第5話 『とある田舎娘の苦労話・4』
王都へと帰還したサクヤ達は各騎士団にギアナ空洞での出来事、そして六鬼将の存在を伝える。
それは瞬く間に伝わっていき、騎士達に大きな障害となって立ちはだかっていった。
「賢王院へ行くっていうのに大きな不安材料残しちまったな」
グラスに酒を注ぎつつ、男がリーヴェに語りかける。
身長2メートルはあろうかという大柄な体躯に肩近くまで伸びた後ろ髪、前髪と髭が繋がり、まるで獅子の鬣のような金色の髪型、やや軽装の騎士鎧を纏った男性がグラスに入った酒をグイっと口に流し込む。
「七炎騎士団を信じていますから」
リーヴェはフフっと笑みを浮かべる。
「フッ……んで、酒のつまみに見てるそれは何だ?」
男はリーヴェの手に持つ羊皮紙に興味を持つ。
「少し気になる事がありまして……」
リーヴェは男に羊皮紙を少しだけ見せる。
男はそれを一瞥した後……、
「ふ~ん……まぁ、他所の騎士団の俺が関わることじゃなさそうだな」
男は立ち上がり、部屋から出ようとすると……、
「酒は置いていくから……まっ、ほどほどに頑張れ」
リーヴェに笑みを浮かべ、部屋から去っていく。
リーヴェは彼に一礼をした後、再び羊皮紙に目を通し始めた。
(ありゃ、賢王院に行っても苦労するだろうな……)
男はドスドスと音を立てて歩いていく。
すると、前方に見知った顔を見つけて声をかける。
「おっ、サクヤ嬢」
男は右手を振り、自らの存在をアピールしていく。
「レオリア団長。リーヴェ団長の所へ?」
サクヤも彼に気付き、親しげに話しかける。
「ああ、ちょいと酒を届けにな。お前さんもこれから会いに?」
「ええ」
「そうか。まぁ、無理すんなって言っといてくれや」
レオリアはサクヤの肩を軽く叩き、その場を後にする。
レオリアに一礼をしたサクヤはリーヴェの部屋を訪れた。
「失礼します。リーヴェ団長、お話というのは?」
サクヤはテーブルで先程の羊皮紙を眺めるリーヴェに尋ねる。
「忙しいのに無理を言ってごめんなさい。実は……これを見て頂けますか?」
リーヴェは手に持つ羊皮紙をサクヤに渡し、サクヤに目を通していく。
「……これは…」
「彼女を呼んで頂けますか?」
***
(何だろう……話って……)
やや緊張しながらオランディはリーヴェの部屋を訪れる。
「失礼します……」
そこには椅子に腰掛けるリーヴェと窓からの景色を眺めるサクヤが立っていた。
「急に呼び出してごめんなさい。緊張なさらず、ここに腰掛けてください」
そう言ってリーヴェは空いている椅子を指差す。
「あっ……はい……」
促されるまま、オランディは椅子に座り一息ついた。
「実は呼び出したのはあなたのコレについて確認をするためです」
そう言うと、リーヴェは手に持つ羊皮紙をオランディに見せる。
「これは……」
そこにはオランディが騎士入団試験の際に、来歴を記した用紙が握られていた。
「ここにあなたの産まれた地が『ウタン』と書かれていますが、実は……調べたら貴女が、『ジバルエ』の出身という事が分かったんです」
「……!! ……それは」
何も言えない。王都と確執があるジバルエと書けば騎士になれないかもしれない……。
その不安がオランディが産まれた地をウタンと書かざるを得ない状態にまでさせていた。
「ジバルエといえば、このアインベルツと敵対している貴族都市……まさかとは思ったが、オランディ……お前は……」
「違います!」
サクヤの発言を察し、オランディは否定する。
自分がジバルエから送り込まれた者ではないということを……。
「私は自分の意志で騎士になると決めたんです……! だから……だから……」
言葉が続かない。全てが誤魔化しに聞こえるかもしれない……。
そう思うとオランディの額に嫌な汗が流れ始める。
「事情はどうあれ、虚偽の記述は騎士団にとって背任行為と捉えかねません」
「・・・・・・」
オランディは静かに俯く。
産まれた場所を偽った。
それは変わらない事実なのだから。
「オランディ……私はあなたを……、」
どんな結果になろうと全てを受け入れる。
その覚悟は騎士の門を開いた、あの時に決めていたのだから。