予兆
騎乗は慣れていても、馬場やちょっとした散歩とは違う。
今回は長距離の旅である。
メリーは彼女にとって侍女であり、女官達は馬車に乗っている。
女官と侍女の違いは、女官はアソシアシオンに認められ、神に仕える勉強をした者。
それと共に、仕える枢機卿や神官のサポートをする。
例えば、儀式の際の服を着替えたり、枢機卿同士でやりとりをする場合は女官達。
侍女は元々母国時代から仕えているか、もしくは母国から出てくる時に付けて貰った、身の回りの世話をする女性達である。
ただ、侍女と女官では給与が違う。
その為、長年側で支えてくれたメリーに、何度か女官としての教育をと勧めたのだが、そうすると、
「私は、表向きの仕事は向きません。それよりも姫様の側にいたいのです。それより姫様は私が必要ではありませんか?」
と哀しげに聞いてきた。
「そ、そんなことはないわ。貴方は私にとって姉妹だもの。ずっといて欲しいけれど、侍女は女官と違ってほとんど休みなしでしょう?自分の時間とか欲しくないの?」
「いりませんわ。姫様の側でいることが幸せです」
国外を回り、神の教えを説いたり、もしくは紛争を収めにいく男性枢機卿なら普段から女官は数人で、護衛が多いが、彼女は回復中心で、もし国外に出る時は護衛を借り受ける。
しかし、アーティスは周囲に余計な者を置きたがらず、執事のジョセフの娘のセアラが侍女から勉強をして女官となり、女官長としている位で、後は、セアラの夫と子供達位である。
それはアーティスの力が極端で、普通は護衛と女官がある程度いるのだが……。
「でも、今日はどこまで行きましょうか……街があるはずよね」
「さようですね……」
「ねぇ、貴方。街は後どれ位かしら?」
護衛の一人に聞くと、彼は何故か怯えたようにメリーを見る。
メリーは、
「姫様。私が分かっております。他の者に聞かなくても結構ですよ」
「でも、メリー? 馬車の中の女官達も休憩が必要でしょう?」
「大丈夫でございます。彼女達は姫様のお気持ちに添うように思っていますでしょう」
「そ、そう? じゃぁ、この先の街で泊まりましょうか」
「畏まりました。では貴方。街に宿があるか確認をお願い致します」
淡々とメリーは命じ、護衛の修道騎士は頷き、
「はい! では、第二枢機卿さま、先に失礼致します」
と頭を下げ、背を向けた瞬間、彼の背にナイフが突き刺さった。
「……えっ……どう言うこと」
目の前で馬から落ちる護衛の修道騎士の姿に、信じられないように呟いた第二枢機卿は、首筋に衝撃を受け意識を失ったのだった。




