騎士は愛らしい姫を守ることを誓う
セシルとユールは、父がおらず不安そうな顔をしているアルフィナにお菓子を渡したり、昔フェリシアと遊んだ遊びをする。
すると、セシルの膝の上でうとうとと始める。
ユールが近くのひざ掛けをかけてやり、小さな痩せた手を取る。
「アルフィナは疲れちゃったのかな」
「そうだろうね。年齢は幾つか解らないけど、見た目以上に幼いと思う。痩せてるし、賢い子だけど、ものすごく遠慮がある。色々あったんだろうね」
ひざ掛けを巻きつけ、抱きしめて暖かくと思っているとミーナが毛布を持ってくる。
「坊っちゃま。お嬢様は私共が……」
「毛布でいいよ。ありがとう。アルフィナは今眠ったばかりだから、起きちゃうかも。毛布貸してくれる?」
「では、どうぞよろしくお願い致します」
アルフィナの、長いまつ毛で覆われた目はグリーンだった。
クリクリとした瞳は澄んでいて、痩せているので子猫のようだが、赤銅に金色の混じったような艶のある髪に顔立ちは整っている。
言葉遣いはたどたどしいが、頭が良い子である。
「あぁ、良いなぁ。こんな可愛い妹がいたら良いのに。弟だもんね……馬鹿じゃないから良いけど」
「俺だって! アルフィナみたいな、可愛い妹いたらいいなぁ」
ユールが恐る恐る頭を撫でると、ふにゃっと表情を緩ませる。
一緒にいた時も笑ってはくれていたが、やはり緊張していたらしい。
「兄貴。今度、フェリシアが元気になったら、皆で遊びに行きたいな」
「それも良いけれど、これからが問題だよ。父上や叔父上方の努力を潰す人々がいるからね」
「本当だよな……俺は悔しい。俺は剣しか努力しなかったから、フェリシアを助けることも、ケルトのサポートもできなかった」
「私もだよ。こんなことになっているとは思わなかった。フェリシアを妹としか思っていないけど、大事な妹をあんな風に失うなんて、もう二度と嫌だ。アルフィナも失うなんて絶対させない」
「あぁ、兄貴。俺もそう思ってる!」
顔はあまり似ていないが、父親の教育のおかげか正義感が強い兄弟は、可愛いアルフィナを守ろうと誓うのだった。
玉座の間から去った三人。
騎士団長のラインハルトは、側近に、
「この者達を連れ、先に執行人の屋敷に。そして、先代の執行人一家の遺骸は清め、棺に収める準備を……騎士の棺を持って行くがいい……」
「はっ。かしこまりました」
「では、アルフレッドの部屋に行くか」
「少し疲れたな……アルフレッド。お茶でも頼めるか?」
「えぇ、少し休んで帰りましょう」
本当に疲れ切った様子のカーティスに微笑み、自分の執務室に向かう。
扉を開けると、ラインハルトがかなり驚く。
「お、おい……セシルが寝てるぞ」
「本当だね。……ユールは見たことあるけど、セシルは珍しい」
目を見開くカーティス。
カーティスの息子達よりも年下だが、小さい頃から隙がなく頭の回転の早いセシルをかなりかっている。
しかし、珍しく表情が緩んで、腕には小さい少女を抱いている。
「この子は?」
「私の娘。アルフィナ。カーティス兄さん……この子は一度だけ、牢獄のフェリシアに会ったそうです。切り刻まれた髪を集めていたら……集めた髪の毛を、兄さん達に渡して欲しいと言われたと言っていました。断頭台に向かう前に何もかも奪われるから、あのテーブルの上のネックレスを貰ってくれと言われたそうです」
「フェリシアに会った……あれはルシアンがお守りがわりにとくれたもの……あの子はどうやって……?」
「……死刑執行人の子供だから、夫婦はフェリシアの身の回りの世話をしていたそうだ。昨日夫婦はあの子を残し命を絶った。カイト達が去った後、この子はやってきて、料理用のナイフであの愚かな王子達を殺そうとしたので捕まえた。あんな幼い子供を罪人にしたくないだろう?」
「そうだね……フェリシアのことで頭が一杯だったけれど、ここにもあの者達に親を奪われた子供がいる。この子は悪くない」
カーティスは、うっすらと目に涙を浮かべ繰り返す。
「この子はアルフレッドの娘。私の可愛い姪の一人だ」
「そう言えば、あの子がね? 泣きながら、フェリシアに何かあったら、この髪の束を捧げて頂戴って言われたとも言っていて、フェリシアの代わりにルシアン兄上達が元気になりますように……って呟いたんだ。そうしたら、『もう一人の聖女の願いを叶える。代償として、聖女の髪を貰いうけよう』って声が響いて、フェリシアの金の髪の束が消えたんだよ」
「えっ!」
聞いていなかったラインハルトとカーティスは、顔を見合わせる。
「聖女……祈りで、ルシアンとケルトを救った……」
「まぁ、フェリシアの髪を捧げたからだと思うけど……」
「それだけな訳があるか! 聖女だ! 神聖な神の娘とも言われる。数百年に一人生まれるという……もう一人ということは、フェリシアとアルフィナは共に聖女だ」
「これは……大変なことになるな……」
カーティスはニヤッと笑う。
フェリシアの父ではあるが、今回の件に物申したい上に、国王やそれに追随する愚者を追い詰め、利用できる材料を一つ見つけたのである。
しかし、
「カーティス兄さん。申し訳ないけれど、アルフィナを利用しないで……少しだけなら良いけど、大々的にはやめてくれるかな?」
「なぜバレた!」
「悪どい顔してるからだろ。それでも聖女の親かよ」
ラインハルトは言いながら幼馴染をどつく。
「アルフィナは、名前を親につけて貰えなかったんだ」
「えっ……」
二人の表情が変わった。
アルフレッドは首を振る。
「あの子を愛してなかった訳じゃない。死刑執行人は教会に墓を用意して貰えない……墓標に名前も遺せない。娘に穢れた名前を付けたくなかったらしいんだ。だから、私がアルフィナと」
「……そうか……でも良い名前だが、アルフィナは聖女となるのか?」
「娘は嫁にやりません。婿を迎えます」
キッパリ言い切る。
「聖女だからと教会にも差し出しません。そのせいで、フェリシアやカーティス兄さん達が辛い目にあった。同じ目に遭わせて堪るか! 私がアルフィナを守るんだ! と誓ったんだ」
「まぁ、その方がいいな。聖女だったフェリシアを利用し、そのフェリシアをありもしない罪で断罪したクズの結婚式を行う厚顔無恥が教会とは、神がどう感じているのか……」
「神も怒っているからあのようになったし、ルシアンとケルトも救われた……これからは子供ではなく、私たちが動くべきだな」
カーティスも考え込んだ。
三人はしばらくして子供達を起こし、カーティスの屋敷から最も大きく、皇太后のいるアルフレッドの屋敷に移動することにしたのだった。