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処刑執行人の屋敷に……。

 翌日、アーティスはイザークと執事のジェイク、そしてラインハルトとベルンハルドと共に馬車と騎乗で向かった。

 そして、イザークの案内で裏の出入り口から馬車と共に入る。

 すると荒れ果て、枯れた薬草の数々にイザークは表情を陰らせる。


「ここは、じいちゃんや母さん、キールが毎日のように手入れをしていたのに……」

「あ、これも、これも……この国で、昔から民間療法に用いられるハーブだ……」


 アーティスはじっと見つめる。


「確か、これは……」

「おいっ! 人の家に勝手に入ってきやがって! 出ていきやがれ!」


 近づいてくるのは、腕に『0003』と言う入れ墨を彫られた男。

 そして、ベルンハルドを見ると目をすがめると、思い出したように怒鳴りつける。


「お、お前! フランシス! 何しにきやがった!」


 手を伸ばそうとする男の手をイザークが間に入り、腕をひねる。


「な、何を……!」

「それを言うのはこちらの方だ。半年前にあれだけ厳しく言い聞かせたのに、全く言うことを聞いていないのか?」


 イザークの顔を見つめ青ざめる『0003』だが、すぐに、


「あ、あんた、いえ、貴方は……」

「しかも、この家は仮住まいだが、元の持ち主が手入れをしていた畑を放置して、何をしている? それに、この家の元の持ち主の物を持ち出して、売ろうとしていたらしいな」

「そ、それは……」

「ここの前の持ち主の兄なんだ、俺は。弟一家の荷物を取りに来た。一つでもなかったら訴えるぞ」

「お、俺は、娘を連れ去った弟を……」


必死に訴える男に、今護衛などとして側にいるベルンハルドを見て、


「この方は私の主人、ベルンハルド様だが? どこの誰と勘違いしているんだ?」

「ベルンハルド様……」

「そうだが? 宰相アルフレッド殿下の弟君だ。お前の弟なら、髪の色も瞳も全く違うだろう? それに、そろそろ教会に妹を迎えに行ってやらないのか? あの周辺に住んでいる者は毎日、新郎新婦の呻き声に、枢機卿の声に耐え切れないと引き取ってくれとのことだが?」

「あんなのより娘を! 娘のナオミを! あいつは可愛い顔をしていた。子供の欲しい家に売って金に……ぐはっ!」


腕を組んでいたラインハルトは、軽く鳩尾を蹴り付けた。

 すると吹っ飛び、畑の中に突っ込んだ。


「反省してねぇじゃねぇか。このクズが!」

「本当に……」


 目を怒らせる二人に、ベルンハルドは、


「イザーク兄さん、ラインハルト様。行きましょう。こんなのに気を回すより、私達にはしなくてはならないことがあります」

「そうだな。イザーク。頼むな?」

「はい。こちらです」


男を見ることなく、歩き出す。


「こちらが住まいです。そして、あちらがハーブを干したり、作った薬を詰めたりしていました」


 ハーブの部屋に入っていくと、全く使っていなかったのか埃を被っていた。

 それを一瞬辛そうに見た後、奥に入っていき、柱を探ると、次の瞬間壁が開く。


「……そういえば、母屋にも隠し扉あったな……」

「こちらは、じいちゃんが教えてくれたんです。右の方は代々の日記などだそうです。多分、じいちゃんと母さんの物もあるんじゃないかと思います。じいちゃんと母さんの遺品はすぐに、キールが移したんじゃないかと」

「そうなのか……」


 イザークに促されアーティスは入っていく。


「……すごい……これは、この世界の歴史の奔流……どう見ても、私が見た本の中の本より、もっと古い時代の本がある!」

「解るんですか?」

「私が読んだ本の中で一番古いのは、この辺りの本だから……こっちは読んでない」

「どうして解るんですか?」

「だって、この表紙の紙は確か、この大陸にあったある一部族の漉いた紙と、それにこの表はその部族の織物……布だよ。模様もユニコーンにドラゴン、ペガサス、ケツァール……ユニコーンを織り込んだものは、ある時代以降失われたんだ。ユニコーンは聖なる力を持つ一族の紋章にあったけれど、削り取られたんだ。インマヌエル2世によって」


