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閉じ込められた3人

 アーティスとベルンハルド、ラインハルトは閉ざされた壁に絶句する。

 しかも、大きなシャベルを振り上げてイザークを殴っていた男に、アーティスは叫ぶ。


「イザーク! イザーク! 開けて、開けて!」


 大きなシャベルで殴られていた息子に、血の気が引いた。

 血が繋がっていないが、恋人と息子の幼なじみ……息子の面影を知っている青年。

 壁を叩き叫ぶ。


「イザーク!」

「アーティス様。ジェイク殿がいます。大丈夫でしょう」

「どうしよう! どうしよう! 僕が……本に気を取られて……」

「ちょっと待って下さい」


 ベルンハルドは、イザークが触っていた部分を確認するが、何があったのか感じられない程壁は滑らかである。


「……多分、伯父上、外から一回開けて貰うか、中の別の場所にもう一つのスイッチがあるのでしょう。探しませんか?」

「そうだね……うーん……ここ!」


 アーティスは、突然何の変哲もないレンガを押した。

 すると、ズズズッとレンガが奥に押し込まれ、そしてガクンッと音がしたと思うと、次の瞬間、壁が沈み始めた。


「えっ? 家が、家が壊れますよ!」

「それはないよ。ゼンマイカラクリで、一つのスイッチから順番に次のスイッチに、そしてカラクリを新しく目覚めさせてるんだ。ほら、こっちが目覚めた……」

「地下に行く道でしょうか?」

「違うでしょう。もうすぐ終わるよ。少しずつ開かれるけど、ここ、あっても奥行き1メートル半。カラクリだけで地下はないね」


 他国の遺跡の権利を戴き、発掘もしているアーティスは、ついでにと他国の王宮の隠し扉まで暴いている。

 実家と、妹の屋敷位だ、暴いていないのは。


 しばらくすると、キリキリキリと動いていたカラクリがガクンッと言う音と共に止まり、そして、そこには、祈るように指を絡め、目を閉じ俯いた美しい女性が立った状態のガラスの棺に納められていた。

 彼女のドレスは色褪せていたが元は純白のドレスで、美しいレースとリボンで飾られていたらしい、そして指にはユニコーンの紋章、そして長い髪はベルンハルドと同じ赤銅色……。


「この方は……」

「……多分、インマヌエル1世の娘の聖女でしょう。名前は確かヴェロニカさまだったかな」

『ヴェロニカは弟を裏切り、自分の命乞いをする為に子供を差し出した女です。私はサーシャです』


 頭の中に声が広がる。

 優しく温かいその声はとても気持ちがいい、心安らぐものである。


『ヴェロニカは生まれ変わり、再びこの国を蝕んでいます。この国を滅ぼすのがヴェロニカがクヌートと交わした約束……』

「ヴェロニカと言うのは……」

『この国の王の寵姫ですわね。パルミラと言ったかしら?』

「……サーシャさま。この国を滅びに向かうのを食い止めるには、どうすれば宜しいですか?」


 ラインハルトは丁寧に訊ねる。


『今、クヌートが持っていた闇の指輪は、サーパルティータと言うのかしら? その国の王が持っているわ。クヌートが友好の証と贈ったそれは、代々の皇帝や能力者の力を吸い取ってきて、もうすぐ一杯になるの』

「えっ? そんな力のある指輪……なんて……あ、母上が亡くなった時に父上がはめて棺を閉じてた……とても気持ち悪いあれかな?」

「それに伯父上、この間、変な魔物が現れませんでした? あれも指輪から生まれたとしたら……」

「気持ち悪いね……あの指輪を壊してしまわないと……」


 アーティスは考え込む。


『壊すのなら、父が持っていたこの光の指輪を、最も力の強い弟のバルナバーシュに持たせて壊すようにすれば良いわ……けれど、その代わり、バルナバーシュの命はないと思って欲しいの』

「えっ! ち、父上の命と引き換えですか! 何故! どうしてですか?」


 ベルンハルドは叫ぶ。


「嫌です! 父上は私の父です! 父上がするのなら、私がします!」

『光の力の強い人間がいいの。でないと指輪は輝かない』

「そんな……」

「私では無理ですか?」

『無理ね。大丈夫なら、去年、この屋敷を出た幼い子……』


 ベルンハルドもアーティスもラインハルトも首を振る。

 幼いアルフィナに、これ以上何を背負わせるのだろう。


『……私がもっと賢く、バルナバーシュの言葉を信じていたら……恋という愚かな感情に振り回されなければ……』


 沈痛なサーシャの声が響く。


『この指輪でユニコーンを呼んで……下さい。そして、この世界を守って下さい。この後ろに武器もあります。どうか、どうか……』


 その声がゆっくりになり、そして、棺の中で遺骸が崩れ落ちた。

 彼女は心残りを誰かに告げるまでは、生き続けなければと思ったらしい。

 コロコロと転がった指輪を手にすると、


「何故、私は一体どうすればいいのか……」


妹の夫にどう言えばいいのかを考え、アーティスは頭を抱えたのだった。

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