル軍はリュオン軍に優勢。この機会を見逃せな└(՞ةڼ◔)」いーンヒヒヒヒヒ。アグマル軍は今から攻める……のなのだよ。」


(この人、ヤバイ奴だ。こんな奴に全てを任せて大丈夫なのかな。)


 アツサはリョウスケの言う通りに裏の方へと向かった。

 そして、アツサはリョウスケに会うべきではなかったと後悔した。



 リョウスケの采配でアグマル軍は攻め入っていく。

 大量の軍隊が戦場へと駆り出される。裏で構えていたアツサは戦場に行くことなくその様子を眺めていた。



◆───◇───◆



٩(๑•ㅂ•)۶



◆───◇───◆



 押し寄せる軍隊。

 それを待ち伏せていた龍の身体を持つ龍動族。彼らは資格の裏をかいてアグマル軍を殺していく。

 次々と流される赤い液体。

 いつしか優勢だった状況も一瞬にして劣勢となる。

 ピンチになった第一戦場のアグマル軍は殺されるか、逃げるかをして、その場で戦うものはいなくなった。


 ピンチに陥ったため各地に散らばったアグマル軍が軍長の元に集まっていった。もちろん、アツサもそこにいた。


「これは劣勢┌(┌ ・ω・)┐ダンッ。ここで戦うのは厳しいし、ここで全滅すればアグマル国は敗北確定┌(┌ ・ω・)┐ダンッ。アグマル国を守るためには逃げなければいけないん┌(┌ ・ω・)┐ダンッ。」


 リョウスケの言葉を聞いてヒヒツジゲ族の一人が質問する。


「どうするのですか? みなで逃げるのですか?」

「そうンゴ。国を守るためにはそうするしかないンゴ。けど、全員で逃げたら追い討ちされるンゴ。」

「じゃあ、どうするんです!?」

「殿ーしんがりーをおくん┌(┌ ・ω・)┐ダンッ!!」



  「「「 しんがりッ!!? 」」」



 リョウスケの言葉が周りを無音にさせる。


「つまり、逃げる拙者らが追い討ちされないように、少数で立ち向かう者達のこと……なのだよ。」

「それって、しんがりは死ぬんじゃ……」

「そう……ンゴね。とてもとても危険な仕事だ(´pωq`)」


 ドクンドクンという心臓の声が溢れ出していた。

 それにつられてアツサも不安を増加させていった。


「誰がしんがりを?」

「そう……ンネ。それは圧倒的な強さと信頼が必要ンネ。そこで、第二戦場の裏に任せたいンネ。安価6番をリーダーに、安価20番から25番までをしんがりに当てる……デデン!!」


 アツサはそれを聞いて石になりかけた。


「えっ!?」


 昨日今日異世界に飛ばされて戦場に降り立ったら、すぐに一番危険な仕事を任される。例え自身が戦場に行くと決意したとしても、まさかこんな重大な仕事をさせられるのか。とアツサは困惑と動揺で心を充たした。