 キラキラと目を輝かせる。


「ねぇ! ねぇ! お願い! 僕、これ全部読みたい! ここの本の解読をすれば、この世界の歴史の常識が覆るかもしれない。伝説、口伝にある『インマヌエル1世陛下は、息子のバルナバーシュ猊下を逃がそうとしたが、娘婿クヌートの計略により息子を捕らえられ、それを脅され命を絶った。バルナバーシュ猊下の妻は子供を差し出し命乞いをし、その子供たちは代々罪人の処刑人として生かされることになった。クヌートは大罪人である。最初の奥方であるインマヌエル1世陛下の娘と離縁幽閉し、すぐにバルナバーシュ猊下の妻を妻にして、生まれた次男を次の王としようとした。しかし、その行いは神は許さなかった。次男は親の罪を被り生き絶えた。次に生まれた息子達も幼くして逝った。最初の奥方であるインマヌエル1世の娘は夫によって偽りの聖女として振舞う事を強要されていたが、後に、毎日父と弟の行方不明とその家族の事を祈り続け、自分の命と引き換えにクヌート夫婦に永遠の時を繰り返す罪を与えて貰った。跡はインマヌエル1世の嫡孫である長男が継いだ。その後、ごく稀に愚かな行為を行う王族を神が罰する事を、《クヌートの罪》と言う』と言うのと、『インマヌエル1世の息子のバルナバーシュは聖なる獣ユニコーンを汚し、神の怒りに触れ、永遠の獄に繋がれた。インマヌエル1世の娘婿クヌートはユニコーンに認められ、インマヌエル2世となった。しかしバルナバーシュは不服に思い、世界を呪い、インマヌエル2世の子供を何人も殺していった。インマヌエル2世はユニコーンを紋章から消し、代わりに海の怪物を紋章に彫った。それは穢らわしいと封じられたと言う』インマヌエル2世の描いた海の怪物を知りたいな!」


 嬉しそうに本棚を移動して、見たことのない本を見つけては喜んでいる。

 すると、後ろを注意していたイザークの背後を、襲いかかる者が!


 がっ!


頭をシャベルで殴り飛ばされたイザークがよろけるのを、ベルンハルドが支える。


「兄さん!」

「だ、大丈夫……」


 イザークは内側を操作し、ベルンハルドを中に押し込んだ。

 そしてすぐに閉じた壁の前で座り込み、シャベルを振り上げている『0003』を見上げ、


「やるじゃねぇか、卑怯者が……」

「うるさい! お前を殺してやる……そして、この不気味な屋敷を出て行ってやる……」


もう一度イザークに殴りつけようとした『0003』の脇腹を蹴り付けたのは、ジェイクである。

 倒れ込んだ『0003』からシャベルを奪い取り、


「死ぬか? テメェ? 俺の主人の若君に手を出したな? 一撃では殺してやらねぇからな!」

「ひぃぃ!」


振りかざされた男は座り込み、後ずさる。

 ついでに、染みが床に広がるのをイザークは半分朦朧としながらも、顔をしかめた。

 イザークにとって、この家は自分の実家も同然で、本当の祖父や母だと思っていた二人が眠っている地なのだ。


「オラァ! ガキが! 使えもしねぇ武器振り上げてんじゃねぇよ。はっ! クズが!」

「す、すみません……ジェイクさん……こいつは、処刑執行人です。もうすぐ仕事が入るはずです。ですから仕事に必要な手足と頭は、攻撃しないで下さい……」

「はっ! イザークさまは賢い。では……」


 シャベルの持ち手で鳩尾を殴りつけ、蹴り付けた後、気絶させロープで縛り付けた。

 そして、


「大丈夫ですか?若君」

「イザークで構いませんよ。あぁ……本当に馬鹿だ……父さんの笑顔を見ていたら、キールを思い出して、後ろが疎かに……イタタタ……情けない」

「……そんなに似ていましたか? キール様は」

「髪はアルフィナお嬢様のように金に近い赤銅で、日差しを浴びるとキラキラして……それに瞳はエメラルドと言うか、キラキラした朝露に濡れたハーブの葉のようでした。顔立ちはそっくりで……無表情でした。でも、どんな顔をすればいいのか分からないって、よく言ってました……」


ジョセフは携帯している包帯などを出すものの、


「あ、痛み止めと、傷口を覆う薬が……」

「あ、ここにありますよ」


壁を伝いながらイザークは薬の棚に向かい、名前の書かれた瓶を幾つか取り出す。


「これが痛み止めで、苦いんですがよく効きます。そして、失血を止めるのと傷口に当てるのはこれです」

「ホォ……これはすごい」


 近づいていき、棚を見つめる。


「瓶は様々な瓶ですね。ポーションのもあります。昔からの色のついた瓶です。この方が中の薬の効能が落ちないんですよ」

「そうなんですか……」

「えぇ。イザーク様。座って下さい」


 手当てをすると、


「帰ってからよく癒して貰って下さい。私のやり方は、昔のヤンチャしていた時代の仮のものですからね」

「ジェイクさんがヤンチャ……想像つきません」

「私は、代々サーパルティータの王族に仕える一族だったので、長兄は一応今の王太子にと育ったのですが、合わなかったんですよ。で、アマーリエさまの義母であり坊っちゃまの母君が、アマーリエ様にと。ジョンは本当は坊っちゃまにつくはずが、ジョンは本人曰く、自分は平凡だから坊っちゃまについていけない。暴走する坊っちゃまにはお前が合うだろうと」

「暴走……」

「坊っちゃまの考え方は突き抜けているんですよ。考え事をしていると目を離したら、馬から落ちてたりが当たり前ですからね。でも、そう言う普通とズレたところが可愛いもんだと」


 苦笑する。


「まぁ、まず、この奥の本をどうすればいいのか、そして坊っちゃま達を守りながら救うことを考えましょう。イザーク様は無理はなさらないで下さい」


 イザークは、包帯を巻いてくれたジェイクに微笑んだのだった。

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