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嘘実の魔導人生(ソーサリーライフ)  作者: 纏
第一章 『Knight meets girl』
1/88

プロローグ 『~廃村オウリン討伐戦・1~』


~廃村オウリン討伐戦~


§

――腹減った……。


 片道1時間弱――

 日が沈み、辺りは空に鎮座する月の明光のみで照らされた世界。

 その月明かりに照らされ、1台の馬車が平原を駆けてゆく。


 ややカビ臭い木床に、無造作に置かれた野営用の荷物のおかげで横になろうにもそれが邪魔して眠りにも着けはしない。

 加えて、一番厄介なのがボロ臭い木床からダイレクトに伝わってくる馬の駈歩(かけあし)による振動である。


 これによって同乗していた2人の男が平原に胃の逆流物を解き放った。


「なぁ……、あとどれくらいで着くんだ?」


 自分と同じ格好をした男に尋ねる。

胴体部分を軽装の鉄甲冑で覆い、頭部は鼻と口以外は兜を着けている。普通の人間から見れば、それはタダの民間人でないことは自ずと察しが付く。


「……あと30分くらいか」


「マジかよ……」


――こんな地獄をあと30分も……。


「吐くなら今のうちだぞ?」


「吐かねぇよ」


 ややぶっきらぼうに受け答えする。


――グゥゥゥゥゥゥ……。


 少し騒いだだけで腹の虫が鳴り始める始末だ。


 (腹減りすぎて、変に気持ち悪ぃ……)


 倒れ込むように床に突っ伏す。何かが頭に『ガンッ!!』とぶつかったが、痛覚よりも食欲の方に意識を持っていかれる。


 (そういや、朝から硬いパンしか食ってないわ……)


 釘が打てそうなパンを水に浸し、柔らかくなったら食べ頃。

 そんな食事を数日間、続けてきたがいい加減、臓器達が我慢の限界なのだろう。

 食べ物を寄越せと言わんばかりに腹を鳴り響かせる。


 (もう少し待ってろよ、この仕事済んだらやっとマトモな金が手に入るんだ……)


――金が入ったら何食べようか・・・、

 肉?酒?女も良いが、今は性欲よりも食欲の方が優先だった。


――グゥゥゥゥゥゥ……!!

 考えてたら余計に腹が空いてきた。

 「クソっ……」と小さく呟くと、目の前に何か異物のようなものが付着したパンが通り過ぎる。


「ありゃあ……?」

 干し葡萄? だけど誰が?


 パンの持ち主を目で追っていくと・・・、

「食え」


 先ほどの男がパンを持っていた。


「いいのか?」

「戦場で空腹のせいで倒れられても敵わん」


 男はパンを手渡すと、そのまま荷物を枕代わりに横に伏せる。


「アンタ、神様だろ?」


 渡されたパンを少しずつちぎって口に放り込む。


「神などいない」


 男は身体を起こさずに諭す。


「所詮、人が創り出した空想上の産物だ」


 それから男は黙り、微かに寝息を立てていた。


「苦労してんだな、アンタも」


 パンに吸い取られた口の水分を手近にあった給水筒の水で癒していく。


 外の様子を確認すれば、昼とは違った様子が見て取れた。

 昼には数多くの動物達が暮らすこの場所も、夜となれば忽然とその姿を消す。


「静かなモンだな……」


 薄汚れたズボンのポケットから古ぼけた地図を取り出して拡げていく。


 街を出る途中、商人から買ったものだが如何せん、ボロボロの薄茶色をした羊皮紙で描かれているため読みにくい。


「え~と……?」

 書かれている薄汚い字を目で追って、今回の目的地を探す。


「おっ、あったあった」

 地図の右上にやや小さく書かれた字と赤い点。

 それが今回の目的地、『農村オウリン』である。


§

――農村オウリン

 かつては、人口200人程度の小さな村で1年を通して温暖な気候のためそこから生育する果物や野菜を街へ(おろ)していた。


『かつては……、』


 今となってはその影を見ることは叶わない。

 十数年前に起きた村の悲劇。

 突如として村を蹂躙し、前触れもなく村人達は彼らの凶器によって命を奪われた。


鬼族(オウガ)……」


 それを知るものはそう呼ぶ。

 姿は獣、人間と同じ知性を持つ種族。

 一説では、人間がこの世に生を受けたと同時に、彼らもまたこの世界に産まれたと言われているが定かではない。


 しかし、何より重視すべき所は彼らが『人間に対し激しい憎悪を持っている』ということである。


 いつ頃からかは分からない。

 少なくても、自分が産まれた時からそういう関係になっており、親にもそう教わってきた。


 そして、今……オウリンを(ねぐら)にする鬼族(オウガ)討伐のために自分達は駆り出されている。


 それに加え、この部隊を指揮する部隊長以外は皆、鬼族を聞いたことがあっても見たことはない。

 ズブのド素人の溜まり場と言った方が正しい。

 皆、それなりに金が入るからという理由で志願したようなものだ。


「(それに、ここで活躍すれば……)」


 ある考えが思い至ったが、それと同時に馬車の速度が徐々に落ちていく事に気付く。

 外を確認するが、まだオウリンまで距離がある。


「馬車で行けるのはここまでです」


 馬車の手綱を握っていた御者(ぎょしゃ)は兵士達に呼び掛ける。


「まだ村まで遠いぜ?」

「これ以上は無理だ」


 先ほどまで横になっていた男は起き上がり自らの得物(えもの)の手入れを始める。


「奴らは目は普通だが、耳と鼻だけは良い」

「へぇ~、詳しいんだな」

「……俺は奴らに故郷(オウリン)を奪われた1人だからな」


 そう言うと、男は得物を手に馬車から降り、それに続くように兵士達が馬車から降り始める。


 馬車からオウリンまでは徒歩で20分程度、程なくして後続の馬車が追い付いてくる。

 そして、彼らもまた自らの得物を手に馬車から姿を見せ始める。

 気丈に見せて心の底では脅えている者……。

 獣を殺す快感を味わいたくて武者震いをする者……、

 自らの故郷を取り戻すために命を賭ける覚悟を決めた者……。


 それぞれの思惑を胸に秘め、彼らは伏魔殿と化した廃村へと歩き出す。



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