「それでは任せた……└(՞ةڼ◔)」ミュ-ハッハッセ-リ-ヌッガンジュンス-」


 帰っていくリョウスケを筆頭に次々とアグマル軍が退去していく。

 残されたアツサと数人の兵隊。


「ちょっとトイレ行くわ……」

「あっ、俺も」


 兵隊が二人茂みの向こうへと行った。そして、彼らは戻ることがなかった。

 ただし、その二人は血を流していない。


「あっ、僕やるべきこと忘れてた。」

「そうだ、俺、明日誕生日だ。」


 さらに二人が退去しようとしたのでアツサは止めようとしたがそのまま先へと行ってしまった。

 残されたのはアツサともう一人の兵隊。


「あー!」


 大きな声を出すその兵隊。


「どうした!?」

「俺、忘れ物したから取りに帰る!」

「いや、待て。何を忘れたんだ?」

「いつも持ち歩くことにしているメモ帳と鉛筆を忘れたんだ!」

「そんなもん、戦闘に必要ないからなっ!!」


 アツサの制止を振り払って彼は逃げていった。

 取り残されたアツサにはアグマル国への忠誠心があると言えばない方だ。アツサも逃げようとした所に敵が目の前へと現れた。


「見つけたぞ! 敵兵だー。」


 リュオン族に見つかる。

 逃げる間もなく(むご)い集中攻撃が加えられた。集団的に剣が振り落とされ、弓が放たれ、銃声音が鳴り響く。

 無数の攻撃がアツサを襲った。


「よしっ、今が攻め時。行くぞ!!」


 リュオン軍の兵隊が先に進もうとする時、アツサの声が兵隊の動きを止める。


「おい、待てよ。まだ敵は目の前にいるだろ? 俺がいつ死んだんだ!?」


 アツサは立ち上がる。

 それを見たリュオン軍は武器をアツサの方に向けた。



 受けたダメージが空気を巻き込んで圧縮されていく。

 その圧縮を槍に移す。そして、槍はその圧縮を解放させる。それと同時に衝撃波が周りのリュオン軍を襲い、(めっ)した。


「そういや、技名はないな。ワンピ〇スのくまの技に似ているし"パルス・ショック"でいっか。いや、パクリはやめた方がいいな。」


 周りは死体で埋まる。

 そのせいで油断していたが、敵の攻撃が再び襲ってきた。敵は前方から遠距離攻撃をしてくる。

 放たれる銃や弓、能力から放たれるレーザーやエネルギー弾。

 しかし、アツサには痛くも(かゆ)くもなかった。


「よし決めた。技名は……」


 槍を前方に指す。

 圧縮されたダメージを前方にのみ解放させた。


 真っ直ぐに飛んでいく衝撃波が攻め込んでいたリュオン軍を全滅させた。


「《インパクト・バースト》だ!!」


 リュオン軍の気配が消えた。これで攻め入る軍隊はいないだろう。

 一人で攻め込む気にはなれないアツサはアグマル国へと帰っていった。



 流れた大量の鮮血(せんけつ)

 その原因である戦争は今日を持って中断された。

 攻め入るものは殺られた。もうお互いに攻め入る気は薄れている。この状況で戦争をするか続けるかは二つの国の采配による。



 戦争を止めるための理由はアツサによって作られたのだ。




◆───◇───◆



٩(๑•ㅂ•)۶



◆───◇───◆




 アグマル国に戻ったアツサに思いがけない事態が襲う。


「お前は異世界人間族だな! あの罪人リョウスケと同じ種族。罪人の仲間は出てけっ!!」


 アグマル国の者達は空き缶や小石をアツサにぶつける。少し先に進むとマッシュが待ち伏せていた。


「おい! どういうことだよ。これ。なんで俺はこんな目にあってんだよ。」

「あなたと同じ異世界から来た人間族のリョウスケはアグマル国の大量の血を流した疫病神。我々を苦しめた張本人。許されざる事態。」

「……。」

「王はリョウスケをこの国一の大罪人と言い放ち国外追放した。さらに、それと同じ異世界人間族のあなたも国外追放することに決めた。あなたは……「疫病神」だ!!!」


 ヒヒツジゲ族の警察が俺を捕らえて進んでいく。

 アツサは無理やり町の外へと連れていかれた。

 どういうことだよ────と言っても誰の耳にも届かない。



 そして、アツサはアグマル国から追放された。警備がアツサを(にら)む。

 もうアツサに戻る場所はない。

 仕方なくアツサは知らない道を歩いていった。


 見ず知らずの森の中、アツサは一人で道を切り開いていく。

 そんな時、女の声がする。


「ごめんなさい。あなたはアグマル軍で一人でリュオン族に立ち向かった人間ですよね?」


 角の生えた人間の見た目。長いストレートの緑髪と華奢(きゃしゃ)な体つき。アツサだけでなく、男性の誰もが可愛いと思うような容姿をしていた。


「わたしは魔人族のリリー。あなたにお願いがあるの♡」


 リリーはアツサの手を取り、上目遣いで見て言った。


「わたしの国を救って!!」

「……。」

「お願い♡」


 アツサは仕方なくリリーの願いを聞くことにした。


「まあ、俺も行くあてないし、いいぜ!!」

「ありがとう♡ あなたがいるなら勝てるの。マリュン族に!!」



 アツサはリリーの元についていき、リリーの住む国へと向かった。



 アツサはまだ知らない。



 そこで、また殿(しんがり)をやるはめになることを。





The END

この作品とは関係ありませんが、ウチの作品の一つで"秘密のパズル~"という小説があります。その作品はクライマックスでついに最終章へ。暇があったら是非読んでみて下さい。好みの別れるストーリーです。

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